お米の酒の原点・どぶろくについて[後編]地域おこしとどぶろく

1899年に酒税確保のため自家醸造が法律で禁じられて以来、密造酒としてのイメージが強いどぶろくは、約1世紀にわたりマイナーな存在として扱われてきた。しかし、小泉内閣時代に導入された通称「どぶろく特区」をきっかけに、町おこしの切り札としてどぶろくを活用しようとの動きが全国各地で広まっている。

 

特区第1号で造られたどぶろくに舌鼓を打った小泉首相

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「どぶろく特区」は、規制緩和によって地域活性化を目指す国の構造改革特区の一つである。酒税法では年間6,000リットル以上(一升瓶で約3,300本超)醸造できる業者だけに酒造免許の取得を認めているが、特区内では農家などが自家産のお米でどぶろくを製造し、自ら営む民宿や飲食店で提供するのであれば、年間6,000リットルに満たなくても酒造免許を取得できるものと定められた。


制度が始まった2003年にどぶろく特区第1号として認定されたのは、宮沢賢治の生誕の地で、日本の民俗学の先駆けとなった柳田國男の「遠野物語」でも知られる、岩手県遠野市である。特区内で初めて仕込んだどぶろくが完成した際は、小泉首相(当時)がマスコミの前で試飲して「美味い!」と絶賛。塩爺こと塩川財務大臣(当時)やキャスターの筑紫哲也氏も現地に赴き、百数年ぶりに解禁となったどぶろくに舌鼓を打った。これらのPR効果も手伝って、2004年に遠野を訪れる観光客は大幅に増加。経済波及効果も2.2億円と推計され、どぶろく特区による町おこしは順調なスタートを切った。

 

過疎村の住民の意識を変えたどぶろくによる村おこし

遠野市での成果が呼び水となり、その後全国の自治体でどぶろくによる地域振興への取り組みは着実に広がった。2018年8月現在、全国のどぶろく特区は184カ所に上っている。中でも有数の成功事例となったのが、人口約1,600名の過疎村である高知県三原村だ。2005年に3軒の農家がどぶろく製造免許を取得して農家食堂をオープン。「三原村=どぶろくの村」というブランドを浸透させるため、試飲と販売を主体にした「どぶろく祭り」を企画・開催した。すると、村の一大イベントだった花火大会でさえ1,000人程度しか集客できなかった所に、4,000人もの観光客が訪れたのである。


この成功に後押しされどぶろくの製造農家は7軒に増え、うち5軒が民宿を併設。新たにお遍路さんの宿泊需要も生み出した。祭りも今では「どぶろく・農林文化祭」と名を変え、コンスタントに毎年4,000人以上を集客。町おこしの起爆剤となっている。お米はどぶろくにすることによって、そのまま販売するより付加価値が最大15倍にもなると分かり、村長は「どぶろくが村民の意識を変え、村で様々なチャレンジが広がるきっかけになった」と日経新聞の取材に対して語っている。


全国各地にあるどぶろく祭りも地域振興に一役

doburokukouhen2(出典:大分県杵築市観光協会 フォトブック)


三原村同様、岐阜県の郡上大和、神奈川県の秦野、愛媛県の宇和島など特区を機に始まったどぶろく祭りは、各地域で名物行事として根付き始めている。
その一方で、国から醸造認可を受けた神社が神事として執り行う伝統的などぶろく祭りは、現在全国で20以上に達している。中でも世界遺産に登録された岐阜県白川郷で行われるどぶろく祭り(10月)。愛知県大府市の長草天神社で500年以上続くどぶろく祭り(2月)。大分県杵築市の白鬚田原神社で1300年以上続くどぶろく祭り(10月)などは全国的にも有名だ。
祭りを楽しみにそれぞれの地を訪れる観光客も増えており、経済効果の面でも地域振興に一役買っているのは間違いないようだ。

doburokukouhen3(出典:大分県杵築市観光協会 フォトブック)

古来、日本の各地では、収穫されたお米を神に捧げる際にどぶろくを造って供え、来期の豊穣を祈願してきた。特区をきっかけに甦ったどぶろく文化が、これからは地域おこしという新たな形で町や村に豊穣をもたらし、人々に活力を与えてほしいものである。

