1℃単位の温度管理がカギ。酒造りで最も重要かつ過酷な「麹造り」について

 

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ワインは、一言で言えば「ぶどうを発酵させて造るお酒」である。では日本酒はどうか?  同じように「お米を発酵させて造るお酒でしょ」と言いたいところだが、そう簡単に片付けるわけにはいかない。なぜなら、お米はぶどうと違って糖分を含まないため、自力ではアルコール発酵できないからだ。お米が酒になるためには、まず糖分に変わらなければならない。そして、そのための原動力となるのが、今回スポットを当てる麹造りである。

 

麹がお米をお酒に変え、旨みとコクと香りを引き出す

麹造りとは、蒸したお米にカビの一種である黄麹菌の胞子を植え付け、麹菌を繁殖させる工程のことである。でき上がった麹はお米のでんぷん質の糖化を促すだけでなく、日本酒の旨みとコクを引き出したり、香りの成分を生み出す役割を果たすため、質の良い麹が造れるかどうかは酒の仕上がりを大きく左右する。

酒造家の間では、古来「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」という格言が口伝えされており、そのことが麹造りの重要性を雄弁に物語っている。麹造りの作業は業界用語で「製麴(せいきく)」と呼ばれ、厳密に温度管理された麹室(こうじむろ)という密室の中で行われる。麹菌は昼夜構わず繁殖するため、蔵人たちは温度、水分、菌の繁殖具合などをこまめに確認しなければならず、寝る間を惜しんでの作業が丸二日以上も続くのである。

 

蒸し暑い麹室で、丸二日以上にわたって行われる麹造りの全工程

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今日では温度管理などを自動制御してくれる製麴機が普及しているため、蔵人の作業負担はかなり軽くはなっているが、それでも吟醸クラス以上の酒造りについては、昔ながらの手作業にこだわる蔵元も少なくない。ここでは伝統的な製麴(蓋麹法)についてご紹介することにしよう。工程は全部で9つに分かれている。

① 引き込み
35℃前後まで冷却した蒸米を麹室に運び入れ、全体の温度が均一になるよう床(布を敷いた大型の作業台)の上に積み上げて布をかぶせる。

② 種切り
2~3時間後には蒸米の温度と水分が均一になるため、床に広げ黄麹菌の種菌を植え付ける作業に取り掛かる。底が網になった種菌入りの缶容器を持ち上げてカラカラと振ると、緑色の胞子が薄いモヤのようになり蒸米の上に舞い下りる。一通り振りかけたら蒸米を裏返し、さらに振りかける。

③ 床もみ
振りかけた胞子がまんべんなく付着するよう、力を込めて蒸米を丹念に揉み込んで混ぜ合わせる。ひとしきり作業が終われば、麹菌が付着した米(以後「麹米」と呼ぶ)を積み上げ、保温用の布をかぶせてしばらく放置する。

④ 切り返し
約10時間経つと麹米の表面が乾燥し、互いがくっついて塊になるため、手で揉みほぐして温度と水分量を均一にする。この切り返し作業によって麹米に酸素が行きわたり、麹菌の繁殖が促される。切り返し後は再度積み上げて布をかぶせ、さらなる繁殖を待つ。

⑤ 盛り
切り返してから半日程経つと白い斑点状に麹菌が繁殖し、麹米が自力で発熱して33℃位まで温度が上がる。この先は1℃単位での温度管理が必要になるため、一定量ずつ小箱に盛り分け積み重ねる。この小箱が麹蓋で、この作業を「盛り」という。

⑥ 積み替え
盛りから約3時間程経つと再び麹米の温度が上昇するため、適切な温度が保てるよう、上下に麹蓋を積み替えながら細かく調節・管理する。

⑦ 仲仕事
積み替えてから3時間程経つと麹米の温度が35℃位まで上昇し、なおかつ塊になっているため、手で揉みほぐして温度を下げる。下がったら麹米を6〜7cmの厚さに広げる。

⑧ 仕舞仕事
仲仕事から6〜7時間程経つと、37〜39℃位まで麹米の温度が上昇するため、再び手で麹米を撹拌して温度を1〜2℃下げる。その後麹米を広げて表面積を大きくし、温度の上昇を防ぎながら水分の蒸発を促し乾燥させる。

