世界を救え! 米粒を大きくする遺伝子『GW6a』の可能性

イネゲノムプロジェクトが完了して以降、実にさまざまな遺伝子の働きや仕組みが研究されてきた。それまで解明されていなかったイネの生理的メカニズムや、形質の要因となる遺伝子が解明されるごとに、新品種・新技術への期待が高まっている。今回は、世界の食糧事情を大きく改善するかもしれない期待の遺伝子GW6aをご紹介する。日本のイネ研究が国内の品種開発だけでなく、世界中に恩恵をもたらすかもしれない。

 

世界で続く飢餓の現状と、期待の遺伝子GW6a

2017年9月、国連WFP(World Food Programme)は世界で飢餓に苦しむ人口が増加に転じているという衝撃的な調査結果を発表した。それまで10年以上にわたり、飢餓人口は減少傾向にあったにもかかわらず、2016年には増加に転じ、世界で8億人以上の人が十分な食事をとることができないでいるという。

原因と考えられているのが、各地で勃発する紛争と、急激な気候変動だ。飢餓人口のうち半分ほどが紛争の影響によるものだと考えられるが、「紛争などがない地域でも干ばつや洪水により食料の供給が不安定になっている」と言及されている。物資に溢れた日本にいると『飢餓』という言葉を実感することは少ないが、世界では10人に1人以上が未だに恵まれない栄養状態にあるのだ。また、わが国では少子化の話題に事欠かない一方、世界の人口は増え続けている。安定した食料の確保・充実した栄養供給減の確立は、大げさでなく『人類の喫緊の課題』となっている。

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世界の人口の半分ほどがお米を主食としているともいわれる。お米の収量を上げることができれば、空腹にあえぐ多くの人を救うことができるはずだ。2014年、名古屋大学の芦苅基行教授が率いる研究チームは、お米の生産量を向上させる可能性のある遺伝子を発見し、その発表は多くのメディアにとりあげられた。国内外から注目をあつめるこの遺伝子こそ、お米の粒のサイズを大きくする遺伝子GW6aである。

 

ジャポニカ米とインディカ米の比較から見つかった、米粒の形を決める遺伝子

皆さんご存知の通り、ジャポニカ米とインディカ米は米粒の形が大きく異なる。同じOryza sativaであるはずなのに、米粒が小さく丸みのあるジャポニカ米に対し、インディカ米の米粒は縦に細長い。何がこの形の違いをもたらすのか、研究チームはゲノムが解読されているジャポニカ米の代表“日本晴”と、インディカ米の“カサラス”の遺伝子を比較した。そこで浮上したのが12本あるイネの染色体のうち、“カサラス”の第6染色体にあった遺伝子である。この遺伝子はGrain Weight(粒の重量)に深く関係することから『GW6a』と名付けられた。

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このGW6aを“日本晴”に導入したところ、ジャポニカ米のような丸みは残しつつも、導入していないものよりもひと周り大きな米粒をつけた。また、GW6aを通常よりも強く発現させた個体を作ると、やはり米粒の大きさが大きくなったのだ。それまで知られていなかった遺伝子について研究を行う際、このように『実際に遺伝子を導入して予想通りの変化が得られるか』を確認する実験は大変重要になる。

 

GW6aをイネ以外の作物へ応用できる可能性も……?

研究チームの発表では、日本で流通するジャポニカ米品種へのGW6aの導入は、遺伝子組み換え技術ではなく交配によって可能だと言及されている。伝統的な人工交配技術によってなされる品種改良であれば、消費者にも受け入れられやすいであろう。

この遺伝子により恩恵を受けるのは米食民族だけではない。イネとゲノムが似ている他のイネ科植物への応用も期待されているのだ。すなわち、トウモロコシやコムギなど世界の食料を支える重要作物の収量アップである。イネ、トウモロコシ、コムギは世界三大主食といわれるほど、ヒトの生活に不可欠な作物。各地の作物品種へGW6aを導入し、1粒1粒の大きさを増加させることができれば、人類史に残る食料革命になるはずだ。

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芦刈教授が主導するチームはこれまでにも、イネにつく米粒の数を増やす遺伝子(GN1a)や、穂の枝の数を増やす遺伝子(WFP)を発見してきた。これらの遺伝子をもつような品種の開発も進められているといい、実際に収量アップに成功したイネが世界の食糧問題に大きな風穴を開ける日も遠くないだろう。DNAや遺伝子などといった、普段意識しない生物の仕組みが、人間の生活を大きく変え、たくさんの命を救おうとしている。

 

参考:
国連WFPニュース

http://ja.wfp.org/news/news-release/170915

『コメのサイズを制御する遺伝子の発見』(名古屋大学・生物機能開発利用研究センター)

http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/220141223_nubs.pdf

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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