反対派も賛成派も、まずは基本を知ろう。『遺伝子組み換え』技術とは?

 

バイオテクノロジーを使った品種改良法のうち、『遺伝子組み換え』は多くの人の関心事であろう。インターネット等で遺伝子組み換えについて知ろうとすると、組み換え食品への反対運動やその逆の推奨記事など、実に多様な情報が現れる。しかし、その技術について偏見なく解説したものはあまり多くないように思う。本記事ではイネの遺伝子組み換え法を、できるだけ中立的な立場からご紹介したい。

 

DNAを切り貼りする技術を応用して、必要な品種を作る

遺伝子組み換えとは、もともとその生物が持っていない遺伝子を導入するなどして、それまでにない形質の品種を作り出す技術である。遺伝子組み換え技術が確立される以前、各作物では優良個体の選抜や人工交雑によって新品種を作り出していたが、これらは特定の形質をピンポイントで出現させることが難しく、運に左右されることも少なくなかった。また、交雑が困難な品種同士の掛け合わせが必要であったり、別種の生物の持つ形質を利用したい場合などは、それを諦めざるを得なかったのである。

遺伝学の発展とともに、生物の形質を決めるのが遺伝子だということが判明し、遺伝子はDNAによってコードされていることが分かると、そのDNAを切ったり貼ったりする技術が確立された。DNAはすべての生物が持つ共通の物質である。他の生物のDNAを持ってきて、別の生物のDNA中に入れ込んだり、1つだけの遺伝子を調節することが可能になっていった。

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アグロバクテリウムによる遺伝子組み換え

イネに限らず、多くの遺伝子組み換えに利用されている『アグロバクテリウム』という細菌がいる。アグロバクテリウムには、植物に寄生して、自分のDNAを宿主の細胞のDNAに組み込ませるという性質がある。

アグロバクテリウムの体には自分自身の体の設計図であるDNAのほかに、『プラスミド』という環状のDNAを持っていて、プラスミドを宿主の細胞に侵入させるのである。プラスミドによってアグロバクテリウムのDNAが組み込まれた植物細胞は、アグロバクテリウム本体に有用な物質を作るようになる。

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バイオテクノロジーの技術者はこの性質を利用することにした。アグロバクテリウムのプラスミドの一部を切り取り、そこへ使いたい遺伝子をコードするDNAを組み込ませる。そしてこの組み替えられたプラスミドをもつアグロバクテリウムを、対象となる作物の細胞に感染させることで必要な遺伝子を組み込むのである。自然に存在する細菌の特性と、生化学の技術を組み合わせた技術だ。

アグロバクテリウムを使ったもの以外にも遺伝子を組み替える方法は存在するが、イネではこのアグロバクテリウム法が主流である。

 

遺伝子組み換えの歴史と品種

遺伝子組み換えの歴史は比較的浅い。1973年のアメリカで、アグロバクテリウムと同様にプラスミドを持つ大腸菌へ人工的にDNAを組み込んだのが初めの成功例である。これは製薬や遺伝子の研究にとって画期的なことであった。

例えばインスリン(糖尿病の薬)の製造は、大腸菌へインスリンを作る遺伝子を導入し、大腸菌の中でインスリンを作らせてそれを抽出している。80年代に入ると農作物への転用を目的とした研究が本格化し、1984年にアメリカで遺伝子組み換えのタバコが誕生した。その後も様々な農作物への応用が試みられ、イネでも有用な形質をもった新品種の開発が行われている。

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遺伝子組み換えによってつくられた作物はGM作物とも呼ばれる。GM作物の開発ははじめ、『農家の負担を減らす』という方向性で行われていた。除草剤に強い性質や、低温や病気への抵抗性など、より安定した生産を求めてつくられたGM作物は『第一世代』と呼ばれている。

その後、生産者の利益だけでなく『消費者に有用な形質』をもった品種の開発がすすめられた。例えば、ビタミンなどの成分を多く作る遺伝子を導入するといったものだ。食べる人のため、という目的で作られたGM作物は『第二世代』と呼ばれる。ビタミンAの含有量を高めた“ゴールデンライス”はその代表である。

そして、近年『第三世代』と呼ばれるGM作物の開発も進行中だ。第三世代のGM作物は『環境問題への対応』などが目的とされる。実際に開発が進められているものには『カドミウム(Cd)の吸収を促進するイネ』がある。Cdは摂取すると人体に悪影響を及ぼす元素であり、これによって引き起こされた病気がかの有名な『イタイイタイ病』だ。Cdに汚染された地に、積極的にそれを吸収するよう遺伝子を組み替えたイネを植え、収穫して焼却すれば地中に広がっていたCdを灰へ集めることが可能になる。


ほかにも多様な新品種の開発が各機関で進められているが、国内では今のところ販売用の遺伝子組み換えイネは作付けされておらず、いずれも研究段階だ。

GM作物については賛否両論があるが、賛成派も反対派もまずはその基礎知識を偏りなく抑えることが大切である。技術やその影響を正確に把握したうえで、良し悪しを判断してみよう。

 

◆育種法早見年表

1903年 加藤茂苞らが品種改良実験を本格化
1904年 イネの人工交配に成功。『交雑育種』が本格化
1949年 人工交配の際に花粉を無効化する温湯除雄法案出
1960年 放射線育種場(茨城県)設立
1968年 葯培養によるイネの半数体が生み出される
2004年 イネのゲノムがすべて解読される

 

参考:
(独)農業生物資源研究所 http://www.maff.go.jp/j/syouan/johokan/risk_comm/k_kekka_idensi/h170629/pdf/data1.pdf
遺伝子組換え作物をめぐる状況 http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/pdf/0686.pdf
『農学基礎セミナー 植物バイテクの実際』大澤勝次・久保田旺(農文協)

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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