お米に混じっている黒い米粒は何? 斑点米ができる原因と米農家の取り組み

お米に混じっている黒い米粒は何? 斑点米ができる原因と米農家の取り組み


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普段スーパーでお米を買う人とってはお目にかかることはほとんどないが、農家から直接お米を買ったことがあるという人は、黒い点が付いた米粒が混じっていたこともあるだろう。見栄えの悪さから嫌がる人が多く、時にはクレームになることもある。そもそもなぜ黒い点ができるのか、この黒い点を出さないように農家はどのような対策をしているのかを見ていこう。

 

黒い点“斑点米”をつくる厄介者とは

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斑点米が出来る仕組みについてはご存知だろうか。原因となるのは、米づくり以外にも家庭菜園などでも害虫として扱われる、カメムシである。カメムシはお米が発育する前の柔らかい稲穂を狙って中の汁を吸うのだが、これによってあの黒い跡が残るのである。厄介なのが、精米しても跡が残ることが多く、消費者の手元に届いたタイミングでも見受けられてしまうことだ。

見た目だけなら……とはいかないのが、生産者にとって避けては通れない等級検査だ。お米の等級を決める等級検査は、精米前の玄米で行うため、ほとんどの斑点米がカメムシの吸害の跡をそのまま検査に通さなければならず、見た目で等級を落とすことになる。生産者サイドとしては、等級の低さは収入に直結するため、当然ながら斑点米の被害を未然に防ぐことが重要とされているのだ。

 

カメムシの被害を防ぐ米農家の取り組み

厄介なカメムシからの被害を受けないよう、米農家はあの手この手で対策を講じている。メインとなるのは、薬剤による防除である。稲の穂が出る出穂(しゅっすい)から米の粒が発育・肥大する登熟までの7月から8月末の期間が、カメムシの被害を受けやすい。出穂して間もない、まだ柔らかい状態の玄米(籾ごと指でつぶすと中から汁として出る程度)に対してカメムシが吸引し、斑点となってしまうからだ。そのため、出穂してから登熟するまでの期間に薬剤を散布するが、現在は育苗箱に散布する形で初期防除を行う米農家も多い。

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その他、田んぼ周辺の雑草を刈り取って、カメムシの生息できる範囲を水田に作らないことが大事である。出穂前に周辺の雑草を刈り取ることでカメムシを追い出し、第一波を防ぐのだ。逆に出穂中に草刈りをしてしまうと、カメムシを水田に追い込むという恐ろしい事態になる。そうなると、この期間を避けて作業しなければならないので、もう一度草刈りをする場合には穂の状況を観察し、中の玄米が完全に硬くなった頃まで待つことが必要である。

カメムシによる斑点米の被害を抑えるため、草刈りと薬剤での防除のコンビネーションが重要であり、米農家はこれまでの経験と、常に各機関の情報を収集し、自分の足で自らの稲を調査しているのだ。

 

実際の食味にはほとんど影響しない斑点米

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これまで述べたような取り組みを米農家がいくら講じた所で、斑点米を100%防ぐということはなかなか難しい。しかし、この斑点米が入っているとお米の等級の評価にも関わってくるので、米農家にとっては最後まで頭が痛い。だからといって、斑点米を一粒一粒取り除くなんて、気の遠くなる作業もできない。

最近では、センサーやカメラによって斑点米や着色米を見つけ出し、吹き飛ばすという機械(一般に“色彩選別機”と呼ばれる)を導入する米農家や米屋が増え、私たちが普段目にするお米には、ほとんど斑点米が見受けられなくなっている。

消費者にとっても、斑点米が入っていると「品質や味に影響は無いのか?」と心配の声が上がるかもしれない。食味を落とすのは未熟な青米や生産方法、圃場の土壌などさまざまな条件がある。斑点米だからと言って、決して食味を落とす要素が混入しているとは限らないので安心して欲しい。そもそも斑点米は、精米時に削り落とされてきれいな精米になるか、見た目で残っているが食味に問題のないもの。ひどく被害のあるものについては、未熟米と一緒に精米時にはじかれているので、実際の食味には何ら問題ないのである。

どういった過程で、どういった土壌で、どういった人が育てているのか。人の手がかかったお米こそが、美味しい見た目と食味を兼ね備えることが出来るということを、ぜひ感じながらごはんを食べて欲しい。

