北カリフォルニアお米栽培事情2018夏 -今年のお米づくりにおける課題-

今年の北カリフォルニアのお米づくりにおいては、“Weedy Rice”なる雑草米が再び繁茂するのではないかと懸念されている。また除草剤の効かない新たな雑草も見つかり、お米農家にとっては不安材料が頻発する年となっている。今回はこの問題について皆さんにご紹介し、改善策を考えてみたい。

 

Weedy Rice(赤米)とは?

“Weedy Rice” (別名:Red Rice赤米)とは、栽培米と同じ植物種(Oryza)でありながら、栽培米とは異なる成長を示し、籾米が赤褐色を呈し稔性が低く、収穫後の選別も困難で、全体の収量を減少させ、品質、等級を低下させる非常にやっかいな雑草米である。防除においても除草剤が効かず、栽培米との区別も困難で、早期に駆除することも難しい。

この雑草米がはびこる原因として、栽培米と野生イネの交配、雑草化したとの説があるが詳しいことは分かっていない。日本でもこの雑草米の問題は30年以上前からあるが、日本の場合は田植えによる移植栽培によって選別されるためにそれほど大きな問題にはなっていない。しかし、北カルフォルニアにおいては直播栽培によって混入した雑草米の種が圃場に残留し、周辺環境に適応しながら栽培米に混入するケースが増えている。2016年の調べでは、おおよそ10,000エーカー(約4,000ヘクタール)もの圃場にこの雑草米が拡大しているとのことである。

kitacalifo1▲Weedy Rice(赤米)
California Weedy Rice ; http://caweedyrice.com/#publications から引用

 

さらに今年はこの雑草米の拡大が懸念され、カリフォルニア大学のお米専門チームは農家を対象にして各地で研修会を開き、種籾の検査、栽培過程での発見の仕方、取り除き方を教え、発見したり、疑わしい場合は詳細な報告を義務化するなどしている。

 

 Weedy Rice(赤米)のタイプ

このWeedy Rice、雑草米にもいくつかの種類がある。芒 (のぎ)があるものと無いもの。籾の色が赤褐色のものと通常の栽培米と同色程度のもの。また葉色はやや薄い緑色で、イネの節間部分に葉耳と葉舌があるのが雑草米の特徴である。

kitacalifo2▲有芒の雑草米
California Weedy Rice ; http://caweedyrice.com/#publications から引用

kitacalifo3▲雑草米の葉舌(ligule)と葉耳(auricle)
California Weedy Rice ; http://caweedyrice.com/#publications から引用

 

Weedy Rice(赤米)の防除

この雑草米の防除は、とにかく取り除くことが先決である。また取り除いた稲を圃場周辺に放置しないことが大切だ。雑草米の籾は簡単に脱粒するため、籾をまき散らさないように慎重にしなければならい。カリフォルニアの気候では圃場に残った雑草米の籾種は3年ほどは発芽の危険性が残るそうである。

2018年の作付にあたって、今年は特に種籾の検査、認証が厳しくなった、と、あるベテラン農家から聞かされた。この種籾の認証書類がない収穫米は後の乾燥、精米過程でもそれぞれの加工処理業者から断られる可能性がある。

また収穫用のコンバインなどを共同で使っている場合は清掃の検査があるそうで、この清掃検査にパスしなければ次の作業に使用できない。ベテラン農家は「またコストがかかる」と愚痴をもらしていた。

北カリフォルニアのお米栽培に貢献している研究機関である『Rice Experiment Stationの職員のひとりは、この雑草米の問題を改善するために、日本のように移植栽培、いわゆる田植えの必要性も感じていた。仮に一部でも試験的に田植えを導入する場合は、日本の田植え技術が脚光を浴びるかもしれない。カリフォルニアの広大な水田圃場に田植え機が走るのを想像し、なんだかうれしくもあり、心細くもあり、複雑な気持ちになった。

 

北カリフォルニア水田圃場の新種の雑草

また今年、カリフォルニアのお米栽培圃場において、新種の雑草が見つかったそうである。カリフォルニア大学のお米担当の専門家によれば、農家から数種の除草剤を施用したにもかかわらず、駆除できない雑草が繁茂しているとのことで、調査した結果、今までにない除草剤耐性をもつ雑草だと判明した。

イヌビエともタイヌビエとも思えるような雑草だが、形態からどちらとも言えないという。除草剤の効かないこのような雑草が見つかったことで、農家はもとより、専門家のあいだでひとつの脅威となっている。

