似ているようで別物! イネに病気をもたらす菌類・細菌・ウイルスって何が違うの?

イネのかかる病気は実に多様で、30〜40種類ほど存在するといわれている。イネの健やかな成長を妨げる病気の原因のほとんどは、菌類や細菌、ウイルスだ。肉眼では分かりにくく、『菌』や『微生物』などとひとまとめにされがちであるが、菌類、細菌、ウイルスは全く違う生き物である。ウイルスに至っては生物ですらない。それぞれにどんな特徴があり、どんな病気を引き起こすのかを改めて見直してみよう。

 

菌類:ヒトと同じ真核生物。『糸状菌』や『カビ』などとよばれる

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イネの病気の中でも特によく名前を聞く『いもち病』。過去から現在に至るまで多くの稲作農家を悩ませてきたこの病気は、イネいもち病菌という『菌類』が原因となる。病気の発生した場所によって、葉いもちや穂いもちなどとよび分けられるが、いずれも原因は同じ種類の菌だ。分類学上、菌類はさらに接合菌、担子菌、子嚢菌などのグループに分けられる。

菌類はその成長過程で大きく形態を変化させる。細胞が糸のようにつながった状態の菌類は『糸状菌』というが、一般的には『カビ』とよばれることも少なくない。ちなみに、同じ菌類でも目に見えて大きなサイズの、胞子を出す構造物(子実体)をつくるものはキノコとよばれる。

 

niteiruyoude2※写真はイメージ

菌類によるイネの病気は多い。『ばか苗病』や『イネ紋枯病』、『稲こうじ病』など比較的よく聞く病名があげられる。イネへの菌類感染が起きやすくなるのは、なんといっても高温多湿という環境だ。カビが生えやすい条件、と考えればよく分かるだろう。また、菌類は胞子をまき散らして繁殖するので、被害も広範囲になりがちである。菌類に対する薬剤はたくさん販売されているが、特定の種やグループにだけ効果を発揮するものが少なくないため、防除の対象となる菌をきちんと把握して選ばなくてはいけない。

 

細菌:細胞の小さな原核生物。細胞分裂で増殖する

『イネもみ枯細菌病』や『イネ苗立枯細菌病』は、病名にもある通り『細菌』が原因となる病気だ。細菌と菌類は名前が似ていて混同されがちだが、決して同一視してはいけない。菌類の細胞には、染色体が収納されている核が存在する。これは私たち人間の細胞も同様で、核のある細胞からなる生物はまとめて真核生物と呼ばれている。一方、細胞中にはっきりとした核をもたない生物は原核生物とよばれ、真核生物よりも原始的な生き物と考えられている。細菌は原核生物であり、菌類とは細胞の構造から根本的に異なる生物なのだ。

また、真核生物である菌類のほとんどが多細胞生物(キノコやカビは言わずもがな)なのに対し、原核生物は基本的に単細胞生物であり、細胞1つの大きさも真核生物のものよりずっと小さい(1〜2μm)。

niteiruyoude3※写真はイメージ

細菌の増殖方法は細胞分裂だ。栄養さえあれば分裂でどんどんと数を増やしていく。種子や土壌が細菌に感染していると、知らず知らずのうちに天文学的な数まで増殖してしまう。安全性が確認できない土や水などは使わず、種子は殺菌してから使用することで、細菌による病気をある程度防ぐことができる。

細菌に含まれる変わり者に『ファイトプラズマ』がいる。ファイトプラズマは植物に寄生して生きる細菌の1種だが、細菌にあるはずの細胞壁をもたず、寄生した細胞を利用しないと増殖することもできない。単独での培養ができないことから研究が遅れていたが、近年の分析技術の発達によってようやく生態や感染メカニズムが分かってきた。イネの株が黄色くなり萎縮する『イネ黄萎病』は、このファイトプラズマによるものだ。ファイトプラズマ自体への特効薬や防除方法は見つかっていないが、この細菌は感染時に必ず昆虫を媒介とする。イネの場合はツマグロヨコバイがその役割を果たすので、感染を防ぐにはまずツマグロヨコバイの防除を確実に行うことが重要になる。

 