アメリカの有機認証制度とカリフォルニアの有機栽培米 -National Organic Program (NOP) と 有機JAS法-

アメリカの有機認証制度とカリフォルニアの有機栽培米 -National Organic Program (NOP) と 有機JAS法-

 

農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術を使用せず、環境への負荷をできる限り低減するなどして栽培・生産されたものを有機生産物と呼ぶが、その認証にはさまざまな基準や検査が設けられる。今回は、アメリカと日本の有機認証制度と、カリフォルニア州における有機栽培のお米づくりについて紹介したい。

 

アメリカの有機認証制度(National Organic Program)

アメリカの有機認証制度は、アメリカ農務省(United State Department of Agriculture、通称USDA)が策定する National Organic Program(NOP)という基準に基づいている。1990年、有機食品生産法(Organic Food Production Act)の制定にともない、およそ10年の歳月をかけて改定しながら文書としてまとめられた。

NOPは作物、畜産物、加工生産物の3つの分野に分けられ、認証機関の審査を受け、認可制度を確立している。この基準をクリアすることによって、有機生産物(オーガニック)として公に認めるということである。いわゆるUSDAオーガニックのラベルを貼れる生産物として、晴れて認められるのである。生産者側にとって一番気になるのは、誰が、どのように認証し、検査に来るのか? そして検査に合格するにはどうするのか? ということであろう。 認可を出すのはUSDAが認めた認証機関が行うが、この認証機関はアメリカ国内で48団体。国外では32団体にものぼる。

amricayuki1引用:USDA Agricultural Marketing Serviceのオーガニックラベル

 

また、カリフォルニア州内にはこの内10団体の認証機関が集中する。代表的なものにCCOF(California Certified Organic Farmers)という団体がある。生産者が有機認証を受けたい場合は、この数ある認証機関からひとつを選び、申請。この申請書はおよそ10ページにもおよび、生産システムの概要を詳しく説明するのだ。これをOrganic System Plan (OSP)と呼ぶ。そして書面での審査が通れば、実際に検査官が農場や施設を検査にやって来るという仕組みである。

検査官は申請書に書かれた内容を吟味して、本当にその通りに実施しているか? ということを見る。いわゆるインスペクションと呼ばれる調査だ。検査官の視点は、生産者が気付かないような禁止農業資材の使用や種苗の入手元、生産と出荷におよぶ記録と、その過程について見ていく。仮にそのインスペクションで基準に合わないことや違反が見つかっても、それを改善すれば再びチャンスはある。一度認証を得れば、定期的なインスペクションをクリアするだけで、半永久的にオーガニック生産物として、お墨付きを得られるのである。しかし違反を繰り返したり、改善が見られない場合は、認証を取り消されることにもなりかねない。要は、生産者側のモラルと有機生産物の普及に対する情熱が問われているのである。

 

日本の有機JAS法

日本における有機認証制度は1992年、農水省が有機農産物ガイドラインの制定からはじまり、1999年、JAS法を一部改正し、2000年に有機JAS法として施行。2006年、有機農業推進法の制定もあり、有機JAS法に基づく有機認証制度が急速に発展してきている。

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引用:農林水産省 有機食品の検査認証制度より

この有機JAS法はもともとCODEX(コーデックス)有機食品ガイドラインという、WHO(世界保健機構)とFAO(食糧農業機構)が共同策定した指標に基づいている。アメリカのNOPも元々はこのCODEXを手本にしているので、ほぼ同じような規格内容となっていると言っていい。日本の「有機農産物」を制度的な面から定義してみると、「CODEXを手本とした国際ルールに基づいた有機JAS法に準拠し、有機農業推進法による生産システムによって生産された農産物」といったところだろうか。

NOPは有機JASより基準が厳しいのでは? という声をよく聞くが、それほどでもないと筆者は考えている。アメリカにおける基準の中で、禁止資材の種類が年々増える傾向にある、ということが、「厳しい」という印象をもたらしているだけである。これは、新しく農薬や化学肥料が開発され、その都度オーガニック基準に見合う製品であるかどうかを吟味した結果、許可されないものが出てきただけで、基準そのものはどちらも大きくは変わらないと思うからだ。

有機JAS認定の手順は、NOPの過程とほぼ同様と考えていいだろう。日本の認定機関への申請からはじまり、書類審査をクリアして実施検査、通れば認可が下りる、という仕組みである。認可が下りれば、上記の有機JASマークが生産物に表示できるのである。このマークにどれほどの価値があるのか? 日本の有機農産物に対する消費者の需要からみて、まだまだ未知数だ。というのが、生産者側からすれば正直なところではないだろうか。

