「人牛一体」で大暴れ!タイ伝統の水牛レースは農耕に携わる人々の熱い想いが込められていた

 

どんどんと機械化が進む現代農業。人手不足の解消や作業の効率化、安全面での対策など、日本の農業、とりわけ稲作において機械化は切っても切れぬ関係であろう。

しかし、今のような大型機器が田んぼに姿を現す前、先人たちは馬や牛などの動物たちに頼ってきた。そんな在りし日の農作業の様子を今に伝える伝統的な行事が、タイで行われている『水牛レース』である。今回はその水牛レースの様子について、タイに在住する筆者が現地からレポートをお伝えする。

 

タイ伝統の水牛レースとは?

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今回紹介する水牛レースは、タイ中部のチョンブリー県で毎年行われている伝統ある祭りである。元々は米の収穫を祝うための祭りであり、1週間続く祭りの期間中は歌謡ショーやパレード、美人コンテストなど、様々な催し物が行われる。水牛レースはその祭りの中でも最も注目を浴び、県内外から多くの観光客を集めるまさにビッグイベントだ。

タイでの農業は元々水牛に頼って行われていた。そのため、タイでは働き者の水牛に特別の注意が向けられる。これは余談だが、タイ国内では牛肉を食べる文化があまり発達していない。スーパーに行っても鶏肉や豚肉は盛んに売られているが、牛肉はほとんど食べられていないのだ。どうしてなのかタイ人に聞いてみると、宗教的な禁忌というわけではなく、昔から何となく食べていない、食べる習慣がなかったということらしい。これはやはり農業と密接に関わる水牛を積極的に食べることをしてこなかった、ということと関連があるのかもしれない。

それはともかく、昔からの農作業の伝統を絶やさぬよう、祭りのクライマックスを飾るものとして行われる水牛レースだが、迫力ある水牛のレースは年々脚光を浴びるようになり、今では多くの観光客が訪れる大注目のイベントなのだ。では、実際の水牛レースがどのようなものなのか見ていくことにしよう。

 

水牛レースの様子

収穫が終わった田んぼで繰り広げられる水牛レースはとにかく迫力満点である。

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しかし何しろ牛のため、レースは一筋縄ではいかない。水牛の中には、スタート地点に向かう途中であらぬ方向へ向かっていったり、途中で止まってしまって動こうとしないものたちもいる。

競馬のようにスタートのための立派なゲートというものは存在しないのだが、とにかくレース開始まで時間がかかって仕方がない。カメラを構えてスタートを今か今かと待ち構える観客もしびれを切らして、カメラを持つ手を降ろしてしまうほどだ。しかしいざレースがスタートすると、やはり牛だけに迫力が違う。田んぼの泥水を跳ね上げながらゴール目指して走り抜ける水牛の姿は壮観である。

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1レースに出場する水牛の数は6頭。予選があるわけではないので、水牛ごとの実力差はバラバラ。牛とは思えぬほどの猛烈なスピードで駆け抜ける牛がいるかと思いきや、レースなどどこ吹く風、あくまでのんびりとマイペースに歩を進める牛の姿も微笑ましい。

ちなみに、牛の乗り手である騎手はジョッキーと言われるが、レースに臨む水牛たちはタイ語で『นักกีฬา(ナックギャラー)』、つまり『選手』と呼ばれる。やはりレースの主役はあくまでも水牛なのだ。

また公然の秘密ではあるが、一つ一つのレースは当然のように(?)賭けの対象ともなる。さらに優勝した牛は最高で30万バーツ(約100万円)で取引されることもあるというから、騎手にとっても観客にとっても、まさに真剣勝負ということなのだろう。

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タイの水牛レースを振り返ってみて

タイのチョンブリーで行われる水牛レースの様子を簡単にお伝えしたが、いかがだっただろうか? タイ国内においても、水牛を使ってノンビリと行う農作業というのはもはや昔の話。タイの農家にも近代化の波が押し寄せ、日本と同じように機械化がドンドンと進んでいる。

しかし、そんな中にあっても人々の生活に密着した水牛にスポットが当てられる水牛レースは、タイ人の水牛に対する想いがぎっしりと詰まっているのではないだろうか。『人牛一体』となって行われている水牛レースだが、その背景にはタイの人々の生活と農耕、そして水牛との関わりが一体となっている様子が透けて見えてくるのである。

 

文:dctyk
タイ在住のライターで、日本にも拠点を持つ。日本とタイを行き来しながら、タイの食文化を探る日々を送る。タイ人直伝の米の炊き方を元に、湯取り法にたどり着いた。お酒に関する造形も深い。

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