⑨ 出麹
仕舞仕事の後、その後の用途に応じて麹米を約8〜12時間後に麹室から出して冷ませば、麹の完成である。でき上がった麹米からは、栗のようなほのかに甘い香りが漂っている。

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30℃前後の蒸し暑い麹室の中、大量の蒸米を力を込めて混ぜ合わせる作業はかなりの重労働だ。そして麹造りが行われている間、蔵人は何度も麹の状態を確認し、細かな温度管理を行う必要があるため、まとまった睡眠が取れない。

酒造工程の中で最も重要度が高く、最も熟練を要し、かつ最も過酷な作業。それが麹造りなのである。


参考サイト:
KURAND https://kurand.jp/25572/
おいしい日本酒・酒蔵紀行 http://sakekiko.com/製造工程-2/製造工程(製麹編①)/
日本酒のでき方 http://www.msb.co.jp/sake_manual3/
日本酒のすすめ http://日本酒.biz/category15/entry122.html

 

【全国のごはんのおとも】鹿児島県いちき串木野市の高校生が作る「ちりめんみそ」


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“ちりめん味噌”とは、ちりめんじゃこ(しらす干し)と味噌を合わせたいわゆる“おかず味噌”の一種。ちりめんじゃこのうま味と味噌のコクを融合させた独特のおいしさが魅力で、しらすが水揚げされる土地では製品として販売されているほか、家庭料理として作られることも多い。

その中でも今回は、鹿児島県いちき串木野市にある鹿児島県立市来農芸高等学校で作られている「ちりめんみそ」を中心に紹介したい。

 

鹿児島の旨いおかず味噌は豚味噌だけではなかった

鹿児島県には豚肉を使った郷土料理が多くあり、そのひとつが豚味噌だ。鹿児島ならではのおかず味噌というと、多くの人が思い浮かべるのは特産の麦味噌と豚肉で作るこの豚味噌だろう。しかし、今回紹介する「ちりめんみそ」も、鹿児島のおかず味噌として忘れてはいけない逸品なのである。

鹿児島県のいちき串木野市はマグロで有名だが、実はしらす漁も盛んで上質のしらすが水揚げされる。しらす漁のシーズンになると、地元では生しらすも出回り、季節の味として親しまれているとのこと。しらすを加工したちりめんじゃこも味が良いことで知られ、いちき串木野の特産品としてふるさと納税の返礼品にも使われているほどだ。このいちき串木野産のちりめんじゃこをふんだんに使って作られているのが、鹿児島県立市来農芸高校加工部製の「ちりみんみそ」だ。

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市来農芸高校では学びの一環として、農産物や畜産物などを使った加工品を製造しており、「ちりめんみそ」もそのひとつ。
学校内で開かれている「農芸市場」や、市内の農産物直売所などで販売されていて、人気のある商品だという。実は筆者も、市内の農産物直売所で市来農芸高校製の豚味噌を買おうとしたところ、スタッフに「こちらもおいしくて人気ありますよ」と「ちりめんみそ」をすすめられた。

 

市来農芸高校加工部謹製「ちりめんみそ」とは

校章を配したラベルが印象的な「ちりめんみそ」は、1缶180gで250円。ラベルには「本品はいちき串木野市産の新鮮なチリメンジャコと自家製の麦みそを原料としています。栄養豊富な健康食品です。なお、保存料・着色料を使用しておりませんので、開封後は要冷蔵にてお早めにお召し上がりください。」(引用)との表記が。

原材料は、麦みそ、ちりめん、三温糖、玉ねぎ、人参、生姜(粉末)、にんにく(粉末)、ごま、七味。なかなかいろいろな材料が使われているのだが、実際に口に含むとそのバランスがとても良いことに驚かされる。市来農芸高校製の麦味噌は香り高く、三温糖を使っているので甘さに深みがある。むろん、ちりめんじゃこの風味もしっかり生きている。