 

カリフォルニアの有機栽培米

さて、カリフォルニア州での有機栽培のお米づくりはNOP基準が検討されはじめた、1993年ごろから模索されてきたようだ。当初は200エーカー(約80ヘクタール)たらず、8戸の農家が取り組んだようだが、現在では18,000エーカー(約7,300ヘクタール)、200戸以上にもおよぶ。

amricayuki3カリフォルニアでの有機栽培の稲穂

有機栽培のお米づくりで一番気がかりなのは、やはり除草対策だ。オーガニック基準で禁止されている除草剤はもちろん使えない。乾田直播方式で播種前に機械除草をしたり、水管理によって水生雑草も抑える努力をしている。また、有機栽培米として消費者に届けるには農家の栽培管理だけなく、分業している乾燥施設や精米所の管理状況も、オーガニック基準に合致していなければならない。特に大量生産で問題になるのが、オーガニック栽培米と慣行栽培米が同じ機械や設備を使っている場合である。処理工程での洗浄はもちろん、混ざらないように細心の注意が必要になってくる。そこまでしてオーガニック米をつくる理由は、やはり価格差にある。慣行米に比べて2~2.5倍で取引されるのは、農家にとって最大の魅力であるからだ。

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

そうだったのか!?カリフォルニアのお米の品種 -日本のお米の品種との関わり-

 

アメリカ、カリフォルニアで栽培されているお米の品種にはどんなものがあるのか? 興味がある方もたくさんおられるのではないだろうか。今回は日本のお米の品種の系統も交えてご紹介したい。

 

カリフォルニアでの水稲品種の歴史

カリフォルニアでお米の栽培が始まったのは1909年ごろ。長粒米や短粒米など様々な品種が試験的に栽培されたようだ。中でも日本からの移民によって持ち込まれた“神力”(しんりき)や“渡船”(わたりぶね)(もともとは九州地方の酒米品種)が良好だったようだ。その後“渡船”から育種された“Caloro”が1921年ごろから普及し、1948年ごろにはこの“Caloro”を親として収量の高い中粒米品種“Calrose”(中生、長稈)が育成された。この“Calrose”は現在、カリフォルニアでの主要な中粒米品種の原点である。

その他、1950年ごろ,“Calrose“と“Smooth“(詳細起源は不明)という品種から“CS-M3”という中粒米品種が育成され、この“CS-M3”を親として“Kokuhorose”(国宝ローズ)なる独自の品種も生まれている。この“Kokuhorose”は日本から移民した国府田敬三郎(こうだ けいざぶろう)氏によって大量生産され、現在も彼の子孫による農場(国府田ファーム)で栽培されている。

また近年、日本の“コシヒカリ”から“Calhikari”と命名された短粒米品種も育成され、従来の“アキタコマチ”もそのまま導入されて栽培されてきた。ただ、“アキタコマチ”は残念なことに2017年をもって種苗市場から姿を消すことになった。これは強稈、短稈、早生、高収量を目的に品種改良が進み、それを望む農家の需要が増したことに起因する。収量が少なく、栽培しにくい“アキタコマチ”のような品種は敬遠された結果である。

カリフォルニアにおけるこのような水稲品種の育種は1912年ごろから組織化され、のちにCalifornia Cooperative Rice Research Foundation,Inc が設立。Rice Experiment Station と名づけられた研究施設をもつ。この研究施設はカリフォルニア州、Richvale(リッチベール)市に1500エーカー(約600ヘクタール)以上もの敷地を有している。毎年、所狭しとお米の試験栽培がなされており、アメリカの水稲栽培の発展に貢献し、現在も盛んに研究が行われている。

 

soudattanoka1Rice Experiment Station の試験圃場

 

カリフォルニアで育成されたお米の品種と分類

カリフォルニアのお米の品種名は比較的わかりやすい。長粒米はLongのL、中粒米はMediumのM、短粒米はShortのSがそれぞれ頭文字につく。また、一般に香り米と言われる長粒米品種にはAromaticのAで表記される。その他にも特殊なもの、“コシヒカリ”の改良品種は“Calhikari”、もち米の品種は“Calmochi”、アミロース成分の少ない改良品種は“Calamylow”という。いずれも短粒米品種である。またインド産の長粒米であるバスマティの改良品種は“Calmati“と呼ばれている。これまでに育成された品種はおおよそ40種類にもおよぶ。以下にそれぞれ代表的なものの分類と品種名を簡単にまとめてみた。


