酒造工程のクライマックス。醪(もろみ)造りと三段仕込み

酒造工程のキモである「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」のうち、製麴酛造り(酒母造り)については既にご紹介した。今回は、総仕上げとも言える「造り」(以下「仕込み」)について取り上げよう。お米が酒に変わるプロセスは、ここでいよいよクライマックスを迎えることになる。

 

雑菌の繁殖を防ぐ先人の知恵=三段仕込み

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仕込みとは醪(もろみ)を造る工程のことであり、醪とは日本酒になる直前の、酒母、麹、蒸米が一体となって発酵した白い液体のことを指す。用いる原材料は、掛米(蒸米)、水、麹、酒母の4つ。手順は、仕込み用タンクに入れた酒母の中に、4日間かけて原材料を3回に分けて投入する「三段仕込み」が一般的だ。では、なぜわざわざ三段階に分けて仕込むという手間をかけるのか?

醪は開放状態のタンクで発酵させるため、常に空気中の雑菌等に汚染されるリスクにさらされている。そのような環境の下、大量の水・麹・掛米を1回でタンクに投入すると、醪の中の乳酸や酵母の密度が薄まって雑菌が繁殖してしまう。そこで3回に分けて材料を投入することにより、酸が一気に薄まってしまうのを避け、酵母の繁殖を確実に促しながら安全に醪が発酵する環境を整えているのだ。

 

仕込み工程で一番大切な「踊り」とは?

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三段仕込みにおいては、酒母の中へ掛米、麹、水を投入する初日の工程は「初添(はつぞえ)」、中1日置いてから行う3日目の工程は「仲添(なかぞえ)」、続く4日目の最終工程は「留添(とめぞえ)」と呼ばれている。

初添と仲添の間で中1日置く理由は何か? 醪の中の酵母にとっては、たとえ少量でも掛米と麹と水が投入されたことによって、生育環境は大きく変化したことになる。そこで仕込みを1日休んで、酵母を新しい環境になじませてやる必要があるのだ。

あえて何もしないこの日の工程は「踊り」と呼ばれている。階段の踊り場のようなニュアンスであるが、実は仕込みの中で最も重要とされている。こうして醪を丸1日踊らせている間に酵母は着実に増殖し、醪の表面にはフツフツと筋状の泡が出始めて、一歩ずつおいしい酒へと近づいていくのである。

 

お米の糖化とアルコール発酵が同時に進行

「踊り」が済むと仕込みの再開である。第2段階の仲添では初添の2倍量の掛米、麹、水を投入し、最終段階の留添では仲添の2倍量の掛米、麹、水を投入する。この間には原料の投入や酵母の増殖、アルコール発酵、及び醪の液状化等による温度変化がひっきりなしに起きるため、外気温や酒米の特徴、麹の出来などを考慮しながら仕込みの温度を微調整していく必要がある。この辺りはまさに杜氏の腕の見せ所と言えるだろう。

こうして4日間をかけた三段仕込みが終わると、あとは低温状態をキープしながら約3〜4週間かけて慎重に発酵状態を管理し、醪が完成するのを待つことになる。

この間タンク内の醪の中では、麹の酵素による蒸米の糖化と、酵母によるアルコール発酵が同時に行われている(並行複発酵)。この日本酒独自の発酵技術のおかげもあって、発酵終了時点での醪のアルコール分は20%にまで達するが、これは醸造酒としては稀に見る高い度数である。なお酒税法上では、出来上がった醪を濾せば「清酒(濁り酒を含む)」になり、そのまま製品化すれば「どぶろく」になる。その辺りについてはまた別の機会に掘り下げたい。

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室町時代に書かれた日本最古の酒造技術書『御酒之日記(ごしゅのにっき)』には、三段仕込みの原点となる醪造りの技法をはじめ、乳酸菌発酵、加熱殺菌についても細かく記されているというから驚きである。

酒造りの世界で受け継がれてきた先人の知恵の数々は、まさに日本が世界に誇れる技術遺産と言っても過言ではない。

 

参考サイト:

KURAND

https://kurand.jp/blog/danjikomi/

Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/段仕込み
https://ja.wikipedia.org/wiki/御酒之日記

SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_3shikomi
https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_g_danjikomi

