熟練の職人技と秒単位の「時間との戦い」。酒造りにおける奥深き「洗米」の世界

 

ご飯を炊く前にお米を洗うのと同様、酒造りにおいても精白したお米の表面に残ったぬかや糖分、余分なカリウム、タンパク質などを水で洗い流す必要がある。その工程を「洗米」と呼ぶが、一見単純そうに思える作業の裏に、実は細心の温度管理と微妙な力加減、そして秒単位の「時間との戦い」という奥深い一面があるのをご存知だろうか。今回は熟練の蔵人でも非常に神経を使う「洗米」について、その前後の重要な作業と合わせてスポットを当ててみたい。

 

洗米の前に「枯らし」を行い、お米を落ち着かせる

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酒造り、特に大吟醸酒の仕込みで使うお米は丸2日以上かけて丁寧に精白し、表面の半分以上を磨き落とす。そのため精白したてのお米は摩擦熱でアツアツの状態になっており、そのまま水に浸けて洗うと急激な温度変化でひび割れたり、水分の吸収率にムラが生じるなど、せっかくのお米を台無しにしかねない。

そこで必要なのが、精白したお米を袋や貯蔵槽に入れ、暗く涼しい場所で一定期間寝かせる「枯らし」という工程である。期間はおよそ2週間から3週間。洗米の前にこの「枯らし」を挟むことで、熱を帯びていたお米が室温程度にまで落ち着き、かつ米粒内の水分分布が均等になって品質が安定するのである。


いかに優しく丁寧に、かつ手早く洗えるかが洗米のカギ

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「枯らし」が終わるといよいよ「洗米」である。精白され小ぶりになったお米は極めて割れやすく(実際に割れていたりもする)、かつ水分を吸いやすい状態になっているため、いかに優しく丁寧に、かつ水を吸わせ過ぎないよう手早く洗えるかがカギを握る。お米に含まれる水分量次第で、後に控える蒸米や麹造りの出来が大きく左右されるからだ。

特に吟醸酒クラスの仕込みでは、これから洗うお米がどういう性質なのかを正しく見極めた上で、狙い通りの吸水率に仕上げることが重要である。しかしお米の吸水率は、品種、産地、その日の気温・水温、精米歩合、年毎の作柄、使う酵母の違い等によって変動するためなかなか一筋縄ではいかない。そのため年度の最初はまず少量で試し洗いをし、その年のお米の性質を確認した上で一つの基準を作る。そして秒単位で時間を管理しながら、割れたり砕けたりしないよう細心の注意を払って洗米を行うのである。


熟練の蔵人でも神経をすり減らす浸漬の作業とは

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大正時代まではどこの酒蔵でも「米とぎ唄」を歌いながら時間を測り、息を合わせて手洗いや足洗いを行っていた。今日でも「吟醸酒を仕込むお米は手で洗う」という酒蔵は少なくない。ただ、少し大きな蔵だと1日何トンものお米を洗う作業があるため、洗米機を利用する酒蔵が主流となっている。

さて、洗い終えたお米は水が張られた浸漬(しんせき)タンクに移され、しばらく水に浸けられる。この後の工程で麹菌が繁殖しやすい状態に蒸し上がるよう、米粒の中心まで適量の水分を吸収させるためだ。水を吸い過ぎると質の良い蒸米ができず、水分量が足りないと蒸した際に芯が残ってしまう。用途やお米の性質に応じて最適な水温は異なり、浸ける時間も数分から数時間とまちまちだ。後の工程に与える影響の大きさを考えると絶対に失敗が許されないため、熟練の蔵人でも神経をすり減らす程の繊細な作業なのである。そして最適な量の水を吸わせたお米は丹念に水切りをされ、次の蒸米工程へと移されることになるのだ。

 

酒造りにおける洗米工程には、単に表面を洗うだけではなく、最適な量の水を吸収させる目的も含まれていることがお分かりいただけたかと思う。食卓や厨房では洗わずに炊ける「無洗米」が存在感を高めているが、酒造りの世界では、お米を洗わずに仕込める時代は当分やって来そうにない。

 

参考サイト:
KURAND https://kurand.jp/
灘の酒研究会 http://www.nada-ken.com/main/jp/index_se/133.html
日本酒のすすめ http://xn--wgv71a483g.biz/category15/entry120.html

 