ウイルス:生物ではない? 媒介となる昆虫・土壌微生物に注意

最期に、『ウイルス』である。冒頭でも述べたように、ウイルスは生物ではない。生物を生物たらしめる特徴の1つに、『細胞膜で包まれた細胞によって成り立つ』というものがあるが、ウイルスは細胞ではなく、タンパク質の殻のなかに遺伝物質(DNAやRNA)が収納されているだけの構造をしている。そのため『細胞でできていない=生物ではない』とみなされることが多いのだ。

サイズは細菌よりさらに小さく、細菌を殺すための抗生物質も、生命としてのメカニズムが根元から異なるウイルスには効かない。ウイルスによるイネの病気で代表的なものには『イネ縞葉枯病』などがある。ウイルスによる病気の防除も、やはり媒介となる昆虫や土壌微生物を駆除することが中心になる。

 

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2010年には、それまで日本国内で発見例がなかった『イネ南方黒すじ萎縮病』が報告された。これはセジロウンカが媒介するウイルスが引き起こす病気で、2008年頃からセジロウンカの飛来源である中国南部からベトナム北部にかけて報告されていた。ウンカの飛来によって、日本へ新たにもたらされるようになったウイルス性の病気だ。このような、日本で未確認だった病気の進出は、今後の急激な気候変動とともに増えていくと考えられている。

菌類、細菌、ウイルス。似ているようで全く異なる生き物たちが、イネの病気を引き起こすことがお分かりいただけただろうか? 原因となる生き物によって繁殖の特性や防除方法が違うことを念頭に置き、病気に対する対策を確実に練ろう。

 

参考文献:

水稲の本田防除 いまが重要な防除時期(一般社団法人農協協会)

https://www.jacom.or.jp/nouyaku/rensai/2015/06/150610-27308.php

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

カリフォルニア米の日本への輸出事情 -カリフォルニアのお米流通組織の戦略-

日本ではTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の締結により、日本の農産物を世界に発信するべく様々な取り組みがなされているが、アメリカ、カリフォルニア州におけるお米の流通においても、日本を視野に入れた市場開拓が検討されている。しかし、日本のお米輸入の仕組みや制度、品種の選定などにやや苦戦しているようである。今回はカリフォルニアのお米流通に関わる諸事情を、日本への輸出という視点で皆さんにご紹介したい。

 

日本のお米輸入制度とカリフォルニア米

日本におけるお米の輸入制度は1995年以来、ミニマム・アクセス米(MA米)として最低限の輸入枠を設け、日本国内のお米生産を保守しつつ、輸入機会を提供している。

このMA米は年間おおよそ77万トンで固定されており、国家貿易上、MA米の枠を超えて輸入するのは難しい仕組みだ。この77万トンの内、10万トン分は一般の輸入業者と顧客の売買が可能な量であり、この売買方式をSBS(Simultaneous Buy and Sell)方式といい、日本政府の入札、監修のもとで行われている。このSBS方式で輸入されるお米(SBS米)が実質的には主食用のお米となり、国内産米と競合することになる。

MA米77万トンの内、アメリカ産米の輸入量はおおよそ36万トン余りあり、おおよそ47%を占める。この36万トンの内、カリフォルア産米は約30万トンで、中粒米、短粒米品種である。しかし実質的にはこの30万トンの内、約80%以上は一般MA米と称され、加工用や飼料用になる。

大部分は“Calrose(カルローズ)”系の中粒米。残りの約20%、おおよそ6万トン弱がSBS米として一般流通が可能な量となるのが現状である。しかし、2014年以降数年は、カリフォルニア州の水不足によるお米の減収から価格が跳ね上がり、輸入量は3,000トンにも満たない量だった。2016年以降は少しづつ増え、15,000トン程度で現在まで推移している。

日本のMA米の状況を平成28年、農林水産省が公表している図があるので参考に見てもらいたい。

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▲日本のMA米の状況(農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/attach/pdf/161007-1.pdf より引用)

 

カリフォルニアのお米流通のしくみ

カリフォルニアのお米流通は、大規模農家、精米会社、共同出資会社などの組織がそれぞれの農家に委託栽培したり、買い付けを行い、流通している。大規模農家ではランドバーグ農場、精米会社ではFarmers' Rice Cooperative(FRC)、共同出資会社ではAmerican Commodity Company(ACC)などが有名である。

