田の神様を勧請する“田歌”の歌い初め「踏歌節会」

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国の重要無形民俗文化財に指定されている「阿蘇の農耕祭事」は、熊本県阿蘇市にある阿蘇神社、ならびに国造神社などで行われる一連の祭りをさす。毎年7月に執り行われる『御田植神幸式』(以下、おんだ祭)では、神輿を担ぐ駕輿丁(かよちょう)たちが歌う田歌が、青田の稲穂を揺らすように阿蘇の大地に響き渡る。この田歌、実は歌うことができる期間が決まっている。旧暦の正月の「踏歌節会(とうかのせちえ)」が歌い初めで、おんだ祭の神事で歌い、その後「柄漏流神事(えもりながししんじ)」で歌い納めされるのだ。今回、阿蘇神社の田歌の歌い初めとなる踏歌節会を見学した。

 

駕輿丁だけが歌える特別な歌

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旧暦1月13日にあたる日の朝、阿蘇神社の拝殿にはおんだ祭の神輿を担ぐ駕輿丁たちが集まっていた。これから、今年初めての田歌を歌うための神事が始まるのだ。祝詞があげられ、代表者による玉串拝礼などが粛々と進み、最後に田歌が歌われる。


ここで歌われるのは「正月殿」。御田歌集を特別に見せてもらうと、その一節に

   ショ グワチ ドノニ マ イル
ホヘ カドノ マツガ タ カイ


と書かれていた。しかし、実際に歌おうとすると

 ウンホーホゝヘヘン へへへゝンヘイ 
 ショ グワチ ドノニ マ イル(正月殿に祭[まい]る)
 ウンホーホゝヘヘン へへへゝンヘイ 
 カドノ マツガ タ カイ(門戸の松が高い)
 (一部出典・参考:本田安次「阿蘇宮の祭歌」『日本古謡集』)

このように、独特の節がつき、信心深い気持ちになるから不思議だ。それもそのはず、田歌は田植えの際に、田の神様の来臨を願うために歌われるもの。まるで田の神様に、今年一年のはじまりの挨拶をするかのようなとても尊い時間だ。


阿蘇神社での歌い初めが終わると、阿蘇神社の宮司である阿蘇家へ向かい同家の座敷で「御所鶏」を歌う。

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   △繁来連(はられ)繁来連と謡へや   △御所の鶏
  御所ハ何所御所(どのごしょ)南の  △御所の庭鶏
  御所の庭鶏音(ね)を出し      △兼(かね)て貢供(ぐぐ)めく
  御所を憚(はばか)り小坪の内で   △謡へ庭鶏
 △は「ホーホゝヘヘンヘイヘイ」
 (一部出典・参考:本田安次「阿蘇宮の祭歌」『日本古謡集』)

歌詞を文字にするとこれだけだが、実際に歌うと独特の節回しで実に30分近く要する。その歌詞を覚えることはもちろん、一文字を歌うのに幾つもの音程があり、3〜4つある節を覚えるということは、とても容易なことではない。
駕輿丁たちは、踏歌節会、おんだ祭にむけて、練習を積み重ねていかなければならない。特に、「頭(かしら)が歌えないと話にならない」と言われ、他の駕輿丁たちが歌わなくなるとか。そのため、駕輿丁のリーダー達は、より一層の練習に励まなければならないのだ。

 

阿蘇神社における踏歌節会の歴史

「踏歌」とは、その字のごとく足を踏み鳴らして歌い舞うもので、中国から伝わった集団歌舞。日本では宮中儀礼として年中行事の正月十六日の踏歌節会となったが、阿蘇神社でもこの行事を採用。この節会で、神人と供僧(ぐそう)と楽所(がくそ)が豊作を祝して踏絵を舞ったとされている。


朝廷での踏歌節会は男踏歌と女踏歌に分かれており、男踏歌は早くに途絶えた。女踏歌は一時途絶えたが江戸時代に再興、幕末まで行われたという。阿蘇神社での節会は中世末に絶えた。

江戸時代半ばの『肥後國誌』によると、「正月13日は福祭」とあり、「権大宮司に大宮司、社家、神人、巫、神子が参列し神楽などを奏した」とある。この席に招待された者達が披露したのが、正月を祝う田歌だった。御田の4基の神輿を担ぐ駕輿丁の頭4人が阿蘇宮の神前で「踏歌節会」と称して田歌の歌い初めを行った。やがて、駕輿丁の頭だけが社前で行っていた田歌の歌い初めを、駕輿丁たち全員が参列するように。また、権大宮司で行われていた福祭は、社家制度の廃止により阿蘇神社の宮司宅に変更され、今日の踏歌節会に至っているとされている。

tautautaizome4▲例年7月28日に阿蘇神社で行われるおんだ祭の神幸行列の様子(国造神社の御田祭は7月26日開催)

現在は駕輿丁だけが歌うが、かつては阿蘇では誰もが歌える身近な歌だったという。おめでたい意味合いの歌詞も多く、阿蘇地域では、結婚式や住宅の棟上げ、還暦や米寿といったお祝いの席でも歌われることがあるそうだ。次に私たちが田歌を聴けるのは、7月に開催されるおんだ祭。おごそかな田歌の響きと長きに渡って伝承されてきた農耕儀礼を、目と耳と心に、焼きつけて欲しい。

参考文献:
『神々と祭の姿 阿蘇神社と国造神社を中心に』一宮町(1998年)

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