オーストラリアのお米はなぜ8割輸出が可能なのか 〜後編「効率の良い輪作とニッチ分野の研究開発」〜

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オーストラリアでは、生産されるお米の内80%は輸出される。前編では、輸出率が高い理由の一つとして、オーストラリアの米協会がお米の品質の維持に力を入れており、それがグローバル的に高く評価されていることをお伝えした。では実際に、稲作を行う上ではどのような工夫をしているのだろうか。後編では「効率の良い輪作とニッチ分野の研究開発」について詳しい内容をご紹介する。

 

水不足に悩むオーストラリアの稲

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オーストラリアは一つの国でありながら国自体が一つの大陸になっているため、気候的には温帯から亜熱帯まで幅広い気候帯に分かれている。この中で、現在稲作を行っているのは、前編でもお伝えしたようにビクトリア州とニューサウスウェールズ州の境にあるマレー地区だけである。この地区では冬は気温が5度前後まで下がり雨が多いが、夏は雨が少なく気温は40度前後まで上がるという気候になっている。オーストラリアの米協会によると、このマレー地区には良質の粘土層が広い範囲で広がっているためジャポニカ米を生産するのに適しているとのことであるが、その一方で水不足が深刻な問題になっている。そのため、稲作にとって欠かせない大量の水の確保が最も大事な仕事の一つになっているのである。

 

水確保のための対応策とは

水の確保には、いくつかの具体的な対応策を立て実施している。まず、水が地下に漏れていかないよう粘土質の土壌が3m以上ある農地に対してのみ稲作の許可を出す。そして確保できる水の量を確認し、その量で稲作を続けられるように、許可を与える農家の数を規制するのだ。灌漑管理には政府が定めた「農地と水の管理計画」に基づき、灌漑専門業者に委託して最低限の水で稲作が続けられるよう水をリサイクルしている。

さらに「輪作」を通して稲作に必要な水の量を調整する。輪作は、世界各地で広く行われている農作方法。一般的に、同じ土地に5年から10年のサイクルで異なる種類の作物を植えていく方法で、これにより土壌の栄養のバランスが取れ、収穫量も増え、最終的に作物の品質も向上することがわかっている。また害虫や病害、雑草などを減らすうえでもメリットが大きい。こうした輪作をオーストラリアの稲作農家も行っているわけだが、オーストラリアの水不足という問題を解決するのにも、この輪作が大きな効果を発揮しているのである。

 

オーストラリアの輪作のやり方

australia kouhen3Photo by Evi Radauscher on Unsplash

オーストラリアの稲作業では、輪作は4~5年のサイクルで行い、稲作を行わない時は麦を植えたり、農地を放牧に使ったりするのだが、これを稲作農家の間で交互に行う。例えばAさんが稲作を行っているときにBさんは麦作を行い、Cさんは家畜を飼うといった具合にアレンジするので、稲作に使う水の量を調整できることになる。


また数年のサイクルによる輪作ではなく、1年に稲作と麦作を実施する二毛作も一つの輪作として行われている。稲作対応のための麦作との二毛作については、オーストラリアのニューサウスウェールズ州の第1次産業省が発行した「稲作直後の麦作について(Growing wheat straight after rice)」と題した資料で詳しい内容が紹介されている。資料の中では稲作の時期と麦作の時期に分けてそれぞれ注意すべきことを明記している。例えば、お米の収穫期は秋であるが、その直後に種蒔をする麦は、秋から冬にかけて成長し初夏に収穫となる。ところがオーストラリアの米どころマレー地区は、冬になると雨が多くなり洪水になることもあるため、麦作には排水が良く水が溜まりにくい耕地を選ぶよう指示している。


また、種まきの時期も早めにできるよう計画し、その計画通りに実施すること、そして撒く麦の種の量と肥料の量を多めにすることなども明記。2016年に行われた稲作農家の調査によると、上述の二毛作による輪作によって1ヘクタール当たりの麦の収穫量は4トンになっている。2016年の時点ではこの二毛作を行っている稲作農家は32%だが、さらにより多くの田んぼで二毛作が実現すれば、農家の収入も増えることになり、しかもお米にとっても良い土壌が作られることになるため一石二鳥の効果を生むと考えられている。

 

研究開発により競争力アップし持続可能な稲作を目指す

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より良いお米作りを目指して生産性を上げ、国際的な競争力を付けることが第1の目的に、オーストラリアの稲作においても研究開発に力を入れている。