【春レシピ】管理栄養士が教える「水溶性食物繊維が豊富♪ 茎ワカメの佃煮」

塩蔵や乾燥など一年中食べられているワカメですが、旬は春(3月~5月)で「生ワカメ」はこの時期にしか食べることのできない貴重な食材です。ワカメは下の図を見て分かるように、一般的に「ワカメ」として食べられている“葉体”、「めかぶ」として食べられている“胞子葉”、そして「茎ワカメ」として食べられている“中芯”に分かれています。それぞれ食感が異なるため調理法も様々です。今回は、コリコリとした食感が特徴の茎ワカメに注目してみましょう。 

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葉体であるワカメよりもミネラル豊富

昆布やワカメなどの海藻に多く含まれているミネラルですが、茎ワカメは葉体であるワカメよりも多くのミネラルが含まれています。骨や歯などが作られる際に大切な栄養素であるカルシウムは2倍、マグネシウムは約4倍も多く含まれます。さらに、むくみの改善が期待できるカリウムは7倍と、栄養素が豊富に含まれていることが分かります

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茎ワカメで便秘の改善や高血圧症の予防に

食物繊維には、水に溶けやすい水溶性と水に溶けにくい不溶性のものがあります。水溶性食物繊維は、果物などに含まれるペクチンやワカメに含まれるアルギン酸が代表的で、水に溶けるとゼリー状になり便の水分を増やしてやわらかくしてくれる作用があります。既に便秘の人は水溶性食物繊維を積極的に摂取することで、便秘の改善が見られます。また、胃や腸内をゆるやかに移動するため、お腹が空きにくく食べ過ぎを防ぐことができる上、糖質の吸収を緩やかにし血糖値の急上昇を抑える効果も期待できます。

茎ワカメには、水溶性食物繊維であるアルギン酸が多く含まれています。アルギン酸はその他にも、体内の不用なナトリウムと結合しアルギン酸ナトリウムとなって一緒に体外へ排出する作用があるため、高血圧症の予防や改善につながることが知られており、まさに健康な身体作りには欠かせない食材です。


水溶性食物繊維(アルギン酸)とお米の相乗効果

食物繊維は、不溶性と水溶性どちらもバランスよく摂取することが大切となります。不溶性食物繊維の代表的なものはセルロースであり、水を吸収して便の嵩(かさ)を増します。便が増えると、腸が刺激されて排便が促され便秘の改善につながります。さらに有害物質を吸着し排出する効果も知られており、大腸がんの予防にも役立っています。よく噛んで食べなければならないため、食べ過ぎを防ぐ効果もあります。

今回ご紹介するのは、水溶性食物繊維を多く含む茎ワカメのレシピですが、一緒に食べるご飯を精白米から玄米に変えることで、不溶性食物繊維が約4倍に増えます。玄米は、食物繊維の他にビタミンB1は8倍、ビタミンB6は10倍、マグネシウムは7倍、精白米よりも多く含まれています。マグネシウムは腸の水分を集めて便をやわらかくし、排便しやすくする作用もあります。玄米はしっかりと噛むことで満腹感も感じられるため、ダイエットにも効果的です。茎ワカメの佃煮と一緒に玄米を食べることで、便秘の改善や食べ過ぎを防ぐ効果がより一層上がります。

 

生姜入り茎ワカメの佃煮

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<材料>
茎ワカメ 200g
生姜 1カケ
酒 大さじ1
かつおだし 適宜
砂糖 大さじ2
みりん 大さじ2
濃い口醤油 30cc

<作り方>
①塩蔵の茎ワカメの場合は、2~6時間程度水につけて塩を抜く(その間数回水をかえる)
②茎ワカメを斜めの千切りにする
③生姜はみじん切りにする
④鍋に②を入れ、ひたひたになるようにかつおだしと酒を入れる
⑤沸騰したら砂糖・みりん・醤油を加え中~弱火で煮る
⑥再度沸騰したら③を入れてアクを取りながら汁がなくなるまで煮詰める


◆ポイント◆
茎ワカメを塩抜きする場合、急いでいる時は切ってから塩抜きすると時間短縮できますが、アルギン酸は水に溶けやすいため切って塩抜きすることでたくさん流れ出てしまいますので、切らずに塩抜きする方がオススメです。薄い塩水や熱湯を使った塩抜きで時間短縮できる方法もあります。塩抜きができたかどうかを確かめる場合は、少しかじって塩辛くないか確かめてみてください。