*「お米の酒の原点・どぶろくについて[前編]歴史・特徴・効用など」の記事はこちらをクリック。

参考サイト:
Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/どぶろく

Tohoku Web Magazine みちの
http://michino.jp/food/886

【知識創造ケーススタディ】〜「遠野スタイル」のまちづくり〜
http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/1000026691_02.pdf

どぶろくで活性化 高知・三原村、特産品づくりに刺激/日本経済新聞 電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35585620Q8A920C1LA0000/

過疎村、「どぶろく」で起死回生 農家の「個性」が原動力/事業構想大学院大学
https://www.projectdesign.jp/201701/liquor/003360.php

全国各地のどぶろく祭り/神社と古事記
http://www.buccyake-kojiki.com/archives/1009900029.htm

 

【季節の行事レシピ】管理栄養士が教える「入梅の時期に欠かせない『梅仕事』」

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田植えの時期を今か今かと待っているような水田が、あちらこちらに現れるこの時期。新暦の6月5日頃〜6月20日頃は、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」にあたります。「芒(のぎ)」とは、稲や麦などの穂先にある硬い針のような突起のことを意味し、文字が表すように「芒を持つ植物の種を撒く時期」とされています。地域によってはすでに稲の田植えは終わっている所もあるかと思いますが、この時期は昔から農家にとって大事な「梅仕事」がはじまる時期としても覚えておいて欲しい季節です。

 

古くから人々の生活に息づく芒種の七十二候とは?

“二十四節気”とは半月毎の季節の変化を表しますが、これをさらに「初候・次候・末候」と約5日おきに分けて気象の動きや動植物の変化を知らせるのが七十二候。二十四節気と同じく七十二候も古代中国で作られました。二十四節気は古代のものがそのまま使われているのに対し、七十二候は何度も変更されてきており、現在主に使われているのは明治時代に改訂された「略本暦」。七十二候を知ると、日本の美しい風土や人々の些細な習慣など、繊細な季節の移ろいを感じることができます。

芒種の初候は「蟷螂生ず(かまきりしょうず)」。カマキリが卵から孵化し生まれる頃を表します。カマキリは、稲や野菜に手をつけず害虫を補食してくれると、昔から“益虫”とされていたのです。次候は「腐草蛍と為る(ふそうほたるとなる)」。きれいな水辺に棲む蛍が、あかりをともして飛び交う頃。昔の人は腐った草が蛍に生まれ変わると信じていたとか。末候は「梅子黄なり(うめのみきなり)」。梅の実が熟して色づく頃を表します。この頃、雨がしとしとと降り続ける梅雨の季節にも入ります。土壌にとっては恵みの雨。育てた苗が育ち、田植えが忙しくなる頃ですが、それと同時に忙しくなるのが、梅干しなどを作る梅仕事。今回は「梅子黄なり」にちなんで梅干しの健康パワーと、基本的な梅干しの漬け方についてご紹介します。

 

梅干しパワーで美腸に

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梅干しに含まれる酸っぱい成分、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸には整腸作用があることが広く知られています。腸が健康であれば、便は腸に長くとどまらずに排泄されます。しかし、運動不足や乱れた食生活などの影響で腸内に便が長くとどまってしまうと、便秘や下痢などの原因になることも。腸内に便が長くとどまることで悪玉菌が便を腐らせ、滞留便やガスなどの老廃物がたまります。このような老廃物がたまってしまうと悪玉菌はさらに増えて、便秘や下痢を繰り返したりお腹が張ったりと、腸の機能低下につながってしまいます。

梅干しは腸内で増殖する悪玉菌を抑える作用に加え、蠕動(ぜんどう)運動を促進し便秘や下痢改善への効果が期待できます。腸の蠕動運動は朝が一番活発なこともあり、朝梅干しを食べることでより一層の効果を期待できますよ。朝に1粒の梅干しを食べることを習慣にし、美腸を目指しましょう。

 

◆基本の梅干しの作り方

<材料>

黄色に熟した梅         2kg

塩(梅用)           360g(梅の18%)