いちき串木野では家庭でもちりめん味噌を作るので、生徒たちにもそれぞれ自分にとってのスタンダードちりめん味噌があるはず。そのような環境下で定番商品としての「ちりめんみそ」を製造するにあたっては、原料選びや配合量、味つけなどでさまざまな試行錯誤があったものと思われる。これは、そんな高校生たちの活動に思いをはせながら味わうのも楽しいごはんのおともだ。



ごはんと相性抜群の「ちりめんみそ」だから、こんな味わい方もおすすめ

ちりめん味噌は、生野菜に添えたり、炒め物の味付けにといった使い方もできるが、“おかず味噌”との言葉通り、なんといっても温かいごはんによく合う。市来農芸高校製の「ちりめんみそ」の場合、原材料に植物油が書かれていないので、使われていないか使っていても少量ではないかと推察される。そのためお茶漬けに添えても油浮きせず、さっぱりと楽しめるのも特徴。これは豚味噌との大きな違いかもしれない。

逆に、炊きたてごはんに添える時には、ごま油やエキストラヴァージンオリーブオイル、亜麻仁油、ラー油など好みの油を少量足すのもおすすめ。艶やかさが増し、のびがよくなる。油との相性の良さを生かしてチャーハンに加えてもおいしい。

そしてこの「ちりめんみそ」でぜひ試して欲しいのが海苔巻きのおにぎり。海苔と抜群に合うのだ。
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具は「ちりめんみそ」だけでもいいが、薬味野菜をプラスすると食感と風味がぐんとアップする。特に三つ葉やセロリ、クレソンなど香りに個性のある野菜がおすすめ。写真では野三つ葉のみじん切りを加えてみた。

また、「ちりめんみそ」はペースト状なので、流行の「おにぎらず」の具としても使いやすい。海苔の上にごはんを広げて「ちりめんみそ」を塗り、その上に野菜や卵焼きなどをおいて「おにぎらず」にすると、ごはんと他の具がなじみやすく、食べる時にも具がこぼれにくい。

 

ちりめん味噌は自作も可能。好みの味で作るのも楽しい

市来農芸高校製の「ちりめんみそ」はおいしく、添加物も使っていないので安心・安全なのだが、唯一といってよい難点は鹿児島県外の人間にとって手に入れにくいこと。鹿児島を訪れた時に購入するか、ふるさと納税の返礼品に選ぶなどしか方法がない。

そんなわけで、ちりめん味噌の自作もおすすめだ。家庭にある材料ですぐに作れるので、ぜひ試してみて欲しい。材料や分量、作り方もアバウトで大丈夫。好みの味に調整できるのも自家製の楽しみといえるだろう。


■ちりめんみそ
<材料>
ちりめんじゃこ(中くらいの大きさのもの) 大さじ4
麦味噌 大さじ5
油(サラダオイル、菜種油、ごま油など) 大さじ1
酒(なくてもよい) 大さじ1
みりん 大さじ1~2
砂糖(三温糖など) 大さじ2~3
蜂蜜(なくてもよい) 適宜 
生姜みじん切り 適宜
*みりん、砂糖、はちみつの量は麦味噌の塩辛さによって加減を。
*好みで青唐辛子やみょうが、ねぎのみじん切りなどを加えてもよい。

<作り方>
①テフロン加工のフライパンに油をしき、弱火~中火でちりめんじゃこを焦がさないように注意しながら軽く炒める。*香りがたち、ぱりっとするまで炒めてもよい。
②①に生姜を加え火が通ったら、麦味噌、酒、みりん、砂糖、蜂蜜を加えて弱火で艶が出るまでよく練る。*砂糖、蜂蜜は味をみながら少しずつ加えていくこと。
chirimen4▲基本の材料はちりめんじゃこ、麦味噌、砂糖のみ。それ以外は好みでアレンジを。

chirimen5炒めたちりめんじゃこと生姜に麦味噌などの調味料を加えたところ。これからしっかり練っていく。

 

鹿児島のちりめん味噌は、素朴な見た目ながら滋味あふれる郷土の味。いちき串木野では、地元産ちりめんじゃこと麦味噌を使って市来農芸高校でも製品化されているなど、若い世代にもなじみ深い一品だ。そんなちりめん味噌は、これからも米食文化を彩るごはんのおともとして永く愛されていくに違いない。