彼らはそれぞれ得意な品種や銘柄を持ち、日本のみならずヨーロッパや東南アジアにも販路を築いている。カリフォルニアのこれらの流通組織の特徴は独自に籾米の乾燥、保存施設、精米、梱包機器、保冷施設などを持ち、流通コストを削減することに余念がない。また運送会社を子会社にしたり、お抱え運送会社を持ち、輸送コストも下げるように努力している。またランドバーグ農場などは有機栽培米の流通に特化し、独自ブランドを定着して、様々な品種のオーガニック米や加工品であるポン菓子や水あめまで開発している。  

nihonyushutsu2▲ランドバーグ農場が生産・発売している『SUSHIライス(短粒ブレンド米)』。粘りがある短粒米の料理に使う際に、アメリカで一番人気があるという。

 

カリフォルニアのお米流通組織の戦略

カリフォルニアのお米流通組織は、上記のSBS米の10万トン枠を狙って、その主食用の付加価値のあるお米を日本に向け輸出することを考えている。特に“カルローズ”に代表される中粒米の需要を求めている。

しかし、このSBS方式による入札には、日本側の輸入業者と実需者(流通小売業者)の両者の署名が必要になる。すなわち、お米を買ってくれる顧客を事前に見つけないと輸出がスムーズにいかないのである。また日本ではあまり馴染みのない中粒米の市場開拓にも苦戦している。日本の一部の流通小売業者が“カルローズ米”を販売しているが、SBS方式による輸入量が10トン単位での入札となるためこの量を販売できるマーケティングが必要で、日本側の業者もまだ販売量を劇的に増やすほどには至っていないようなのだ。

そこで、短粒米品種である“S-102”、“Calhikari(カルヒカリ)”(コシヒカリ系)などに焦点をあてて作付を増やしたり、最近では日本からコシヒカリを導入して農家に栽培を委託し始めた。しかしこの短粒米を扱う精米施設が足りない上、水不足や稲の倒伏による減収もある。また、筆者が見聞きしてきた中で一番感じるのは、この短粒米の品質(粘りや食感)が分かるアメリカ人が少ないことである。

お米を分析し、それぞれの成分を吟味しているが、それだけでは分からない特有の“味”に疎いのではないかと思う。この点が日本産の米に対抗できるようなうまい米、売れる米を作り出せない原因のひとつになるのではないかと感じるのである。

nihonyushutsu3▲日本で流通しているカリフォルニア産中粒米カルローズ

かつて“田牧米”で有名な田牧一郎氏が、カリフォルニアでおいしい“コシヒカリ”の量産に成功したが、大規模に日本に輸出するようなことはなかった。中粒米に比べ収量が少なく、生産コストが合わなくなる上、MA米の枠を超えるとかなりの関税がかかり、日本のお米流通価格に対抗できないからだ。

カリフォルニア産の短粒米を日本に輸出するには港引き渡し価格でおおよそ150〜200円/キロ程度に抑えないと難しいのが現状である。農家から買い取る短粒米の籾米の平均価格はおおよそ¢30〜40/パウンド(約60〜80円/キロ)の場合が多いので、いかに精米、輸送コストを抑えるかがカリフォルニアのお米流通組織の課題になるだろう。

 

★カリフォルニアのお米の品種については以下の記事をご参照ください。
そうだったのか!?カリフォルニアのお米の品種 -日本のお米の品種との関わり-

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

世界を救え! 米粒を大きくする遺伝子『GW6a』の可能性

イネゲノムプロジェクトが完了して以降、実にさまざまな遺伝子の働きや仕組みが研究されてきた。それまで解明されていなかったイネの生理的メカニズムや、形質の要因となる遺伝子が解明されるごとに、新品種・新技術への期待が高まっている。今回は、世界の食糧事情を大きく改善するかもしれない期待の遺伝子GW6aをご紹介する。日本のイネ研究が国内の品種開発だけでなく、世界中に恩恵をもたらすかもしれない。

 

世界で続く飢餓の現状と、期待の遺伝子GW6a

2017年9月、国連WFP(World Food Programme)は世界で飢餓に苦しむ人口が増加に転じているという衝撃的な調査結果を発表した。それまで10年以上にわたり、飢餓人口は減少傾向にあったにもかかわらず、2016年には増加に転じ、世界で8億人以上の人が十分な食事をとることができないでいるという。