以前にも書いたが、大自然は本当に皮肉で、かつ、たくましく我々にその多様性を教えてくれている。除草剤に頼らない農業のあり方、お米づくりを真剣に考えていくべき時がきているのではないか、と、思うのだ。

kitacalifo4▲新種の雑草
University of California Agriculture & Natural Resources, Rice Note July,2018; 
http://cesutter.ucanr.edu/newsletters/Rice_Notes75693.pdfより引用

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

カリフォルニアのお米農家紹介1-パーク・ファーミング・オーガニックス農場-

 

今回を皮切りにいくつかカリフォルニアのお米農家を訪ね、彼らが取り組むお米づくりとそのやり方、農場の歴史や将来の目指すところなどをみなさんにご紹介したい。

 

北カリフォルニア有機栽培米づくりを先導する『パーク・ファーミング・オーガニックス農場』の成り立ち

『パーク・ファーミング・オーガニックス農場』は、1980年、オーナーのスコット・パーク氏が慣行農法でトマト栽培(加工用トマト)からスタートした。彼は20歳ぐらいまで、農業の経験がまったくなかったという。北カリフォルニア州のトマト生産は世界でも有数の産地であり、特に加工用のトマト生産は世界中の約80%以上のシェアを誇る。親友に誘われてトマトの加工に関わった彼は、品質の高いトマトがこれからますます需要が増えていくことに着目し、この業界の将来性に魅せられて自らが農家として生産に携わることを決意する。

慣行栽培を数年行う中で、化学肥料に頼る栽培に疑問を感じるとともに、圃場の土壌がだんだんと固く痩せていくようになり、土の本来の生産能力をダメにしてしまっているのではないか、と自問自答を繰り返した。また、思わぬ病害虫にも遭い、農薬を使えば使うほど圃場の生態系が保たれていないように感じた。そこで、1990年頃からカバークロップ(被覆植物)栽培を始めた。冬季にベッチなどのカバークロップを栽培し、夏季にはトマトやコーンなどの作物を生産するシステムに移行していったのだ。そうすると、土がだんだんと柔らかくなり、土壌水分が保たれて灌水する手間や回数が減少。これを機に1992年頃から農薬や化学肥料も使わない有機栽培に少しずつ転向していった。

パーク氏曰く、「化学肥料に頼っていたころに比べて、生産性は40%近く上がっている」という。また彼は「渡り鳥をはじめ、ザリガニなどの生き物が圃場に戻ってきた。圃場の土や周辺の生態系が多様になっていることで、作物生産が向上しているのは間違いない」と強調する。その後、およそ15年かけて26ヶ所に分かれている圃場をすべて有機栽培に転換し、現在は1,700エーカー(約690ヘクタール)のすべての圃場が有機認証されている。

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▲作業の準備をするスコット・パーク氏(左)

 

『パーク・ファーミング・オーガニックス農場』のお米づくり

パーク氏のお米づくりは、基本的に乾田直播栽培である。お米栽培を始めた当初は湛水直播方式も取り入れたが、オーガニック栽培には乾田直播方式の方が作業効率がよく、収量も上がっている。

今年のお米づくりは約250エーカー(約100ヘクタール)の作付面積で、短粒米と長粒米の2種類を栽培。短粒米の収量はおおよそ2~2.5トン/エーカー(おおよそ4.8~6トン/ヘクタール)である。今年は5月10日ごろ乾田に播種し、発芽後、約3週間してから湛水した。訪問した6月中旬には見事な水田になっていた。稲苗はおおよそ5~6葉で、かなり深水にしていた。パーク氏は「この時期は雑草管理のためにやや深水にする」とのこと。水深を測るメモリがついた棒には日付がいくつも書かれていた。

農場の倉庫にはすでに収穫用の大型コンバインが横付けされ、メンテナンスが始まっていた。10人の従業員を雇用し、それぞれが専門的知識や経験を生かして作業にあたっている。メカニック専門の方はトラクターやアタッチメントの整備に余念がない。パーク氏は彼らの資質と人柄もよく理解して、適材適所に作業を分担させるマネジメントにも優れていると思った。

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▲『パーク・ファーミング・オーガニックス農場』のお米圃場

 