【短粒米品種】
“S-101”…… 開発年度:1988、品種特性: 早生、 “トヨヒカリ”を親にもつ。
“S-102”…… 開発年度:1994、品種特性: 極早生、“タツミモチ”を親にもつ。
“Calmochi-101”…… 開発年度:1987、品種特性:極早生、 “タツミモチ”を親にもつ。
“Calhikari-201”…… 開発年度:1999、品種特性:早生、“S-101”と“コシヒカリ”を親にもつ。

【中粒米品種】 
“Kokuhorose”…… 開発年度:1962、品種特性:晩生、“CS-M3”を親にもつ。
“Calrose 76”…… 開発年度:1977、品種特性:中生、“CS-M3”と“Calrose”を親にもつ。
“M-205”…… 開発年度:2002、品種特性:早生、“Calrose”を親にもつ。
“M-105”…… 開発年度:2013、品種特性:極早生、“Calrose 76”を親にもつ。

【長粒米品種】
“L-201”…… 開発年度:1979、品種特性:早生、“IR-8”を親にもつ。
“A-201”…… 開発年度:1996、品種特性:早生、“L-202”を親にもつ。
“Calmati-202”…… 開発年度:1999 早生 “A-201”を親にもつ。

soudattanoka2左から、短粒米のサンプル“S-102”、中粒米のサンプル“M-105”、長粒米のサンプル“A-201”


カリフォルニア産米の日本への輸出動向

カリフォルニア産のお米作付の約90%は、“Calrose”系の中粒米品種である。短粒米品種はほんの8%に過ぎない。この中粒米品種の市場を開拓すべく、日本を視野に入れた生産も試みられたようだ。しかし、1995年、WTO(世界貿易機関)協定、ウルグアイ ラウンド交渉の結果、日本向けに中粒米、短粒米の生産(年間約30万トン)を開始したが、2000年を機に日本での需要が伸び悩み、アメリカのTPP離脱によって先行きは不透明な状態である。

ご存じのように、日本人は国産のおいしい銘柄のお米を好む。カリフォルニア産の短粒米(コシヒカリ系)は主に日本政府の備蓄米や第三国への援助米となる場合が多いようである。また中粒米は一部では料理用に使われるようだが、通常は食品加工や飼料、ペットフードなどの原料になるのが大半らしい。しかし近年、日本食ブームによるアメリカ国内の需要も増えつつある。世界中でこの日本食ブームが盛り上がり、お米の需要が高まれば、安価なコストのカリフォルニア産米の流通が広がるかもしれない。日本のお米生産に携わる方々には是非とも頑張ってもらいたい、と思うのは筆者だけではないだろう。

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

田植えせずにお米をつくる!?水稲直播栽培 Part2 -アメリカのお米づくりと直播のやり方とは!-

田植えせずにお米をつくる!?水稲直播栽培 Part2 -アメリカのお米づくりと直播のやり方とは!-

 

前回に引き続き、今回はアメリカ、カリフォルニアでの水稲直播栽培のやり方について、もう少し詳しく紹介したい。

 

圃場の準備

水田圃場の準備は、冬期湛水もしくは春期湛水の後、落水し、浅耕して行うのが一般的である。一部の有機栽培農家は冬期にカバークロップ(ベッチなどのマメ科)を栽培して、鋤き込んだ後に湛水していることもある。これは水稲以外の作物から水田へと転作する場合によく実施される。また、水稲栽培は基本的に連作圃場だが、地力維持の観点から、他の作物(トマトやコーンなど)への転作も容易に行われる。日本のようにひとつの圃場において、お米の連作をできるだけ維持しようとする感覚は薄いかもしれない。

冬期湛水する主な理由は短期間の内に稲わらなどの分解を促進することと、冬に北方から飛来する数百万羽にものぼる水鳥、渡り鳥の生息地を確保し、野鳥の食餌や排泄物などによる有機物堆積、分解を助長するためとされている。

浅耕は数段階に分けて行われる。まず荒おこし(Plowing)、粉砕(Disking)、整地(Planing)という順序で、深さおおよそ15〜20㎝ぐらいまで耕起するのが通例である。もちろんこの過程で、圃場の均平がGPSシステムなどによって補正される。一般に荒おこしは写真①のようなChisel Plow(チゼルプラウ)、粉砕は写真②のDisk Harrow(ディスクハロー)、整地には写真③のCorrugated Rollers(コルゲートローラ)が使われる。