例えば短期間で収穫できる品種の開発などが挙げられるが、同時に、ニッチ分野を探し出しそれに合った品種の開発にも力を入れている。その一つが、お米を意外とよく食べる中近東向けに開発した“レイジク(Reiziq)”というお米の開発である。“レイジク”の粒は、長さが5.82mm、幅が2.62mm、水分20~22%となっていて、日本のコシヒカリなどと比べて長粒米。このタイプのお米がピラフや炊き込みごはんなどの家庭料理を食べている中近東で需要があったため、オーストラリアの稲作研究所は品種開発をして、“レイジグ”の輸出に結びつけたのである。

このように経済的な目的から行われる稲作の研究開発の他に、持続可能な稲作を実現するために野生の動植物と共存できる方策も考え出し、実施している。その一つが「生物多様性戦略と計画」というプロジェクトだ。オーストラリアの稲作地帯には野生の鳥やカンガルーなどオーストラリア特有の動物も生息している。そのため、そうした動物たちを保護し共存できる対応策が必要だ。一つのやり方として、田の管理だけでなく近くに別の土地を確保し、動物たちが餌としている野生の植物を植える。そうして乾季でも十分な水が供給できることにより、餌となる植物が枯れないようにするという方策がある。

「オーストラリアのお米はなぜ8割輸出が可能なのか」の後編として「効率の良い輪作とニッチ分野の研究開発」について具体的にどのようなことが行われているかをご紹介した。オーストラリアの稲作業界が、「水不足」という日本とは異なる自然環境に対して、様々な工夫をしながら対応している様子や、研究開発やニッチ分野を見つけてお米の輸出を増やしていること。さらに続可能な稲作を目指し動植物と共存できる道を模索していることなどを、ご理解いただけたのではないだろうか。今後、気候変動など環境の変化や様々なニーズに対応していく上で、日本における稲作にとって何らかのヒント参考になれば幸いである。


参考サイト:
輪作
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BC%AA%E4%BD%9C

GROWING WHEAT STRAIGHT AFTER RICE -Rice Extension
https://riceextension.org.au/documents/2018/3/16/growing-wheat-straight-after-rice

Growing wheat straigt agter rice -Department of Primary Industries
https://static1.squarespace.com/static/5a03c05bd0e62846bc9c79fc/t/5aab086088251bc595915f3d/1521158242205/Primefact-1617-Growing-wheat-straight-after-rice.pdf

Ricegrowers' Association of Australia INC
https://www.rga.org.au/Default.aspx

 

文:Setsuko Truong
オーストラリア、メルボルン在住のライター。オーストラリアにいる日本人向け新聞への執筆のほか、趣味の旅行や海外生活の体験を活かして、観光や異文化比較、ライフスタイルなどについての執筆を行っている。

カルシウムが植物に与える影響と、稲作におけるカルシウム

これまで本サイトでご紹介してきた多量必須元素はいずれも、不足するとイネやそのほかの植物の生長が正常に進まなくなるくらい重要なものであった。今回その役割をみていく『カルシウム(Ca)』も例にもれない。多量ではなく『中量必須元素』と記述されることもあるが、いずれにせよ必要なことには変わりない元素である。植物にとってのカルシウムとは、どのようなものなのであろうか?

 

細胞壁の構成に需要な役割を果たすカルシウム

植物の体内でカルシウムが特に多く存在している場所は細胞壁である。細胞壁は、固い繊維質であるセルロースが主成分となり、セルロースの周囲をヘミセルロースやペクチンといった多糖類が取り囲んでいる。ヘミセルロースやペクチンは、セルロースの繊維同士を固定する接着剤のような役割を果たしている。ヘミセルロースは茎・樹木の幹などの固い組織の細胞壁に多く見られるが、ペクチンは柔らかな葉や新芽、果実などの細胞壁に多い。このペクチンが、分子同士の結合にカルシウムを必要とするのである。人間にとってのカルシウムが骨の形成に不可欠な成分であるように、植物にとっても細胞の構造維持にカルシウムが重要なのだ。

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さらに、カルシウムは植物細胞内の情報伝達や酵素の活性化、光合成生産物の輸送に重要な役割を果たすとされる。また、カルシウムが十分に供給されている植物は病原体や環境ストレスへの耐性が高いことも知られている。

 

カルシウム欠乏の症状は『植物の上部』で気づく

カルシウムは根から吸収され、植物体内では水の移動(蒸散)に伴ってそれぞれの組織へ輸送されるが、特に生長の盛んな若い葉や新芽では細胞壁の構成にペクチンが多用されるため、カルシウムの必要量も多い。そのため、カルシウム不足が生じると植物上部の葉や芽が黄変したり、枯れるなどの症状が見られるようになる。

