高値が付くにも関わらず生産量は米全体の1%。なぜ酒造好適米は希少なのか?

 

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日本酒はお米から造られているが、食べて美味しいお米と、美味しい日本酒造りに向くお米では求められる性質が異なる。具体的に何がどう違うのか、簡単に説明してみよう。

 

酒造りに向くお米は、食用のお米とどこが違う?

日本酒造りに向くお米を酒造好適米と言う。有名な“山田錦”、“五百万石”、“雄町”、“美山錦”などを含め100種類以上もあり、今も各地で新たな品種が開発されている。

酒造好適米と食用米との性質の違いとしては、主に次の5つが挙げられる。

①大粒である
お米の外側にあるタンパク質や脂質は酒の味を損ねるため、酒造りにおける精米工程では外側を30%以上、大吟醸だと50%以上も削り落とす。主に高速回転する超硬度ロールに米粒を押し付ける方法で削ぎ落していくのだが、60%で1日、50%で2日、40%なら3日もかけて精米するため、摩擦熱でお米が割れやすくなる。そのため、割れにくく扱いやすい大粒米の方が、酒造りには向いているのである。

 

②中心に白くて不透明な部分(心白)がある
お米の中心部は、酒造りに欠かせないでんぷん質でできている。そのでんぷん質にすき間ができて、乳白色に見えるのが「心白(しんぱく)」と呼ばれる部分だ。心白があるお米は麹菌が内側へと入り込みやすく、でんぷん質の糖化が進んでアルコール発酵を促すため、酒造りには最適である。ただしお米の組織にすき間がある分、パサついて旨みが少ないため、食用には向いていない。

 

③タンパク質と脂質が少ない
タンパク質は麹の酵素で分解されるとアミノ酸になり、酒に雑味をもたらす。また、脂質は香り成分が立ち上る際の妨げとなるため、あらかじめこれらの成分が少ないお米の方が、酒造りには向いている。

④吸水率が良い
吸水が早く、かつ吸水量が多いお米ほど、発酵がスムーズに進むため酒造りには向いている。

 

⑤蒸すと「外硬内軟」の状態になる
米粒の外側が硬く内側がふっくらと柔らかい状態で蒸しあがったお米は、麹菌が米の内側へどんどん伸びて繁殖してくれるため、酒造りに向いている。

 

食用米よりも栽培が難しい、酒造好適米

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酒造好適米は、一般的な食用米よりも5割以上の高値で取引されている。しかしそれでも、酒造好適米の生産量は日本の米全体の1%に過ぎない。高値で売れるにも関わらず、生産する農家が少ないのはなぜか。理由としては、食用米の栽培よりも技術的・条件的なハードルが高いことが挙げられる。例えば代表的な食用米の“コシヒカリ”や“ササニシキ”は、稲穂の背丈は120〜130cm程度だが、“山田錦”はそれより約30cmも高い150cmに達する。おまけに一粒一粒が大きくて重いため台風などで倒れやすく、また病気や害虫に弱い品種が多いので、栽培には高度な技術が求められるのだ。

さらに、“山田錦”に代表される良質な酒造好適米の栽培には、下記の3つの条件が必要になる:

①朝晩の寒暖差が大きい場所であること
米粒内部の温度差が大きくなるほど、心白の発現率が増大するため。


②養分を豊富に含んでいる土壌であること
背が高く粒の大きいお米を育てるには、通常の稲作以上に養分が必要なため。


③苗の間隔を通常の2倍近く空けられること
日当たりと通気性を良くするのと、害虫の被害を抑えるため。


こうした条件に見合う場所は自ずと山間部が中心となり、農機具が入りづらい場所となるため、どうしても人力で稲の刈り入れを行う必要がある。その結果大量に栽培することが難しくなる上、そもそも栽培する農家の数も少ないことから、希少性が高まって高値がつくことになる訳だ。


shuzoukou3旨い酒造りのために良質な原料を求める蔵元にとって、酒造好適米を作ってくれる農家の少なさと、値段の高さは頭の痛い問題だ。このため安価な日本酒(普通酒)については、食用米で醸造されたものが多くを占めている。
ただその一方で、各都道府県の酒造組合が中心となり、地元の気候風土でも栽培できるよう酒造好適米の品種改良を進めたり、特殊な酵母と組み合わせた食用米で旨い酒を造る技術を磨いたりと、日本酒の世界にも新たな動きが広がりつつある。
日本酒を嗜む際、酒造好適米を栽培する農家の人知れない苦労や、優れた技術にもぜひ思いを馳せてみてほしい。きっとこれまでとは違った味わい方、楽しみ方につながることだろう。

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