カリフォルニア米の日本への輸出事情 -カリフォルニアのお米流通組織の戦略-

日本ではTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の締結により、日本の農産物を世界に発信するべく様々な取り組みがなされているが、アメリカ、カリフォルニア州におけるお米の流通においても、日本を視野に入れた市場開拓が検討されている。しかし、日本のお米輸入の仕組みや制度、品種の選定などにやや苦戦しているようである。今回はカリフォルニアのお米流通に関わる諸事情を、日本への輸出という視点で皆さんにご紹介したい。

 

日本のお米輸入制度とカリフォルニア米

日本におけるお米の輸入制度は1995年以来、ミニマム・アクセス米(MA米)として最低限の輸入枠を設け、日本国内のお米生産を保守しつつ、輸入機会を提供している。

このMA米は年間おおよそ77万トンで固定されており、国家貿易上、MA米の枠を超えて輸入するのは難しい仕組みだ。この77万トンの内、10万トン分は一般の輸入業者と顧客の売買が可能な量であり、この売買方式をSBS(Simultaneous Buy and Sell)方式といい、日本政府の入札、監修のもとで行われている。このSBS方式で輸入されるお米(SBS米)が実質的には主食用のお米となり、国内産米と競合することになる。

MA米77万トンの内、アメリカ産米の輸入量はおおよそ36万トン余りあり、おおよそ47%を占める。この36万トンの内、カリフォルア産米は約30万トンで、中粒米、短粒米品種である。しかし実質的にはこの30万トンの内、約80%以上は一般MA米と称され、加工用や飼料用になる。

大部分は“Calrose(カルローズ)”系の中粒米。残りの約20%、おおよそ6万トン弱がSBS米として一般流通が可能な量となるのが現状である。しかし、2014年以降数年は、カリフォルニア州の水不足によるお米の減収から価格が跳ね上がり、輸入量は3,000トンにも満たない量だった。2016年以降は少しづつ増え、15,000トン程度で現在まで推移している。

日本のMA米の状況を平成28年、農林水産省が公表している図があるので参考に見てもらいたい。

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▲日本のMA米の状況(農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/attach/pdf/161007-1.pdf より引用)

 

カリフォルニアのお米流通のしくみ

カリフォルニアのお米流通は、大規模農家、精米会社、共同出資会社などの組織がそれぞれの農家に委託栽培したり、買い付けを行い、流通している。大規模農家ではランドバーグ農場、精米会社ではFarmers' Rice Cooperative(FRC)、共同出資会社ではAmerican Commodity Company(ACC)などが有名である。

彼らはそれぞれ得意な品種や銘柄を持ち、日本のみならずヨーロッパや東南アジアにも販路を築いている。カリフォルニアのこれらの流通組織の特徴は独自に籾米の乾燥、保存施設、精米、梱包機器、保冷施設などを持ち、流通コストを削減することに余念がない。また運送会社を子会社にしたり、お抱え運送会社を持ち、輸送コストも下げるように努力している。またランドバーグ農場などは有機栽培米の流通に特化し、独自ブランドを定着して、様々な品種のオーガニック米や加工品であるポン菓子や水あめまで開発している。  

nihonyushutsu2▲ランドバーグ農場が生産・発売している『SUSHIライス(短粒ブレンド米)』。粘りがある短粒米の料理に使う際に、アメリカで一番人気があるという。

 

カリフォルニアのお米流通組織の戦略

カリフォルニアのお米流通組織は、上記のSBS米の10万トン枠を狙って、その主食用の付加価値のあるお米を日本に向け輸出することを考えている。特に“カルローズ”に代表される中粒米の需要を求めている。

しかし、このSBS方式による入札には、日本側の輸入業者と実需者(流通小売業者)の両者の署名が必要になる。すなわち、お米を買ってくれる顧客を事前に見つけないと輸出がスムーズにいかないのである。また日本ではあまり馴染みのない中粒米の市場開拓にも苦戦している。日本の一部の流通小売業者が“カルローズ米”を販売しているが、SBS方式による輸入量が10トン単位での入札となるためこの量を販売できるマーケティングが必要で、日本側の業者もまだ販売量を劇的に増やすほどには至っていないようなのだ。

そこで、短粒米品種である“S-102”、“Calhikari(カルヒカリ)”(コシヒカリ系)などに焦点をあてて作付を増やしたり、最近では日本からコシヒカリを導入して農家に栽培を委託し始めた。しかしこの短粒米を扱う精米施設が足りない上、水不足や稲の倒伏による減収もある。また、筆者が見聞きしてきた中で一番感じるのは、この短粒米の品質(粘りや食感)が分かるアメリカ人が少ないことである。

お米を分析し、それぞれの成分を吟味しているが、それだけでは分からない特有の“味”に疎いのではないかと思う。この点が日本産の米に対抗できるようなうまい米、売れる米を作り出せない原因のひとつになるのではないかと感じるのである。

nihonyushutsu3▲日本で流通しているカリフォルニア産中粒米カルローズ

かつて“田牧米”で有名な田牧一郎氏が、カリフォルニアでおいしい“コシヒカリ”の量産に成功したが、大規模に日本に輸出するようなことはなかった。中粒米に比べ収量が少なく、生産コストが合わなくなる上、MA米の枠を超えるとかなりの関税がかかり、日本のお米流通価格に対抗できないからだ。

カリフォルニア産の短粒米を日本に輸出するには港引き渡し価格でおおよそ150〜200円/キロ程度に抑えないと難しいのが現状である。農家から買い取る短粒米の籾米の平均価格はおおよそ¢30〜40/パウンド(約60〜80円/キロ)の場合が多いので、いかに精米、輸送コストを抑えるかがカリフォルニアのお米流通組織の課題になるだろう。

 

★カリフォルニアのお米の品種については以下の記事をご参照ください。
そうだったのか!?カリフォルニアのお米の品種 -日本のお米の品種との関わり-

文:madon
アメリカ 北カリフォルニア在住。オーガニックのお米づくりを中心にアメリカ米農家サポート、精米、お米分析などに携わる。目下、持続可能性農業について大学で学びながら奮闘中。

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