イタリア発 “カルナローリ米”一筋の生産者が生みだした“熟成米”

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日本では、寿司には新米よりも古米が向いているといわれている。おいしいお米といえば新米を思い浮かべるのが常識であるが、実は古米はイタリアにも存在する。1年から7年寝かせたお米を缶に入れて販売する、という独創的なアイデアを生みだしたのは、北イタリアピエモンテ州でイタリア米の“カルナローリ”品種に生涯をかけたある男性だった。

 

世界中の一流シェフ御用達のお米“アクアレッロ”

2017年末に亡くなったイタリア料理界の重鎮、グアルティエーロ・マルケージ。マルケージは、彼の十八番“リゾット・アッラ・ミラネーゼ”を調理する際には、必ず“アクアレッロ”というブランドのお米を使用することで有名であった。
また、フランス料理の雄アラン・デュカスもその著書でアクアレッロのお米について触れているほか、アメリカ元大統領夫人ミシェル・オバマが贔屓にするシカゴのレストラン『スピアッジャのオーナー、トニー・マントゥアーノもアクアレッロのお米の大ファンとして知られている。

ミシュランの星つきのシェフたち、アニー・フェオルデ・ピンキオッリ、マッシモ・ボットゥーラ、ジャンフランコ・ヴィッサーニ、ダヴィデ・オルダーニ、ヘストン・ブルーメンソール、トーマス・ケラー、河合隆良などのそうそうたるメンバーが、アクアレッロのお米を使ったレシピを紹介し、またアクアレッロについて触れているのである。

北イタリアの一米生産業者が、ここまで世界中の一流シェフたちに愛される理由は何であろうか。

carnaroli2写真はイタリア料理界の重鎮であるグアルティエーロ・マルケージ氏

 

探求心旺盛な建築家の経営者ピエロ・ロンドリーノ

carnaroli3ヴェルチェッリ地方の水田

『アクアレッロ』があるヴェルチェッリの平原は、歴史的に水田に非常に適した土地として知られてきた。環境にも考慮したお米の栽培を行っているアクアレッリの土地には、カエルやトンボが数多く生息している。

先代チェーザレ・ロンドリーノが、ヴェルチェッリ平野にあるトッローネ・デッラ・コロンバーラの地を購入したのは、1935年のことであった。肥沃な土壌とお米の栽培に最良の水質を誇るコロンバーラは、当時から現在にいたるまでまったく風景が変わらない。チェーザレが夢見た「稲作に関する博物館の設立」のために、数多くの農具や稲作に関する資料も保管されている。

チェーザレの息子ピエロ・ロンドリーノは、1971年に建築学科を卒業したものの、父とともにお米の栽培に従事することを決意、持ち前の学究肌をいかし“カルナローリ”に関する研究を数十年以上にわたって重ねてきた。ピエロは、『品質』について神経質なほどこだわっている。「標準レベルを維持する」だけでは、高い品質を誇るお米の生産ができない。それでは、標準以上の品質の米を作るには、なにをモチベーションにしたのであろうか。

 

イタリア料理に即したお米“カルナローリ”

carnaroli4シチリアの米料理「アランチーニ」

ピエロが熟考したのは、歴史あるイタリアの食文化に即した「お米」であった。お米の料理の代表である“リゾット”だけでなく、イタリア中部や南部の郷土料理である“スップリー”*1 や “アランチーニ” *2 といったお米の料理に共通点はあるのか。

ピエロは、これらのお米の料理の重要な点は、「米がいかにして調味料を吸収するか」に尽きることを発見する。そして、1945年に“ヴィアローネ”と“レンチーノ”という種の交配で生まれた“カルナローリ”が、この性質を有していると確信したのである。しかし当時、カルナローリの生産業者は非常に少なかった。

イタリアでは現在でも、カルナローリよりも“アルボーリオ”のほうが普及している。カルロナーリはアルボーリオと比べ、お米の粒が細長い。また、粒が固く、デンプン質が多いカルナローリは、より長い調理時間を要するが、その分水分や調味料の吸収も良いといわれてしばしば「米の中の王」とも呼ばれている。

carnaroli5ローマの米料理「スップリー」

 

