お米づくり無くして語れない、日本人のソウルフード「納豆」

ごはんのおともとして、日本の食卓に欠かせない「納豆」。その歴史は古く、起源は弥生時代という説も。どのようにして誕生したかについては諸説あるが、そのほとんどに共通しているのは「稲藁に煮豆を包んで置いておいたら、自然発酵して糸引く豆になっていた」ということ。今回、納豆づくりを通して知り得た、“ごはんのおとも”にとどまらない、お米との密接な関係をご紹介したい。

 

納豆を作るのに欠かせない、藁でつくる「藁苞(わらづと)」

訪れたのは、熊本県の益城町東無田集落。昔から、お米や大豆を栽培しているこの地域では、納豆づくりは冬仕事のひとつだ。余談だが、納豆の消費量は西へ行くほど少ないと言われている中、熊本県は西日本一の消費量(購入金額)*を誇る、納豆好きの県民性としても知られている。

「わら納豆講習会」の会場となっている公民館に入ると、大量の藁を囲むように地域のおかあさん達が手際よく“藁苞”を編んでいた。藁苞は、納豆となる大豆を入れるためのものだ。

 

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藁は、この地域で10月頃に収穫した後の稲藁を、機械で裁断せずに天日干しして乾燥させたもの。さらに、手作業で藁のハカマなどをすき取られ、きれいに揃えられていた。

今回は、約60〜70cmの長さのビニール紐を用意。紐を半分に折り、そこに藁を3〜4本束ねて入れ、紐を交差させてまたそこに藁を3〜4本入れる。これを繰り返していく。

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藁を入れるときは、穂の部分を上にして入れた次は、根の部分を上にして入れる、と、互い違いにするのがポイントだ。ゆるくならないように、片手でビニール紐と藁を押さえながら、もう一方の手で次の藁を揃えて入れ、編んでいく。コツを掴むまでは、なかなか苦労する作業だ。

nattoudukuri3▲うっかり紐を交差し忘れたりして編み目が飛んでしまうと、大豆をきちんと入れられない。作業は丁寧に進める

 

ある程度の長さ、いわゆる煮豆を入れられるのに十分な長さ(今回は約20〜30cmほど)になったら、紐を固結びして余分な紐は切り落とす。煮豆を入れられるよう、口を合わせて閉じ、丸めて両はしをビニール紐でぐるぐるぐると、何重にもしっかりと結び止める。

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さらに、余分な両はしの藁は鎌できれいにカット。片足で鎌を固定し、ザクザクと藁を切る地元のお母さんの姿に感動。こうやって、藁苞が完成した。

 

煮豆を冷ますな! 時間勝負の連携プレー

藁苞づくりをしている隣の部屋では、シューッと音を立てる圧力鍋。前日から水にさらしていたという大豆8升を、弱火で40分、圧力鍋で炊いてたところだ。

「今、火を止めて蒸気が出るのを待っているところです。蒸気が抜けてしまったら藁苞の中に大豆を入れていきますが、ここからはスピード勝負。なるべく大豆が冷えないように藁苞に入れて、米袋に並べて入れて、納豆を寝かせに行きます」と教えてくれたのは、地域に住む堀川貴子さん。この地域に嫁いで初めて、納豆づくりを経験したという。手際よく煮豆の準備や藁苞づくりの様子を見守っていた。

 

nattoudukuri6▲この地域でとれた大豆“フクユタカ”。やや大きめの粒で、高タンパクで豆腐加工に適している品種でもある。「茹でただけの大豆もとてもおいしんですよ」と、炊き上がった大豆を受け取る堀川貴子さん(写真右)

 

前述の「稲藁に煮豆を包んで置いておいたら、自然発酵して糸引く豆になっていた」という説の通り、藁には最初から納豆菌が存在する。ただ、その納豆菌の量だけでは発酵や粘り気などが少なくなるため、今回は市販の納豆パックを少し種付け(自然な粘り気で十分な方は、そのままでもOK)。スピード勝負とのことで、地域のお母さん方の連携プレーが光っていた。

 

nattoudukuri7▲藁苞の口をパカっと開け、煮豆をたくさん入れ、最後に納豆パックの納豆を少し入れる

nattoudukuri9▲左から右へと、見事な連携プレーで次々と煮豆が藁苞に入れられていく。豆を入れたら藁苞の口を締め、藁でぐるっと巻いて結び止める。口を閉じた藁苞は、米袋の中に並べ入れる

 

籾殻の山は、納豆の大事なお布団

米袋に入れられた納豆が運ばれたのは、大きな“籾(もみ)山”。収穫した稲穂から実を取ったあとの籾もまた、納豆づくりに重要な役割を果たす。先ほど藁苞納豆を入れた米袋を、この籾殼の中に入れて、2日間寝かせるのだ。

nattoudukuri10▲子どもたちが思わず登ってしまう高さ!

nattoudukuri11▲籾の上にシートを敷いて藁苞が入った米袋を置き、さらに藁で覆ってシートをかぶせて、その上から籾を重ねかぶせる。さらにブルーシートをかぶせるなど、温度が一定になるように慣れた手つきで作業をする堀川カク子さん

 

「適温は35〜38度くらい」と話すのは、納豆づくりの名人・堀川カク子さん。納豆の温度管理を一手に引き受けるカク子さんもまた、50年前に東無田集落にお嫁に来た際に、ご主人のお母さんから納豆づくりを習ったそう。そんなカク子さんは籾の中に手を入れて、皮膚の感覚だけで温度を確認する。熱すぎでも寒すぎても活発にならない納豆菌。「熱すぎるとエグ味というか苦くなったりもするんですよね。熱くなりすぎていたら籾をとり、寒くなっていたら籾をかける。この2日間は神経を使いますね」と教えてくれた。

 

各家庭で納豆づくりをするときには、籾殻のほか、藁苞をこたつの中に入れたり、布団の中に入れたりする人も多いのだそう。美味しい納豆を作り上げるには、藁や籾といった稲刈りの産物と人の手間ひまが必要不可欠なのだ。

 

これまで感じたことがない風味がプラス!

納豆づくりから2日後、できたての納豆とご対面。ドキドキと期待に胸を膨らませて、藁苞を開けてみると……

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糸引くお豆、納豆がお目見え! しっかり納豆らしい香りもあり、自然と食欲が湧いてくる。藁に包まれた納豆を早速いただいてみると、これまで市販の納豆パックでは感じなかった「藁」の香りもただよい、まさに風味豊かな逸品。普段、パックについている醤油を使うことが多かったが、「地元では塩をかけて食べる人が多いよ」と教えてもらったことを思い出し、塩をふりかける。大豆そのものの甘みが引き出され、何杯でもごはんがすすむ味わいだ。

 

納豆づくりを通して知り得た、お米づくりとの関係性。お米農家はもちろん、大豆を育てる方や、納豆ができるまでに準備・管理してくれた方たちへ、改めて感謝の気持ちを込め、心から「ごちそうさまでした」とつぶやき箸を置いた。

 

参考資料・サイト:

*データ元……統計局ホームページ/家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(平成27年(2015年)~29年(2017年)平均)参照

https://www.stat.go.jp/data/kakei/5.html

国産大豆の品種時点2018
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/daizu/d_ziten/attach/pdf/index-18.pdf

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