カルシウム同様に多量必須元素に数えられるマグネシウムは、不足すると下部の葉から黄変や枯れの症状が出始める。これは、葉緑体の構成成分になるマグネシウムが不足した場合、下部の組織からより光の当たりやすい上部の葉へマグネシウムを再移動させることができるためだ。その一方、カルシウムは一度各組織に送られると、ほかの場所へ再度移動することがほとんどできない。それもあいまって、上部の葉から黄変や枯れの症状があらわれやすいという違いが生まれるのである。

実際のところ、上部の葉よりも根の生長不良が先に起こることも少なくないのだが、地下の根の変化よりも、葉の枯れのほうが目に見えて気づきやすいだろう。

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さて、イネの生長においてもカルシウムは重要であるが、イネは体の支持や保護のためにケイ酸を好んで使う植物(ケイ酸植物)であり、多くの果菜類よりもカルシウムの含量は低いといわれている。そのためか、イネのカルシウム欠乏を調べても、あまり実例や症例が見つからない。

 

とはいえ、イネのカルシウム欠乏を検討した実験もある。伊藤・藤原(参考文献5)の研究によると、正常なイネの苗をカルシウムが極端に少ない土壌に移植して育てた場合、カルシウムが十分ある土壌に移植したものよりも生育が悪くなった。地上部も地下部も生長が抑制され、移植後1か月ほどでやはり上部の葉から枯れ始めて、最終的に枯死してしまったと報告されている。また、三宅・高橋(参考文献6)はカルシウムの施肥でイネの収量が増加したことを報告している。やはり適切な量のカルシウムはイネの生育にも欠かせないのだ。

 

カルシウムの施肥は慎重に!

カルシウムを含む物質で畑や田んぼへ散布されるもの(石灰質肥料)といえば、消石灰、生石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、石灰窒素などがある。これらの散布の主目的は土壌のpH 調整であることが多いが、カルシウムの供給という点でもイネや野菜の健やかな生長に寄与しているはずだ。またイネの場合は、刈り取り後の稲藁のすき込みなどでも、藁に残存するカルシウムを循環させることになる。

 

ただし、石灰質肥料の成分によっては、散布のしすぎで土壌pHが過剰に高くなってしまうものがある。アルカリ性の強すぎる土壌では、カルシウム以外の必要成分が土壌に保持されにくくなったり、それらの成分の吸収が妨げられることがあり、最終的には植物へ悪影響となる場合がある。また、カルシウムが十分にふくまれている土壌でも、同じところに窒素やカリウム、マグネシウムなどが過剰に存在すると、根からのカルシウム吸収が阻害されるといわれている。

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イネの生育中に上部の葉の枯れや生長不良、根張りの悪さが気になったら、やみくもに肥料を与えるのではなく、まずは土壌の検査を受けてみることをおすすめしたい。その結果を踏まえ、石灰質肥料の種類や量を慎重に検討しよう。土壌の検査や分析を行うと、数々の元素の割合やpHなどの結果が数字として目の前に現れる。それらの情報を十分に活用できれば、よりよいお米作りの大きな力になるはずだ。
 

 

●本サイトでご紹介してきた多量必須元素

・ケイ素

植物の生育に必要な『元素』たちと、イネの生長を左右する『ケイ素』

https://rice-assoc.jp/for-famer/32-cultivation/178-2019-03-09-06-00-01.html

・硫黄
土壌中の欠乏・過剰に要注意! 硫黄とイネの関係。
https://rice-assoc.jp/for-famer/32-cultivation/183-2019-03-16-13-18-56.html

・マグネシウム
成長や食味に好影響! マグネシウム(苦土)とイネの関係
https://rice-assoc.jp/for-famer/32-cultivation/193-2019-04-09-05-27-21.html

 

参考文献:

1.http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=10998

2.http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=10998

3.https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id318.html

4.下瀬昇(1964).作物の塩害生理に関する研究(第5報)水稲の塩害とカリウム欠乏,カルシウム欠乏の関係 日本土壌肥料科学雑誌,35,148-151

5.伊藤信・藤原彰夫(1967).水稲のカルシウム栄養について 日本土壌肥料科学雑誌,38,126-130

6.三宅靖人・高橋英一(1992).カルシウムの多量施肥がイネの収量・ケイ酸吸収に及ぼす影響 日本土壌肥料科学雑誌,63,395-402

7.http://lib.ruralnet.or.jp/genno/yougo/gy234.html

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)

