お米の酒の原点・どぶろくについて[後編]地域おこしとどぶろく

1899年に酒税確保のため自家醸造が法律で禁じられて以来、密造酒としてのイメージが強いどぶろくは、約1世紀にわたりマイナーな存在として扱われてきた。しかし、小泉内閣時代に導入された通称「どぶろく特区」をきっかけに、町おこしの切り札としてどぶろくを活用しようとの動きが全国各地で広まっている。

 

特区第1号で造られたどぶろくに舌鼓を打った小泉首相

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「どぶろく特区」は、規制緩和によって地域活性化を目指す国の構造改革特区の一つである。酒税法では年間6,000リットル以上(一升瓶で約3,300本超)醸造できる業者だけに酒造免許の取得を認めているが、特区内では農家などが自家産のお米でどぶろくを製造し、自ら営む民宿や飲食店で提供するのであれば、年間6,000リットルに満たなくても酒造免許を取得できるものと定められた。


制度が始まった2003年にどぶろく特区第1号として認定されたのは、宮沢賢治の生誕の地で、日本の民俗学の先駆けとなった柳田國男の「遠野物語」でも知られる、岩手県遠野市である。特区内で初めて仕込んだどぶろくが完成した際は、小泉首相(当時)がマスコミの前で試飲して「美味い!」と絶賛。塩爺こと塩川財務大臣(当時)やキャスターの筑紫哲也氏も現地に赴き、百数年ぶりに解禁となったどぶろくに舌鼓を打った。これらのPR効果も手伝って、2004年に遠野を訪れる観光客は大幅に増加。経済波及効果も2.2億円と推計され、どぶろく特区による町おこしは順調なスタートを切った。

 

過疎村の住民の意識を変えたどぶろくによる村おこし

遠野市での成果が呼び水となり、その後全国の自治体でどぶろくによる地域振興への取り組みは着実に広がった。2018年8月現在、全国のどぶろく特区は184カ所に上っている。中でも有数の成功事例となったのが、人口約1,600名の過疎村である高知県三原村だ。2005年に3軒の農家がどぶろく製造免許を取得して農家食堂をオープン。「三原村=どぶろくの村」というブランドを浸透させるため、試飲と販売を主体にした「どぶろく祭り」を企画・開催した。すると、村の一大イベントだった花火大会でさえ1,000人程度しか集客できなかった所に、4,000人もの観光客が訪れたのである。


この成功に後押しされどぶろくの製造農家は7軒に増え、うち5軒が民宿を併設。新たにお遍路さんの宿泊需要も生み出した。祭りも今では「どぶろく・農林文化祭」と名を変え、コンスタントに毎年4,000人以上を集客。町おこしの起爆剤となっている。お米はどぶろくにすることによって、そのまま販売するより付加価値が最大15倍にもなると分かり、村長は「どぶろくが村民の意識を変え、村で様々なチャレンジが広がるきっかけになった」と日経新聞の取材に対して語っている。


全国各地にあるどぶろく祭りも地域振興に一役

doburokukouhen2(出典:大分県杵築市観光協会 フォトブック)


三原村同様、岐阜県の郡上大和、神奈川県の秦野、愛媛県の宇和島など特区を機に始まったどぶろく祭りは、各地域で名物行事として根付き始めている。
その一方で、国から醸造認可を受けた神社が神事として執り行う伝統的などぶろく祭りは、現在全国で20以上に達している。中でも世界遺産に登録された岐阜県白川郷で行われるどぶろく祭り(10月)。愛知県大府市の長草天神社で500年以上続くどぶろく祭り(2月)。大分県杵築市の白鬚田原神社で1300年以上続くどぶろく祭り(10月)などは全国的にも有名だ。
祭りを楽しみにそれぞれの地を訪れる観光客も増えており、経済効果の面でも地域振興に一役買っているのは間違いないようだ。

doburokukouhen3(出典:大分県杵築市観光協会 フォトブック)

古来、日本の各地では、収穫されたお米を神に捧げる際にどぶろくを造って供え、来期の豊穣を祈願してきた。特区をきっかけに甦ったどぶろく文化が、これからは地域おこしという新たな形で町や村に豊穣をもたらし、人々に活力を与えてほしいものである。

*「お米の酒の原点・どぶろくについて[前編]歴史・特徴・効用など」の記事はこちらをクリック。

参考サイト:
Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/どぶろく

Tohoku Web Magazine みちの
http://michino.jp/food/886

【知識創造ケーススタディ】〜「遠野スタイル」のまちづくり〜
http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/1000026691_02.pdf

どぶろくで活性化 高知・三原村、特産品づくりに刺激/日本経済新聞 電子版
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35585620Q8A920C1LA0000/

過疎村、「どぶろく」で起死回生 農家の「個性」が原動力/事業構想大学院大学
https://www.projectdesign.jp/201701/liquor/003360.php

全国各地のどぶろく祭り/神社と古事記
http://www.buccyake-kojiki.com/archives/1009900029.htm

 

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