アメリカの有機認証制度とカリフォルニアの有機栽培米 -National Organic Program (NOP) と 有機JAS法-

 

農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術を使用せず、環境への負荷をできる限り低減するなどして栽培・生産されたものを有機生産物と呼ぶが、その認証にはさまざまな基準や検査が設けられる。今回は、アメリカと日本の有機認証制度と、カリフォルニア州における有機栽培のお米づくりについて紹介したい。

 

アメリカの有機認証制度(National Organic Program)

アメリカの有機認証制度は、アメリカ農務省(United State Department of Agriculture、通称USDA)が策定する National Organic Program(NOP)という基準に基づいている。1990年、有機食品生産法(Organic Food Production Act)の制定にともない、およそ10年の歳月をかけて改定しながら文書としてまとめられた。

NOPは作物、畜産物、加工生産物の3つの分野に分けられ、認証機関の審査を受け、認可制度を確立している。この基準をクリアすることによって、有機生産物(オーガニック)として公に認めるということである。いわゆるUSDAオーガニックのラベルを貼れる生産物として、晴れて認められるのである。生産者側にとって一番気になるのは、誰が、どのように認証し、検査に来るのか? そして検査に合格するにはどうするのか? ということであろう。 認可を出すのはUSDAが認めた認証機関が行うが、この認証機関はアメリカ国内で48団体。国外では32団体にものぼる。

amricayuki1引用:USDA Agricultural Marketing Serviceのオーガニックラベル

 

また、カリフォルニア州内にはこの内10団体の認証機関が集中する。代表的なものにCCOF(California Certified Organic Farmers)という団体がある。生産者が有機認証を受けたい場合は、この数ある認証機関からひとつを選び、申請。この申請書はおよそ10ページにもおよび、生産システムの概要を詳しく説明するのだ。これをOrganic System Plan (OSP)と呼ぶ。そして書面での審査が通れば、実際に検査官が農場や施設を検査にやって来るという仕組みである。

検査官は申請書に書かれた内容を吟味して、本当にその通りに実施しているか? ということを見る。いわゆるインスペクションと呼ばれる調査だ。検査官の視点は、生産者が気付かないような禁止農業資材の使用や種苗の入手元、生産と出荷におよぶ記録と、その過程について見ていく。仮にそのインスペクションで基準に合わないことや違反が見つかっても、それを改善すれば再びチャンスはある。一度認証を得れば、定期的なインスペクションをクリアするだけで、半永久的にオーガニック生産物として、お墨付きを得られるのである。しかし違反を繰り返したり、改善が見られない場合は、認証を取り消されることにもなりかねない。要は、生産者側のモラルと有機生産物の普及に対する情熱が問われているのである。

 

日本の有機JAS法

日本における有機認証制度は1992年、農水省が有機農産物ガイドラインの制定からはじまり、1999年、JAS法を一部改正し、2000年に有機JAS法として施行。2006年、有機農業推進法の制定もあり、有機JAS法に基づく有機認証制度が急速に発展してきている。

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引用:農林水産省 有機食品の検査認証制度より

この有機JAS法はもともとCODEX(コーデックス)有機食品ガイドラインという、WHO(世界保健機構)とFAO(食糧農業機構)が共同策定した指標に基づいている。アメリカのNOPも元々はこのCODEXを手本にしているので、ほぼ同じような規格内容となっていると言っていい。日本の「有機農産物」を制度的な面から定義してみると、「CODEXを手本とした国際ルールに基づいた有機JAS法に準拠し、有機農業推進法による生産システムによって生産された農産物」といったところだろうか。

NOPは有機JASより基準が厳しいのでは? という声をよく聞くが、それほどでもないと筆者は考えている。アメリカにおける基準の中で、禁止資材の種類が年々増える傾向にある、ということが、「厳しい」という印象をもたらしているだけである。これは、新しく農薬や化学肥料が開発され、その都度オーガニック基準に見合う製品であるかどうかを吟味した結果、許可されないものが出てきただけで、基準そのものはどちらも大きくは変わらないと思うからだ。

有機JAS認定の手順は、NOPの過程とほぼ同様と考えていいだろう。日本の認定機関への申請からはじまり、書類審査をクリアして実施検査、通れば認可が下りる、という仕組みである。認可が下りれば、上記の有機JASマークが生産物に表示できるのである。このマークにどれほどの価値があるのか? 日本の有機農産物に対する消費者の需要からみて、まだまだ未知数だ。というのが、生産者側からすれば正直なところではないだろうか。

 

カリフォルニアの有機栽培米

さて、カリフォルニア州での有機栽培のお米づくりはNOP基準が検討されはじめた、1993年ごろから模索されてきたようだ。当初は200エーカー(約80ヘクタール)たらず、8戸の農家が取り組んだようだが、現在では18,000エーカー(約7,300ヘクタール)、200戸以上にもおよぶ。

amricayuki3カリフォルニアでの有機栽培の稲穂

有機栽培のお米づくりで一番気がかりなのは、やはり除草対策だ。オーガニック基準で禁止されている除草剤はもちろん使えない。乾田直播方式で播種前に機械除草をしたり、水管理によって水生雑草も抑える努力をしている。また、有機栽培米として消費者に届けるには農家の栽培管理だけなく、分業している乾燥施設や精米所の管理状況も、オーガニック基準に合致していなければならない。特に大量生産で問題になるのが、オーガニック栽培米と慣行栽培米が同じ機械や設備を使っている場合である。処理工程での洗浄はもちろん、混ざらないように細心の注意が必要になってくる。そこまでしてオーガニック米をつくる理由は、やはり価格差にある。慣行米に比べて2~2.5倍で取引されるのは、農家にとって最大の魅力であるからだ。

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。