【全国のごはんのおとも】しょうゆの副産物・長崎県島原地方の『納豆みそ』

 

朝食に並ぶ『納豆』といえば、一般的にはネバネバした「水戸納豆」が有名だが、長崎県島原地方の『納豆』といえば、醤油を作る時に出る、もろみを指す。「醤油の実」として食べられている地域もあるが、島原地方では「納豆みそ」と呼び、ごはんのおともとして親しまれている。あまりに当たり前に食卓に並ぶため、筆者も進学で長崎県を出るまで、『納豆といえば「納豆みそ」だと思っていて、水戸納豆を食べた時に、あまりの違いにびっくりしたのを今でも思い出す。

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「納豆みそ」とはどんな味??

『納豆みそ』の主な原料は麦で、大豆や刻んだ昆布、生姜が混ぜてある。炊きたてのごはんにのせて食べると、甘辛いつけ汁に麦と大豆のプチプチとした食感が楽しめ、昆布の旨みと生姜のピリッとした風味が後から口の中に広がって、箸がすすむ。とにかくごはんに合うのが一番の特徴で、発酵食品だから栄養価も高く、塩分は醤油より控えめ。実は、ごはんのおとも以外にも、冷奴や焼き魚などに醤油代わりにかけて食べたり、酒の肴としても重宝する万能調味料でもある。

スーパーには、味噌のコーナーにそれぞれの製造会社の自慢の「納豆みそ」がずらりと並んでいて、選ぶのも大変なほど。大豆や大麦などを混ぜて蒸したなめ味噌の一種、「金山寺味噌」のことを九州の一部では、『金山寺納豆』と呼ぶそうだが、そこから納豆と呼ばれるようになったとも言われている。しかし、真相はわかっていない。謎が多い食べ物でもある。

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島原地方の歴史にも関わりが深い食べ物

「納豆みそ」は長崎県内でも特に島原地方で食べられていて、そのルーツには諸説あるが、1637年に起こった島原の乱で、原城に立て籠もった天草四郎率いる一揆軍が近くで採れた野菜や木の実、海藻などを混ぜて作ったのが始まりとされているほか、江戸時代、島原藩では馬に戸籍がつけられるほど馬を育てる家が多く、その馬たちへミネラル分を取らせるためにもろみを食べさせていたという歴史もあったそう。昔から醤油を各家庭で作る文化があり、その製造過程で出たもろみを食べやすくしたものが現在の「納豆みそ」になったのではないかと言われている。 

島原地方は古くから、醤油や味噌などの発酵食品が身近にある地域だった。現在でも、味噌や醤油の製造会社が多くあるのもその名残かもしれない。

 

老舗みそ蔵の「納豆みそ」へのこだわり

長崎県南島原市にある創業100年の『喜代屋でももちろん、「納豆みそ」は看板商品の一つ。 喜代屋の加来邦彦総務部長は、島原地方に味噌・醤油文化が根付いていることについて「雲仙山系からのきれいな水が流れていること、いい大豆が取れていたこと、吹きさらしの風が吹いていたことなど、気候や風土が良かった」と話す。

こちらの「納豆みそ」は昔ながらの巾着型のパッケージにこだわり、製造スタッフが手詰め作業で商品作りを行っている。機械で詰めると麦や大豆が割れて、つけ汁が濁り、風味が落ちてしまうから、ということだ。麦や大豆本来の美味しさを損なわず、長く愛される味を追求して、今では多くのファンがつく喜代屋の「納豆みそ」。加来さんら社員の営業や展示販売の努力もあり、現在は、県内だけでなく、九州や関西、関東まで販路を拡大し、懐かしさを感じる島原地方出身者などを中心に売れ行きも上がっているということだ。

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もっと食卓に「納豆みそ」の魅力を伝えたい

喜代屋では、「納豆みそ」の美味しさや楽しみ方の提案も行っている。3〜4合のごはんに「納豆みそ」を一緒に入れて炊き上げた「炊き込みご飯」、醤油代わりに納豆みそをかける「卵かけごはん」、ネギやゆずなどを添えてお茶をかける「お茶漬け」、刺身や茹でたえのきに和えた「和え物」、納豆みそにきゅうりなどの野菜を一夜漬けする「漬物」など、取材しただけでもたくさんの料理を紹介してくれた。

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なかでも炊き込みごはんは、味噌の味がしっかりごはんにも染み込んで、麦や大豆がふっくらして美味しい。腹持ちもよく、お昼に食べると夜までしっかり働けそうなほどパワーがみなぎる感じがした。

他にも、スタンダードな「納豆みそ」以外に、焼肉と一緒に食べて美味しいキムチ風味の「スタミナ醤」やいりこが入った甘めの「いりこみそ」などのシリーズ商品も生み出している。

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ベースの原料はそのままに、納豆みそ自体の可能性を広げる試みで、それだけ食べても十分美味しいが、さまざまな料理への利用も広がる。「スタミナ醤」はキムチチャーハンの味付けにも使えるし、「いりこみそ」はクラッカーにのせておやつ感覚でも食べられる。

加来さんは、「現代的な食べ方も提案して、馴染んだ味以外の楽しみ方を地元の人にも楽しんでもらい「納豆みそ」の価値をもっと高めていきたい」と話す。

 

進化を続けるごはんのおとも

島原地方は米どころであり、ジャガイモやブロッコリー、人参など野菜の一大産地でもある。島原半島の形から、地元のJAでは「一億人のいぶくろ」とキャッチコピーを掲げるほど、何でも食べ物が揃う地域だ。減反政策が進められた時は、空いた田んぼで大豆などを育て、味噌を作り販売した女性たちもいるほど、味噌や醤油は誰でも作ることができる調味料だった。「納豆みそ」は、そんな島原地方の当たり前から生まれたソウルフードで、今でも食卓の片隅にちゃんと存在し、進化を続けているごはんのおともなのだ。

 

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