原因と考えられているのが、各地で勃発する紛争と、急激な気候変動だ。飢餓人口のうち半分ほどが紛争の影響によるものだと考えられるが、「紛争などがない地域でも干ばつや洪水により食料の供給が不安定になっている」と言及されている。物資に溢れた日本にいると『飢餓』という言葉を実感することは少ないが、世界では10人に1人以上が未だに恵まれない栄養状態にあるのだ。また、わが国では少子化の話題に事欠かない一方、世界の人口は増え続けている。安定した食料の確保・充実した栄養供給減の確立は、大げさでなく『人類の喫緊の課題』となっている。

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世界の人口の半分ほどがお米を主食としているともいわれる。お米の収量を上げることができれば、空腹にあえぐ多くの人を救うことができるはずだ。2014年、名古屋大学の芦苅基行教授が率いる研究チームは、お米の生産量を向上させる可能性のある遺伝子を発見し、その発表は多くのメディアにとりあげられた。国内外から注目をあつめるこの遺伝子こそ、お米の粒のサイズを大きくする遺伝子GW6aである。

 

ジャポニカ米とインディカ米の比較から見つかった、米粒の形を決める遺伝子

皆さんご存知の通り、ジャポニカ米とインディカ米は米粒の形が大きく異なる。同じOryza sativaであるはずなのに、米粒が小さく丸みのあるジャポニカ米に対し、インディカ米の米粒は縦に細長い。何がこの形の違いをもたらすのか、研究チームはゲノムが解読されているジャポニカ米の代表“日本晴”と、インディカ米の“カサラス”の遺伝子を比較した。そこで浮上したのが12本あるイネの染色体のうち、“カサラス”の第6染色体にあった遺伝子である。この遺伝子はGrain Weight(粒の重量)に深く関係することから『GW6a』と名付けられた。

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このGW6aを“日本晴”に導入したところ、ジャポニカ米のような丸みは残しつつも、導入していないものよりもひと周り大きな米粒をつけた。また、GW6aを通常よりも強く発現させた個体を作ると、やはり米粒の大きさが大きくなったのだ。それまで知られていなかった遺伝子について研究を行う際、このように『実際に遺伝子を導入して予想通りの変化が得られるか』を確認する実験は大変重要になる。

 

GW6aをイネ以外の作物へ応用できる可能性も……?

研究チームの発表では、日本で流通するジャポニカ米品種へのGW6aの導入は、遺伝子組み換え技術ではなく交配によって可能だと言及されている。伝統的な人工交配技術によってなされる品種改良であれば、消費者にも受け入れられやすいであろう。

この遺伝子により恩恵を受けるのは米食民族だけではない。イネとゲノムが似ている他のイネ科植物への応用も期待されているのだ。すなわち、トウモロコシやコムギなど世界の食料を支える重要作物の収量アップである。イネ、トウモロコシ、コムギは世界三大主食といわれるほど、ヒトの生活に不可欠な作物。各地の作物品種へGW6aを導入し、1粒1粒の大きさを増加させることができれば、人類史に残る食料革命になるはずだ。

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芦刈教授が主導するチームはこれまでにも、イネにつく米粒の数を増やす遺伝子(GN1a)や、穂の枝の数を増やす遺伝子(WFP)を発見してきた。これらの遺伝子をもつような品種の開発も進められているといい、実際に収量アップに成功したイネが世界の食糧問題に大きな風穴を開ける日も遠くないだろう。DNAや遺伝子などといった、普段意識しない生物の仕組みが、人間の生活を大きく変え、たくさんの命を救おうとしている。

 

参考:
国連WFPニュース

http://ja.wfp.org/news/news-release/170915

『コメのサイズを制御する遺伝子の発見』(名古屋大学・生物機能開発利用研究センター)

http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/220141223_nubs.pdf

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

お米づくりと温室効果ガス -水田のメタンガス排出について-

近年、世界中において地球温暖化が叫ばれ、日本でも2018年の夏の気温の上昇は尋常ではなかった。地球温暖化の原因はいくつかあるのだが、特に温室効果ガスの影響が大きいと懸念されている。この温室効果ガスには主に二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンなどがあるが、お米づくりにおけるメタンガスの排出が影響しているとも言われている。今回は温暖化と温室効果ガスの関係、お米づくりにおけるメタンガスが発生する仕組みと改善策を考えてみたい。

 

地球温暖化と温室効果ガス

まず、地球温暖化とはいったい何なのか? 言葉はよく聞くが、そもそも温室効果とはどういうことなのか? 

