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アートディレクターってどんな仕事?


 堀内さんの名詞の肩書きには『アートディレクター』とある。具体的にどのような仕事内容かを尋ねると、さまざまなプロジェクトの方向性やコンセプトを定め、商品や広報物のデザインをしたり、クライアントの目標を具現化するためにプロデュースを行ったりしているという。「今は、行政や地域活動をしているNPOから話をいただき、地域ブランディングをすることが多いです。“よそ者”だからこそわかる、その町の良さを見つけ、物産だけでなく観光の視点も含め、インバウンドで外国人を誘致するにはどうすべきかや、移住者をどう増やしていくかについて、町からどんな発信をすれば良いのかトータルで提案を求められる」と話す。


デザインの力で新たな市場を開拓する


 堀内さんがプロデュースし、商品力や販売力が大きく伸びた例としてマッチ型のお香『hibi』がある。
堀内さんの地元・兵庫県の地場産業の一つにマッチがあり、国内生産の7割は兵庫で作られているという。ただ、近年、マッチの需要が減っているのが現状で、危機感を感じた播磨の老舗マッチメーカー『神戸マッチ』では、互いの技術を生かせる製品作りをしたいと、同じく淡路島の伝統産業である線香やお香を製造する『大発』に声を掛けた。そして、デザイン面にも力を入れて商品開発をしたいと、協力を求められたのが堀内さんだった。
 試作に3年半を費やし、2014年に完成したのが紙の繊維を練り込んだマッチ型のお香『hibi』。着火具が不要でマッチを擦るように火をつけられ、燃焼時間の10分間、香りを楽しめる。道具としてのマッチではなく、デザインや楽しみ方など、アイテムそのものに魅力や付加価値を加え、新しいライフスタイルまでも提案する商品となった。

rice hibi「hibi」はパッケージの質感やグラフィックにもこだわり、その丁寧な仕上がりはさすがMADE IN JAPAN。マッチの軸がお香になった革新的なデザイン


 ブランドの世界観を大事にするため、セレクトショップや自然派志向が強い店舗など販売店選びにもこだわっている。8本で650円と割高感がありながらも、おしゃれさと手軽さが若い女性たちに受け、売り上げは初年度で1千万円を超えたという。
 デザインや機能に優れた日本商材を選定し、海外に広める経済産業省の事業「ザ・ワンダー500」で選定されたほか、パリで開かれる国際見本市メゾン・エ・オブジェにも2年連続で出品。これまで仏具店やホームセンターで売られるものだったマッチとお香の組み合わせが、今や世界15カ国で販売されるまでになった。
 「商品が完成するまでにやる作業は同じでも、見た目を変えると全く違うものに変わる。そこはやはりデザインの力だと思う。さらに、販売するターゲットや売り場を変えてみると、今まで数百円で販売していたものが海外では5000円で売れることもある。それをトライもしないで『売れない』『できない』と言う人がいるけど、僕は無限の可能性があると思っている」。
 デザインの力で地場の伝統産業に光を当て、付加価値を生み出した堀内さん。これからも日々生まれる新たなデザインが地域の力になっていくだろう。

堀内 康広さん
TRUNK DESIGN(兵庫県神戸市)アートディレクター
プロフィール:1981年生まれ。2009年、兵庫県神戸市に『トランクデザイン』のオフィス&ショップをオープン。地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインを手がける。12 年には兵庫県のモノづくりを紹介する『Hyogo craft』を立ち上げ、兵庫県の間伐材を使用したオリジナルプロダクト『森の器』、播州織の職人とつくるアパレルブランド『IRODORI』、『megulu』を展開。