“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

成長や食味に好影響! マグネシウム(苦土)とイネの関係

植物が成長するうえで必須となる元素の一つに『マグネシウム』がある。農業や園芸をやる人であれば『苦土(くど)』という名前のほうが身近かもしれない。カルシウムやそのほかの元素とともに『ミネラル』とひとくくりにされがちだが、マグネシウムは植物にとって欠かせない元素の一つだ。今回は、植物とマグネシウムの関係や、イネにおけるマグネシウムの重要性をみていく。

 

マグネシウムは動物にも植物にも大切な元素

『マグネシウム(Mg)』は元素番号12、自然界や土壌中のみならず、植物や人間の体内にも多く存在する金属元素である。酸素と結びつきやすい性質があるため、自然界では酸化マグネシウム(MgO)となったり、塩素と結びついて塩化マグネシウム(MgCl2)になるなどして存在する、ありふれた元素だ。

日常生活で実感することはほとんどないが、動物および植物の生命維持には、マグネシウムを欠かすことができない。生物の体内に存在するさまざまな酵素のはたらきをスムーズにするのに、マグネシウムが関連しているためである。人間の場合、体に存在するマグネシウムの半分ほどは骨に含まれている。細胞などでマグネシウムが不足した場合には、骨に含まれているものを使って支障をきたさないようにしているのだ。

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植物においては、マグネシウムは酵素のはたらきを補助するという役割に加え、ある重要な物質の材料になっている。それが、葉緑体に含まれる『クロロフィル(光合成色素)』だ。クロロフィルにはいくつかの種類があるが、一般的なクロロフィルはいずれもその構造の中心にマグネシウムが用いられている。

小学生でも知っていることだが、植物は葉緑体(正確には、葉緑体の中に存在するクロロフィルなどの光合成色素)で光エネルギーを吸収し、光合成をおこなっている。すなわち、マグネシウムが不足すれば正常なクロロフィルができず、光合成もうまくできなくなり、成長が妨げられるというわけだ。

 

マグネシウムの欠乏は植物にとって命とり

イネに限ったことではないが、土壌中のマグネシウムが欠乏すると生育中の植物の葉で黄化がみられるようになる。基本的には草体下部の葉から黄化が起きていくが、これはマグネシウムの不足が起きると、植物が上部の光の当たりやすい葉へ優先的にマグネシウムを送るためだといわれている。葉が黄色くなり、ひどい時には枯れてしまうこの現象は、細菌やウイルスの感染によるものと間違われやすい。

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さらに、植物においては根から吸収するリン酸やケイ酸の輸送や、光合成によって生産した糖の輸送にもマグネシウムが必要だということがわかっている。肥料で与えることが多いリン酸も、マグネシウムが適正量存在しなければ吸収されにくいのだ。また、イネにおけるケイ酸の重要性については、以前の記事で上梓した。イネの表面を覆い保護するケイ酸が不足すれば、細菌やウイルスが侵入しやすくなる。ここから、イネの場合はいもち病などが起きやすくなると考えられている。

酵素のはたらきの補助、クロロフィルの原料、無機物の吸収、糖の輸送…マグネシウムが植物にとって重要かつ不可欠な元素であるということがお分かりいただけるだろう。

 

マグネシウムの適切な使用でお米の食味にも変化が?

お米とマグネシウムの関係は、正常な成長のみならず『食味』においても重要だといわれている。玄米に含まれるマグネシウムとカリウムの比であるMg/K比が大きいほど、炊飯したときに粘りが良くなるという研究があるのだ(参考文献6)。粘り気のあるもちもちとしたお米は、日本人の好む食味。成長の観点からも食味の観点からも、マグネシウムの十分な供給には注意する必要がある。

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農業・園芸分野ではマグネシウム、もしくは酸化マグネシウムのことを『苦土』とよび、肥料として用いてきた。さまざまなメーカーから苦土入りの肥料が販売されているが、作物のために苦土を限りなく与えていいのだろうか? イネの体内に吸収されるマグネシウムの過剰で生じる悪影響というのは、あまり明確になっていない。それよりも、土壌中のマグネシウム過剰で問題になるのは、養分吸収の『拮抗作用』である。特定の成分が土壌に過剰に存在すると、それと拮抗する成分の吸収が妨げられてしまう現象だ。

 