☆保存容器に入れて冷蔵庫で1~2週間程度保存可能です。

 

参考サイト:
http://www.nippon-wakame.jp/about/index.html

 

文:カベルネmama
管理栄養士、食生活アドバイザー2級の資格を保持。保育園で献立作成や食育を担当していた経験を持つ。現在は幼い3人の息子の育児をしながらレシピ記事作成を行う。料理を作ること・食べることが大好き。子どもたちのため、栄養たっぷりで簡単に作れ、喜んで食べてくれるものを考案する日々を送る。

お米を磨けば磨くほど酒は美味しくなるのか?酒造りと精米歩合の複雑な関係


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日本人がふだん食べている白米は精米歩合が90%前後。つまり玄米を100%とすると、その10%程を磨く(削る)ことになる。それに対し日本酒造りにおける精米歩合は、普通酒でさえ約70%前後、吟醸酒と特別純米酒では60%以下、大吟醸酒ともなると50%以下までお米を磨いている。大吟醸酒が高価なのは、『山田錦』などの高価な酒造好適米を原料として用いる上に、その半分以上を磨き落とすという贅沢な造り方をしているからでもある。

では、なぜそこまでお米を磨かなければいけないのか? 逆に言うと、お米を磨かなければ美味しい酒は造れないのだろうか? 今回は酒造りにおける精米の歴史も簡単に織り交ぜながら、精米と酒の味の相関関係について考察してみたい。

 

江戸中期に導入された水車精米を機に酒の質は格段に向上

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精米自体の歴史は古く、弥生時代からすでに行われていたと伝えられている。ただその方法は長年にわたり、木の臼と杵を使った原始的な力仕事であった。やがて江戸初期に石臼での精米が始まって効率が上がり、その後2代将軍徳川秀忠の時代に足踏み式の唐臼が中国から輸入され、1日23kg程度まで精米できるようになった。そして明和期(1764〜1772年)に入り、灘の酒蔵『櫻正宗』6代目当主の山邑太左衛門が、六甲の急流を利用した水車精米を初めて導入。精米量は1カ所辺り1日2,400kgまで跳ね上がり、精米歩合も80%まで向上した。日本酒の質が格段に上がると共に、酒処・灘の名声が大いに高まったのは、この水車を使った高白度精米が大きな要因であった。

その後明治29年(1896)に、精米機のトップメーカー(株)サタケの創業者・佐竹利市が日本初の動力式精米機を開発。そして昭和5年(1930)頃になって精白割合の高い縦型精米機が完成し、現在に至っている。

 

お米を磨くほど香り高く雑味のないスッキリ系の酒に

酒造りにおける精米工程の最大の目的は、主に味を調節することにある。お米の胚芽や米粒の外表面に近い層には、タンパク質・脂肪・無機質・ビタミンなどが多く含まれている。タンパク質は発酵過程で麹の酵素によりアミノ酸に分解され、酒に旨味を与えてくれるが、多すぎると酒の味がくどくなってしまう。また、華やかな吟醸香を生み出すためには、発酵段階で酵母への栄養分を少なくして飢餓状態を作り出さなければならない。そこで、雑味がなくスッキリとした香り高い酒を醸したい場合には、こうした余分な成分を取り除くため、お米の外側をできるだけ多く磨き落とす必要があるのだ。

 

精米歩合90%から1%まで。みんな違ってみんないい

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では、お米を磨けば磨くほど「美味しい」酒になるのか? 酒はあくまで嗜好品であり、絶対的な美味しさの基準などない。酒に対する価値観も好みも多様化している今日、お米の旨味を活かした濃醇な酒にするため、あえて精米歩合を高める酒蔵も増えている。酒造技術が格段に向上したことで、「低精米=雑味が多い、重い」と一概には言えない時代になっているのだ。

例えば、精米歩合80%の純米酒『いずみ橋 恵』(泉橋酒造/神奈川)や、85%の特別純米無濾過生原酒『舞美人』(美川酒造場/福井)、そしてご飯と同じ90%の純米酒『妙の華CHALLENGE90』(森喜酒造場/三重)などは、「香りが穏やかでお米の味がしっかり味わえるため、食事と共に楽しむのに最適」と、都内一流百貨店のバイヤーなどから高く評価されている。そして2017年以降、「低精米酒(低精白酒)」というワードがメディアに登場する機会も増え、ネット通販でも売れ行きが伸びているという。