 

okomechoku2 1①Chisel Plow(チゼルプラウ)

 

okomechoku2 2②Disk Harrow(ディスクハロー)

 

okomechoku2 3③Corrugated Rollers(コルゲートローラ)

 

直播方法

湛水直播の場合は上記の浅耕の後、湛水して、4月後半から5月中旬ごろ飛行機で種籾を散播する。播種量はおおよそ160〜180パウンド/エーカー(18〜20kg/反)である。種籾は一度、水に浸漬され(約24時間)、脱水(約24時間)してから播かれるが、酸素発生剤(過酸化カルシウム)をコーティングされることも多い。発芽に必要な酸素を供給するためだ。このコーティングは日本でも従来、行われてきた。また最近では鉄粉をコーティングし、その重みで種籾が沈むような工夫もある。

注目すべきは湛水前の圃場面の小さな溝である。播種後、この溝の谷間に見事に種籾が入り、発芽するのをはじめて見たときは驚きだった。これは、北カリフォルニアの春先の気候が関係しており、この時期、強い季節風がよく吹く。この風は水田の水面を波立たせ、種籾をその溝に導くのだ。      

okomechoku2 4湛水前の溝の様子

 

乾田直播は浅耕後に汎用播種機で条播される。種籾は浸漬しないで播かれることが多いが、この播種機にちょっとした工夫がある。V字ディスクの後にヘラ状のプレートを付け、種籾を鎮圧しながら、水または液肥を注入する。発芽に最低限必要な水分を供給するのが目的である。その後、ローラーで表土を鎮圧する仕組みだ。播種の深さはおおよそ8~10㎝。鳥による食害もない。播種量はおおよそ100〜150パウンド/エーカー(11〜17kg/反)である。およそ10日ほどで見事に発芽が揃ってくるが、やはり農家としては発芽が揃うまでの間は祈る気持ちだ。

okomechoku2 5汎用播種機

 

okomechoku2 6播種機の工夫(白いヘラ状のプレート)

 

水稲の発芽と水管理

稲苗は直播後、おおよそ7日~14日の間に発芽が揃って、目視で確認できるようになる。湛水の場合は播種後の水管理に気を配るそうである。前述の季節風や出芽時期をみながら水深の調節が必要になるからだ。一方、乾田は湛水に比べて早期に出芽を確認しやすいが、播種後、4日~5日の間に土中内の種籾を一部、掘り起こして出芽を確認する農家も多い。その後、稲苗の3葉程度から徐々に湛水していく。

okomechoku2 7乾田直播の土中の種籾

 

okomechoku2 8乾田直播時の播種後約10日

水田の水管理は日本と同様、畔と入排水口を作り、管理していく。日本に比べて1枚の圃場面積が大きいので入排水に時間がかかる。農家の経験と感が問われる作業でもある。

一般的な水管理の方法はFlow through System(フロースルーシステム)と呼ばれる。側溝から水を導入し、勾配の高い側から低い側へ順次入れていく。管理コストが安価で、入排水口の設置が容易だという利点がある。


okomechoku2 9一般的な水管理方法(フロースルーシステム)
引用元:
University of California, California Rice Production Workshop, v09 http://rice.ucanr.edu/files/196747.pdf

 

okomechoku2 10畔と入排水口

 

水稲直播栽培について2回にわたってご紹介してきたが、アメリカ、カリフォルニアでのお米づくりが、皆さんの今後の水稲栽培のヒントになれば幸いである。今回はあまり触れなかったが、除草対策や施肥のタイミングなどについてもまた別の記事でご紹介できればいいと思う。

 

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

田植えせずにお米をつくる!?水稲直播栽培 Part1 -アメリカのお米づくりと直播のやり方とは!-

 

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お米農家の方ならお米の直播(ちょくはん)栽培について、一度は耳にしたことがあるだろう。お米づくりの基本としての苗づくり・田植えという作業なしに、直接水田に種もみを播いてお米を収穫するという栽培方法だ。1960年代ごろから模索されてきたが、近年、この直播栽培の実施、研究が盛んに行われ始めている。種もみを直播することによって、苗づくりや田植えの労力を軽減し、お米づくりにかかるトータル的なコストが抑えられ、収量を確保できるということで、取り組まれているのだ。

今回を皮切りに、お米の直播栽培についてその方法をいくつか紹介し、そのメリットやデメリットも含めて、アメリカでの直播栽培のやり方などを参考に、今後の可能性についても考えてみたい。

