こだわりの酒造りはお米作りから。減反廃止で活気づく契約栽培・自社栽培の動き②

酒米の流通は、地域のJAと各都道府県の酒造組合を経由するルートが約7割を占める。しかし近年における日本酒の輸出拡大への流れと減反廃止を背景に、蔵元が自前で酒米を調達しようとする動きが徐々に活発になってきた。その一つが、今回取り上げる農家との契約栽培による酒米の調達である。

 

明治期に灘の蔵元が始めた村米制度が、酒米の契約栽培のルーツ

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酒米の契約栽培の起源は、明治20年代半ばまでさかのぼる。そのきっかけとなったのは明治7年(1875)の地租改正である。「殖産興業」の旗印の下で産業が発展途上にあった当時、日本酒の需要も拡大を続けていた。しかし地租改正で納税が年貢米から金銭に変わったのを機に、酒米から食用米の栽培にシフトする農家が増えた。手間がかかる上に収穫量が少ない酒米より、食用米の方が効率良くお金になるからである。

そこで酒米の生産量が減っていく状況に危機感を覚えた酒処・灘の酒蔵が、良質な酒米が収穫できる特定集落の農家との間で、「村米(むらまい)制度」と呼ばれる直取引の契約栽培をスタートさせた。蔵元にとっては毎年良質な酒米が確実に入手でき、農家にとっても安定した販売先が得られるため、今で言うWin-Winの関係が築けたのである。

村米制度は120年以上経った今も、“山田錦”の特A地区である三木市吉川町などで続いており、干ばつ、水害、震災などの災害時に助け合うなど、酒米の取引を超えた緊密な関係が築かれている。

 

契約栽培による地元米で仕込む日本酒版テロワールへの流れ

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さて、“山田錦”など良質な酒米の安定確保が目的だったこれまでと比べ、昨今増えてきた契約栽培は品質や農法に対する蔵元のこだわりや、他社との差別化、付加価値の創出、地域の活性化といった側面が主になっている。

例えばワインの世界に「テロワール」という用語がある。フランス語で「土地」を意味するこの言葉は、場所・気候・土壌など原料のブドウを取り巻く自然環境が、ワインに与える個性を表現する際に使われている。

こうした発想は日本酒の世界にも広がり始め、日本酒版テロワール=地元の水と田んぼで獲れたお米を強く意識する蔵元が増えてきた。ネット上で調べただけでも、秋田の『天の戸』、山形の『霞城寿』『白露垂珠』『鯉川』、埼玉の『豊明』、栃木の『仙禽』、新潟の『越の誉』『白龍』『久比岐』、静岡の『花の舞』、奈良の『花巴』、山口の『原田』、熊本の『通潤』などは、蔵で醸す全ての酒を契約栽培による地元米で仕込んでいる。また全ての酒とはいかないまでも、特定商品で『地元の契約栽培米100%使用』を掲げる蔵元は枚挙にいとまがない。

さらに総合的な取り組みとしては、2015 年に東北農政局と仙台国税局が立ち上げた「東北・日本酒テロワール・プロジェクト」があり、地域を挙げて東北の酒米と水を使った酒造り及び酒米の増産を目指している。

 

契約農家と共にITを駆使した栽培技術の見える化を推進

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一方、原料米の安定確保を目的とした昔ながらの契約栽培を、村米制度とは異なる新しいスキームで展開している蔵元もある。『獺祭』の旭酒造である。

『獺祭』は2007年頃から国内外で人気が急上昇し品薄状態に陥ったが、出荷を増やしたくても、それに見合う量の“山田錦”が調達できない時期が続いた。育成が厄介で栽培に手を挙げる農家が少なかったためである。そこで旭酒造では積極的に“山田錦”を栽培してもらうため、社長自ら全国の農家を回って“山田錦”の種もみを提供し、勉強会を開くなど地道な企業努力を展開。2014年からはITを導入した栽培技術の見える化を推し進めた。具体的には、地元の契約農家の協力を得て“山田錦”の田んぼにセンサーと定点カメラを設置し、気温・湿度・土壌温度・土壌水分等のデータ収集と生育状況の撮影を定期的に実施。その結果を栽培のノウハウとして体系化し農家に提供したのである。

こうした努力の結果、一時は30万俵以下まで落ち込んだ“山田錦”の収穫量は62万俵(2016年)まで増加。品薄状態が解消された『獺祭』は今も好調な販売が続いている*。
*西日本豪雨の影響により、販売状況等はHPを確認。

今回は灘の村米制度に始まる歴史的な流れを踏まえつつ、近年の日本酒版テロワールの推進やITを駆使したアプローチなど、契約栽培の新たなトレンドを駆け足で紹介した。次回はさらに一歩踏み込む形で、自力での酒米栽培を手がける蔵元の動向についてご紹介したい。


参考資料・サイト:
酒米の生産をめぐる状況
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9530611_po_0880.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
村米制度
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%91%E7%B1%B3%E5%88%B6%E5%BA%A6
酒文化研究所 大吟醸時代の礎 酒米「山田錦」の誕生
http://www.sakebunka.co.jp/archive/letter/pdf/letter_vol13.pdf
ITmedia エンタープライズ
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1506/01/news041.html
FUJITSU 獺祭×ICT 酒造好適米の栽培技術の見える化
http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/agri/akisai-fest/dassai/
東洋経済ONLINE
https://toyokeizai.net/articles/-/176256

 

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