パーク氏の農家としての誇りと展望

パーク氏は圃場の土を自分の子供のように気にかけ、世話している。彼の話を聞くにつれ、その思いがひしひしと伝わってくる。お米以外にトマト、コーン、小麦、豆類などをうまく転作しながら、カバークロップとの組み合わせで圃場の土をいかに生かせるか、圃場管理に余念がない。パーク氏曰く、「そのために毎日、全ての圃場を2回は見て回るんだ」とのこと。話す彼の顔が輝いて見えた。

パーク氏は、持続可能性を保つためには3つのEが大事になると語る。3つのEとはEconomy (経済), Environment(環境)と social Equity(社会的な公平性)で、これらのバランスがよくなることによって農業の持続可能性が保たれることになる。

具体的には農業経営において、やはり赤字続きでは成り立たないし、不要な圃場の開墾や化学肥料、農薬による周りの環境に影響することは改善しなければならない。そして農家も社会の一員であり、他の産業や消費者とも繋がっていることを意識しなければならない。公平に社会に認められ、評価されることが大事になってくる。従業員の報酬も労働に見合ったものでなければならい。取引される農作物もその品質に見合った市場価格であるべきだ。「これからはそういう3つのEを目標にやっていければすばらしいな」と、彼の笑顔がとても印象的だった。

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▲圃場の土を確認する パーク氏

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

カリフォルニアにおけるお米の乾燥、精米工程 -品質を保つ工夫とは-

 

お米の収穫後、日本では伝統的な稲架(はさ)掛けがお米をおいしくする要因のひとつになるのであるが、カリフォルニアのお米づくりにおいてはそういう伝統もなく、あくまで合理的に乾燥、精米されている。今回はカリフォルニアの大規模栽培ならではのお米の乾燥、精米工程について皆さんにご紹介したい。

 

カリフォルニアのお米の乾燥

ご承知のごとく、コンバインによる収穫後は速やかに乾燥工程にかかるのが通例であるが、乾燥施設の状況によって、一時、貯蔵サイロに保管される場合もある。カリフォルニアのお米づくりにおいては、それぞれの工程が分業化されて、乾燥工程だけをビジネスにしている会社も少なくない。特に最近ではオーガニック米の需要も増えつつあり、オーガニック認証を受けた乾燥施設も出てきた。

それぞれの農家もしくは籾米を買い取った業者は、あらかじめ日時とおおよそのお米の量を乾燥施設に連絡し、依頼しておくことが前提になる。農繁期の10月初旬ごろはこのスケジュール調整がとても重要になってくる。籾米の水分量に合わせて時期を決め、乾燥までの時間、乾燥に要する時間も考慮しつつ、いかにお米の品質を損なわないようにするか。経験と速やかな判断が必要になる。

乾燥方法は大きく分けて、コラムドライとビンドライの二つに分けられる。日本でもカントリーエレベータ式乾燥、貯蔵施設が各地にあるが、このアメリカ方式を参考に導入したものが多い。コラムドライは、高さ30メール近くある円筒状のビンの中心に温風(55℃~65℃)を送り込んで乾燥する方法である。ビンの中心部と周囲はメッシュ状の網で仕切られ、上部から投入された籾米はその円筒の外側を自然落下しながら乾燥されていく。目的の水分量に達するまで何度かこれを繰り返す。

ビンドライは、円筒錐形の構造で、大きなスクリューで内部攪拌しながら下から送風することによってゆっくり乾燥する方法である。乾燥後はいずれの場合も、一旦貯蔵されて、テンパリング(籾米水分の均一化)時間が必要になってくる。特にコラムドライの場合は比較的高温で乾燥するため、テンパリング時間が12時間近くかかることもある。

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▲貯蔵施設

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▲ビンドライ式乾燥施設

 

カリフォルニアの精米工程

乾燥後は、大抵の場合はお米の買い手側の条件に合わせて、精米、出荷となる。各精米業者はそれぞれ独自の精米機を導入し、顧客の要望に沿って受託し、玄米、白米、胚芽米などに精米して梱包、出荷している。

やはり精米機は日本のメーカーのものが多い。微調整が可能で、耐久性にも優れた日本製が好まれる。特に色選別機などはほとんど日本のメーカーである。精米施設を訪問し、機器に日本のメーカー名が入っているのを見るたびに、日本のお米づくりにかけるこだわりと技術は本当にすばらしいと誇らしくなる。(具体的な会社名公表は控えたい)