マグネシウムが過剰になると、カリウムやカルシウムの吸収が阻害されてしまうことが知られている。逆に、カリウムが過剰であればマグネシウムの吸収が阻害されるため、これらの成分のバランスをこまめにチェックすることが大切だ。『入れれば入れるほど良い』というわけにはいかない成分であるが、適切に施肥することでお米の収量は改善される。稲作をはじめとするすべての農家に、ぜひ注目していただきたい元素なのである。

 

参考文献:

1.公益財団法人健康長寿ネット
  https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-mg.html

2.放射線植物生理学研究室
  http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/radio-plantphys/themes.html

3.農研機構
  http://www.reigai.affrc.go.jp/zusetu/byotyu/blast01.html

4.農業ビジネス
  https://agri-biz.jp/item/detail/14749

5.福岡県農業総合試験場 平成5年3月.福岡県農業総合試験場特別報告 第6号

6.岡本正弘・堀野俊郎・坂井真 1992. 玄米の窒素含量およびMg/K比と炊飯米の粘り値との関係. Japan.J.Breed.42 :595〜603

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

「JAの異端者」が実現した、生態系と調和した持続可能なお米づくり

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「いつの時代も変わり者が世の中を変える。異端者を受け入れる器量が武将には必要である」とは、戦国武将・織田信長の言葉だ。歴史をひも解くと、織田信長自身も「変わり者」であったらしい。現代でもさまざまな分野で、周囲から「変わり者」と呼ばれながら改革をすすめる人たちが多くいる。今回ご紹介する『JA東とくしま』の西田 聖さんもそのひとり。「あいつは変人だから」と言われながらも、彼が推し進めた活動の先には、持続可能な米づくりの姿があった。

 

農協離れが加速――。西田さんが望みをかけた農法とは

JA東とくしまは、徳島県の南東部、紀伊水道と太平洋に面した2市2町(小松島市、阿南市、勝浦町、上勝町)にまたがる組合員戸数8,000戸の農業共同組合だ。2018年夏、徳島県鳴門市のコウノトリが小松島市にも飛来。“飛来”することは珍しいことではないそうだが、この夏はそのまま40日間“滞在”することになり、地元でも話題になっていた。この『コウノトリが40日間“滞在”する』ということがどういう意味を指すのか、最後まで読み進めてもらえるとわかるので、覚えておいてほしい。

janoitansha2▲写真中央に映る鳥がコウノトリ。兵庫県豊岡市から徳島県鳴門市に住み着き鳴門で巣立ちしたという“なるくん”だ。左に映るシラサギと比べると大きさは倍以上

 

そんな自然環境にも恵まれ農業が盛んなこの地域。10年前に外国産米への市場開放によるお米の安価や消費者のコメ離れといった背景から、お米農家の経営が悪化。JA東とくしまでも「農協離れ」をする生産者が増え、危機感を募らせていた。

 

この状況に対し、解決策を託されたのが西田さん。農協で30年以上勤め上げてきた人物だ。西田さんは、お米自体の商品価値を上げること、生産者に向けて低価格で高収量な農法ができないかを考え東奔西走。そこで出会ったのが、『株式会社ジャパンバイオファーム』の代表取締役 小祝政明氏が提唱する「BLOF(ブロフ)理論」だった。

janoitansha3▲2018年3月末に定年退職後、現在はJA東とくしま坂野支所で参与として活躍する西田 聖さん。全国での講演活動など活動は多岐にわたる。(写真は、2019年2月6日に熊本県上益城郡山都町で開催された講演会で撮影)

BLOF理論とは、生態系調和型農業理論(Bio Logical Farming)を意味する。ジャパンバイオファームのホームページによると、

BLOF理論とは、3つの分野に分けて科学的かつ論理的に営農していく有機栽培技術です。太陽熱養生処理を大きな土台として、ミネラルの供給、炭水化物付き窒素の供給が重要となります。全てが相互的に繋がり、それぞれを深く理解し、実践することにより、「高品質」・「高収量」・「高栄養」の作物を栽培することが可能となります。

と紹介されている。

それまで慣行農法でのお米づくりを行なっていた西田さんは、そこから有機農業の理論を学んでBLOF理論に基づき自ら実践。これからの時代を見据え、自然環境を保全し生態系と調和しながら、農薬や化学肥料に頼らない「持続可能な農業」を目指してのスタートとなった。

 

