『リゾットの国』イタリアのお米の歴史


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パスタやピッツァと並んで人気のイタリア料理、リゾット。イタリアでお米の栽培が始まるのは15世紀の後半であった。アジアが原産のお米は、古代ローマ時代からその存在は知られていたものの、お米の栽培がブームになるのはルネサンスの時代になってからである。その後、水田の存在がマラリアの原因になるという理由でお米の栽培は減少、ふたたびイタリア半島でお米が復活するのは20世紀に入ってからである。

 

ミラノの公爵が栽培を奨励した「お米」

西方社会の“小麦”の対極にあるのが、東方の“米”である。紀元前4世紀のギリシア人は、すでにお米の存在を知っていた。古代ローマの人々も、お米を東方から輸入はしていたものの、栽培まではしなかったのである。13世紀に入ると、ヨーロッパでも各地でお米の消費が始まる。理由は、当時の王侯貴族に好まれた“白色”であった。キリスト教会では“純潔”の象徴であった“白”は、食卓においては味よりも珍重されたためである。しかし、いつごろからイタリアをはじめとする、ヨーロッパでのお米の栽培が始まったのかは不明である。アラブ人によってシチリアにもたらされたとか、スペイン人によってナポリにもたらされたのがはじまりなど諸説ある。当初は、薬草としてサレルノの医学学校の薬草園で栽培されていたようだ。当時の記録では、お米は下痢に効くとされている。
お米の栽培を奨励したのは、ミラノの公爵である。平野が広がるミラノ周辺は、お米の栽培には向いていたためである。1473年の公爵の手紙には、「私の領土に米を植えた。しかし、栽培方法に明るくないので、詳しい者を招聘した」と書かれている。この時代にミラノで活躍していたレオナルド・ダ・ヴィンチも、現在まで残る草稿に「Riso (米)」という言葉を書き残している。

 

“スープ”か“リゾット”か

イタリア半島に上陸したお米には、さまざまなレシピがあった。ナポリやフランスの王は、お米を食後のデザートとして食していたという。お米とアーモンドミルクを煮てシナモンをかけていたというのもそのひとつだ。北イタリアでお米が普及した理由の一つに、“ミネストラ”と呼ばれるスープがある。北イタリアでは、野菜や肉や魚などを煮込んだスープが郷土料理の一つであった。このスープには、穀物を入れる慣習があった。そのため、お米はミネストラの具材として北イタリアで普及したといわれている。ところが、ミネストラにお米を加えるのは調理が非常に難しかったようである。お米は水を吸うので、あらかじめ水の量を正確に把握する必要がある。一方、“リゾット”は調理しながらスープを加えていくため、お米が柔らかくなった頃合いで火を止めればいいという点で料理するのが簡単であった。というわけで、現代の北イタリアでも、「お米料理といえばリゾット」が本流になったのである。

 

不遇の時期を超えて20世紀に復活したお米

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15世紀の終わりに普及し始めたお米は、17世紀はじめに栽培が下降の一途をたどることになる。理由は、マラリアである。まだ医学が発展途上だった当時、水田から発する空気が疫病の原因になるという珍説まであった。19世紀半ばになってようやく、マラリアの感染は空気ではなく、蚊を介して発病することが判明しお米はようやく濡れ衣を晴らすことになる。
16世紀の終わりから19世紀初頭にかけて、北イタリアの各地やシチリアでも、水田を減らすという法令が何度も発布されている。とはいえ、お米を愛する人々は常に存在していたため、町から一定の距離がある場所にはお米の栽培が許可されていた。しかし、お米には関税がかけられていたため、非常に高価なものであった。ようやくお米に対する偏見が解かれるのは、1861年にイタリアが王国として統一した後である。しかし、お米の栽培がイタリア半島で始まった当初の品種は、18世紀にはほぼ絶滅していたようだ。

現在、イタリアで“原種の米(Riso Originario)”と呼ばれる小粒の品種は、1924年に選別されたものである。このお米は、イタリアに住むアジア人にとっては祖国のお米に最も近いとして愛好されるが、イタリア料理であるリゾットには不向きであった。イタリア人は、お米を材料とする菓子を作る際に利用している。イタリア人がリゾットの材料として好む粒の大きいお米の改良は、20世紀に行われている。“アルボリオ米”、“バルド米”、“カルナローリ米“など、粒が大きく調理後にはかなり膨張するものが、1900年代半ばから次々と登場した。冬には“リゾット”を愛好するイタリアだが、夏になるとお米の“サラダ”が主流となる。ゆで上げたお米を洗って、トマトやツナ、チーズ、オリーブを混ぜたサラダで、このレシピにはアルボリオ米やタイ米など、好みのお米を調理するのが通常である。また、昨今の健康ブームで玄米や黒米など、さまざまなバラエティのお米が店頭に並ぶのをよく見かける。今やお米が、豊かなイタリアの食の幅をさらに広げている。
italiamai3イタリアの店頭に並ぶさまざまなお米。写真左上/左端がイタリアの“アルボリオ米”で右側がタイ米、写真左下/タイの“黒米”、写真右下/“バルド米”

 

保存方法についても、イタリアと日本とはかなり相違がある。イタリアにはもちろん、ライサーは存在しない。イタリアではお米もパスタと同じ扱いであるから、冷暗所である食品庫に、買ってきた袋のまま置かれているのが通常である。1キロ単位で買ってきたお米は、ともに食事をする人の人数にもよるが、1回か2回で使い切ってしまう。ライサーであれば、1合2合という具合で計るが、パスタと同じ扱いのイタリアのお米は、計量器で量って調理するのだ。

イタリアを旅行中においしいリゾットを食べたい、と思ったら、やはり本場はミラノを中心とした北イタリアと考えた方がよい。イタリア半島では随一といってよい広大な平野、ポー平原周辺がお米の一大産地であるからだ。イタリア半島を南下すると、水田を目にすることはほとんどなく、ゆえにお米の文化はやはり北イタリア独特のものであることを実感するのである。

 

引用元:①Il genio del gusto Alessandro Marzo Magno 著 P125

参考文献:
・Il genio del gusto Alessandro Marzo Magno著 Garzanti 刊
・Storia dell’alimentazione  Jean-Louis Flandrin, Massimo Montanari監修 Laterza刊
・Leonardo non era vegerariano Oscar Farinetti監修 Maschietto 刊

 

文:cucciola
イタリア在住十数年。ローマ近郊の山から、イタリアの魅力発信中。
ブログ ルネサンスのセレブたち(http://blog.livedoor.jp/cucciola1007/
    イタ飯百珍(http://cucciolasapori.hatenablog.com/

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