太陽からの光と熱は、地球のまわりの大気や表面に到達した時、その大部分が地球のまわりの大気に吸収される。一部の地表から反射した光と熱は、赤外線として大気に蓄積し再び宇宙に放出されるのだが、全てが宇宙に放出されず、再度、反射して熱として地球に戻ってくる。これが温室効果である。

この温室効果がなければ地球の表面は-19℃となってしまい、生き物は棲めない。それゆえ温室効果は私たちが生きていく上で必須の現象であるが、近年の人間活動によって大気中に余計なガスを出してしまい、これがこの温室効果をより高めてしまっている。その結果、地球全体が暖かくなり、温暖化という現象を引き起こしているのである。

この“余計なガス”こそが、いわゆる温室効果ガスとして冒頭に挙げたもので、温暖化を急速に進めているのである。気象庁が分かりやすく図で説明しているので、それを見てもらいたい。

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気象庁 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/pdf/p03.pdf より引用

人間が出す温室効果ガスの割合としては、二酸化炭素がおおよそ76%、メタンガスがおおよそ16%、一酸化二窒素とフロンを合わせておおよそ8%であり、二酸化炭素が大部分を占めるが、この排出される全メタンガスの内、お米づくりにおける水田由来のものは約11%にのぼると言われている。

温室効果ガス排出の全体からみれば微々たるものであるが、メタンガスは二酸化炭素に比べて分解しにくく、大気中に長く留まる性質があり、その結果二酸化炭素に比べて温暖化に20倍以上の影響があると言われている。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)によれば、二酸化炭素の排出削減とともに、メタンガスの排出削減も急務であると位置づけている。

 

 

お米づくりにおけるメタンガスとその発生のしくみ

さて、お米づくりにおけるメタンガスの発生はどのうような仕組みで起こっているのか? メタンガスを発生する「メタン生成古細菌」は嫌気性の微生物で、広く地球上に分布している。特に水田のように水で湛水された土壌中には酸素が少なく、絶好の棲息場所になる。この「メタン生成古細菌」は、有機物の分解にともなってできる炭酸水素イオン(HCO3-)や酢酸イオン(CH3COO-)に水素(H2)を供与してメタン(CH4)を生成するのだ。

生成されたメタンガスは、水田土壌から直接大気に排出される分に加えて、稲の通気組織からも放出されると考えられている。従って、湛水期間が長い場合や稲わらなどの有機物残渣が多量に分解するほど、メタンガスが多く発生すると推察されている。

onshitsukouka2 農業温暖化ネット https://www.ondanka-net.jp/index.php?category=measure&view=detail&article_id=437 より引用

 

お米づくりにおけるメタンガス排出の改善策

お米づくりに携わる方々にとっては、このようなメタンガス排出を指摘されても寝耳に水のようなことで、どのように対処していくべきか思案される方もおられるであろう。食料自給が優先か、それとも環境問題を重視するのか。一長一短のところではあるが、お米生産においてこの問題に少しでも取り組むことで、環境にもやさしいお米づくりとしてアピールできることに繋がるかもしれない。

では、どのようにしてこのメタンガスの排出を削減できるのか? 近年、様々な研究と試験が行われているが、要点から言うと、水管理と稲わら残渣の管理が重要になる。落水したり、浅水にしたりして、水田土壌を好気的状態、すなわち酸素が多い状況を保つことで、メタンガスの発生を抑えることに繋がるのだ。また収穫後の稲わら残渣を早期に鋤き込むことで、冬の間に好気的に分解し、作付中の湛水における嫌気的な分解を抑え、メタンガスの排出を削減できる。

カリフォルニアの有機米栽培農家の取り組みとして、収穫後の稲わらの分解を早めるために、「ハンマーモーワー」のアタッチメントで刈り取り後に稲株ごと細断して、その後浅く耕し、分解を促進している。

また一部の慣行栽培農家は稲わらに火をつけて水田全体を焼いているところもあるが、メタン菌の活性は抑えられるが、これは結局二酸化炭素を排出するし、圃場の炭素分の比率を高くしてしまい、温暖化対策という点で環境にいいとは言えないかもしれない。

onshitsukouka3稲わら細断のためのハンマーモーワー

 

要は何を目的にするのか。そしてどのように現在の環境問題に貢献できるのか。そういった一人ひとりの意識と取組み方が、これからのお米づくりにも問われていると思うのである。

onshitsukouka4収穫後の稲わら細断の様子

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

農作業中は特に注意! 心がけたい熱中症対策

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世界的にも高温が続く今年の夏。先の会見で気象庁が「これまで経験したことのない、命に危険があるような暑さ」「1つの災害と認識」と伝えたことからも、異例の暑さだということが分かる。