八海山
http://www.hakkaisan.co.jp/syoko/sakagura/kodawari/kodawari12

日本酒「楯野川」
http://www.tatenokawa.jp/ja/sake/brand/toranomaki/07.html

食楽web「もろみ造り」=仕込みとは?【前編】

https://www.syokuraku-web.com/column/6878/

【季節の行事レシピ】管理栄養士が教える「お祝いに欠かせない『お赤飯』」

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桜の季節は卒園や卒業、入学などのお祝い事が増えるシーズン。お赤飯を囲んで家族でお祝いする、というご家庭も少なくないと思います。卒・入学式をはじめ、お食い初めや節句、結婚式などの人生の節目に欠かせないお赤飯。なぜ日本人はお祝いの時にお赤飯を食べるようになったのでしょうか。ハレの日に欠かせないお赤飯ですが、その歴史と伝統の継承を目的として11月23日*の勤労感謝の日が『お赤飯の日』と制定されているようです。

*皇極天皇の時代から、11月23日(新嘗祭)にお赤飯の起源と言われている赤米などの五穀を奉納してきました。現代でも全国各地で、11月23日に五穀を祭る伝統が継承されています。

 

縁起がいいお赤飯の歴史

お赤飯は本来、赤米を蒸したものだったようです。日本では古くから赤い色には邪気を祓う力があると信じられており、おめでたい色とされていました。さらにお米が高級な食べ物であったことから、赤米を炊いて神様に供えるという風習があったようです。赤米とは、縄文時代に日本に伝わってきたお米で、炊きあがるとお赤飯のような色になります。一般庶民の多くは江戸時代の前くらいまで赤米を食べていましたが、稲作技術の発展による品種改良により現在のお米へと変化。しかし、赤い色のご飯を神様に供える習慣は根強く残ったため、白いお米に小豆などで色付けしたものがお赤飯として広まったと考えられています。

おこわの一種であるお赤飯ですが、ハレの日の食べ物という意味もあります。その際南天が添えられるのは、『難を転じて福』という『難転』の語呂合わせからだけでなく、南天は縁起の良い木と言われている点、さらに南天の葉は防腐作用や解毒作用などもあり喘息や強壮薬にも使われているなど、先人の経験と知恵によって習慣化されたものだと考えられています。


地域が変われば素材も変わる、ご当地のお赤飯

現在ではもち米と小豆で作るのが一般的ですが、地域によってさまざまです。北海道では元々小豆を使った赤飯が一般的でしたが、食紅や甘納豆を用いて作るように変化していきました。開発者である『光塩学園女子短期大学』の初代学長によると、「忙しくても子どもたちに美味しいものを食べさせたい」という思いで作られたそう。手軽に作れ、子どもたちが喜ぶ赤飯として『甘納豆赤飯』は北海道内で一気に普及しました。

その他、鹿児島県奄美大島ではハーヤーマンという赤紫色の山芋とうるち米で炊くお赤飯があり、新潟県では『醤油赤飯』と呼ばれる醤油おこわもあります。また、関東では腹切れ(種皮が破れること)をしないことが武士の間で好まれたことから、今でもお赤飯には小豆ではなくささげを使った『ささげ赤飯』が食べられています。

 

小豆は高タンパク低脂質な健康食品

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お赤飯は特別なお祝いの日に作られ、『赤飯』・『強飯(こわめし)』・『おこわ』などと呼ばれてきました。もち米に小豆やささげを入れて蒸し上げる『蒸しおこわ』が一般的ですが、もち米にうるち米を混ぜて小豆などと一緒に炊き上げる『炊きおこわ』もあります。

小豆は乾燥豆の重量の約半分が炭水化物、タンパク質は約20%含んでいるのに対し脂質は約2%程度。『高タンパク低脂質』な小豆は健康食品としても注目されており、ダイエットにも効果的だと言われています。お米に不足している必須アミノ酸のリジンとスレオニンを小豆が補ってくれるためアミノ酸バランスがよく、タンパク質の栄養価が高くなります。


◆炊飯器でつくる『お赤飯』
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<材料> 4合分
もち米       3合
うるち米      1合
小豆        100g(60g~100g程度)
塩         小さじ1
ごま塩       少々