1人から4人、4人から40人……成果とともに増える部会メンバー

西田さんがBLOF理論に基づいたお米づくりをすると、コシヒカリで収量645kg(11俵)、食味値は95点という結果を打ち出した。この結果にはBLOF理論の提唱者・小祝氏も「やっとBLOF理論の証明者が出た!」と太鼓判を押したそうだ。この実証結果を元に、「低コスト・高品質・多収穫」が叶えられると農協内に『特別栽培米部会』を立ち上げた。しかし、生産資材を販売する購買事業に対する懸念から、理事者の中には反対の意見もあった。「低コスト」という“うたい文句”が、農協の事業に相反すると叩かれたのだ。

 「僕なんか変人扱いでしたよ。ごくごく真人間なんですけどね」と笑う西田さん。当初は周囲の賛同はなく、1人でやっていたそう。メンバーが4人になったのが3年目。「それから1〜2年して40人に増えました。そこからの拡散力はすごくて、100人、150人と増えていきましたね」。

広大な田んぼは、壁で覆い隠すこともできなければ、皆が寝静まった夜中に隠れて作業するわけにはいかない。横を通ればどんな田んぼなのか見渡すことができるので、「なんでこんなに(稲が)できてるん?」と、特別栽培米を育てる田んぼの周囲のお米農家は、ずっと気になって見ていたようだ。「低コスト・高品質・多収穫」の結果が目に見えるようになると一気に特別栽培米部会のメンバーは増え、現在は120〜150人ほどが、BLOF理論に基づいたお米づくりを実践している。

 

地元産物の有機肥料を使い、地域とともに目指す持続可能な農業

“特別栽培米”としているのは、1回だけ除草剤を使用するから。これまで慣行農法を行ってきた農家に対し、「有機栽培」といってハードルを上げ、いきなりすべての農薬を使うなというのはとても難しいことだ。特に平均1.5haある田んぼの除草作業は、とても手作業で行える面積ではない。そのため、使う除草剤はJA東とくしまで定めたものを一回のみ使うことにした。

西田さんが目指す「持続可能な農業」には、地元産物を有効活用することも含まれる。実は地鶏の産地別シェアを見ると、徳島県の地鶏“阿波尾鶏”の生産量は、愛知県の“名古屋コーチン”を抜いて全国1位を誇っている。この地鶏の残渣や鶏糞を使った肥料を用いることで、地域資源の循環もはかっているのだ。

janoitansha4▲JA東とくしまの特別栽培米づくりで使われる、鶏の残渣や鶏糞等が原料となっている有機肥料

 

JA東とくしまでは、この地鶏の鶏糞や内臓、骨、ミンチ粕などを原料とした“なっとく有機肥料”という、タンパク質を5割、鶏糞を5割で低温発酵させたアミノ酸肥料を、田植え前に大量に施肥。これにバチルス菌や酵母菌が入っているのだが、それらの作用における酸素欠乏により、雑草の発芽が抑制されていると考えられている。

以上のような状況を見て、特別栽培米で4〜5年目になった農家が「もう草が生えないので除草剤もやめました」と、無除草化するケースも多い。中には条件整備をして完全有機でのお米づくりに移行するという農家もいるという。「低コスト」が実現できるのは、農薬代がかからないことに加え鶏糞が手に入りやすい地理的環境も関係する。こういった鶏糞(といってもほとんどが鶏のタンパク部分の残渣)を使った有機資材の調達が、地元でできるという恵まれた環境。このことも、「10年と歴史は浅いながら、有機栽培への道がやりやすかったという点につながっている」と、西田さんは話す。

 

janoitansha5▲特別栽培米でのお米づくりを始めて4〜5年すると、田植えから収穫まで、雑草が生えることがなくなってくる

特別栽培米部会では除草剤を1回使用するだけで、あとは肥料や覆土など有機資材を使っている。「農協が何をし出したのか」と、様子を見ていた農家たちが次々と特別栽培米を栽培するようになり、それまでの農薬や化学肥料の売上に影響が出ないかと心配されていたが、その分有機資材の消費が上がるようになり、次第に農協の理事会も納得していくこととなった。

 

野鳥が証明する自然のあり方こそ、目指すお米づくりの到達点

現在、西田さんは特別栽培米の農家への指導を行うほか、「オーガニック・エコフェスタ」の事務局長としても多忙な日々を送る。「オーガニック・エコフェスタ」とは、高品質多収穫の技術力のある生産者と野菜本来の力を理解し、新しい食生活の提案を求める生活者、バイヤーとのマッチングを目指すイベント。2019年2月に8回目が小松島市で開催されたが、実は6回目から実行委員長を努めるのがJA東とくしまの組合長である荒井義之氏。荒井組合長もまた、「農薬を売りながらオーガニックなんて……」と周囲からバッシングを浴びながら、「そんなことは関係ない」と、オーガニックの旗を振る人物だ。