総務省消防庁発表の平成30年7月23日〜29日の救急搬送者数は、13,721人(速報値)。昨年の同時期が5,390人だったのに比べて倍以上にもなる。この期間、農・畜・水産作業を行っている人の搬送者数だけでも190人にのぼる。

毎日のように外やハウス内での作業が当たり前の農家にとっては、特に気を付けて欲しい熱中症。改めて、対策やその症状、熱中症になってしまった後のことについて確認したい。

 

 

 全国的にも増加する、熱中症による痛ましい事故

農林水産省調べによる農作業中の熱中症による死亡事故者数を年齢別に見ると、70〜80代が全体の約8割を占め、その発生場所別に見ると「田及び普通畑」で全体の70%が発生しているという。今夏の猛暑でも、農作業中の熱中症による死亡事故が相次いでいる。

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過去のケースでは、まだ暑さが本格的になる前の初夏の時期でも、農業経験歴50年のベテランであった60代男性がビニールハウス内で心肺停止の状態で発見され、病院に搬送されるも死亡が確認された。マルチ張りを行っていたそうだ。同じくビニールハウス内で80代、90代の女性が倒れており、死亡するという事例も。

8月某日、50代男性が暑い時間を避け、夕方から畑の除草作業していた所、熱中症で倒れ、翌朝畑内で倒れた状態で亡くなられていたことも。日頃から農業に従事し暑さに慣れていても、また十分な体力がある年代でも、起こりうることがあるのだ。

 

 

適度な休息と水分補給。服装にも気をつけて

農家の方には釈迦に説法にはなるが、第一に気温が高い日中の作業は避けたい。また、作業を行う場合は、のどが乾いていなくても定期的に休憩をとり、水分を補給しながら行う。目安は20分ごとに日影で休憩し、コップ1〜2杯程度の水分を摂取して欲しい。

大量に汗をかいた時は特に、塩分の入ったスポーツドリンクや経口補水液、食塩水などがベスト。作業の効率化よりも、水分補給が最優先だ。

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直射日光を遮るつばの広い帽子や、吸汗・速乾性のある素材の服など、汗を逃がしやすい涼しい服装を選ぶことも大事。作業場所には日よけを設けるのはもちろん、ハウスなど気温が上がりやすい場所では風通しを行い、熱がこもらないように。また、一人での作業中に熱中症になると、助けてくれる人がおらず重傷化する恐れも。できるだけ二人以上で作業し、無理はせずお互いの体調を確認し合いながら作業したい。

もちろん、日々の生活の中でも、寝不足や二日酔い、暑さによる食欲低下で栄養が取れていないのもいけない。体調不良の時には、暑い中ただ外に居るだけでも熱中症になる危険が高まるのだ。

 

 

「暑さ指数」を知って、事前にできる作業計画を

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この時期、天気予報でも度々耳にする「暑さ指数」という言葉。なんとなく、数字が高ければ危険なのかな、という印象だが、指数を知っているだけでも、注意すべきことが見えてくる。

「暑さ指数(WBGT)」とは、労働環境や運動環境の指針として有効であると認められ、ISO等で国際的に規格化されている。
*「暑さ指数」の詳しい説明はコチラをクリック

 

まず、自宅や作業場所の暑さ指数を知るには、環境省が発信している『熱中症予防サイト』をチェック。
ここを開くと、【暑さ指数(WBGT)の実況と予測】が出てくるので、地方・都道府県・地点が選択すると、自宅や作業地などの今日・明日・明後日の暑さ指数を知ることができる。

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基準として、31℃以上は「危険」、28〜31℃は「厳重警戒」、25〜28は「警戒」、25℃未満は「注意」となる。普段の生活においても、28℃を超える時には、熱中症にかかりやすくなるので、気を付けておこう。

では、暑さ指数を元に、作業内容のレベルを見て行こう。

★暑さ指数:33(暑さに慣れていない人は32)

作業例:安静(作業はしない)


★暑さ指数:30(暑さに慣れていない人は29)

作業例:楽な座位、軽い手作業(書く、縫う、簿記など)、手及び腕の作業(小さいベンチツール、点検、組み立てや軽い材料の区分け)、腕と足の作業(普通の状態での乗り物の運転、足のスイッチやペダルの操作)、小さい力の道具の機械、ちょっとした歩き(速さ3.5km/h)