<作り方>
① もち米とうるち米を一緒に研ぎ、ザルにあげて30分くらい置いておく

② 小豆は洗って鍋に入れ、少なめの水(ひたひたよりも少し多いくらい)を加えて加熱する

③ ②が沸騰したら火を止めてザルにあげてゆで汁を捨てる

④ ③に再び水(800ml)を入れて小豆を固めにゆでる
(指でギュッとつまんでつぶれるくらい、30分くらいが目安)

⑤ ④をザルにあげ、ゆで汁を下記写真のようにしておたまですくい、上の方から何度か落として空気に触れさせる(空気に触れさせることでより濃い色になります)
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⑥ 炊飯器にお米と⑤のゆで汁をおこわの目盛りまで入れて30分程浸水させる
(おこわの目盛りがない場合は通常のごはんの目盛りよりも少しすくなめの水加減に)
  ※ゆで汁が足りない時は水を足してください

⑦ ⑥に塩を入れて軽く混ぜ、小豆を入れて炊飯する

⑧ 炊きあがったら混ぜて器に盛り、ごま塩をかけて完成

蒸し器で作る蒸しお赤飯ももちろんおいしいですが、手軽さを重視したい時は炊飯器が◎。少しうるち米を入れることで冷めてもかたくなりにくいだけでなく、小さいお子さまも食べやすくなります。お赤飯が残った場合は冷蔵庫にいれるのではなく、ラップや保存容器に入れて冷凍しましょう。卒・入学シーズン、手軽にできるお赤飯を作って家族そろってお祝いしてみてはいかがでしょうか。

参考文献:
『親子で楽しむものしりBOOK 食で知ろう 季節の行事』/高橋司/長崎出版株式会社/2008年
『年中行事・記念日から引ける 子どもに伝えたい食育歳時記』/新藤由喜子/株式会社きょうせい/2008年
参考サイト:
公益財団法人 日本豆類協会 https://www.mame.or.jp/
赤飯文化啓発協会|お赤飯の歴史 http://www.osekihan.jp/history.html
北海道Likers http://www.hokkaidolikers.com/articles/2102
光塩学園調理製菓専門学校 https://chouri.koen.ac.jp/blog/2018/08/post-724.html

文:カベルネmama
管理栄養士、食生活アドバイザー2級の資格を保持。保育園で献立作成や食育を担当していた経験を持つ。現在は幼い3人の息子の育児をしながらレシピ記事作成を行う。料理を作ること・食べることが大好き。子どもたちのため、栄養たっぷりで簡単に作れ、喜んで食べてくれるものを考案する日々を送る。

 

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【季節の行事レシピ】管理栄養士が教える「春彼岸に欠かせない炊飯器で作る簡単『ぼたもち』」

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春分の日。それは春に太陽がちょうど真東から上り真西に沈む日であり、昼と夜の長さがほとんど同じ一日のことで、この日から少しずつ昼の時間の方が長くなります。日本では古くから太陽信仰があったため、この日は特別な日として神に『かいもち』を捧げていました。日本に仏教が伝来されてから、この日を中日として前後三日ずつの合わせて七日間を『春の彼岸』と言うように。1948年から春分の日(例年3月20日〜21日頃の1日)は、『自然をたたえ、生物をいつくしむ』という趣旨の国民の休日となっています。

 

仏教行事を起源としたお彼岸の風習と『ぼたもち』の由来

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仏教で『彼岸』とは、現世に対しての一切の悩みを捨て去って悟りの境地に達することを言います。また、仏様やご先祖が住む極楽浄土は西の方角にあるとわれており、春分や秋分の日前後三日を加えた七日間は極楽浄土が近くなる時期だと考えられていました。そのためこの時期にご先祖の墓参りをし、ご先祖の魂を供養する『彼岸』の仏教行事になったと言われています。お彼岸の初日を『彼岸の入り』、最終日を『彼岸明け』と言います。このならわしは仏教行事ですがインドや中国では見られない日本固有の慣習です。

 

また、お彼岸にはぼたもちを作り、仏前にお供えしてご先祖の霊を供養する風習があります。ぼたもちの名前の由来は諸説あり、サンスクリット語の「bhukta」やパーリー語の「bhutta」などの「飯」を意味する言葉から『ぼた』となり、「mridn’ mudu」などのやわらかい意味の言葉から『もち』となり『ぼたもち』となった。また小豆を花に見立てて春に咲く牡丹から名前がつけられた、などさまざまな説があります。

 