精米工程は前処理でゴミや小石を除去、籾摺り、精米、選別(色選別及び金属除去)、梱包という工程である。日本の大規模な精米工程の場合とほとんど変わらないが、一つひとつの機械が見事に連携され、梱包までされる光景は見事である。また、アメリカの各精米業者は籾摺り後、もしくは精米後にサンプリングし、グレードを判定して、それぞれの顧客にUSグレード認証を発行している。このグレードはUSNo.1(優良)~USNo.6(可)の6段階に分けられ、異物混入(緑米など)度合い、お米の割れ具合、精米ロス度合いなどを総合的に判断して、ひとつの基準として付加価値をつけるものである。

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▲カリフォルニアの精米施設

お米の精米過程で出てきた副産物、もみ殻、糠、割れ米などは実に有効に利用されている。もみ殻はバイオマス発電の原料になる。糠は家畜飼料や化粧品(米油)の原料に、割れ米は米粉になる。精米業者はそれぞれの委託先からこれらを安く買い取り、ビジネスに繋げている。

また最近では、施設を稼働させる電力のエネルギーを90%以上ソーラー発電によってまかなう業者もある。敷地内に敷きつめられたソーラーパネルは、まるで宇宙観測所のようである。

 

品質を保つ工夫

農家の方ならご存じだと思うが、お米の品質を損なうことなく乾燥、精米するにはやはり籾米の水分調整が重要である。収穫時おおよそ18~22%ある水分を乾燥工程でゆっくりかつ均一に14%前後に落とすことが大事である。水分を落としすぎると割れ米が起きやすい。また乾燥が終わって精米まで数週間貯蔵する場合、コクゾウムシなどの被害に遭わないように、炭酸ガスを充填して処理する業者もある。

籾米の状態で貯蔵することで、お米の品質が長期間保たれることは確かであるが、この貯蔵期間が精米までどの程度必要なのか。ということをよく把握して上記の水分調整をしていくことが大事である。また玄米で貯蔵する場合は温度管理が大切である。おおよそ15℃~20℃程度で、湿度の低い場所が望ましい。

このように収穫後の品質維持にも心がけ、お米をおいしく食べていただき、消費者からの好評を聞くことは農家にとってなによりうれしいことであるし、皆さんの今後の糧にもなるはずである。

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文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

カリフォルニアのお米づくりにおける総合防除 -IPM(Integrated Pest Management)とは?-

カリフォルニアのお米づくりにおける総合防除 -IPM(Integrated Pest Management)とは?-

 

お米づくりをする中で、その年の気候や環境の変化によって、思わぬ病害虫の被害に遭われた方もおられるだろう。日本特有の病害虫に対する防除方法は数多くあるが、今回はアメリカ、カリフォルニアのお米づくりにおいて取り組まれているいくつかの病害虫に対する防除方法を、IPM(Integrated Pest Management)、総合防除という視点から皆さんにご紹介したい。

 

IPM(Integrated Pest Management)とは?

IPMとは総合的病害虫管理と訳されるが、できる限り薬剤などの使用を少なくし、圃場周辺を取り巻く環境に応じて、生物多様性、耕種的方法などを組み合わせて病害虫や雑草からの被害を抑えるという管理方法である。またIPMの目的は、人と環境への悪影響を軽減し、健全な農産物を生産することでもある。日本では古くからイモチ病やバカ苗病の対策に、種子の塩水選や温湯処理を行うことが推奨されるが、これもいわばIPMの一つの方法である。

農林水産省は平成17年、「食料、農業、農村基本計画」の中で、環境保全を重視した施策の展開を図ることを目的としてIPMの手法を取り入れ、基本的な実践方法を体系化して図1のようにまとめている。

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図1:IPMの実践体系
引用元:農林水産省、総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針より
http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/g_ipm/pdf/byougai_tyu.pdf

 

この体系図から、以下のように大きく3つの点について言及できる。
① 予防的措置・・・輪作、抵抗性品種の導入や土着天敵等の生態系が有する機能を可能な限り活用すること等により、病害虫・雑草の発生しにくい環境を整えること 。
② 判断・・・病害虫・雑草の発生状況の把握を通じて、防除の要否及びそのタイミングを可能な限り適切に判断すること。(モニタリングと呼ばれる)
③ 防除・・・防除が必要と判断された場合には、病害虫・雑草の発生を経済的な被害が生じるレベル以下に抑制する多様な防除手段の中から、適切な手段を選択して講じること。