その反面、2017年秋には楯の川酒造(山形)から精米歩合1%という究極の純米大吟醸酒『光明(こうみょう)』が登場し、4合瓶10万円の価格と相まって日本酒ファンの話題を集めた。他にも、精米歩合7%の純米大吟醸『残響Super7』(新澤酒造店/宮城)、8%の純米大吟醸『超精米』(来福酒造/茨城)など、1桁までお米を磨いた高精米酒がいくつも造られている。

 

精米という視点から今日の日本酒の世界を眺めると、精米歩合1%から90%まで百花繚乱、歴史上これほど多“酒”多様な味わいを楽しめる時代はない。これぞまさしく、「みんなちがって、みんないい」。技術が進化した現代に生まれた幸せを噛み締めつつ、精米歩合をものさしにして酒を飲み比べるのも一興だろう。

 

【全国のごはんのおとも】京都にしか存在しない野菜が原料の京漬物“すぐき”


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京のぶぶ漬け(お茶漬け)に欠かすことができないのが京漬物。もちろん京料理の献立でも京漬物はごはんとともに供される。種類豊富な京漬物の中でも、「千枚漬け」「しば漬け」「すぐき」は<三大京漬物>と呼ばれているが、他の2種に比べて生産量が圧倒的に少ない「すぐき」は、京都以外ではあまり流通しておらず、食したことがある人も多くはないだろう。昔も今も京都でしか作られていない京漬物「すぐき」の特徴と味わい方を紹介したい。


そもそも「すぐき」とはどんなものなのか

京都では、「すぐき」といえば漬物かすぐき菜のこと。「すぐき漬け」という言葉もあるがあまり一般的ではない。なぜならすぐき菜は、一見かぶらのように見えるが、普通のかぶらとは異なり、煮ると食感が極めて悪く味も良くない。浅漬けにしてもしかり。まさにすぐきは「すぐき漬になるためだけに存在する野菜」なのだ。 

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すぐき(菜)の歴史は400年あまりも遡ることができるという。そして、江戸時代初期からは、現在の京都市北区に位置する上賀茂の社家(上賀茂神社に仕える神官などの家)の敷地内において「門外不出」で栽培され、加工された「すぐき」は、宮中や公家などへの贈答品として利用されていたという記録が残っている。時代が進むと、すぐき菜は上賀茂の一般農家でも栽培されるようになったが、文化元年に所司代が『就御書口上書』で苗や種を上賀茂以外の土地に持ち出すことを禁じたこともあり、すぐきはその後も上賀茂の特産品として伝えられてきた。

聖護院かぶらや九条ネギ、賀茂茄子のように土地名を冠した京野菜でも宅地化が進んだ現在では、別の場所で栽培されていることがほとんどだ。しかし、すぐき菜に関してはこれは当てはまらない。上賀茂の土地が栽培に適しているだけでなく、他のアブラナ科の野菜が近くにあると自然交配してしまうなど栽培も難しいため、現在もほぼ上賀茂の畑のみで栽培されている。

 

すぐきの漬け方~独特の酸味が生まれるまで

11月~12月に収穫したすぐき菜のかぶの部分の皮を面取りするようにむき、まず大量の塩で一昼夜「荒漬け」をした後に本漬けを行う。本漬けで使うのも塩のみ。樽の中にぎっしりとすぐき菜を並べてから天秤棒を使ってテコの原理で重石をかけて漬ける(天秤押し)。しっかり漬かったら次は樽ごと室(むろ)に入れる。室というのは、炭や電気で温めた部屋のことで、ここに1週間ほど入れることで乳酸発酵がすすみ、「酢茎」とも書かれる独特の酸味と香りが生まれるのだ。

ただし、ひとつ知っておきたいことがある。「すぐきは室で発酵させる漬物」と書かれているものも多いが、室を使い始めたのは明治期からである。室で発酵を促進することで生産性が向上し、すぐきは急激に普及。冬の漬物の代表格となったが、もともとすぐきは気温の上昇とともにゆっくりと発酵させて作る漬物であり、その樽出しは初夏からであった。現在でもこの「時候慣れ」という昔ながらの作り方をしているところもあるので、機会があれば是非、時候慣れのすぐきも味わってみてほしい。冬のすぐきとはまた違ったおいしさが楽しめるだろう。

suguki2上左/パッケージを開けると独特の香りが。乳酸発酵による汁気もすぐきならでは。上右・下/葉の部分はぐるぐる巻かれている。かぶ部分は15~25センチ程度だが葉はその数倍の長さがある