より高い品質を求めてたどり着いた『お米の熟成』

標準レベルの“カルナローリ”ならば、誰にでも栽培できる。しかし、他より抜きんでた品質のカルナローリの生産のために、ピエロは『米の熟成』というアイデアにたどり着くのである。このアイデアが実現したのは1992年、「新しい概念で生まれた古い米」というモットーのもと、サイロで1年から7年にわたりお米を低温で保存。この工程により、デンプンがより安定し調理の際にお米の味と調味料がさらに凝縮することが証明された。

そして、精米は1875年に発明された回転翼車で行われる。この機械は、回転が遅いために粒と粒のあいだに適度な摩擦が生まれ、お米の粒に傷をつけないというメリットがある。ただし、通常の精米機であれば6秒で済む作業が、この回転翼車では10分かかるため時間もコストも大きく上昇する。ピエロはしかし、この精米法がお米のためには最良であることを確信しているのだ。

また2009年には、精米の際に廃棄される籾殻の胚芽と、精米された白米を特殊な機械で16分混ぜ合わせて、胚芽部分の甘味と栄養素を白米に再吸収させるという技術で特許を獲得。ピエロは、玄米の栄養分の高さや独特の甘味を評価しながらも、玄米は水分や調味料の吸収が悪いことを理由に、白米の生産にこだわっている。


自ら開発したこの技術について、「白米でありながら、玄米の豊富な栄養分と甘味を持ち合わせるお米が、50年の研究の末に生まれた」と、彼は語っている。また、アクアレッロのシンボルでもある『缶』のパッケージというアイデアも、熟成米と時を同じくして1992年にピエロが思いついたものである。当時は、販売するお米を真空パックにすることが目的であったものが、コーヒーメーカー『イリー』のパッケージに触発されて、缶入のお米というアイデアを得たそうだ。

 

生産量の60%は海外へ輸出

アクアレッロが生産するお米は現在、全体量の約60%が輸出されている。これについてピエロは、「海外の著名な調理人がイタリアのお米を入手する際には、当然最高品質のものを選ぶからではないか」とその理由を推測している。

現在、ピエロの農業への研究は高く評価され、ピエモンテ州ポッレンツォにある通称『スローフード大学』、正式名称『食科学大学 (Università di Scienze gastronomiche di Pollenzo ) 』の授業の一部は、アクアレッロの敷地内で行われている。

アクアレッロは、従業員がわずか20人ほどの中小企業だ。しかし、ピエロは、アクアレッロのお米が世界中のイタリア料理のレストランで使用されて、イタリアの食文化の真髄が海外の人にも伝われば、これに勝る喜びはないと語っている。妥協を許さないピエロのカルナローリへのこだわりと探求心は、今後もイタリアのお米の料理一翼を担い続けることだろう。

 

*1スップリー
ローマのライスコロッケ「スップリー」は、もっぱらピッツエリアとよばれるピザ屋さんで販売されている。ピッツァを食べる際の前菜として、ローマではスップリーをはじめとする揚げ物を食する習慣があるためだ。ファーストフード感覚で、子供や大人のおやつとして食べられることもある。

*2アランチーニ

シチリアのライスコロッケは、ローマのスップリーと違いバールやパン屋で販売されており、シチリアの人々が小腹が空いたときに食べるおやつといえる。しかし、その大きさは日本人から見ると特大のおにぎりサイズ。それがフライになっているので、日本人の観光客ならば充分お昼ご飯に相当する腹持ちの良さだ。オレンジ(アランチャ)の形をしていることから、こう呼ばれている。

 

参照サイト:
“Piero Rondolino, l’architetto risicoltore padre del riso gemmato Acquerello”
http://www.storiedipersone.com/wordpress/piero-rondolino-larchitetto-risicoltore-padre-del-riso-gemmato/
“AQUERELLO”
https://www.acquerello.it/tenuta/
“Riso innovativo. Acquerello, il Carnaroli in lattina”
http://www.gamberorosso.it/it/food/1021879-riso-innovativo-acquerello-il-carnaroli-in-lattina

 

文:cucciola
イタリア在住十数年。ローマ近郊の山から、イタリアの魅力発信中。
ブログ ルネサンスのセレブたち(http://blog.livedoor.jp/cucciola1007/
    イタ飯百珍(http://cucciolasapori.hatenablog.com/

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