水稲直播栽培の種類

水稲直播栽培には大きく分けて湛水直播と乾田直播の2つの方法がある。湛水直播とは湛水中に直播する方法で、乾田直播とは浅耕して直播する方法だ。それぞれその特長やメリット、デメリットがある。以下にまとめてみた。

【湛水直播】
代掻き、落水後に水田に湛水した状態(浅水深)で播種(散播、条播、点播)。出芽後、一週間ほど落水して苗立ちを促す。湛水中で出芽、苗立ちを安定させるために種子に様々なコーティング(酸素発生剤など)を施すことが多い。

○メリット
代掻きによる雑草防除、漏水の心配がない。悪天候の中でも作業が可能。

●デメリット
代掻き、コーティング作業が必要。播種には田植え機に播種機をセットするなど工夫がいる。


【乾田直播】
冬季湛水もしくは春季湛水した水田から完全に落水後、浅耕し、播種(条播)。地表面から深めに播種される。出芽後、3葉期ごろから徐々に入水。種子へのコーティングはされない。 

○メリット
代掻き、コーティング作業が軽減できる。播種に汎用播種機が使え、作業の効率が増す。苗立ちが安定し倒伏が少ない。

●デメリット
雑草防除、管理が難しい。悪天候による作業が困難。浅耕の度合いと土壌水分の調節に工夫が必要。

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日本の水稲直播栽培の現状

日本では湛水直播が主流だが、近年では乾田直播も増えてきている。平成26年農林水産省の調べでは、湛水直播栽培の面積は全国で17,812ha、乾田直播栽培は8,835haとなっている。地域別にみてみると、湛水直播は北陸地方が7,545haで1位、東北地方が6,275haで2位。一方、乾田直播は中国四国地方が2,502ha、次いで東海地方が2,452haだ。水稲直播栽培の全体的な推移では、全国で26,798haあり、全水稲作付面積157万haのおおよそ1.7%にあたる。直播栽培の可能性はこれからますます広がっていくかもしれない。

 

アメリカの水稲直播栽培

アメリカでの水稲栽培は、まず直播栽培が基本だ。田植えという作業は、プロの農家はまったく行わないと言ってもいい。直播の方法は上記の湛水と乾田の両方があるが、湛水直播が主流だ。この湛水方法が日本とは違い、水田いっぱい水深12センチほど水をはり、飛行機で種もみを播いていく。いわゆる散播というやり方だ。毎年5月の初めごろになると、セスナ機が種もみを積んで、水田スレスレに飛びながら種を播いている光景は圧巻だ。1枚の水田圃場の規模はおおよそ10ha~200haとさまざまだが、水田の水管理のためには、日本と同じように畔で区切られている。種を播くセスナ機はその畔を飛び越え、一度に数枚の水田をまたいで種を播いていく。

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乾田直播は、アメリカ南部テキサス州などで従来行われていたが、最近、カリフォルニア州でも乾田直播栽培する農家がチラホラ出てきた。日本では乾田直播の場合、除草剤とセットにして考えていくのが通例で、少しイメージしにくいかもしれないが、農薬や化学肥料を使わずにお米づくりをするアメリカの有機栽培農家は、従来の湛水栽培よりも乾田栽培を採用している。その主な理由には土壌管理や害虫防除がしやすく、飛行機で種を播くよりコストが抑えられ、手持ちの汎用播種機などを利用できるからだ。そして稲が倒伏しにくく、収量も上がり、作業性も効率がいい。オーガニックの農産物が脚光を浴びて久しいが、近年、人々の小麦グルテンアレルギーなどに伴い、グルテンフリーなる小麦を使わない製品の人気が出てきている。お米はもちろん、グルテンフリー。オーガニックで、かつグルテンフリーのお米が注目を集めつつあるのも現状だ。先進的な有機栽培農家は、乾田直播栽培のメリットを最大限に生かして付加価値の高いお米づくりに挑戦している。

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今回はPart1ということでみなさんに直播栽培について概要を紹介させていただいた。次回はもっと詳しく、アメリカでどのように直播栽培しているのか? 圃場の準備や播種機の工夫、どんな風に苗が育っていくのか、など、技術的な面を中心に紹介したい。

参考資料:平成26年度 農林水産省 最近の直播の状況より http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/zikamaki/z_genzyo/attach/pdf/index-5.pdf

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

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