食味を低下させる悪者? それとも大切な栄養素? お米に含まれるタンパク質

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一般的には『お米=炭水化物』というイメージが強いが、1粒1粒のお米には炭水化物以外の成分も含まれていることは、稲作農家であればだれもが知っている事実であろう。食味を重視する品種のお米では、“タンパク質量をいかにコントロールできるか”が生産の上で重要なカギになる。一方で、タンパク質はヒトの体に必要不可欠な栄養素でもある。今回は、このお米に含まれるタンパク質について考えてみたい。

 

お米に含まれるタンパク質の成分

乾燥した精米には重量の5〜9%ほど、平均すればだいたい7%ほどのタンパク質が含まれている。このうち、80%以上はグルテリンの一種であるオリゼニンで、残りはプロラミンやグロブリンといったタンパク質だ。これらはまとめて貯蔵タンパク質と呼ばれ、発芽の時に必要な窒素の供給源となる。

収穫されたお米の多くは食味検査を受け、含有成分などが測定されるが、一般的にお米のタンパク質量は“少ない方がおいしい”とみなされる。お米に含まれるタンパク質のうち、食味を落とす原因とみなされているのは主成分のオリゼニンではなく、1割ほどを占めるプロラミンだ。水溶性で消化しやすいオリゼニンと違い、プロラミンは水に溶けにくい。プロラミンは胚乳(精米した時に残る、白い米粒の部分)の表面に多く存在するため、これを多く含む米粒は炊飯時に水の吸収が悪くなってしまう。その結果、炊いたお米が固くパサパサとした食感になりやすいのだ。プロラミンだけがお米の味を決めるわけではないが、食味の低下を促すことは広く認められている。一方で、お米のタンパク質の大部分を占めるオリゼニンと食味の関係性は研究途上である。オリゼニン量の変化が食味にどんな影響をもたらすのかははっきりしていない。

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お米のタンパク質量を左右するのは、栽培時の肥料である。タンパク質の材料である窒素、これを多く含む肥料を与えるほどタンパク質含有量は増加する。しかし、肥料を与えなければ生育不良や収量減に直結する。『いかに適切なタンパク質量のお米を栽培できるか』は、農家の腕前の見せ所といってもいいかもしれない。

 

栄養素としてとらえるお米のタンパク質

それでは、食味にとらわれず『栄養』としてお米のタンパク質を考えてみよう。皆さんは『アミノ酸スコア』という言葉を聞いたことがあるだろうか? アミノ酸スコアは『食品中のタンパク質に含まれる必須アミノ酸の含有バランス』を示す数値で、0〜100の数値をとり、100に近いほど理想的であるとされる。ヒトが摂取しなくては生きていけない9種類のアミノ酸が『必須アミノ酸』だが、この9種はバランスよくとらないと体内で十分に活用できないのだ。特定の必須アミノ酸だけが多かったり、少なかったりすると、いくらタンパク質を食べても体の栄養になりにくい。足りない必須アミノ酸を補うようにおかずを工夫することで食事全体のアミノ酸スコアを上げることは、栄養学の基本とされる。

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そんなタンパク質の代表といえば肉や魚、大豆などの豆類であるが、私たちはお米や小麦などの穀物からも無視できない量のタンパク質を摂取している。

小麦は品種によってタンパク質の含有量が大きく異なり、5~25%まで幅がある。パン作りなどで粘りを発揮するグルテンもタンパク質であり、グルテンの含有量によって薄力粉、中力粉、強力粉になどに分類されている。約7%とされるお米よりタンパク質の含有量が多いことがほとんどなのだが、含有量だけでなくアミノ酸スコアにも目を向けなくてはならない。小麦のアミノ酸スコアが40前後なのに対し、お米に含まれるタンパク質のアミノ酸スコアは60前後。同量のタンパク質を摂取したときに、体内で有効活用されるアミノ酸の量はお米の方が多いのである。

 

お米の生産現場においてタンパク質は悪者扱いされがちだが、特に肉や魚を頻繁に食べられなかった時代には、貴重かつ重大な栄養源であった。食生活が豊かになった現代では、高い食味を求められる品種でむやみにタンパク質を増やすわけにはいかなくなっている。一方で、世界で食糧難や栄養不足に陥っている地域においては、穀物の中でも良質のタンパク質を多く含むお米が担う役割は大きいままである。

 

◆代表的な食品のアミノ酸スコア

   食品    アミノ酸スコア  食品  アミノ酸スコア
鶏卵 100 牛乳 100
牛肉 100 精白米 61
豚肉 100 パン 44
あじ 100 じゃがいも 73
さけ 100  とうもろこし 31

(III栄養指導―厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info03k-04.pdf)より作成)

 

 

タンパク質をコントロールしたお米への期待

以上のように、お米はタンパク質の摂取源として重要であるが、タンパク質の摂取制限がある人にとってはこれがネックとなる。そのため生み出されたのが、タンパク質制限が必要な腎臓病の人向けに開発された“ゆめかなえ”などの、タンパク質含有量の低いお米だ。これはプロラミンではなく、オリゼニン(グルテリン)の含有率を減らした『低グルテリン米』であるため、食味の評価が極端に高いというわけではないようだが、腎臓病患者に白いごはんを食べる喜びを思い出させてくれる貴重なお米である。

近年、小麦アレルギーやグルテンフリー食品への注目が高まるなかで、米食やアレルギーを起こしにくいお米のタンパク質にも高い関心が寄せられている。世界規模での市場を考えた時、お米をタンパク質という観点で考えることも必要になってくるだろう。

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生産現場では品種改良や施肥の技術が向上し、タンパク質の少ないお米を安定して収穫できる農家が増えているが、『タンパク質の少なすぎるお米は、逆に食味が悪くなる』という報告も出ている。お米に含まれるタンパク質と食味の関係や、タンパク質の利用法などの研究が一層進むことを期待したい。

 

参考文献・サイト

古川幸子:米タンパク質がもたらす食味と酒造掛米適性の美味しい関係 日本醸造協会誌,103,145-149(2008年)

亀田製菓のお米研究所
https://www.kameda-okome.com/okome-kometanpaku.html

株式会社アスク たわら蔵
http://www.okomeno-tawaragura-ask.jp/taste/03.html

一般社団法人日本植物生理学会 植物Q&A
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1056

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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