さまざまな地域で伝承される、稲の生育を見守る「田の神様」

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全国にある「田の神信仰」。春に欠かせない花見に田の神様との結びつきがあった、ということも触れたが、田の神様にまつわる伝統行事は他にもいくつかある。そもそも、「田の神様」とはなにか。今も伝わる行事やそれぞれの地域で伝承される「田の神信仰」などをもとに、私たち日本人の祖先が長年大切にし、伝えてきた田の神様について紹介したい。

 

神様をお迎えする「十六団子の日」

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東北地方の多くの地域には、旧暦の3月16日に16個の団子をつくってお供えする風習がある。これは、毎年春になると稲の成長を見守るために山から下りてくるという田の神様を迎え、五穀豊穣を祈るもの。

田の神様は杵と臼で餅つきする「トントントン」という音を聴いて山から下りてくる、とも伝えられ、この日についた餅でつくった16個の団子を供えることから「十六団子の日*」と呼ばれている。また、十六団子の日は、田の神様が山へ帰る日とされている秋の旧暦10月16日にも行われる。春から秋の間、田を見守ってくれる神への感謝と祈りを捧げる日なのだ。
*2019年の十六団子の日は4月20日。東北以外の地方では、旧暦の2月16日田の神様を迎えるところが多い。

 

「田の神様」は山から下りてきた「山の神様」?

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春になると、山の神様が田の神様となって里や田に下りてきて、秋になると山へ帰って行くーー。

このような話は、祖先の時代から現代に至るまで伝承されてきた。民俗学者である柳田國男氏が提唱した学説でもあり、それが定説化しているとも言える。

では、「山の神様」とはなにか。その礎となるのは、稲作が伝わるよりも前、縄文時代に狩猟・採取を営んでいた山や森での生活であった。やがて弥生時代となり水田稲作を営むようになっても、山と森の恵みに依存して生きてきた祖先は、古くから山の恵みに感謝するとともに、山への霊威や山の神々を心から畏れ敬ってきたという。

『山の神と日本人』の中で著者の佐々木高明は、

山の神は本来、狩猟や焼畑を営む山民の神で「主(ぬし)として山を支配する神」であり、山の霊威を象徴する神であること。山の神・田の神の去来伝承は、水田稲作民のもとで形成された観念や習俗であって、その成立の背後には、焼畑農耕から水田稲作への生業形態の変遷のプロセスがあることを述べている。

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焼畑民にとっての山の神様は、もともと山の中のどこにでも存在するものと考えられていたが、なかには特定の場所を祭りの場(聖所)として鎮まり、土地神化する山の神様が現れてくる。そうなると、神様はその聖所と焼畑耕地の間を去来するようになる。山の神様は山中の聖所から焼畑耕地に来てとどまり、作物の実りを見守り、収穫が行われ収穫儀礼を終えると再び山中の聖所に帰ることになっている、という。

このような山の神様の聖所がある地域において、谷間や平野部に稲作水田が作られるようになると、焼畑耕地と同様に、聖所から里や田に降臨して稲の豊作を司る神となり、その役割を果たすと山に帰るようになった。
焼畑民の稲作民化にともない、各地でこのような考えが発生していったと考えられている。

 

「年神様」と交替したのが「田の神様」?

田の神様は山の神様だったという説がある一方、地域によっては「田の神様は年神様だ」という伝承も残っている。「年神」とは、お正月にお迎えしその1年の無病息災、多幸をお祈りする大事な神様だ。

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『田の神・稲の神・年神』の中で著者の藤原 修氏は著書の中でさまざまな地域における「田の神去来伝承」を紹介している。

例えば、岩手県東磐井郡大東町(現:一関市)旧中川村日陰には、

「正月十八日に、カネと称して栗の木に小判のような形をした餅を十二個つけた。夜年神様に魚・米・御神酒の供え物をして、次の朝、それをさげて庭に飾ってあるマユッコに、小豆粥にしてあげる。その時、年神様は田の神に変わる」

という伝承が残る。
これは、いわゆる春になると山の神様が田の神に替わるという伝承とおなじように、年神が田の神に交替する、というものだ。


さらに岩手県紫波郡紫波町南日詰には、
春の段階では

旧暦2月9日は年神様がツトメを追える日で、この日から3月16日まで休む。
3月16日は農神おろしで、年神様がおりて農神様となる。
それでこの日は小豆餅か小豆団子を作る。
朝どこよりも早く杵の音をとんとんさせた家に農神様が入ってこられるので、この家の作はよいといいならわされている。(途中一部省略)

また、秋の段階では

旧10月16日は農神あげで、この日農神様が山の神様に替わるので、餅をついて小豆餅と胡桃餅をつくり、山の神おでァる(迎える)といってこれを丼に一杯盛って神棚に供える。
—中略—
旧12月27日に山の神はお年神様になる。それでこの日はお年神のおふだを神棚にはり、サカナをつけたお膳だてをし、酒を供え、これを七日間つづける。そして2月9日には前にいったようにお年神さまはそのツトメを終えるのである。

という伝承が残る。
年神がツトメを終え田の神様(農神)に。秋に農神が山の神に替わり、12月27日に年神に替わり、ツトメを終えるとまた田の神になるのだという。
まさに、前述の「十六団子の日」の習わしを裏付ける伝承が、(特に東北地域に)数々残されているのだ。

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全国で古くから信仰されている“山の神・田の神の去来伝承”に関しては、数多くの学説・仮説があり何かひとつを答えとして示すことはできない。
地方によっては、年神様をご先祖様と考える信仰もあるため、「田の神様はご先祖様」という考え方もできるのかもしれない。

田の神様が何であるかーー。というよりも、稲作の始まりから終わりまで、さらに農作業の途中過程において、それぞれの地域の伝承・風習において迎えられ送られる神様なのだ。

柳田氏の言葉を借りると、田の神は「稲作の豊穣を祈り祭る神。農神」(出典:『民俗学事典』)であることは変わりなく、先祖代々実りへの祈願と感謝を捧げてきた、私たち日本人の信仰心が作り上げたものなのかもしれない。

参考文献:
『田の神・稲の神・年神』岩田書院(1996年)
『山の神と日本人』洋泉社(2006年)
『暮らしのならわし十二か月』飛鳥新社(2014年)

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