 

参照サイト:
いちき串木野 総合観光ガイド http://ichiki-kushikino.com/souvenir.html
鹿児島県立市来農芸高等学校 http://ichiki.edu.pref.kagoshima.jp/

 

文:松本葉子
食と旅を専門とするフリーランスライター。全国の飲食店のほか、農家、牧場、漁協など生産現場での取材を元にした記事を雑誌、webなどで執筆。自身の料理スキルを生かした記事執筆や食品企業へのレシピ提供も行う。

【6月薬膳レシピ】とうもろこしの炊き込みご飯でむくみ解消

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爽やかな気候から、少しずつ蒸し暑さを感じる季節になりました。ちょうど日本は梅雨の時期を迎えます。梅雨は一年中で最も雨が多く、湿気が盛んになる季節です。過剰な湿気は、水分を溜め込みやすい人にとっては体調を崩す原因にもなります。普段からむくみやすい方は特に注意しましょう。

 

湿気対策でむくみ知らずの体に

むくみの原因となる湿気ですが、これから雨が多くなる季節には、知らず知らずのうちに体が受け取ってしまいます。特に消化機能が整っていないと、その受け取った湿気を体の外に出すことができず体内に滞ってしまうのです。するとその湿気は、体には必要のない余分な水分となり、むくみだけでなく冷えや胃の不調、体や頭が重だるく感じるなど様々な不調の原因となります。またそのような症状を引き起こす要因は、外からの湿気だけでなく、冷たいものの摂りすぎや冷たい水をたくさん飲むことによっても引き起こされます。

むくみが気になる方、これからの時期は以下の対策を少し心がけてみてください。
1.冷たいもの、生もの、甘いお菓子は少なめに
2.胃腸を整えて消化を助けてくれる食材を摂る
3.体の余分な水分を出してくれる食材を摂る
4.気の巡りを良くするものを取る
5.軽い運動をして巡りを良くする

 

この時期に取りたいオススメの食材

◆胃腸を整えて消化を助けてくれる食材
 さつまいも、じゃがいも、キャベツ、カボチャetc

◆体内の余分な水分を出してくれる食材
 緑豆、冬瓜、黒豆、えんどう豆、きゅうり、昆布etc

◆上記、両方の作用がある食材
 は
と麦、とうもろこし、そら豆、小豆気の巡りを良くする食材春菊、しそ、セロリ、玉ねぎ、クレソン、ピーマン、柑橘系etc

 

 とうもろこしの炊き込みご飯 

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とうもろこしには、胃腸を整えて消化を助けてくれる働きと、体内の余分な水分を出してくれる働きが両方備わっていて、湿気の多いこの時期は特にオススメの食材です。また、実の部分よりも周りについているヒゲの部分が特に水出し効果が高いので、ぜひ一緒に摂ってみてください。ヒゲは無味無臭なので、とうもろこしとごはんの味を邪魔することなく、また炊くことで柔らかくなりごはんと馴染むので、違和感なく食べられます。

<レシピ4人分>
米 2合
とうもろこし 1本
*塩麹 大さじ1
*酒 大さじ1

<作り方>
1. 米を研ぎ、30分程ザルに上げておく
2. とうもろこしの実を包丁などでそぎ落とす
3. ヒゲは黄緑色のきれいな部分のみ使用、細かくざく切りにする。とうもろこしの芯は2等分して使用する

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4. 炊飯器に米と*の調味料を入れて、2合の目盛りまで水を入れる
5. 2、3 も全て炊飯器に入れて普通に炊く

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6. 炊き上がったら芯を取り除いて、ふんわりと混ぜ合わせて器に盛ったら出来上がり

文:建部春菜
「薬膳とヨガと心地よい毎日」主宰。熊本を拠点に薬膳やヨガをベースとしたライフスタイルを提案。様々な場所で薬膳やヨガのイベントを開催 。また、学研プラス merアプリにて「かんたん薬膳」を連載。