 

すぐきの食べ方~一番のポイントは切り方

きちんと作られたすぐきは、昔からかなり高価な漬物だ。しかし、京都人はすぐきの希少性も製造過程も理解しているので、「ほんまもんのすぐきはそれなりの値ぇがするのは当たり前」と考える人が多いようだ。ちなみに、トップ画像のすぐきは上賀茂の「御すぐき處京都なり田」のものだが、100gが432円。写真の2個で2,198円だった。(価格は2018年4月時点のもの)

これほど値がはるすぐきだけに、よりおいしく味わいたいと思うのも当然。そのために最も重要なのは切り方だ。沢庵やかぶら漬けのような厚みに切ってはすぐきのおいしさは半減してしまう。かぶ部分は5ミリ以内の薄切りにし、葉の部分はできるだけ細かく刻むこと。すぐきは繊維が固く、しかも重石が効いた漬物だけに、この切り方をすることでより歯ざわりよく、香りと味わいがひきたつのだ。

suguki4左/薄切りにすると繊維がしっかりしているのがよくわかる。右/どちらも5ミリ厚だが、左は繊維に直角、右は繊維に沿って切ってある。これは好みで

 

あとはそのまま、あるいは醤油と七味や山椒などの香味を添えて味わうのもいい。

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乳酸発酵由来の酸味と香りは白いごはんとの相性が抜群。もちろん、ぶぶ漬けにしても豊かな風味を楽しむことができる。

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刻んだ葉は料理に使うのもおすすめだ。例えば酸味を生かしてドレッシングやマヨネーズに加えると良いアクセントになるし、チャーハンの具にしても美味。写真は少量の山椒オイルで合えて焼き鳥に添えている。とにかくごはんがすすむこと請け合いだ。
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美味なだけではなく、健康効果も期待できるすぐき

すぐきの酸味は料理の後口をさっぱりさせてくれるだけでなく、食欲も増進させるので、食が進まない時にもおすすめのごはんのおともといえる。また、京都で昔から、「おなかの調子が悪い時はすぐきを」といわれるのは、すぐきに含まれる植物性乳酸菌の整腸効果を期待してのこと。例えばすぐきに含まれる乳酸菌のひとつ、ルイ・パストゥール医学研究センターの岸田綱太郎博士によって発見された「ラブレ菌」は、様々な効能が認められており他の食品にも使われている。

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京都の食文化の中でも、特筆すべき地域性をもつすぐき。これからもごはんのおともとして大切に受け継がれていくべき逸品といえるだろう。

 

参照:
京都府 http://www.pref.kyoto.jp/kyotootokuni-f/1228962211981.html
御すぐき處京都なり田 http://www.suguki-narita.com/suguki.html
カゴメ(ラブレ菌)http://www.kagome.co.jp/labre/#firstPage

 

文:松本葉子
食と旅を専門とするフリーランスライター。全国の飲食店のほか、農家、牧場、漁協など生産現場での取材を元にした記事を雑誌、webなどで執筆。自身の料理スキルを生かした記事執筆や食品企業へのレシピ提供も行う。

“コシヒカリ”、“つや姫”、“ひとめぼれ”…。美味しい食用米で旨い酒は造れるか?

 

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どのようなお米でも日本酒の原料にはなり得るが、上質な特定名称酒* を造る場合は、“山田錦”等の酒造好適米を用いるのが造り手にとっての常識である。食用米は酒造好適米と比べると、相対的に「小粒」「心白がない」「タンパク質と脂肪が多い」「吸水率が低い」等の特性があるため、雑味のないハイグレードな清酒造りには不向きとされているからだ。しかしそんな固定観念にとらわれず、食べて美味しい地元の食用米を使って、飲んで美味しい酒を造ろうという意欲的な試みが、各地の蔵元の間で少しずつ広がり始めている。

*特定名称酒: 酒税法において、原料、製造方法などの違いによって大吟醸酒、吟醸酒、純米酒、本醸造酒など8種類に分類された清酒のこと。

 