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西田さんに今後について尋ねると、「コウノトリのように、本来あるべき生態系を証明してくれるのは、鳥なんですよね。田んぼの中では、食物連鎖の最頂点にいるのが鳥。彼らがやってきてくれることで、その生態系があることを証明してくれるんです。それを小さな範囲でちまちまやっていたらダメ。僕らの合言葉は『点を面に変える。点から面へ』。できるだけ大きな面積にしていくと、1羽のコウノトリが10羽になるかもしれない」。

 

最初に記した、小松島市にコウノトリが40日間“滞在”した話を思い出してほしい。コウノトリは1日90匹のカエルを食べるそうだ。シラサギやカラスなんかと餌の取り合いをしながら、カエル90匹を食べることは容易ではない。それだけのカエルやドジョウといった生物がいなければ、コウノトリ1羽を40日間も養うことはできないということだ。

 

JA東とくしまのこの取り組みが始まって10年になるが、冒頭のコウノトリが滞在した場所が、まさに西田さんたちが特別栽培米に取り組んでいる地域。化学肥料や必要以上の農薬を使わずに続けてきたことが、結果として多様な生態系を復元させた。また、BLOF理論では中干しを行わないのだが、そのことも、カエルの産卵期に田んぼが湛水していることで卵を守り、カエルの成長、増殖へとつながっているのだろう。

 

コウノトリに限らず、さまざまな野鳥たちが田んぼの上を飛び交う。その鳥の数こそが、西田さんが追求する生態系と調和した持続可能なお米づくりが「面」となった成果だろう。かつて里山に普通にあった情景が、蘇る日も近いかもしれない。

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参考サイト:

JA東とくしま/概要

http://www.ja-higashitks.or.jp/gaiyou.html

ジャパンバイオファーム/BLOF理論について
http://www.japanbiofarm.com/report/entry-354.html

オーストラリアのお米はなぜ8割輸出が可能なのか 〜前編「稲作の現状と厳しい品質管理」〜

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最近日本国内では、オーストラリア産のお米が出回っている。質は日本のお米と大きな遜色はなく、農薬を極力抑えた米ということが人気の秘密だ。パンを主食とするオーストラリアで、いったいなぜ国外でも人気となるお米づくりが可能なのだろうか。この疑問に対し、「稲作の現状と厳しい品質管理」と「効率の良い輪作と盛んな研究開発」という前編・後編に分けてご紹介したい。

 

主食がパンのオーストラリアで稲作が始まったいきさつ

オーストラリアは1700年代にイギリス人が入植して作った国だ。そしてイギリス人の主食はパン。それなのに、オーストラリアで日本のようなお米が生産されていることを知った時は理解に苦しんだ。調べてみると、明治時代にオーストラリアに移民した日本人・高須賀譲氏が、オーストラリアに稲作技術を紹介し広まったことがわかった。(高須賀譲氏については『日本とよく似たオーストラリアのお米、豪州に稲作を伝えた日本人『高須賀穣』物語』で詳しい内容を伝えている。)こうしたいきさつがあり、オーストラリアでは現在、主に日本のお米の「血筋」を引くジャポニカ種のお米が生産されている。

 

オーストラリアのお米生産の現状 

現在オーストラリアのお米の年間生産量は、平均として120万トン。これは世界的に見て決して多くはない。実際に国連の『食料及び農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nation)』によると、2017年度のオーストラリアのお米の生産量は世界で42位に過ぎない。しかも乾燥しやすいオーストラリアでは、世界6位の面積(日本の面積の約20倍)を持ちながら、稲作を行っているのがビクトリア州とニューサウスウェールズ州の堺にあるマレー地区のみとほんの一部。また、その年の天気により生産量が激減することもある。ただこうした状況の中でも、1ヘクタール当たりの生産量は約10tと世界で一番高くなっているのだ。

生産したお米のうち80%は輸出。特に近年、世界的にお米の需要が増えていることが、オーストラリアのお米輸出の増加と結びついている。輸出先は中近東、太平洋諸国、北米、アジア諸国など全部で約60ヶ国。輸出するお米の種類ではジャポニカが80%を占めているが、そのほかインディカ、アマル―、ミリン、ランギーなど。また“コシリカリ”は日本からの特別注文として生産し輸出している。

 