赤紫蘇(茎などを除いた量)   300g(梅の15%) ≪10~20%の間お好みで≫

塩(紫蘇用)          54g(紫蘇の18%)

焼酎(消毒           少々

 

<道具>

下漬け用の容器(ホウロウ・ガラス・陶器製のもの、また食品用ビニール袋でも◎)

重石(梅と同じ重さ[水を入れたペットボトルや水を入れたビニールでも可

落としぶた(平たいお皿でも代用可能ですが、下漬け用容器と同等の大きさ)

大きなボウルなどの容器(赤紫蘇をもみ込む用)

土用干し用のザル

出来上がった梅干しの保存容器

 

<作り方>

◎梅の下漬け

① 梅は水でざっと洗い、1つずつ丁寧にふいて水気を除く

② 梅のヘタを竹串や爪楊枝でとる
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③ 漬けこむための容器に少量の焼酎を入れて容器の中をすすいで消毒する
(食品用ビニール袋の場合も同じように焼酎で消毒しましょう)

④ ③の容器の底がうっすら隠れるくらいに塩をふる

⑤ 梅を一段並べ、その上に塩をふる

⑥ 塩と梅を交互に重ねていき、梅を入れ終わったら残った塩を最後にふる
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⑦ 落としぶたをして上に重石をのせて冷暗所におく

⑧ 少しずつ梅酢がでてくるので時々容器をゆすりながら様子をみる

⑨ 数日~1週間くらいで透明の梅酢があがってくるため、梅がしっかり梅酢に漬かっている状態を保つ(その後もカビがなえていないかチェックする)
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◎赤紫蘇の準備(梅酢が十分に上がってきた頃)

⑩ 茎などを除いてしっかり洗ってザルに上げて半日ほどおき、ある程度水気が乾くまでおいておく
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⑪ 大きなボウルに赤紫蘇を入れ、塩の半量を加えてしっかりもみ込み灰汁を出す
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⑫ 赤紫蘇を絞って出てきた灰汁は捨て、絞った赤紫蘇に残りの塩を加えてさらにしっかりともみ込んできつく絞り灰汁を捨てる

⑬ ボウルに絞った赤紫蘇を入れ、下漬けで出てきた梅酢を200ml加えてもみほぐし、梅酢に色を移す

⑭ 赤紫蘇を下漬けした梅の上に広げ、赤く染まった梅酢も一緒に加える

⑮ 容器を傾けて全体になじむようにする

⑯ 落としぶたをして梅がしっかり漬かる程度の重石をのせ、冷暗所で土用の頃(7月20日頃)までおいておく

    ※あらかじめ下ごしらえした赤紫蘇も売られているのでそれを購入しても◎

 

◎土用干し

⑰ 梅雨が明けるのを待ち、晴れの続く日を見計らって『三日三晩の土用干し』を行う

⑱ 大きなザルに梅同士がくっつかないように並べて日当たりのよいところにおく(この作業を三日繰り返します)赤紫蘇もしっかりしぼって一緒に干しましょう
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土用干しが終わったらいよいよ梅干しの完成です。そのまま保存する方法と梅酢に戻して保存する方法があります。そのまま保存すると色は控えめですが酸味がきつすぎない味に、梅酢に戻して保存すると色鮮やかになり果肉がみずみずしく酸味が強い梅干しになります。それぞれお好みでどうぞ。すぐに食べることもできますが、時間が経過するごとに塩味や酸味が落ち着いてより美味しく食べることができます。土用干しは三日三晩を言われますが、自分の好きなかたさになるまでで大丈夫です。手作りだからこそ自分好みの梅干しに。梅が出回るこの時期に『梅仕事』してみませんか。

 

参考サイト:

七十二候|暮らし歳時記 http://www.i-nekko.jp/meguritokoyomi/shichijyuunikou/

参考文献:

『日本の七十二候を楽しむ』東邦出版

『日本の365日を愛おしむ』東邦出版

『暮らしのならわし十二か月』飛鳥新社

 