【5月薬膳レシピ】野菜たっぷりターメリックライスで血流アップ

 

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気候が穏やかで気持ちよい季節になりましたが、暦の上では5月上旬に立夏を迎え、少しずつ夏に近づいています。徐々に気温も上がり発汗量も増してきます。中医学的にはこの時期「心」に疲れが出やすく、血流に影響を及ばします。また暑さが増すと比例して体への負担も大きくなってきます。夏に不調を感じやすい方、夏を快適に過ごすためにも今から体を整えていきましょう。

 

初夏は心のケアと血流アップを心がけて

夏の暑さは「心」*との関係が深く、血流や精神活動に影響を及ぼします。心臓は全身に血液を送り、精神活動を統括する臓器です。また、汗は「心臓の液」と言われ心との関係が深いため、たくさん汗をかくと心に負担がかかります。よって、汗をかくことは血流にも影響してくるのです。心への負担によって血流が悪くなると、手足や顔のむくみが出たり、顔色が悪くなったりします。ひどくなると、顔は黒っぽく、舌や唇が青紫になり、動悸や息切れを引き起こすこともあります。夏本番はこれからですが、梅雨時期や真夏に体調を壊さないためにも、初夏のこの時期からしっかりと心のケアと血流を意識した養生を心がけましょう。

「心」*=心臓自体のこと

 
この時期に取りたいオススメの食材


◆心のケアには
 ゴーヤ、青じそ、ごぼう、ピーマン、オクラといった苦味のあるもの 。らっきょう、蓮の実、ユリ根、あん肝、あさり、ひじき。

◆血流アップには
 セロリ、玉ねぎ、パセリ、ナス、クレソン、オクラ、ニラ、レタス、ターメリック、サフラン、きくらげ、納豆、黒豆etc。

 

野菜たっぷりターメリックライス

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<レシピ4人分>
米 2合
玉ねぎ 1/4個
セロリ 1/2本
人参 1/2本
パセリ 適量
ツナ缶 1缶
*ターメリック 小さじ1/2
*塩麹 大さじ1
*オリーブオイル 大さじ1
*ローリエ 1枚

<作り方>
1. 米を研ぎ、30分程ザルに上げておく(味が染み込みやすくなる)
2. 玉ねぎ、セロリ、人参は細かく切り、油で炒めて軽く塩コショウを振る
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3. 炊飯器に米と*を全て入れて2合の目盛りまで水を入れる
4. 2とツナも炊飯器に入れて普通に炊く
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5. 炊き上がったらふんわりと混ぜ合わせて器に盛り、パセリを散らしたら出来上がり

 

文:建部春菜
「薬膳とヨガと心地よい毎日」主宰。熊本を拠点に薬膳やヨガをベースとしたライフスタイルを提案。様々な場所で薬膳やヨガのイベントを開催 。また、学研プラス merアプリにて「かんたん薬膳」を連載。

なぜお米を「炊く」のではなく「蒸す」なのか?酒造りにおける「蒸米」の考察


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私たちのふだんの暮らしの中では、お米は炊飯器や土鍋などで「炊く」ものとしてとらえているが、日本酒の世界では、ごく一部の例外を除いてお米は「蒸す」ものと昔から決まっている。では酒造りの工程において、お米を「炊く」のではなく「蒸す」のはなぜか。その目的や方法について簡単にご説明することにしよう。


「蒸す」のは麹菌の繁殖に最適な水分を持つお米にするため

酒造りにおける蒸米(じょうまい/むしまい)の主な目的は、わかりやすく言うと麹菌が繁殖しやすい環境を整えてお米を溶けやすくするためであり、同時に殺菌も兼ねている。ではなぜ「炊く」ではなく「蒸す」という手法を採るのか。大辞林によると、「炊く」は「米などを水と共に煮て、食べられるようにする」、「蒸す」は「蒸気で物を熱する。ふかす」と説明されている。つまりお米を直接水に浸けて加熱するのが「炊く」、お米を直接水に浸けずに湯気を通して加熱するのが「蒸す」である。