“ササニシキ”、“ひとめぼれ”での酒造りに県を挙げて挑む宮城

食用米での旨酒造りにいち早く取り組んだのは、宮城県の酒造組合である。昭和61年(1986)に県内全蔵元が、「我々、宮城県酒造組合員は11月1日を期して、おいしさで定評のある宮城のササニシキ100%の純米酒造りを通じ、いい酒、うまい酒造りに努めることを広くお約束します」と宣言(「みやぎ・純米酒の県宣言」)。後には“ひとめぼれ”も対象となり、県を挙げて食用米での酒造技術を磨いてきた。

難易度が高い食用米で技を磨いた成果もあって、宮城県は2016年と2017年の全国新酒鑑評会で2年連続金賞受賞率No.1に輝くなど、国内屈指の酒造技術を誇っている。

そして銘柄別では、“ひとめぼれ”を使った『一ノ蔵 有機米仕込 特別純米酒』が「全国燗酒コンテスト2017プレミアム燗酒部門」で金賞、“ササニシキ”を使った『あたごのまつ特別純米』が「SAKE COMPETITION 2016」純米酒部門で1位を獲るなど、酒造好適米に負けないレベルの旨酒が食用米でも造れることを証明している。

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「食用米しか使わない」酒造りに挑む蔵元も登場

こうした中、「食用米しか使わない」という蔵元も現れ始めた。その代表とも言えるのが、京都府最北部の京丹後市で240年以上も続く『白木久』の蔵元・白杉酒造である。元々丹後は、“コシヒカリ”の特A地区に認定される程の産地であり、「美味しい地元のお米で旨い酒を醸したい」と考えた現11代目当主が、自ら杜氏となり試験醸造に着手。吸水量の調整、蒸米時間の増加、麹と酵母の使い分けなど、食用米による醸造ノウハウを数年かけて蓄積させていった。そして“コシヒカリ”100%の新生『白木久』を満を持して売り出したところ、地元で大評判となり、手応えを感じた当主は、2015年から原料の米を全て食用米にすることを決断。その後も地元の“ササニシキ”で醸した新銘柄『銀シャリ』を立ち上げるなど、食用米による新たな酒造りに挑んでいる。

一方、ラーメンで有名な福島県喜多方市にも、地元産“天のつぶ”等の食用米だけで醸す酒蔵がある。明治元年(1867)創業の会津錦だ。「喰うお米で日常に根ざす酒を」との想いで名付けた純米大吟醸『Q(ku)』をはじめ、『こでらんに』(たまらなく良い)、『さすけね』(大丈夫だよ)等方言を活かしたユニークな銘柄が揃っているので、話のタネにお試し頂ければと思う。

 

“コシヒカリ”、“ゆめおばこ”、“つや姫”による受賞酒も続々と

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その他、精米の時間や歩合などを調整するなど独自の技術を駆使し、食用米で醸した美酒でコンクールに出品して、酒造好適米を凌ぐ成果を収めた事例をいくつかご紹介しよう。
 
◆魚沼産“コシヒカリ”を使用
 ・菊水酒造(新潟)の純米大吟醸『蔵光』
  「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」で金賞(2014)
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」で最高金賞(2018)

千葉県産“コシヒカリ”を使用
 ・吉野酒造(千葉)の『腰古井 純米吟醸こしひかり』
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」2年連続(2017/18)で金賞

秋田県産“ゆめおばこ”を使用
 ・両関酒造(秋田)の『両関純米酒』
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」最高金賞(2016)と金賞(2018)

山形県産“つや姫”を使用
 ・東の麓酒造(山形)の純米吟醸酒『つや姫なんどでも』
  「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」2度(2016/18)最高金賞を獲得
 ・後藤酒造店(山形)の『辯天 特別純米酒つや姫』
  「IWC」で金賞(2016)、「全米日本酒鑑評会」で準グランプリ(2017)
 
 
ここでご紹介した以外にも、地元の「食べて美味しいお米」で、「飲んで美味しいお酒」を造ろうという動きは着実に広がっている。日本酒はあくまで嗜好品であり、この先“山田錦”より“つや姫”の味の方が好みだ、という人が増えても一向に不思議ではない。機会があればぜひ、食用米の美酒の世界を堪能して頂ければと思う。

 

参照サイト:
SAKETIMES https://jp.sake-times.com/knowledge/sakagura/sake_g_kyoto_shirasugi
地酒専門店 佐野屋 https://www.jizake.com/html/shirasugi2.html
銘酒居酒屋 酒友 http://sakatomo.jp/wp/blog/全国蔵元唯一!「一般米しかしようせず酒米を越/

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