さらに、ぼたもちの他に『おはぎ』と呼ばれることもあります。前述したように春彼岸は春に咲く牡丹から『牡丹餅』と呼ばれますが、秋彼岸は秋に咲く萩から『お萩』と呼ばれるようになったという説。はたまた、もち米で作ったものを『ぼたもち』、うるち米で作ったものを『おはぎ』と呼んだり、こしあんをつけたものを『ぼたもち』、つぶあんをつけたものを『おはぎ』と呼ぶなど、呼び名もさまざまです。ぼたもちについての名前や呼び名の由来は諸説ありますが、基本的にはおもちを小豆あんでくるんだもののことを指します。

 

神聖な食材であるもち米・小豆をつかい、栄養も豊富!

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おもちは古くから神事に使われる神聖な食材であり、神や精霊が宿ると信じられてきました。そのためおもちは、特にハレの日の食べ物でした。また、小豆の持っている赤い色は邪気を払うとされており、それを仏壇やお墓に供えることが本来意味するもので、私たちはそのお下がりをいただいているのです。

小豆はタンパク質の原料でもあるアミノ酸が豊富に含まれている上、アミノ酸組成が優れているためタンパク質を効率よく摂取することができます。小豆はその他にもビタミンB1、ビタミンB2、不溶性食物繊維を多く含んでいます。ぼたもちは神聖で栄養豊富な上、食べ物が大変貴重であった時代には特に腹もちもよいスーパーフードだったのです。

 

◆炊飯器で作る『ぼたもち』

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<材料>  10個分

もち米       1合

うるち米      1合

砂糖        大さじ2

水          350ml

小豆あん      500g

 

<作り方>

① もち米とうるち米を研いだ後水をよくきっておく

② ①を炊飯器に入れ、水と砂糖を加えて通常モードで炊飯する(通常のごはんの水深メモリよりも少し少なめにします)

③ ごはんが炊きあがったらボウルに移し、熱いうちにすりこぎなどでついてつぶす

④ ③を10等分し、1つずつ丸めておく

⑤ 小豆あんを10等分し、1つをラップに広げその真ん中に④をのせてくるみ形を整えて完成

 

ぼたもちは本来もち米100%で作りますが、うるち米を加えることで時間が経ってもかたくなりにくいぼたもちになります。ぼたもちを作るのは少し面倒だと思っていた方もいらっしゃると思いますが、炊飯器で炊くことでとても簡単に出来上がります。

小豆あんは市販のものでもよいですし、あんこから手作りするのも◎。また小豆以外にもきな粉やごまをまぶして食べるのも美味しいですね。甘さなどを自分好みにできることが手作りの最大のメリットです。今年のお彼岸は炊飯器でできる簡単なぼたもちを作ってみませんか。

 

参考文献:

『年中行事・記念日から引ける 子どもに伝えたい食育歳時記』ぎょうせい/新藤由喜子/著(2008年)

『暮らしならわし十二か月』飛鳥新社/白井明大著(2014年)

『親子で楽しむものしりbook 食で知ろう 季節の行事』/長崎出版/高橋司著(2008年)

 

文:カベルネmama

管理栄養士、食生活アドバイザー2級の資格を保持。保育園で献立作成や食育を担当していた経験を持つ。現在は幼い3人の息子の育児をしながらレシピ記事作成を行う。料理を作ること・食べることが大好き。子どもたちのため、栄養たっぷりで簡単に作れ、喜んで食べてくれるものを考案する日々を送る。

 

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麹と水とお米が生み出す自然界の神秘。酒母(酛)造りの工程について

酒造家の間では、古来「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」が合言葉となっており、この三つの工程が酒造りのキモとなっている。「一麹」=麹造りについては既に触れた(→コチラを参照)ので、今回は「二酛」=酒母造りについてご紹介しよう。固体だったお米はこの酒母造りの工程を経て、一気に酒へと形を変えていくことになる。

 

甘酒に酵母を加えて発酵させると「酒の母」になる?!