この両者の違いは、お米の水分含有量となって現れる。炊いたお米の水分含有量が約65%もあるのに対し、蒸したお米では約37%と少ない。そして麹菌が繁殖するのに最適な水分活性領域が35〜40%であるため、長年の経験則に基づいてお米を「蒸す」手法が今日まで続けられているのである。

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グミのような「外硬内軟」の状態に蒸し上げるのが理想

お米の蒸し具合の良否は日本酒の香りと味わいに大きな影響を与えるため、蒸米はその前段階である洗米と浸漬*を含めて、酒造りの上で非常に重要度の高い工程となっている。

適度な水分を含んで蒸し上がったお米は、中心部までしっかり蒸されて芯がない反面、外側はべたつかずパサパサと乾いていて、グミのように弾力がある「外硬内軟」の状態になっていなければならない。外側が柔らか過ぎると麹菌が定着する前に腐敗が始まる恐れがあり、内側に芯が残っていると、お米で一番良質のデンプン質を含んだ部分が糖化・発酵しない可能性があるからだ。そのため大吟醸酒クラスの酒を仕込む場合、蔵人たちはお米の状態をこまめに確認しながら、細心の注意を払ってそれぞれの作業を行っている。
*浸漬(しんせき):お米を蒸す前に冷たい水に漬け吸水させる工程。米の品質や精米歩合などの違いで給水時間が変わるため、ストップウォッチを使った厳密な時間管理が必要。


蒸し上がった米の状態を確かめる、昔ながらの「ひねり餅」

米を蒸す道具は大きく分けて二つある。昔ながらの甑(こしき)と、連続蒸米機である。甑は巨大な湯釜の上に乗せる桶型の器具で、沸騰した蒸気を通す小穴が底にいくつも開いている。焼売や肉まんを蒸す蒸籠(せいろ)をイメージすると分かりやすい。手作業なので作業効率は悪いが、その日の外気温や湿度、お米の量や温度などに応じて蒸し加減を細かく調節できる利点があるため、大吟醸酒などの造りでは今でも甑にこだわる酒蔵は少なくない。

一方の連続蒸米機には、ベルトコンベアの上に敷いたお米に蒸気を当てながら加熱する「横型」と、蒸気が吹き上がる縦長の円筒にお米を入れて蒸し上げる「竪型」の2種類がある。手作業の甑と違って細かい蒸し加減の調節は難しいが、大量の米を効率よく処理できるメリットがあるため、今日では多くの酒蔵で活用されている。

さて、米が蒸し上がると蔵人は熱々の蒸米を少量手に取り、甑から蒸米を掘り出すための木製スコップ(ぶんじ)の上で手早くこねて餅を作る。これは「ひねり餅」と呼ばれ、こねた時の弾力や伸び具合、手触りなどから蒸米の状態を確かめるのである。今どきの技術を使えば蒸し具合など数値で測れるはずだが、こうした何気ない手わざの中に、昔ながらの職人芸が脈々と受け継がれているのだ。

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酒蔵では、シーズン最後の蒸米が済んで仕込みが一段落することを「甑倒し(こしきたおし)」と呼ぶ。まさにその呼び名が酒造りにおける蒸米の重要さを物語っており、当日は盛大な祝宴が催されるのが古来の習わしとなっている。食べるお米が「炊き方」一つでおいしくなるように、酒造りもお米の「蒸し方」一つで味が左右される。そうした奥深さも、他の酒とは一味違う日本酒独自の魅力を形作っていると言えるだろう。

 

参考サイト:
KURAND https://kurand.jp/25312/

日本酒のすすめ http://xn--wgv71a483g.biz/category15/entry121.html
灘の酒研究会 http://www.nada-ken.com/main/jp/index_hi/139.html
清酒 白鶴 http://www.hakutsuru.co.jp/yamada/report/knowledge/brewery/2016/12/13/post-9.shtml
花の舞酒造 http://www.hananomai.co.jp/news/brew/211.html
SAKE TIMES https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_kometogi
ほうらいせん https://www.houraisen.co.jp/ja/sake-brewing.html
銀河高原童子の酒と世直し談義 http://ginga-nobuo.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-83bc.html

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