美しく凛と咲く「ヒガンバナ」が農家の天敵から田畑を守る!

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 昼夜の長さが同じになる秋分の頃、川沿いや道端、田んぼや畑の畦道に、赤いヒガンバナが咲いているのをよく見かけるようになる。秋分を中日とした7日間を「秋の彼岸」というが、ヒガンバナはその名の通り、彼岸の頃に咲く花だ。「曼珠沙華(マンジュシャゲ)」とも呼ばれるのは、それぞれ「曼」は美しい、「珠」は赤い・赤色の、「沙」は燃えるような・華やかな、「華」は花のことで、「天に向かって咲く赤い花」という意味をさす。おごそかに美しく咲くヒガンバナが、前述したように“田んぼや畑の畦道”でよく見かけられるのには、実は理由があったのだ。

 

非常食や薬としても活用されてきたヒガンバナの根

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「美しい花には棘(とげ)がある」ということわざがある。美しいものには他を傷つける一面があるという意味だ。ヒガンバナには棘はない。さらに花が咲いている間は葉もないという珍しい植物でもある。しかし、注目するべきはその土の中。根茎(球根)部分には植物に多く含まれる有毒成分アルカロイドの一種であるリコリンが含まれ、誤って口にすれば死に至るほどの強い毒性を持っているのだ。

驚くべきは、そのように強い毒を持つにも関わらず、救荒植物(飢饉や戦争などで食料が不足した時の食糧となるもの)にもされてきたこと。江戸時代頃まで、根茎を数日間水にさらして毒抜きをし、でんぷんだけを取り出して非常食にしていたのだ。また、鱗茎の部分は「石蒜(せきさん)」という生薬名で薬にも用いられている。

 

一見可愛い小動物も、土の中では厄介者

農家の天敵といえば、様々な動物を思い浮かべるだろう。近年、イノシシやシカなど大型の動物が田畑を大いに荒らし、農家を困らせている。カラスなどの鳥類や、モグラやネズミ、イタチなどの小動物による被害は、昔から長い年月を経てもなお問題となっている。

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今では絶滅危惧種となっている種類も多い「モグラ」は、昔はあちらこちらにいた。といっても、私たちがなかなか目にすることができない土の中に、だ。ネズミ科に属されているモグラは、モコモコとした毛質で可愛らしく見えるが、「穴掘り名人」と呼ばれるように大きな手でどんどん土を掘り、あちこちにトンネルを作っている。1匹のモグラが暮らすトンネルの長さは70〜300mともいわれるそうで、地中はさながら迷路のよう。モグラが通ると地表もボコボコに、地中はスカスカに。よって、田んぼの畦道が崩壊してしまったり、農作物の根っこが傷ついたり、せっかく苗が生長しても根を張ることができずに根枯れや株枯れを起こしてしまうのだ。

 

これだけの穴掘りには、相当のエネルギーが必要。それを補うために食べるエサの量は、60kgの人間でいうと白米のごはんを1日約200杯分にも相当するとか! 大食漢のモグラの大好物はミミズ。土にとっていい働きをしてくれるミミズも食べ尽くされてしまっては、畑の土も元気が無くなってしまう。モグラのこの習性が農家にとっては困りもの。まさに「モグラ叩きゲーム」のように、地表にひょっこり顔を出したモグラを捕まえたり、地中に竹製のワナを仕掛けたり、モグラの優れた嗅覚をつくためにニンニクを土に埋めたり……農家もさまざまな手立てを講じて、モグラの被害に立ち向かっている。

 

 

日本の原風景に彩りをそえるヒガンバナ

higanbana4▲熊本県山鹿市の番所地区では、美しい棚田とヒガンバナが生み出す昔懐かしい風景がひろがる。

 

そこで先人たちが利用したのが、ヒガンバナの有毒性。そもそも、イネの伝来とともに中国から日本へ伝わったともいわれているヒガンバナ。根が河原の土手や田んぼや畑の畦道をしっかりと固めてくれる、雑草を駆逐してくれる、土の中の小動物や虫を寄せ付けない、というさまざまなメリットから、昔から積極的に川沿いや土手の法面、畦道に植えられてきた。モグラやネズミの被害に困り果てていた農家も、こぞって田んぼや畑の畦道にヒガンバナを植えていたのだという。ちなみに、墓地でもヒガンバナを見ることが多いのは、根の有毒性や臭いを使って虫や動物から遺体を守るためだともいわれる。その由縁からヒガンバナを「死人花」「幽霊花」などと呼ぶ地域もあるようだ。

 

ヒガンバナの特長を生かして先人たちが広く植え続けた結果、今日私たちが見ることができる“日本の秋の風景”がある。やがて稲が黄金色に染まると、真っ赤なヒガンバナとのコントラストがさらに美しく、ノスタルジックな情感とともに私たちの目を楽しませてくれるだろう。

 

参考文献:
『草木名の語源』鳥影社(2018年)
『ただ生きようと花は咲く』ルックナウ(2013年)
『現代農業2018年5月号』農文協

 

参考サイト:

ヒガンバナ | 日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/flowers/post_4.html

ヒガンバナ Lycoris radiate (L' Hér.) Herb. - 城西大学
http://libir.josai.ac.jp/il/user_contents/02/G0000284repository/pdf/JOS-05470277-57(9)-52.pdf

 

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