名水ある処に銘酒あり。お米から酒の旨みを引き出す水質の話

 

日本酒の80%は水でできている。そのため、水の良し悪しが酒の味を大きく左右することは言うまでもない。では、酒造りに適しているのはどのような水なのか。そして、土地ごとの水質の違いは酒の味にいかなる影響を及ぼすのか。今回はその辺りにスポットを当ててみたい。

 

鉄分とマンガンが少なくミネラル分が豊富な水が理想

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『一升の酒に八升の水がいる』と言われる程、酒造りには大量の水が欠かせない。味を左右する仕込みや割り水*の工程はもちろん、洗米・浸漬、蒸米、さらには瓶や道具の洗浄にも水がふんだんに必要だからだ。その量は、酒造りに使うお米の総重量の30〜50倍にも達する。

おまけに量さえあればOKではなく、酒造用水には次の三つの条件が必要となる。

一つ目は、鉄分が少ないこと。鉄分はアミノ酸と化学反応を起こして酒を濁らせる上、香味まで損ねるためである。そのため鉄分の基準値は水道水の0.3ppmに対し、酒造用水では0.02ppm以下とされている。

二つ目は、マンガンが少ないこと。マンガンは紫外線と化学反応を起こして酒を変色させるためである。そのためマンガンの基準値は水道水の0.05ppmに対し、酒造用水では0.02ppm以下とされている。

三つ目は、カルシウム、カリウム、リン酸、マグネシウムという4つのミネラル分が豊富に含まれていること。これらの成分は麹や酵母を繁殖させ、発酵を促す栄養源となってくれるからである。
*割り水:原酒に水を加えアルコール度数や味を調整すること


水の硬度によって酒の味は大きく変わる

一般的にミネラル分を多く含む水を硬水、少ない水を軟水と呼ぶ。硬水で醸す日本酒は発酵が進みやすいため、酸が強めでキリッとしたコクのある力強い辛口に仕上がる傾向がある。一方軟水で醸すと酵母が穏やかに発酵するため、なめらかで軽い口当たりの甘口に仕上がる傾向がある。

そして日本酒の世界では昔から、前者を『男酒』、後者を『女酒』と呼んできた。男酒の代表は、江戸期から日本一の酒どころと言われてきた兵庫・灘の酒である。仕込みに使われるのは六甲山の花崗岩層を通って湧き出る『宮水』で、鉄分が少なく、ミネラル分をたっぷり含んでいる。硬度は6.5(※ドイツ硬度)で、国内の酒造用水では最も高い水準だ。

宮水で醸す灘酒は旨味が強いキレのある辛口を特徴とするが、冬場に造った酒がひと夏を越すと程良く熟成してさらに旨味を増すため、『秋上がり・秋映え』のする酒とも称されている。

 

力強さとコクのある『男酒』vsなめらかで軽い口当たりの『女酒』

一方、女酒の代表と言われるのが京都・伏見の酒である。この地はかつて伏水(ふしみ)と記された程、ミネラル分をバランス良く含んだ良質の伏流水が街中に湧き出ている。硬度は4.0。灘酒より口当たりが柔らかく、しっとりした甘みを感じさせる。

伏見より硬度の低い水で仕込んでいるのが、日本を代表する米どころであり酒どころでもある新潟である。澄んだ雪解け水に由来する新潟の酒造用水は、硬度3.0でミネラル分が比較的少ない。そのため新潟の酒は全般的に、なめらかでスッキリした口当たりの淡麗辛口が主流である。

そして日本で最も低い硬度1.0の超軟水を多く使っているのが、『吟醸王国』として酒通に人気の静岡である。この地は富士川、安倍川、天竜川などの一級河川が流れ、富士山からの雪解け水にも恵まれている名水の宝庫。そんな超軟水で仕込んだ静岡の酒は全体的に香りが良く、あっさりとしたマイルドな味わいが主流となっている。

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『名水ある処に銘酒あり』と言われる程、古くから銘醸地と呼ばれている場所のほとんどは良質な水に恵まれている。裏を返せば、良質な水がふんだんに使える土地でなければ、長きにわたって安定的に美酒を醸すことはできない。

近頃は、酒と一緒に仕込み水を販売する蔵も増えた。蔵出しの酒を飲みつつチェイサー代わりに仕込み水を飲むと、この酒はこの水から生まれたのか……と改めて酒造りの深淵に触れられるので、機会があればぜひお試し頂きたい。


参考サイト:
SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/think/study/importance_of_water
eSake
http://www.esake.com/j/knowledge/Ingredients/mizu/mizu.html
日本酒生活
http://www.akikotomoda.com/lecture/?p=651
醸造用水の現状と問題点((財)日本醸造協会)
http://www.jozo.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2011/09/356db1862ac5b9cc2112becfbbbc2bf9.pdf

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