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お米農家の方ならお米の直播(ちょくはん)栽培について、一度は耳にしたことがあるだろう。お米づくりの基本としての苗づくり・田植えという作業なしに、直接水田に種もみを播いてお米を収穫するという栽培方法だ。1960年代ごろから模索されてきたが、近年、この直播栽培の実施、研究が盛んに行われ始めている。種もみを直播することによって、苗づくりや田植えの労力を軽減し、お米づくりにかかるトータル的なコストが抑えられ、収量を確保できるということで、取り組まれているのだ。

今回を皮切りに、お米の直播栽培についてその方法をいくつか紹介し、そのメリットやデメリットも含めて、アメリカでの直播栽培のやり方などを参考に、今後の可能性についても考えてみたい。

水稲直播栽培の種類

水稲直播栽培には大きく分けて湛水直播と乾田直播の2つの方法がある。湛水直播とは湛水中に直播する方法で、乾田直播とは浅耕して直播する方法だ。それぞれその特長やメリット、デメリットがある。以下にまとめてみた。

【湛水直播】
代掻き、落水後に水田に湛水した状態(浅水深)で播種(散播、条播、点播)。出芽後、一週間ほど落水して苗立ちを促す。湛水中で出芽、苗立ちを安定させるために種子に様々なコーティング(酸素発生剤など)を施すことが多い。

○メリット
代掻きによる雑草防除、漏水の心配がない。悪天候の中でも作業が可能。

●デメリット
代掻き、コーティング作業が必要。播種には田植え機に播種機をセットするなど工夫がいる。


【乾田直播】
冬季湛水もしくは春季湛水した水田から完全に落水後、浅耕し、播種(条播)。地表面から深めに播種される。出芽後、3葉期ごろから徐々に入水。種子へのコーティングはされない。 

○メリット
代掻き、コーティング作業が軽減できる。播種に汎用播種機が使え、作業の効率が増す。苗立ちが安定し倒伏が少ない。

●デメリット
雑草防除、管理が難しい。悪天候による作業が困難。浅耕の度合いと土壌水分の調節に工夫が必要。

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日本の水稲直播栽培の現状

日本では湛水直播が主流だが、近年では乾田直播も増えてきている。平成26年農林水産省の調べでは、湛水直播栽培の面積は全国で17,812ha、乾田直播栽培は8,835haとなっている。地域別にみてみると、湛水直播は北陸地方が7,545haで1位、東北地方が6,275haで2位。一方、乾田直播は中国四国地方が2,502ha、次いで東海地方が2,452haだ。水稲直播栽培の全体的な推移では、全国で26,798haあり、全水稲作付面積157万haのおおよそ1.7%にあたる。直播栽培の可能性はこれからますます広がっていくかもしれない。

 

アメリカの水稲直播栽培

アメリカでの水稲栽培は、まず直播栽培が基本だ。田植えという作業は、プロの農家はまったく行わないと言ってもいい。直播の方法は上記の湛水と乾田の両方があるが、湛水直播が主流だ。この湛水方法が日本とは違い、水田いっぱい水深12センチほど水をはり、飛行機で種もみを播いていく。いわゆる散播というやり方だ。毎年5月の初めごろになると、セスナ機が種もみを積んで、水田スレスレに飛びながら種を播いている光景は圧巻だ。1枚の水田圃場の規模はおおよそ10ha~200haとさまざまだが、水田の水管理のためには、日本と同じように畔で区切られている。種を播くセスナ機はその畔を飛び越え、一度に数枚の水田をまたいで種を播いていく。

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乾田直播は、アメリカ南部テキサス州などで従来行われていたが、最近、カリフォルニア州でも乾田直播栽培する農家がチラホラ出てきた。日本では乾田直播の場合、除草剤とセットにして考えていくのが通例で、少しイメージしにくいかもしれないが、農薬や化学肥料を使わずにお米づくりをするアメリカの有機栽培農家は、従来の湛水栽培よりも乾田栽培を採用している。その主な理由には土壌管理や害虫防除がしやすく、飛行機で種を播くよりコストが抑えられ、手持ちの汎用播種機などを利用できるからだ。そして稲が倒伏しにくく、収量も上がり、作業性も効率がいい。オーガニックの農産物が脚光を浴びて久しいが、近年、人々の小麦グルテンアレルギーなどに伴い、グルテンフリーなる小麦を使わない製品の人気が出てきている。お米はもちろん、グルテンフリー。オーガニックで、かつグルテンフリーのお米が注目を集めつつあるのも現状だ。先進的な有機栽培農家は、乾田直播栽培のメリットを最大限に生かして付加価値の高いお米づくりに挑戦している。

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今回はPart1ということでみなさんに直播栽培について概要を紹介させていただいた。次回はもっと詳しく、アメリカでどのように直播栽培しているのか? 圃場の準備や播種機の工夫、どんな風に苗が育っていくのか、など、技術的な面を中心に紹介したい。

参考資料:平成26年度 農林水産省 最近の直播の状況より http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/zikamaki/z_genzyo/attach/pdf/index-5.pdf

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。