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酛はその字の通り酒(酉)のもと(元)であり、酒を生み出す母=「酒母」とも呼ばれている。では酒母(酛)とはいったい何か。ごくシンプルに言えば「麹+水+蒸米」に少量の酵母を加えたものであり、酒母造りはこの酵母を大量に増やすために行われる。

 

酒造りで扱う大量のお米をアルコール発酵させるには何百億、何千億もの酵母が必要となるため、麹と水と蒸米を混ぜ合わせて糖分を生成させ、その糖分をエサに酵母を大量に増やしてアルコール発酵を促すのである。ここでピンと来た人もいるだろうが、「麹と水と蒸米を混ぜ合わせて」できる液体と言えば、甘酒である。つまり、甘酒に酵母を加えて発酵させたものが日本酒の酒母だ、と考えれば分かりやすいかも知れない(厳密には少々異なるが…)。

 

酒造りに必要な酵母を守り雑菌を退治する乳酸のパワー

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酒母造りの手順は、①タンク(桶)に麹と水を入れ、かき混ぜて糖化させ、②「乳酸、または乳酸菌」を添加し、③少量の酵母を加え、④蒸米を入れる。ここから2〜4週間待てば、タンクの中で酵母が大量に増えて酒母が完成する。

 

では、②でわざわざ「乳酸、または乳酸菌」を添加するのはなぜか。酒母は開放型のタンクで発酵するため雑菌が侵入しやすいが、幸い酵母は酸には強いので、乳酸の力で雑菌を退治して酵母だけを増やしたいからである。そして、乳酸と乳酸菌のどちらの力を利用するかによって、酒母の種類は次の二つに分類される。前者を利用するのが、1910年に国立醸造試験所によって開発された「速醸系酒母」であり、後者を利用するのが、江戸時代から受け継がれた「生酛(きもと)系酒母」である。

 

今日の主流「速醸系」vs江戸時代からの伝統の技「生酛系」

速醸系酒母は手順②の段階で、液体の乳酸をタンクに直接添加する方法によって造られる。酒母ができるまでの期間は約2週間と短い上、品質管理がしやすく酒質も安定するため、現在造られている日本酒の9割以上は速醸系である。できあがる酒も、万人に好まれるスッキリとした淡麗な味わいになりやすい。

一方の生酛系酒母は、蔵に生息する空気中の乳酸菌を取り込む方法によって造られる。取り込んだ乳酸菌が乳酸を作り雑菌を退治してくれるのだが、自然の力で酵母を増やすため酒母ができるまで1ヶ月以上もかかる。また、様々な微生物が存在する中で上手に乳酸菌をコントロールし、安定した酒質に仕上げるには、細やかな温度調節・管理などの高度な技が欠かせない。ただ、多くの微生物が関与し、乳酸菌が乳酸を作る際に様々な成分も同時に生成するため、できあがる酒は濃醇かつ複雑な味わいになりやすく、生酛系ならではの力強さと旨味の深さに惹かれるファンも多い。

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今回は酒の母なる「酛」が誕生していくプロセスをご紹介したが、このように自然界のチカラを利用して乳酸菌を育て、じゃまな雑菌を淘汰しつつ酵母を培養するという方法は世界に類がない。科学知識などなかった江戸時代から、匠の技を駆使して目に見えない微生物を操っていたことは驚きであると同時に、ある意味神秘的とも言えるだろう。酒造りにおいても、やはり日本の「母」は強し、である。

 

参考サイト・文献:

おさけと-osaketo!-

http://www.osaketo.jp/blog/about-syubo/

日本酒 酵母(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%85%92#%E9%85%B5%E6%AF%8D

岩国の清酒 五橋
http://www.gokyo-sake.co.jp/tayori/57.html

唎酒師への道(21)ー 酒母(酛)造り その② 二種類の酒母ー (日本酒基礎講座)
http://sakemove.com/2017/07/17/shubo2/

甘酒ができるまで(中埜酒造株式会社)
https://www.nakanoshuzou.jp/amazake/process/

【おばあちゃんちの常備菜】低カロリーで繊維質たっぷりのヘルシーおかず・きのこのつくだ煮

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世界的にも知名度が高い松茸をはじめ、しいたけ、しめじなど、きのこは日本の食文化に欠かせない存在です。日本で天然きのこがよく発生するのは9月~12月なので、きのこ=秋の味覚といわれることが多いのですが、実はしいたけのように秋と春に旬をむかえるものもあります。また、栽培きのこは季節を問わず流通し、手に入りやすいのが特徴です。香りとうま味があり、繊維質やミネラルなど健康に役に立つ成分も多く含むきのこを使って常備菜を作ってみませんか。