誤解してはならないことは、IPMは農薬などを一切使わないということではない。必要に応じて薬剤の使用も認めている。また生産者側の立場に立ち、経済的にコストが合わないような手段の実施は実質的には見送るという姿勢である。要は収益と生産コストを鑑みて、割に合わないことはしないのである。

 

カリフォルニアのお米づくりにおけるIPM

さて、カリフォルニアのお米づくりにおいて、IPMの手法は1981年ごろから模索されてきた。カリフォルニアでも日本と同じようなイモチ病やヨトウ虫の被害も少なからずあるが、主に生産者が心配するのはカブトエビやイネミズゾウムシの被害や褐色菌核病という病気である。

カブトエビは日本では草取り虫などと言われ、水田の除草に貢献してくれるいい生き物であるが、カリフォルニアでは湛水直播によって播かれた種籾の芽を食害する事が問題となっている。また、大量発生して泳ぎ回ることで、水を濁らせ、土の部分に光が当たらなくなる結果、幼苗の成長を阻害するのだ。これをIPMの手法で考えると、まずは湛水後に速やかに播種すること。これは、水を入れて2日以上経つとカブトエビの孵化を促進する恐れがあるためだ。また、モニタリングして脱皮殻などを見つけ、大量発生する兆候がある場合は、一旦、落水して死滅させる手もある。それでも効果がない時は、最終的に除虫菊由来の殺虫剤施用もあり得る。

sougouboujyo2カブトエビ
 引用元:Agriculture and Natural Resources, University of California, UC IPM
http://ipm.ucanr.edu/PMG/r682500111.html

 

イネミズゾウムシはコクゾウ虫の仲間で、稲の葉鞘に産卵して、その幼虫が稲の根を食害する。また成虫は葉を食害して、白線状の斑紋を残す。これを避けるにはまず、棲息元になる水田周りの雑草の刈り取り、または湛水前の十分な浅耕が有効である。土中の卵をできるだけ除くためだ。過去の経験からこの害虫の発生の恐れがあるときは、水面に浮かせるトラップを仕掛け、モニタリングする。大量発生の兆候がある場合は湛水中に殺虫剤の施用も検討される。

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イネミズゾウムシの成虫
引用元:Agriculture and Natural Resources, University of California, UC IPM
http://ipm.ucanr.edu/PMG/r682300511.html

 

褐色菌核病はRhizoctonia oryzae sativaeというカビの菌が原因である。このカビの胞子が水面の葉鞘から発生して茎全体に広がり、灰緑色の斑点を呈して枯らしてしまう。これを防ぐには、前作の藁などの残渣を残さないこと。場合によっては藁を焼却することもひとつの手である。カリフォルニアでは直播栽培のため、日本に比べて密植であるが故に、夜の低気温が続き、深水にしたままにすると、この菌がはびこることも往々にしてある。最悪の場合は塩素系の防カビ剤の施用もあり得る。
sougouboujyo4褐色菌核病の斑紋
引用元:University of California, Agronomy Research & Information Center, Rice.
http://rice.ucanr.edu/files/196737.pdf

 

IPMの有効活用

以上のようなIPMの例を見てもお分かりのように、病害虫の防除の仕方を考える上で、生態系や周りの環境をよく観察し、作付していない時期も含めてどの時期にどの方法がベストなのか、ということを導き出すのがIPMの手法と言ってもいいだろう。今まで手当たり次第にやってきた方法が系統立てて確立できるし、後の予防にも役立つ。 

①原因の選定
②観察とモニタリング
③効果的な対策の組み合わせと予防
というIPMのステップを理解し、有効に活用することで、生産者としての知識と経験にますます「箔が付く」
ことは間違いないであろう。
以下のウェブページに農林水産省が発表している水稲のIPM実践指標モデルがある。http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/g_ipm/pdf/suitou.pdf
皆さんのご参考になれば幸いである。

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

カリフォルニアのお米づくりと除草管理―慣行栽培と有機栽培での除草対策―

カリフォルニアのお米づくりと除草管理―慣行栽培と有機栽培での除草対策―

 

前回でも少し触れたが、カリフォルニアのお米づくりでの除草対策はどうしているのか? と、興味がある生産者の方も多いだろう。日本でもこの除草管理に頭を悩ませている農家の方のお話をよく耳にする。今回はカリフォルニアにおける慣行栽培と有機栽培での除草管理を比べながら、皆さんの参考になれば幸いである。

