【全国のごはんのおとも】京都にしか存在しない野菜が原料の京漬物“すぐき”


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京のぶぶ漬け(お茶漬け)に欠かすことができないのが京漬物。もちろん京料理の献立でも京漬物はごはんとともに供される。種類豊富な京漬物の中でも、「千枚漬け」「しば漬け」「すぐき」は<三大京漬物>と呼ばれているが、他の2種に比べて生産量が圧倒的に少ない「すぐき」は、京都以外ではあまり流通しておらず、食したことがある人も多くはないだろう。昔も今も京都でしか作られていない京漬物「すぐき」の特徴と味わい方を紹介したい。


そもそも「すぐき」とはどんなものなのか

京都では、「すぐき」といえば漬物かすぐき菜のこと。「すぐき漬け」という言葉もあるがあまり一般的ではない。なぜならすぐき菜は、一見かぶらのように見えるが、普通のかぶらとは異なり、煮ると食感が極めて悪く味も良くない。浅漬けにしてもしかり。まさにすぐきは「すぐき漬になるためだけに存在する野菜」なのだ。 

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すぐき(菜)の歴史は400年あまりも遡ることができるという。そして、江戸時代初期からは、現在の京都市北区に位置する上賀茂の社家(上賀茂神社に仕える神官などの家)の敷地内において「門外不出」で栽培され、加工された「すぐき」は、宮中や公家などへの贈答品として利用されていたという記録が残っている。時代が進むと、すぐき菜は上賀茂の一般農家でも栽培されるようになったが、文化元年に所司代が『就御書口上書』で苗や種を上賀茂以外の土地に持ち出すことを禁じたこともあり、すぐきはその後も上賀茂の特産品として伝えられてきた。

聖護院かぶらや九条ネギ、賀茂茄子のように土地名を冠した京野菜でも宅地化が進んだ現在では、別の場所で栽培されていることがほとんどだ。しかし、すぐき菜に関してはこれは当てはまらない。上賀茂の土地が栽培に適しているだけでなく、他のアブラナ科の野菜が近くにあると自然交配してしまうなど栽培も難しいため、現在もほぼ上賀茂の畑のみで栽培されている。

 

すぐきの漬け方~独特の酸味が生まれるまで

11月~12月に収穫したすぐき菜のかぶの部分の皮を面取りするようにむき、まず大量の塩で一昼夜「荒漬け」をした後に本漬けを行う。本漬けで使うのも塩のみ。樽の中にぎっしりとすぐき菜を並べてから天秤棒を使ってテコの原理で重石をかけて漬ける(天秤押し)。しっかり漬かったら次は樽ごと室(むろ)に入れる。室というのは、炭や電気で温めた部屋のことで、ここに1週間ほど入れることで乳酸発酵がすすみ、「酢茎」とも書かれる独特の酸味と香りが生まれるのだ。

ただし、ひとつ知っておきたいことがある。「すぐきは室で発酵させる漬物」と書かれているものも多いが、室を使い始めたのは明治期からである。室で発酵を促進することで生産性が向上し、すぐきは急激に普及。冬の漬物の代表格となったが、もともとすぐきは気温の上昇とともにゆっくりと発酵させて作る漬物であり、その樽出しは初夏からであった。現在でもこの「時候慣れ」という昔ながらの作り方をしているところもあるので、機会があれば是非、時候慣れのすぐきも味わってみてほしい。冬のすぐきとはまた違ったおいしさが楽しめるだろう。

suguki2上左/パッケージを開けると独特の香りが。乳酸発酵による汁気もすぐきならでは。上右・下/葉の部分はぐるぐる巻かれている。かぶ部分は15~25センチ程度だが葉はその数倍の長さがある

 

すぐきの食べ方~一番のポイントは切り方

きちんと作られたすぐきは、昔からかなり高価な漬物だ。しかし、京都人はすぐきの希少性も製造過程も理解しているので、「ほんまもんのすぐきはそれなりの値ぇがするのは当たり前」と考える人が多いようだ。ちなみに、トップ画像のすぐきは上賀茂の「御すぐき處京都なり田」のものだが、100gが432円。写真の2個で2,198円だった。(価格は2018年4月時点のもの)

これほど値がはるすぐきだけに、よりおいしく味わいたいと思うのも当然。そのために最も重要なのは切り方だ。沢庵やかぶら漬けのような厚みに切ってはすぐきのおいしさは半減してしまう。かぶ部分は5ミリ以内の薄切りにし、葉の部分はできるだけ細かく刻むこと。すぐきは繊維が固く、しかも重石が効いた漬物だけに、この切り方をすることでより歯ざわりよく、香りと味わいがひきたつのだ。

suguki4左/薄切りにすると繊維がしっかりしているのがよくわかる。右/どちらも5ミリ厚だが、左は繊維に直角、右は繊維に沿って切ってある。これは好みで

 

あとはそのまま、あるいは醤油と七味や山椒などの香味を添えて味わうのもいい。

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乳酸発酵由来の酸味と香りは白いごはんとの相性が抜群。もちろん、ぶぶ漬けにしても豊かな風味を楽しむことができる。

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刻んだ葉は料理に使うのもおすすめだ。例えば酸味を生かしてドレッシングやマヨネーズに加えると良いアクセントになるし、チャーハンの具にしても美味。写真は少量の山椒オイルで合えて焼き鳥に添えている。とにかくごはんがすすむこと請け合いだ。
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美味なだけではなく、健康効果も期待できるすぐき

すぐきの酸味は料理の後口をさっぱりさせてくれるだけでなく、食欲も増進させるので、食が進まない時にもおすすめのごはんのおともといえる。また、京都で昔から、「おなかの調子が悪い時はすぐきを」といわれるのは、すぐきに含まれる植物性乳酸菌の整腸効果を期待してのこと。例えばすぐきに含まれる乳酸菌のひとつ、ルイ・パストゥール医学研究センターの岸田綱太郎博士によって発見された「ラブレ菌」は、様々な効能が認められており他の食品にも使われている。

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京都の食文化の中でも、特筆すべき地域性をもつすぐき。これからもごはんのおともとして大切に受け継がれていくべき逸品といえるだろう。

 

参照:
京都府 http://www.pref.kyoto.jp/kyotootokuni-f/1228962211981.html
御すぐき處京都なり田 http://www.suguki-narita.com/suguki.html
カゴメ(ラブレ菌)http://www.kagome.co.jp/labre/#firstPage

 

文:松本葉子
食と旅を専門とするフリーランスライター。全国の飲食店のほか、農家、牧場、漁協など生産現場での取材を元にした記事を雑誌、webなどで執筆。自身の料理スキルを生かした記事執筆や食品企業へのレシピ提供も行う。

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