映画『君の名は。』で世間をザワつかせた、お米を噛んで醸す口噛み酒とは?

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映画『君の名は。』の大ヒットをきっかけに、一躍スポットライトを浴びた「口噛み酒」。地上波初登場の際も、物語のカギを握る重要アイテムでもあったことから、「口噛み酒」というワードは再び世間をザワつかせSNSでトレンド入りした。

では現実問題として、映画のシーンで描かれたような造り方で酒はできるのか。また、造れるとすれば度数はどの程度で、どんな味がするのだろうか。今回は各種文献や資料をもとに、口噛み酒の実態に迫ってみたい。

 

噛み続けると甘くなるお米の性質に着目した酒好きがいた?!

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「米を噛んで、吐き出して放置しとくだけで自然発酵してアルコールになるんやさ」

これは巫女姿のヒロイン三葉が神殿で、厳かにお米を口に入れ噛んでは吐き出す姿を見ながら、彼女に想いを寄せる同級生が友人に口噛みの酒の説明をするセリフだ。ブドウは適度な酸と糖分を含み、皮に自然酵母が付着しているので、潰して放置するだけで発酵しワインに変わる。しかしお米は酸も糖分も含まないため、潰して放置しても酒にはならない。そのためアルコール発酵させるには、何らかの方法でまずお米を糖化する必要がある。

そこで、既に果実が酒に変わる体験をしていた古代人の誰かが、噛み続けると甘くなるお米の性質に着目し、その甘味を利用することを思いついたのだろう。唾液中の酵素がお米のデンプン質を糖化させるという化学知識がなくとも、日頃の経験則から着想が芽生えたものと推測される。こうして地球上のどこかで、お米の口噛み酒が誕生した。

どの地域で最初に誕生したのかは不明だが、口噛みの酒は東南アジアから南太平洋を経て、南北アメリカ大陸にも広がった。中国の歴史書には、沿海州やモンゴルでもお米の口噛み酒を醸していたとの記述がある。そして、日本への伝来は縄文後期以降と考えられている。

なお、原料にはアワ・ヒエ・トウモロコシ・イモ等も使われた。アマゾン上流の先住民はつい数年前まで、キャッサバ(イモ類)を口噛みして酒を醸していた。但し今は口噛みではなく、サトウキビ汁の糖分を利用して手早く造られているそうだ。

 
アルコール度数9%、甘口の酒にヨーグルトを混ぜたような味

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それでは、お米で造られた口噛みの酒は、いったいどのような味に仕上がるのだろうか。

東京農業大学の小泉武夫教授(当時)が、研究室の女子学生の協力を得て口噛み酒を実際に造った際の経緯を、『酒に謎あり』(1998年初版)という自著で紹介している。

手順としては3人の女子学生に各々100gの蒸米を4分間噛んでもらい、ペースト状になったお米を唾液と共にビーカーに吐きためてもらった後、屋外にビーカーを放置して自然発酵させた。すると…、

「10日間も発酵を続けると9%ものアルコールが生成されたのである。これは今のビールの2倍もの濃度である。それと同時に生酸量も乳酸として0.9%も出た。かなり酸味の強いものである。」

そして肝心な酒の味については、「ちょうど甘口の酒にヨーグルトを混ぜたような、今日の酒とは似ても似つかないものであった」と言うことだ。

 

ちなみにこめかみと呼ばれる顔の部位は、お米を噛むと動くことがその名の由来と言われているが、4分間お米を噛み続けていると実際にこめかみが痛くなり、「ああ、これが“こめかみ”なんだ」と改めて語源の意味が実感できたそうである。

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かつて「醸む」の字は「かむ」と読まれていた。酒を「醸す」は「噛むす」が語源との説もある。口噛みの酒のシーンはその生々しさで物議を醸したが、お米と酒が神事と深く結びついていたことを、改めて世に知らしめるきっかけになったのは確かだ。

ヒロインの祖母・一葉の言葉通り、「水でも米でも酒でも、人の体に入ったもんが魂と結びつくこともまたむすび」なのである。

 

参考資料:
「酒に謎あり」小泉武夫著(1998年/講談社)
「古酒新酒」坂口謹一郎(1978年/講談社文庫)

口噛み酒(Wikipedia)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A3%E5%99%9B%E3%81%BF%E9%85%92

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