芳醇なお米の雫が滴るとき。清酒誕生の瞬間=上槽(搾り)について

仕込みが終わって醪(もろみ)が完成すると、残すは醪を搾る工程のみである。日本酒業界では、この作業を上槽(じょうそう)と言う。元々は船の形に似た槽(ふね)という道具を用いて酒を搾っていたことから、そう呼ばれるようになった。醸造中の酒は生き物であり、同じ醪でも搾り方一つで味わいは微妙に変わる。一筋縄では行かない深遠な世界が、そこには潜んでいる。

 

醪は搾られた瞬間に初めて法的に日本酒となれる

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上槽(搾り)とは、お粥状にでき上がった醪を、液体(酒)と固体(酒粕)に分ける作業のことである。日本の酒税法では、醪を搾らなければ日本酒と名乗ることはできない。

洗米工程からここまでたどり着くのに約6週間。最終的にどのタイミングで上槽を行うかは、醪の状態や成分の検査などを十分行った後に杜氏が決断する。

 

方法は、一般的には大きく次の3つに分けられる。

一つ目は、自動圧搾ろ過機を使った搾り。アコーディオンのような蛇腹状の圧搾機の中に醪を流し込み、両側から空気圧を加えて酒を搾る。開発したメーカー名(薮田産業)にちなんで通称“ヤブタ”と呼ばれることが多く、全国の酒蔵で最も一般的な方法である。搾る時間が短いので酒が酸化しない上、しっかり搾れるという利点はあるが、醪に強い圧力をかけるため大吟醸などデリケートな酒には不向きだ。

 

大吟醸には、醪にストレスをかけない昔ながらの槽搾りを

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二つ目は、昔ながらの「槽搾り」。目の粗い布製の酒袋に醪を詰め、槽の中に重ね並べて醪自身の重みだけで搾った後、最後に上から圧力をかけて酒を搾る。搾る時間が長くなるため酒を酸化させないよう注意が必要だが、醪にストレスをかけないため雑味のない上品な酒質が得られる。そのため多くの酒蔵が大吟醸については槽で搾っている。

なお槽搾りでは、最初に自重だけで搾られた淡く濁ったフレッシュな酒は「あらばしり」、中頃の酒質が安定した透明な酒は「中取り(中汲み)」、最後に圧力をかけて搾った度数の高い酒は「責め」と呼ばれている。中でも澄んだ味わいと落ち着いた香りを持つ中取りは、日本酒の一番良い部分として珍重されており、中取りだけを瓶詰めし限定販売している地酒蔵も少なくない。

 

鑑評会用には自然の重力だけで滴り落ちる珠玉の雫を出品

三つ目は、最も繊細で贅沢な「雫搾り」(または「雫取り」「袋吊り」)。主に鑑評会出品酒のために用いられる方法である。酒袋に醪を詰めてタンクの中に吊るし、自然の重力だけで滴り落ちる「雫」の部分だけを斗瓶(10升の瓶)で採取する。搾るというより、ポタポタと染み出てくるのを待つイメージだ。

雫搾りをすると酒として必要な成分だけが抽出され、雑味が一切出てこないため、大吟醸クラスの酒が本来備えたポテンシャルが存分に引き出される。但し量がほとんど取れずコストがかかるため、鑑評会出品酒やギフト仕様のような限られた用途だけに用いられている。

 

遠心分離機を使った最新の上槽システムも登場

酒の搾り方で通常取り上げるのはこの3つだが、最後にあと一つ、近年注目の新技術をご紹介しよう。遠心力を利用した「吟醸もろみ上槽システム」である。

具体的には醪を遠心分離機のタンクに入れ、冷却しながら高速回転させることで酒と酒粕を分離する。こうして搾られた酒は、冷却された密閉空間で醪を分離するため高い吟醸香が残り、雫搾りと遜色のない香味の酒質をより少ない労力で得ることができる。洗浄の容易なステンレス製機器を使用するため,衛生管理さえ徹底すれば特別なノウハウがなくても酒質を劣化させる恐れもない。

最大の欠点は、一台約2千万円以上と高額なこと。それでも山口の『獺祭』をはじめ、新潟の『北雪』、宮城の『勝山』、栃木の『開華』、広島の『一代弥山』など、全国で10を超える酒蔵がこの最新技術を使った上槽を取り入れている。

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搾り方にまで目配りする人は少ないかも知れないが、地酒に注力している酒販店の冷蔵庫を覗いてみると、「中取り」「斗瓶囲い」「雫取り」などの札が貼られた特別な大吟醸にお目にかかれる。少々値は張るものの、数千円で購入できるので高級ワインよりは格段にお手頃だ。ふだん口にする日本酒とは異次元の豊穣な世界が広がるので、ぜひ一度お試しいただければと思う。

 

参考サイト:

KURAND

https://kurand.jp/14454/

株式会社南部美人
https://www.nanbubijin.co.jp/kodawari/shibori/

SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_tobindori

日本酒のすすめ
http://日本酒.biz/category15/entry126.html

遠心分離方式による新しい上槽システムの 開発と普及
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/109/8/109_550/_pdf/-char/ja

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