願いを込めたわら細工で七夕様とつながる「七夕綱」

tanabatatsuna1“七夕”と聞くと、誰もが笹の葉に短冊が吊るされた光景を想像することだろう。今回紹介する「七夕綱」は、限られた地域で行われている行事で笹の葉は登場しない。使用するのはわら(藁)。一本の綱にいくつものわら細工の飾り物をつけ、川をまたぐように張られるのだ。一度は途絶えたこの風習を復活させた、熊本県南部に位置する八代市坂本町の木々子(きぎす)地区を訪れた。

 

扇、卵、亀、鶴、人形……。見事な手仕事に感嘆

tanabatatsuna28月6日、朝8時になると木々子地区のお堂に多くの人たちが集まっていた。「トントントントン……」と、堂内に響くわらを叩く小気味良い音。わら細工をするために、100回以上叩いてわらを柔らかくしていく。地区の女性陣が、わらを持ちどんどんと編み込んだり、形成をしたりと手際よく作業をし、亀、鶴、わらじなどを創り出して行く。

tanabatatsuna3

tanabatatsuna4

tanabatatsuna5

小さい時からわらを編んで草履を作っていたという、妙子おばあちゃんはわら細工の名人。おしゃべりに花を咲かせながらも、手元を動かし次々に細工物を作っていく。正月に飾る注連縄も自分たちで作るという女性陣は、皆がわら細工の先生だ。

子孫繁栄を願うという「卵」は、必ず13個作るのが決まり。昔疫病が流行っていたということがあり病気を「とおさん(十三)」という意味が込められているそう。

tanabatatsuna6

「鶴」や「亀」は縁起が良いもの、「馬」はみんな上手く行きますように、など意味や想いが込められたわら細工は14種類ほど。細工物はこれを作らないといけないという決まり事はないが、草履は鼻緒を立てない未完成のものを作り「手仕事が上手になりますように」という願いが込められる。

tanabatatsuna7

毎年この日は見学者を歓迎し、わら細工を体験できるなど、賑やかな笑い声が集落にこだまする。そのため、他に飾りつけるわら細工は、事前に2日間をかけて集落の人たちで集い作っているという。そこには、織姫や彦星の人形、船、タコやヤモリ、馬など、手の込んだ飾り物も多数。それだけでも見応えは十分だ。
 

tanabatatsuna9 2jpg

tanabatatsuna10

 

50年の時を経て復活した「七夕綱」

「文献に残された記録だと、昭和9年までは、毎年七夕綱をやっていたそうです」と話すのは、『八代七夕綱保存会』会長の久保田さん。久保田さんのお父さんが老人会会長をしていた当時、老人会で何かやれないかと考えていた所、旧坂本村の官報に「七夕綱」の文字を見た。「これはなんだ?」と思い調べてみると、昭和9年までは青年団が主体となって七夕綱を継承していたという。その後中断をしていたのだが、昭和59年、老人会の活動として復活し、保存を続けてきた。

平成27年、木々子地区以外の地域でも伝承される七夕綱と合わせて『八代・芦北の七夕綱』として、「国選択無形民俗文化財(記録作成等の措置を講ずべき無形文化財)」に登録。それを機に、保存会を設立し現在に至っている。

現在木々子地区には22戸、24世帯が住む。以前は美しい棚田があり、住民のほとんどが米づくりを主体とする農家だったが、60年程前の大水害の被害で田畑などが壊滅、風景の変化とともに米農家も減っていったという。

tanabatatsuna11▲『八代七夕綱保存会』会長の久保田さん。今木々子地区でお米を作っているのは、久保田さんを含め2軒。「わらはどこにでもあるが、七夕綱で使うわらは、木々子のわらでないと」との強い思いもあり、お米づくりを続けている。

 

織姫と彦星が出会うための綱? ご先祖様が帰ってくるための綱?

10時30分頃。わら細工の作業も終わり、皆お堂を出て、綱をわたす中谷川の方へ降りて行く。橋のたもとには、事前に作られていた飾り物もスタンバイ。綱に飾り物を付けながら、地区の住民は「今年もよろしくお願いします」「みんなが元気に過ごせますように」とお願い事を唱える。それはまぎれもなく、短冊に書く願い事と同じだ。

tanabatatsuna13▲外れないようにしっかりと、想いを込めて結ぶ

tanabatatsuna14▲八代市内の支援学校の生徒たちと一緒に作ったわら細工。子ども達の願いも添えられる。

tanabatatsuna15

飾り物が付けられた約40メールの綱を天高く上げ、電柱に括り付けるのはかなりの大仕事。地区の男性陣が命綱をつけ(つけていない達人も!)電柱に登って綱を張り渡す。

tanabatatsuna16

 

川を挟み、集落の入り口に張り渡された「七夕綱」。なぜ綱を張るのかと言うと、この綱を渡って織姫と彦星が出会うため、疫病が入ってこないようにするため、ご先祖様がこの綱を渡って帰ってくるため、など、様々な言い伝えがあるようだ。木々子地区では約1ヵ月間飾り、八朔(9月1日)の日に降ろす。

短冊に綴る個人的な願いももちろん構わないが、五穀豊穣を祈り、疫病や伝染病が起きないようにと、地域が一体となって願う「七夕綱」もとても尊いものだと感じる。半世紀を超えて復活し、30年以上伝承されている地域の大事な行事を、体感することをおすすめしたい。

tanabatatsuna17▲1ヵ月、集落の入口に張られる「七夕綱」。一つひとつの細工を見て眺めるだけで楽しい。

tanabatatsuna18▲綱を張り巡らせた後は、地域のお母さんたちが作るごちそうを囲んで交流会。愛情たっぷりの料理を頬張りながら、「七夕綱」についての話も尽きない。


◆開催日程
八代市・木々子地区の「七夕綱」
毎年8月6日
場 所:熊本県八代市坂本町中谷
この記事の情報は2018年のもの
※葦北郡芦北町の「七夕綱」開催場所・日時は、
 芦北町生涯学習課(0966-87-1171)へお問い合わせください。

参考資料・サイト:
『坂本村史』坂本村村史編纂委員会(1990年)
八代・芦北の七夕綱(国選択)八代市観光情報
http://www.city.yatsushiro.lg.jp/kankou/kiji0032438/index.html

 

okomeno
mozi rekishi mozi tane mozi bunka mozi hito mozi hito mozi huukei mozi noukamuke

もち米、玄米、古代米etc.…ちょっと変わったお米で醸す日本酒色々


土壌の肥沃さの目安、『CEC』とは?


管理栄養士が教える! 夏バテ予防抜群♪「サバを使ったマリネ」


なぜお米からフルーティーな日本酒が造れるのか?  お米の香りを引き出す酵母の知識


okomenoseiikuwo 3

お米の生育を左右する『リン酸』のあれこれ。可給態リン酸やリン酸吸収係数とは?