★暑さ指数:28(暑さに慣れていない人は26)

作業例:継続した頭と腕の作業(くぎ打ち、盛土)、腕と足の作業(トラックのオフロード操縦、トラクター及び建設車両)、腕と銅の作業(中くらいの重さの材料を継続的に持つ作業、草むしり、草掘り、果物や野菜を摘む)、軽量な荷車や手押し車を押したり引いたりする、3.5〜5.5km/hの速さで歩く


★暑さ指数:25(暑さに慣れていない人は22)

作業例:強度の腕と胴体の作業、重い材料を運ぶ、シャベルを使う、草刈り、掘る、5.5〜7.5km/hの速さで歩く、思い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする


★暑さ指数:23(暑さに慣れていない人は25)

作業例:最大速度の速さでとても激しい活動、激しくシャベルを使ったり掘ったりする、階段を上る、走る、7km/hより早く歩く

*上記は、日本工業規格Z8504(人間工学—WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価—暑熱環境)付属書A「WBGT熱ストレス指数の基準値表」から引用
*暑さに慣れていない人とは、「作業する前の週に毎日熱にさらされていなかった人」のことを指します

 

こんな時には、こういう対処を

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自覚症状としては、めまいやズキズキとする頭痛、吐き気やたちくらみ、倦怠感などが挙げられる。具体的な治療の必要性の観点から表した熱中症の重症度別に見てみよう。

 

重症度Ⅰ度
・手足がしびれる
・めまい、立ちくらみがある
・筋肉のこむら返りがある(痛い)
・気分が悪い、ぼーっとする
 →対処法:
  ・涼しい場所へ避難
  ・冷やした水分・塩分を補給
  ・自力で水分がとれなければ病院へ
  ・ 必ず誰かがついて見守る

 

重症度Ⅱ度
 ・頭がガンガンする(頭痛)
 ・吐き気がする・吐く
 ・体がだるい(倦怠感)
 ・意識が何となくおかしい
 →対処法:
  ・涼しい場所へ避難
  ・衣服をゆるめ、体を冷やす
  ・冷やした水分・塩分を補給
  ・足を高くして休む
  ・自分で水分など摂れない時は、すぐに病院へ

 

重症度Ⅱ度
 ・意識が無い
 ・体がひきつける(けいれん)
 ・呼びかけに対して返事がおかしい
 ・まっすぐに歩けない・走れない
 ・体温が高い
 →対処法:
  ・すぐに救急隊を要請(救急車を呼ぶ)
  ・氷や水で首、脇の下、足の付け根などを冷やす

 

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今回参考にしたのは、環境省、農林水産省、厚生労働省が出している熱中症に対する対策。ぜひ、以下のサイトから確認をして、今一度熱中症対策を見直し、暑い夏を乗り切って欲しい。

●環境省 
熱中症予防サイト
暑さ指数の検索や、熱中症の基礎知識や応急処置について詳しく説明。各種ガイドラインやリーフレット(普及啓発資料)のダウンロードもできるので、印刷をして常に手元に置く、視界に入る場所に貼るなど、熱中症に対する意識を高めて。

熱中症予防声かけプロジェクト〜ひと涼みしよう〜
お年寄りや子どもへの声かけ、働いている時や運動時の注意など、さまざまなシーンに合わせた熱中症予防について、分かりやすく解説。

 

●農林水産省
農作業時の予防チェックシート
農作業に出掛ける前に確認したい項目がズラリ。毎日の習慣に。


平成28年農作業中の熱中症対策について
データ自体は2016年当時のものになるが、気温の変化や農作業中の熱中症事故についてなど、参考にしたい。


●厚生労働省 
STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症対策)
平成30年5月〜9月に実施されているキャンペーン。事業所等職場に置けるる熱中症対策についてその徹底を呼びかけている。

パンフレット「熱中症を防ごう!」
職場に置ける熱中症予防対策について、作業環境管理や健康管理、応急処置等について説明。

 

参考資料:
総務省消防庁 熱中症情報 救急搬送状況(平成30年7月23日〜7月29日)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/heatstroke/pdf/300723-sokuhouti.pdf

農林水産省 農作業中の熱中症対策について(平成30年度通知文)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/attach/pdf/index-64.pdf

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