国内で消費される20%のお米の行方

australia zenpen2オーストラリアで生産されるお米の内、国内で消費される20%は、日本や中国などのアジア系レストランや近年人気のある寿司ショップなどで消費されている。また、オーストラリアでは多文化主義政策をとっているため、世界各国から移住する移民が多い。そうした人達が家庭で食べるお米はもちろんのこと、多文化に影響を受けた白人系のオーストラリア人も、最近では家庭で寿司やチャーハン、パエリアなどの他民族の料理を作るようになっているのだ。こうしたことが国内でのお米の需要増加につながっていると考えられる。

 

ハイテクを駆使した効率の良い稲作農業

稲作においては高度な先端技術ハイテクを利用して、少人数による生産および貯蔵管理を行っている。例えば、種まきはセスナに種を積み、機内に装備されたコンピューターの画面を見ながらコントロールし均等に種をまく。貯蔵においてもコンピューターで適切な温度と湿度が保たれているかモニターし、お米の質を落とさないよう努めているという。この様子はオーストラリア米生産者協会(Ricegrowers Association of Australia)が公表しているビデオをご参考いただきたい。

 

オーストラリアの厳しい品質管理

オーストラリアでは稲作に限らず、どの分野でも品質の管理が厳しい。理由の一つには、オーストラリアには特有の動植物が生存しているため、そうしたものを保護する観点から環境への配慮が大事な役割を果たしていること。同時に、人権を他のどの国よりも重んじる政策を取っているため、どんなことをするにしても、まず人体や環境にとって安全であることを明確にしたうえで、使用を許すことにしていることがあげられる。

日本の農林水産省がまとめた「諸外国における残留農薬基準に関する情報(コメ)」を見てみると、オーストラリアの農薬使用に対する厳しい規定が分かる。多くの農薬に対して、日本が定める残留農薬基準値よりも厳しい値を表しているのだ。

農業においては多くの国で害虫や病害を駆除するための農薬が使用されており、オーストラリアも例外ではない。ただオーストラリアでは農薬の使用量は最低限に抑えられ、「輪作」や田んぼの管理をうまく行うことにより自然による生物的制御を行っているのが特徴だ。

 

具体的な害虫・病害・雑草対策を指示

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害虫対策に関しては、政府の機関である「第一次産業省」がそれぞれの害虫に対し具体的な方法を小冊子『田んぼガイド(Rice Field Guide)』にまとめ関係者に配布。農薬の使い過ぎを防いでいる。この小冊子では、害虫、病害、雑草の3つの分野に分け一つ一つの種類毎に駆除方法を明記しているが、具体的にどのような内容が織り込まれているかを見てみよう。

 

例えば害虫分野の「オーストラリア・カブトエビ」対策の欄では次のような管理方法を提示している。

australia zenpen4▲オーストラリア・カブトエビ(出典:by Dominik Tomaszewski, https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Triops_australiensis_2.jpg)

「カブトエビの影響は、田に水を入れた後できるだけ早く種まきをすれば、カブトエビが稲に害を与えるような大きさに成長する前に、稲の方が害を受けない段階まで成長し。最終的にカブトエビの害を受けなくなる。そのため、現在カブトエビ用の農薬は指定されていない。」

 

また、輪作による害虫・病害への効果も大きいが、輪作については後編で詳しい内容をご紹介したい。

『オーストラリアのお米はなぜ8割輸出が可能なのか』というテーマに対し、前編として稲作の現状と厳しい品質管理についてお伝えした。稲作の現状の所でお分かりになると思うが、オーストラリアのお米の生産量は世界的に見て決して多くはないが、そのほとんどを輸出できるのは、農薬の使用量を抑えた政策が功を奏し、需要が伸びているからだと言えるだろう。

 

参考サイト:

Ricegrowers Association of Australia INC

http://www.rga.org.au/

National Farmers’ Federation
https://www.nff.org.au/commodities-rice.html

Sun Rice
https://www.sunrice.com.au/

Food and Agriculture Organization of the United Nation
http://www.fao.org/faostat/en/#data/QC

Rice Field Guide
https://www.dpi.nsw.gov.au/__data/assets/pdf_file/0003/504525/Rice-field-guide-pests-diseases-weeds-southern-nsw.pdf

諸外国における残留農薬基準値に関する情報
http://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/zannou_kisei.html

 

文:Setsuko Truong
オーストラリア、メルボルン在住のライター。オーストラリアにいる日本人向け新聞への執筆のほか、趣味の旅行や海外生活の体験を活かして、観光や異文化比較、ライフスタイルなどについての執筆を行っている。

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