文:カベルネmama

管理栄養士、食生活アドバイザー2級の資格を保持。保育園で献立作成や食育を担当していた経験を持つ。現在は幼い3人の息子の育児をしながらレシピ記事作成を行う。料理を作ること・食べることが大好き。子どもたちのため、栄養たっぷりで簡単に作れ、喜んで食べてくれるものを考案する日々を送る。

 

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お米の酒の原点・どぶろくについて[前編]歴史・特徴・効用など

どぶろくの歴史は米作とほぼ同起源であると云われ、五穀豊穣や家内安全を祈願する神酒として古来親しまれてきた。そのどぶろくが、この十年来いろんな方面から注目を集めているという。そこで、知っているようで実はあまり知られていないどぶろくにまつわる話題を、2回連続で取り上げてみたい。

 

かつては各家庭で「Myどぶろく」が造られるほど暮らしに密着

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どぶろくは日本酒の原型である。お米を麹と酵母の力で発酵させてできた醪(もろみ)*1を、そのまま出荷するとどぶろくになり、醪を漉す(or上槽*2する)と日本酒(清酒)になる。お米を原料とする酒の中で最も素朴な造りのどぶろくは、かつては各家庭や農家でMyどぶろくが自家醸造され、味噌や漬物のようにそれぞれの家庭の味を楽しむなど、お米を主食とする日本人の暮らしに密着した存在だった。

 

しかし明治の後半になって、国の政策により酒の自家醸造は全て禁止となった。家庭で自ら楽しむだけの目的でも、無許可でのどぶろく造りは未だに法律では許されていない。許可されているのは、伝統的な神事を行う幾つかの神社などに限られている。ちなみに、映画『君の名は。』で話題になった「口噛みの酒」*3もどぶろくの一種だ。こうした経緯もあって、どぶろくという名前は聞いたことがあっても、飲んだ経験がない人の方が今では圧倒的に多いだろう。

 

乳酸菌飲料のように飲みやすいため飲み過ぎには要注意

では実際にどぶろくとはどんな酒なのか。そもそもはアルコール発酵させた甘酒のようなものなので、見た目も甘酒とほとんど変わらない。香りは甘酸っぱい果実をイメージさせる華やかさがあり、原料を漉していないため、どろっとしたお米と麹を噛みながら味わうことになる。

味については、未発酵のお米に含まれるでんぷんや、でんぷんが分解した糖に由来する甘口のものが多く、適度な酸味があるのでヨーグルトや乳酸菌飲料を彷彿させる。そして火入れをしていないどぶろくは発酵が続くので、炭酸ガスがシュワシュワと口の中で心地良く弾ける。

口当たりが良いため女性にも飲みやすく、ついゴクゴクと飲んでしまいがちである。ただし度数は日本酒同様14〜17度にもなるため、ソーダやミルクで割るなどの工夫もしながら、適量の飲用を心がけることが必要だ。

 

美白、快眠、老化防止、肝機能保護など驚きの健康効果が

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以前NHKの「あさイチ」でも特集されたが、原料を漉さずに飲むどぶろくは、発酵過程で生まれた自然の有効成分が活性状態で摂取できるため、日本酒*4や酒粕*5とはまた一味違った様々な効能が期待できる。

主な有効成分としては、まず米麹由来のコウジ酸が挙げられる。シミ・ソバカスの原因となるメラニン色素の生成や、肌の黄ぐすみなど老化の原因となる後期糖化生成物(AGEs)を抑制する効果があり、1988年には美白成分として国から正式認定されている。

続いては清酒酵母である。2014年5月にライオン(株)が、清酒酵母に「睡眠の質を改善する効果があること」を発表している。また、アルコール性肝炎の治療やうつ病改善に役立つs-アデノシルメチオニンを多く作り出すことも判明している。

 

そして、特に注目したいのが必須アミノ酸である。どぶろくには人体で合成できない9種類の必須アミノ酸が全て含まれており、それぞれの効能は次の通りである。

・バリン、ロイシン、イソロシン(総称してBCAA):筋肉量維持、体脂肪抑制

・メチオニン:肝機能保護、老化防止

・フェニルアラニン:記憶力アップ

・トリプトファン:快眠

・ヒスチジン:疲労軽減

・スレオニン:肝機能強化、新陳代謝促進

・リジン:脂肪燃焼、育毛

他にも、皮膚を正常に保つ働きがあるビタミンB群が豊富に含まれるなど、侮れない美健効果が期待できそうだ。

 