 

いろいろきのこのあっさりつくだ煮を作ってみよう

生のきのこは保存性が良くないため、できるだけ早く使い切りたい食品です。安価な時につい多めに買ってしまったり、鍋物用に買いそろえたきのこが残ってしまったー、そんな時にぜひ作ってほしいのがこのつくだ煮です。火入れして味付けておくことで日持ちがよくなり、冷凍もしやすくなるほか、さまざまな味わい方ができますよ。

 

また慣れていないと毒きのことの判別が難しく、採取に危険も伴う天然きのこですが、やはり風味は格別。天然きのこが手に入ったけれど食べきれない・食べ方がわからないという時にもつくだ煮はおすすめです。

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傘が欠けてしまったり、部分的にしなびてしまったものもつくだ煮にすれば気になりません。また、しいたけの軸やエノキタケの根元に近い部分も捨ててしまわずつくだ煮にしておいしく味わいましょう。

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<材料>
きのこ  
濃縮つゆ、白だしなど(しょうゆ、みりん、酒でも)
刻み昆布、唐辛子、実山椒など…好みで

目安となる分量
きのこ200gに対して
・3倍濃縮つゆ(めんつゆ)…大さじ1
・水…大さじ2(うち大さじ1を酒に代えてもOK)

 ▶︎濃縮つゆを使わない場合は、
  醤油…大さじ2
  みりん…大さじ1
  水…大さじ4(うち大さじ1を酒に代えてもOK)

*きのこはどんな種類でも使えます。数種類取り合わせると奥深いうま味と多彩な食感が楽しめますが、1種類のみで作っても、また、水戻しした干ししいたけを加えてもOKです。

<作り方>
①きのこの汚れをおとし、石突きや根元の部分を取り除く。
天然きのこは虫がはいっていることもあるので下処理が必要だが、栽培きのこの場合は土やおがくずで汚れているもの以外は基本洗わなくてもよい。ただし、なめこなど表面のぬめりが強いきのこはそのまま使うより軽く洗った方が味がすっきりする。洗う場合は調理する直前に軽く水洗いを。

②きのこを食べやすい大きさにする。
包丁で切る方が見た目はそろうが、手で裂くと独特の食感も楽しめる。

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③焦げ付き防止加工したフライパンか鍋にきのこをいれ、中火で加熱する。
刻み昆布を加える時はここで。
teicalorie5しばらく加熱していると水がでてくるので、焦がさないように混ぜながら水分を飛ばす。このひと手間できのこの味が濃縮され、調味料の味染みも良くなる。

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④きのこの水分がほぼなくなったら、濃縮つゆを少しずつ加えて混ぜ、好みの味に整える。
唐辛子や実山椒を加える場合はここで。
*市販のつゆを使わない場合は、酒→みりん→醤油の順で加えていく。

teicalorie7とろみがつくとより焦げやすくなるため、注意しながら煮詰め、鍋底に汁が残らなくなれば完成。
保存は冷蔵または冷凍で。冷凍する場合は、一回に使う分ずつラップで包んでおくと便利。

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きのこのつくだ煮の楽しみ方

きのこのつくだ煮は炊きたての白ごはんによく合うおかずとしてはもちろん、雑炊やチャーハン、おにぎりの具として、また、きのこ丼、炊き込みごはん、混ぜごはん、ちらし寿司を作る時にも重宝するお役立ち常備菜です。油との相性も良いので、炊き込みごはんに使うなら刻んだ油揚げを一緒に加え、混ぜごはんにする時には上質の植物油を少し加えると、ごはんに艶がでて味わいも深まるでしょう。

松茸などの天然キノコは手がでなくても、栽培きのこなら一年中価格が安定しているので使いやすいのも魅力。使い残したきのこやしいたけの軸はそのまま冷凍しておき、ある程度量がたまったらつくだ煮にするというのもおすすめです。

今回の記事では、きのこの色合いがわかる程度の味付けにしていますが、味の濃さもお好みで作ってみてください。

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文:松本葉子
食と旅を専門とするフリーランスライター。全国の飲食店のほか、農家、牧場、漁協など生産現場での取材を元にした記事を雑誌、webなどで執筆。自身の料理スキルを生かした記事執筆や食品企業へのレシピ提供も行う。

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