なぜお米を「炊く」のではなく「蒸す」なのか?酒造りにおける「蒸米」の考察


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私たちのふだんの暮らしの中では、お米は炊飯器や土鍋などで「炊く」ものとしてとらえているが、日本酒の世界では、ごく一部の例外を除いてお米は「蒸す」ものと昔から決まっている。では酒造りの工程において、お米を「炊く」のではなく「蒸す」のはなぜか。その目的や方法について簡単にご説明することにしよう。


「蒸す」のは麹菌の繁殖に最適な水分を持つお米にするため

酒造りにおける蒸米(じょうまい/むしまい)の主な目的は、わかりやすく言うと麹菌が繁殖しやすい環境を整えてお米を溶けやすくするためであり、同時に殺菌も兼ねている。ではなぜ「炊く」ではなく「蒸す」という手法を採るのか。大辞林によると、「炊く」は「米などを水と共に煮て、食べられるようにする」、「蒸す」は「蒸気で物を熱する。ふかす」と説明されている。つまりお米を直接水に浸けて加熱するのが「炊く」、お米を直接水に浸けずに湯気を通して加熱するのが「蒸す」である。

この両者の違いは、お米の水分含有量となって現れる。炊いたお米の水分含有量が約65%もあるのに対し、蒸したお米では約37%と少ない。そして麹菌が繁殖するのに最適な水分活性領域が35〜40%であるため、長年の経験則に基づいてお米を「蒸す」手法が今日まで続けられているのである。

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グミのような「外硬内軟」の状態に蒸し上げるのが理想

お米の蒸し具合の良否は日本酒の香りと味わいに大きな影響を与えるため、蒸米はその前段階である洗米と浸漬*を含めて、酒造りの上で非常に重要度の高い工程となっている。

適度な水分を含んで蒸し上がったお米は、中心部までしっかり蒸されて芯がない反面、外側はべたつかずパサパサと乾いていて、グミのように弾力がある「外硬内軟」の状態になっていなければならない。外側が柔らか過ぎると麹菌が定着する前に腐敗が始まる恐れがあり、内側に芯が残っていると、お米で一番良質のデンプン質を含んだ部分が糖化・発酵しない可能性があるからだ。そのため大吟醸酒クラスの酒を仕込む場合、蔵人たちはお米の状態をこまめに確認しながら、細心の注意を払ってそれぞれの作業を行っている。
*浸漬(しんせき):お米を蒸す前に冷たい水に漬け吸水させる工程。米の品質や精米歩合などの違いで給水時間が変わるため、ストップウォッチを使った厳密な時間管理が必要。


蒸し上がった米の状態を確かめる、昔ながらの「ひねり餅」

米を蒸す道具は大きく分けて二つある。昔ながらの甑(こしき)と、連続蒸米機である。甑は巨大な湯釜の上に乗せる桶型の器具で、沸騰した蒸気を通す小穴が底にいくつも開いている。焼売や肉まんを蒸す蒸籠(せいろ)をイメージすると分かりやすい。手作業なので作業効率は悪いが、その日の外気温や湿度、お米の量や温度などに応じて蒸し加減を細かく調節できる利点があるため、大吟醸酒などの造りでは今でも甑にこだわる酒蔵は少なくない。

一方の連続蒸米機には、ベルトコンベアの上に敷いたお米に蒸気を当てながら加熱する「横型」と、蒸気が吹き上がる縦長の円筒にお米を入れて蒸し上げる「竪型」の2種類がある。手作業の甑と違って細かい蒸し加減の調節は難しいが、大量の米を効率よく処理できるメリットがあるため、今日では多くの酒蔵で活用されている。

さて、米が蒸し上がると蔵人は熱々の蒸米を少量手に取り、甑から蒸米を掘り出すための木製スコップ(ぶんじ)の上で手早くこねて餅を作る。これは「ひねり餅」と呼ばれ、こねた時の弾力や伸び具合、手触りなどから蒸米の状態を確かめるのである。今どきの技術を使えば蒸し具合など数値で測れるはずだが、こうした何気ない手わざの中に、昔ながらの職人芸が脈々と受け継がれているのだ。

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酒蔵では、シーズン最後の蒸米が済んで仕込みが一段落することを「甑倒し(こしきたおし)」と呼ぶ。まさにその呼び名が酒造りにおける蒸米の重要さを物語っており、当日は盛大な祝宴が催されるのが古来の習わしとなっている。食べるお米が「炊き方」一つでおいしくなるように、酒造りもお米の「蒸し方」一つで味が左右される。そうした奥深さも、他の酒とは一味違う日本酒独自の魅力を形作っていると言えるだろう。

 

参考サイト:
KURAND https://kurand.jp/25312/

日本酒のすすめ http://xn--wgv71a483g.biz/category15/entry121.html
灘の酒研究会 http://www.nada-ken.com/main/jp/index_hi/139.html
清酒 白鶴 http://www.hakutsuru.co.jp/yamada/report/knowledge/brewery/2016/12/13/post-9.shtml
花の舞酒造 http://www.hananomai.co.jp/news/brew/211.html
SAKE TIMES https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_kometogi
ほうらいせん https://www.houraisen.co.jp/ja/sake-brewing.html
銀河高原童子の酒と世直し談義 http://ginga-nobuo.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-83bc.html

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