米作と密着した庶民の生活文化の一つだったどぶろくは、今や時代遅れとなっている法律が依然壁となり、酒の中でもマイナーな存在として長年にわたり隅に追いやられてきた。しかし規制緩和を機に、どぶろくを町おこしの切り札にしようとの動きが続々と増えつつある。次回はその辺りの実状についてご紹介しよう。

 

*1:「醪」の記事はこちらをクリック

*2:「上槽」の記事はこちらをクリック

*3:「口噛みの酒」の記事はこちらをクリック

*4:「日本酒の美健効果」の記事はこちらをクリック

*5:「酒粕の美健効果」の記事はこちらをクリック

 

参考サイト:

Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/どぶろく

SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/knowledge/word/nigori_doburoku

ぐるなびWEBマガジン
http://r.gnavi.co.jp/sp/g-mag/entry/013220

どぶろくらぶ
https://doburoku.biz/doburoku-biyou/

【季節の行事レシピ】管理栄養士が教える「端午の節句に手作りできる簡単『ちまき』」

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街なかで鯉のぼりを見かけることが増えてきました。五月五日は国民の祝日『こどもの日』として定着しており、鯉のぼりを上げ柏餅やちまきを食べて男の子の成長を祝う日となっています。1948年に“子どもの人格を重んじ、子どもの幸福をはかると共に母に感謝する”ことを目的に『こどもの日』とされたようです。五月五日である端午の節句にはどのような意味が込められているのでしょうか。またなぜ柏餅やちまきを食べるようになったのでしょうか。これらの風習についてご紹介します。

 

端午の節句の由来

五節句の起源はいずれも、古代中国で邪気を祓う様々な儀式が行われていたことに由来しています。節句とは昔から、月と日に同じ奇数が二つ重なることでめでたくもあり注意が必要な忌み日とされていました。そのため、これらの日には神様をお迎えしてご馳走を供えおもてなしを欠かさず、禊(みそぎ)と祓いをすることになったと言われています。 

『端午の節句』は江戸幕府が定めた『五節句』の一つで、元来『菖蒲の節句』と言われていました。五月五日は、奈良時代や平安時代には新緑の時期に薬を取りに野山へ出かけ、その薬効で邪気を祓う節目の日だったそう。それが後に菖蒲と尚武(武道や武勇を尊ぶという意)の語呂合わせなどから、武家が重んじる行事に。江戸時代には男の子の成長や武運を願って鎧や太刀を贈り、川を上る鯉にちなんで立身出世を期して鯉のぼりが上げられるようになりました。鯉のぼりに五色の吹き流しを掲げるのは、川を上る間に龍に食べられないように、という魔よけの意味があるそうです。

端午とは『最初の午の日』という意味で本来は五月初めの午の日に行われていましたが、午と五の音が通じることから五月五日になったとの記述も。また五が重なることから『重五の節句』とも言われることがあるようです。

 

端午の節句に食べる柏餅とちまきの意味とは?

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端午の節句には柏餅やちまきを食べる風習があります。関東では柏餅、関西ではちまきを食べることが多いようです。また、鹿児島県では灰汁(あく)まきを食べます。

柏餅は上新粉で作った餡入りの餅を柏の葉で包んで蒸したもので、地方によって柏の葉の種類はさまざまです。柏の葉は古代から食器や調理する際に使われており、関東地方ではブナ科のものをが、関西では山帰来(さんきらい)の葉を使うところが多いようです。柏は「譲り葉」と呼ばれ、柏の古い葉は新芽が育つまで落葉しないことから、家系が絶えない縁起物として端午の節句にふさわしいものとされました。

