“コシヒカリ”、“つや姫”、“ひとめぼれ”…。美味しい食用米で旨い酒は造れるか?

 

koshihikari1

どのようなお米でも日本酒の原料にはなり得るが、上質な特定名称酒* を造る場合は、“山田錦”等の酒造好適米を用いるのが造り手にとっての常識である。食用米は酒造好適米と比べると、相対的に「小粒」「心白がない」「タンパク質と脂肪が多い」「吸水率が低い」等の特性があるため、雑味のないハイグレードな清酒造りには不向きとされているからだ。しかしそんな固定観念にとらわれず、食べて美味しい地元の食用米を使って、飲んで美味しい酒を造ろうという意欲的な試みが、各地の蔵元の間で少しずつ広がり始めている。

*特定名称酒: 酒税法において、原料、製造方法などの違いによって大吟醸酒、吟醸酒、純米酒、本醸造酒など8種類に分類された清酒のこと。

 

“ササニシキ”、“ひとめぼれ”での酒造りに県を挙げて挑む宮城

食用米での旨酒造りにいち早く取り組んだのは、宮城県の酒造組合である。昭和61年(1986)に県内全蔵元が、「我々、宮城県酒造組合員は11月1日を期して、おいしさで定評のある宮城のササニシキ100%の純米酒造りを通じ、いい酒、うまい酒造りに努めることを広くお約束します」と宣言(「みやぎ・純米酒の県宣言」)。後には“ひとめぼれ”も対象となり、県を挙げて食用米での酒造技術を磨いてきた。

難易度が高い食用米で技を磨いた成果もあって、宮城県は2016年と2017年の全国新酒鑑評会で2年連続金賞受賞率No.1に輝くなど、国内屈指の酒造技術を誇っている。

そして銘柄別では、“ひとめぼれ”を使った『一ノ蔵 有機米仕込 特別純米酒』が「全国燗酒コンテスト2017プレミアム燗酒部門」で金賞、“ササニシキ”を使った『あたごのまつ特別純米』が「SAKE COMPETITION 2016」純米酒部門で1位を獲るなど、酒造好適米に負けないレベルの旨酒が食用米でも造れることを証明している。

koshihikari2

 

「食用米しか使わない」酒造りに挑む蔵元も登場

こうした中、「食用米しか使わない」という蔵元も現れ始めた。その代表とも言えるのが、京都府最北部の京丹後市で240年以上も続く『白木久』の蔵元・白杉酒造である。元々丹後は、“コシヒカリ”の特A地区に認定される程の産地であり、「美味しい地元のお米で旨い酒を醸したい」と考えた現11代目当主が、自ら杜氏となり試験醸造に着手。吸水量の調整、蒸米時間の増加、麹と酵母の使い分けなど、食用米による醸造ノウハウを数年かけて蓄積させていった。そして“コシヒカリ”100%の新生『白木久』を満を持して売り出したところ、地元で大評判となり、手応えを感じた当主は、2015年から原料の米を全て食用米にすることを決断。その後も地元の“ササニシキ”で醸した新銘柄『銀シャリ』を立ち上げるなど、食用米による新たな酒造りに挑んでいる。

一方、ラーメンで有名な福島県喜多方市にも、地元産“天のつぶ”等の食用米だけで醸す酒蔵がある。明治元年(1867)創業の会津錦だ。「喰うお米で日常に根ざす酒を」との想いで名付けた純米大吟醸『Q(ku)』をはじめ、『こでらんに』(たまらなく良い)、『さすけね』(大丈夫だよ)等方言を活かしたユニークな銘柄が揃っているので、話のタネにお試し頂ければと思う。

 

“コシヒカリ”、“ゆめおばこ”、“つや姫”による受賞酒も続々と

koshihikari3

その他、精米の時間や歩合などを調整するなど独自の技術を駆使し、食用米で醸した美酒でコンクールに出品して、酒造好適米を凌ぐ成果を収めた事例をいくつかご紹介しよう。
 
◆魚沼産“コシヒカリ”を使用
 ・菊水酒造(新潟)の純米大吟醸『蔵光』
  「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」で金賞(2014)
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で最高金賞(2018)

千葉県産“コシヒカリ”を使用
 ・吉野酒造(千葉)の『腰古井 純米吟醸こしひかり』
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」2年連続(2017/18)で金賞

秋田県産“ゆめおばこ”を使用
 ・両関酒造(秋田)の『両関純米酒』
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」最高金賞(2016)と金賞(2018)

山形県産“つや姫”を使用
 ・東の麓酒造(山形)の純米吟醸酒『つや姫なんどでも』
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」2度(2016/18)最高金賞を獲得
 ・後藤酒造店(山形)の『辯天 特別純米酒つや姫』
  「IWC」で金賞(2016)、「全米日本酒鑑評会」で準グランプリ(2017)
 
 
ここでご紹介した以外にも、地元の「食べて美味しいお米」で、「飲んで美味しいお酒」を造ろうという動きは着実に広がっている。日本酒はあくまで嗜好品であり、この先“山田錦”より“つや姫”の味の方が好みだ、という人が増えても一向に不思議ではない。機会があればぜひ、食用米の美酒の世界を堪能して頂ければと思う。

 

参照サイト:
SAKETIMES https://jp.sake-times.com/knowledge/sakagura/sake_g_kyoto_shirasugi
地酒専門店 佐野屋 https://www.jizake.com/html/shirasugi2.html
銘酒居酒屋 酒友 http://sakatomo.jp/wp/blog/全国蔵元唯一!「一般米しかしようせず酒米を越/

okomeno
mozi rekishi mozi tane mozi bunka mozi hito mozi hito mozi huukei mozi noukamuke

もち米、玄米、古代米etc.…ちょっと変わったお米で醸す日本酒色々


土壌の肥沃さの目安、『CEC』とは?


管理栄養士が教える! 夏バテ予防抜群♪「サバを使ったマリネ」


なぜお米からフルーティーな日本酒が造れるのか?  お米の香りを引き出す酵母の知識


okomenoseiikuwo 3

お米の生育を左右する『リン酸』のあれこれ。可給態リン酸やリン酸吸収係数とは?