 

慣行栽培の除草対策

アメリカ、カリフォルニア州でのお米の慣行栽培における除草対策は、やはり除草剤に大きく依存している。除草剤と言っても、雑草の種類や散布するタイミングによって、さまざまな種類や特徴があり、水稲栽培においてはおおよそ15種類以上もの主流な除草剤がある。代表的なものに商品名"Londax"(ロンダックス)というスルホニルウレア系除草剤があるが、これは水草、特にコナギ(アメリカコナギ)などの葉を枯らす。また商品名"Cerano"(セラーノ)という塩素系除草剤は、ヒエ(イヌビエ)などを駆除するために使われる。

そうして除草剤の散布は例のセスナ機で行われることが多いが、薬剤の濃度、散布量、タイミングなどは厳密に計算、計画されて実施される。また、2種類以上の除草剤を組み合わせたり、落水したり、深水にしたりして、薬剤の効能を生かすように工夫している。農家一人ひとりを見ても、この面倒な薬剤使用について知識が乏しいので、Pest Control Advisor(PCA-ペストコントロールアドバイザー)という資格を持つ専門家に頼ることが常である。このPCAはカリフォルニア州の『Department of Pesticide Regulation(DPR)という農薬や化学肥料の法的な使用規制をする機関から認証されている。薬剤散布を専門とする会社とPCA、そして農家の三位一体的な役割によって、除草対策がなされているのである。

除草剤を使うことで、まわりの環境、特に水質や土壌浸透が問題になる。そこで農薬会社は即効性があり、かつ残留期間が短い新商品を開発し続ける。しかし、自然界は皮肉なもので、その薬剤に対して耐性をもつ雑草が出てくるようになる。数年前には効いた薬剤がだんだんと効かなくなるのだ。また、今までに見たこともないような雑草も毎年のように発見される。どこまでも果てしなく続く「いたちごっこ」のようだ、と思うのは筆者だけではないはずだ。

jyosoukanri1セスナ機による除草剤散布の様子

 

有機栽培の除草対策

有機栽培における除草対策は、機械除草と水管理に尽きる。機械除草といっても、日本のように水稲の株間に除草機を走らせるようなことはしない。基本的に田植えはしない直播栽培であるので、種を播く前が勝負である。播種前に浅く湛水して、水生雑草を生やし、落水後、浅耕して除草を繰り返す。ある有機栽培農家は、最終的な浅耕の仕上げにレーキ状の「スプリングピン」のアタッチメントで土壌面をなでるように除草する。土を掘り起こさずに、雑草の種を地表面に出さないようにする工夫である。これは特に乾田直播の場合に採用され、また、あまりにも雑草の繁茂がひどいときは播種後、稲苗の芽が出てからでも、このレーキで除草することも稀にある。

jyosoukanri2レーキ状の除草アタッチメント

乾田と湛水の場合では雑草の種類と生え方が違ってくる。乾田の場合はヒエやスゲ類の草が先に生えるため、稲苗の葉先までわざと深水にして雑草を抑える。湛水の場合は逆に水草が先に出てくることが多いので、稲苗が4葉から5葉程度のときに、落水してこれを枯死させるのである。水田の表面がひび割れるまで極端に乾かすこともある。

このように雑草の生え方を見極めながらの水管理が非常に重要になってくるが、この水管理で気をつけなければいけないことがある。それは、入水に混じって新たな雑草の種を呼び込んでしまわないようにすることである。頻繁に水管理することによってこのリスクは大きくなるが、入水口を2段構えにしたり、側溝の草刈りは必須だ。稲の生長を見ながら、かつ雑草の繁茂具合が収穫に影響しない程度に妥協していくことも、有機栽培には必要なことかもしれない。

jyosoukanri3有機栽培の水田と雑草(イヌビエ等)

有機栽培での除草管理に関して、もう一つ大事なことがある。それは水田と畑作の転作体系をとることである。いわゆるローテーションと呼ばれているものだ。年度ごとにローテーションすることによって、農地の雑草の生態を一定にしないのである。また時には数年ごとに休耕し、カバークロップ(ベッチやアルファルファ)のみを栽培することもある。有機栽培の生産者はそういう長期的な展望を踏まえ、生物多様性を維持することで、持続可能な農業を模索しているのである。

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

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