ちまきは紀元前の中国(楚の国)で政治家だった屈原(くつげん)の命日である五月五日に、その霊を弔うために作られたという中国の故事に由来しています。人々は国王の逆鱗に触れて川へ身投げをした屈原の霊を弔うために川に供え物を投げましたが、龍がすべて食べてしまいました。そこで、龍が嫌いなセンダンの葉で餅を包み五色の糸で縛って川へ流したことがはじまりだそう。日本には平安時代に伝来し、邪気を払うものとして宮中で端午の儀式に使用されました。その後関西を中心に、保存食・携帯食として主食的な調理や菓子に発展。昔は茅(ちがや)の葉で餅やもち米を包み、三角や紡錘形に巻いてイ草でしばって蒸していたため「茅巻き」と呼ばれていました。今では熊笹の葉を使うことが多いようです。


◆豆腐入り!ヘルシーで簡単な『ちまき』の作り方

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<材料>
上新粉     80g
白玉粉     40g
砂糖      30g~50g
豆腐      100g
※砂糖は30gだと甘さひかえめです。お好みによりますが、40gくらいがオススメです

<作り方>
① 食品用のビニール袋に上新粉と白玉粉、・砂糖を入れて口をしっかり閉じて軽く振り混ぜ、その中に豆腐を加えてよく混ぜる

② まとまってきたら袋の上から20回ほどしっかり捏ねる

③ ②を5等分して円錐形になるように形を整える
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④ 鍋にたっぷりの水を入れて加熱し、沸騰したら③を入れて茹でる(浮かんできてからさらに1分くらい)
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⑤ 茹で終わったら粗熱が取れるまで冷水をはったボウルに入れる

⑥ キッチンペペーパーで水気をとり、1つ1つラップで包む

⑦ さらに緑色の包装紙・折り紙やセロハンなどで包んだら完成

※豆腐や粉の種類によってかたさが変わります。耳たぶくらいのかたさになるように、かたければ豆腐を、柔らかければ粉を加えて調節してください

端午の節句、せっかくだから手作りしたいという方に簡単に作っていただけるちまきです。本当は笹の葉で包んだ方が香りもして美味しさも増すのですが、笹の葉が手に入らない時もあると思いますので、より手軽に作っていただけるレシピにしました。捏ねたり、形を作る工程、また包装紙でのラッピングはお子様と一緒にすることもできますよ。ゴールデンウィーク中のこどもの日、子どもたちの健やかな成長を願って是非手作りしてみませんか。


参考文献
『親子で楽しむものしりBOOK 食で知ろう 季節の行事』/高橋司/長崎出版株式会社/2008年
『年中行事・記念日から引ける 子どもに伝えたい食育歳時記』/新藤由喜子/株式会社きょうせい/2008年
『暮らしのならわし十二か月』/白井明大/株式会社 飛鳥新社/2014年
『和のくらし・旧暦入門』/洋泉社

文:カベルネmama
管理栄養士、食生活アドバイザー2級の資格を保持。保育園で献立作成や食育を担当していた経験を持つ。現在は幼い3人の息子の育児をしながらレシピ記事作成を行う。料理を作ること・食べることが大好き。子どもたちのため、栄養たっぷりで簡単に作れ、喜んで食べてくれるものを考案する日々を送る。

 

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芳醇なお米の雫が滴るとき。清酒誕生の瞬間=上槽(搾り)について

仕込みが終わって醪(もろみ)が完成すると、残すは醪を搾る工程のみである。日本酒業界では、この作業を上槽(じょうそう)と言う。元々は船の形に似た槽(ふね)という道具を用いて酒を搾っていたことから、そう呼ばれるようになった。醸造中の酒は生き物であり、同じ醪でも搾り方一つで味わいは微妙に変わる。一筋縄では行かない深遠な世界が、そこには潜んでいる。

 

醪は搾られた瞬間に初めて法的に日本酒となれる

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上槽(搾り)とは、お粥状にでき上がった醪を、液体(酒)と固体(酒粕)に分ける作業のことである。日本の酒税法では、醪を搾らなければ日本酒と名乗ることはできない。

洗米工程からここまでたどり着くのに約6週間。最終的にどのタイミングで上槽を行うかは、醪の状態や成分の検査などを十分行った後に杜氏が決断する。

 

方法は、一般的には大きく次の3つに分けられる。

一つ目は、自動圧搾ろ過機を使った搾り。アコーディオンのような蛇腹状の圧搾機の中に醪を流し込み、両側から空気圧を加えて酒を搾る。開発したメーカー名(薮田産業)にちなんで通称“ヤブタ”と呼ばれることが多く、全国の酒蔵で最も一般的な方法である。搾る時間が短いので酒が酸化しない上、しっかり搾れるという利点はあるが、醪に強い圧力をかけるため大吟醸などデリケートな酒には不向きだ。

 

大吟醸には、醪にストレスをかけない昔ながらの槽搾りを

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二つ目は、昔ながらの「槽搾り」。目の粗い布製の酒袋に醪を詰め、槽の中に重ね並べて醪自身の重みだけで搾った後、最後に上から圧力をかけて酒を搾る。搾る時間が長くなるため酒を酸化させないよう注意が必要だが、醪にストレスをかけないため雑味のない上品な酒質が得られる。そのため多くの酒蔵が大吟醸については槽で搾っている。

なお槽搾りでは、最初に自重だけで搾られた淡く濁ったフレッシュな酒は「あらばしり」、中頃の酒質が安定した透明な酒は「中取り(中汲み)」、最後に圧力をかけて搾った度数の高い酒は「責め」と呼ばれている。中でも澄んだ味わいと落ち着いた香りを持つ中取りは、日本酒の一番良い部分として珍重されており、中取りだけを瓶詰めし限定販売している地酒蔵も少なくない。

 

鑑評会用には自然の重力だけで滴り落ちる珠玉の雫を出品

三つ目は、最も繊細で贅沢な「雫搾り」(または「雫取り」「袋吊り」)。主に鑑評会出品酒のために用いられる方法である。酒袋に醪を詰めてタンクの中に吊るし、自然の重力だけで滴り落ちる「雫」の部分だけを斗瓶(10升の瓶)で採取する。搾るというより、ポタポタと染み出てくるのを待つイメージだ。

雫搾りをすると酒として必要な成分だけが抽出され、雑味が一切出てこないため、大吟醸クラスの酒が本来備えたポテンシャルが存分に引き出される。但し量がほとんど取れずコストがかかるため、鑑評会出品酒やギフト仕様のような限られた用途だけに用いられている。

 

遠心分離機を使った最新の上槽システムも登場

酒の搾り方で通常取り上げるのはこの3つだが、最後にあと一つ、近年注目の新技術をご紹介しよう。遠心力を利用した「吟醸もろみ上槽システム」である。

具体的には醪を遠心分離機のタンクに入れ、冷却しながら高速回転させることで酒と酒粕を分離する。こうして搾られた酒は、冷却された密閉空間で醪を分離するため高い吟醸香が残り、雫搾りと遜色のない香味の酒質をより少ない労力で得ることができる。洗浄の容易なステンレス製機器を使用するため,衛生管理さえ徹底すれば特別なノウハウがなくても酒質を劣化させる恐れもない。

最大の欠点は、一台約2千万円以上と高額なこと。それでも山口の『獺祭』をはじめ、新潟の『北雪』、宮城の『勝山』、栃木の『開華』、広島の『一代弥山』など、全国で10を超える酒蔵がこの最新技術を使った上槽を取り入れている。

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搾り方にまで目配りする人は少ないかも知れないが、地酒に注力している酒販店の冷蔵庫を覗いてみると、「中取り」「斗瓶囲い」「雫取り」などの札が貼られた特別な大吟醸にお目にかかれる。少々値は張るものの、数千円で購入できるので高級ワインよりは格段にお手頃だ。ふだん口にする日本酒とは異次元の豊穣な世界が広がるので、ぜひ一度お試しいただければと思う。

 

参考サイト:

KURAND

https://kurand.jp/14454/

株式会社南部美人
https://www.nanbubijin.co.jp/kodawari/shibori/

SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_tobindori

日本酒のすすめ
http://日本酒.biz/category15/entry126.html

遠心分離方式による新しい上槽システムの 開発と普及
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/109/8/109_550/_pdf/-char/ja

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