メリットデメリットを知って活用する“籾殻”

近年、籾殻を土壌改良剤や肥料として再利用する方法が注目されている。有機農業や低農薬志向の高まりが背景にあると思えるが、籾殻の利用法に関する情報は散在しており、まとまった比較検討記事はあまり見られない。籾殻を利用する場合、「①生のまま使う、②くん炭にして使う、③発酵させるなど堆肥化して使う」の3つの方法が主に考えられる。今回は、それぞれの使い方のメリットやデメリットをまとめてみたい。

 

籾殻の基礎知識

籾殻を構成している成分は、おおむね炭水化物が80%、ケイ酸が15〜20%、そのほかの微量成分が数%といわれている。籾殻を土中に戻すということは、これらの元素を土の中で再利用することに他ならない。イネのケイ酸は他植物より多いが、籾殻には特に多くのケイ酸が含まれていることも覚えておこう。

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籾殻の成分の中で栄養としての期待ができるのは、ケイ酸と微量成分だ。一般的な肥料に含まれる窒素・リン酸・カリウムの含有量は非常に少ないため、土の富栄養化はあまり期待できない。むしろ、籾殻を土中に埋め込むことは、作物が使う土中の窒素を減らしてしまう『窒素飢餓』という現象を引き起こしかねないと心配されることが多いのである。

 

『窒素飢餓』とは、C/N 比*が高い(目安としては20以上といわれる)ものを植物に与えることで生じる生長障害だ。窒素よりも炭素が極端に多い肥料を土中に入れると、土中の微生物が炭素(有機物)を糧として繁殖するが、その過程で窒素を消費してしまう。窒素を作物に与えているつもりが、逆に作物が使うはずの窒素が減ってしまうのだ。

*C/N 比…肥料に含まれる炭素(C)と窒素(N)の量の比

 

一番簡単な生のままの籾殻

以上の基礎知識を踏まえ、籾殻の3つの利用方法を考えてみたい。

①生のまま使う:

籾殻利用で最も手間がかからないのは、発酵させたり燃やしたりせず、そのままの状態で土壌にすき込む方法だ。籾殻という固い植物繊維が土中に入り込むことで、水はけをよくする『土壌改良剤』としての効果が期待できる。籾殻特有の凹凸に加え、ケイ酸や食物繊維が多いために分解されにくく、効果が長持ちするところが好まれている。また、もともと籾殻は水をはじくが、ある程度の時間水に浸せば保水できるようになる。継続的に土中にすき込んでいくことで、粘土質の土壌も団粒化しフカフカの理想的な土に変化していくという。

 

また、籾殻を入れることでイネが強くなると経験的に感じる農家も多いようだ。田んぼにすき込まれた後のケイ酸の分解速度や動態は未解明の点が多いようだが、籾殻中のケイ酸が分解後にイネへ供給されているとみられる。デメリットとして挙げられるのは、前述した『窒素飢餓』である。C/N 比が 70以上ともいわれるほど含有窒素が少ないためだ。しかし研究者によっては、「籾殻は分解されにくいからこそ、土中へは炭素や窒素が少しずつしか供給されないため、窒素飢餓はそれほど心配しなくてよい」という人もいる。

 

くん炭や堆肥にするとより効果的

②くん炭にして使う:
籾殻を加工して利用する場合の一般的なものが、籾殻をゆっくり低温で燃焼させ、炭(くん炭)にして使用する方法だ。燃焼によって有機物が水や二酸化炭素になることで、燃え残ったケイ酸などの硬い構造物には隙間が生まれる。この多孔質状態になった籾殻くん炭は生の籾殻以上に軽く、通気性や保水性がよくなり、微生物のすみかとなって土壌改良に役立つのだ。備長炭同様、消臭などの効果も期待できる、大変優秀な土壌改良剤だ。さらに、くん炭にするとケイ酸がイネに取り込まれやすくなるといわれている。

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また、高温で籾殻を燃やすと灰になるが、この灰を土壌のpH調整に使うことも可能だ。燃焼の具合によってpHは変化するが、灰や長時間炭化したものはアルカリ性になるので、酸性土壌に散布することがある。

ただし、散布のしすぎによって土がアルカリ性に傾きすぎたりしないよう、注意しなくてはいけない。また、燃焼の際には周囲の住民に煙害が及ばないよう気を配ることも大切だ。

 

③発酵させるなど堆肥化して使う:

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籾殻と米ぬかや野菜くず、家畜糞尿などと混ぜて発酵させ堆肥をつくれば、土質改良だけでなく、肥料として畑の作物に与えることができる。堆肥を作るには素材を上手く発酵させなければならず、時間もかかるが、微生物によって分解された籾殻や野菜くずの成分は植物が吸収しやすい。籾殻を混ぜた堆肥は肥料としてだけでなく、分解しきれない構造物が土をフカフカにさせると評判だ。

混ぜ合わせるものによって肥料としての含有成分は変化するが、窒素を補うため家畜ふんと合わせることが多い。さまざまな作物に広く使える堆肥として人気がある。手間がかかるものの、化学合成されたものに代わる肥料として、青果や花などの農家からも注目されている。米農家を訪れてわざわざ譲ってもらう農家もいるほどだ。

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稲作をすれば籾殻は毎年大量にでる。廃棄物として捨ててしまう米農家もいるが、籾殻を資源と考え重用する動きはあちこちで見られる。さまざまな能力を秘めた便利な素材として、籾殻争奪戦が繰り広げられる日も近いだろう。

 

参考文献:

1.モミガラを使いこなす(農文協,2011)

2.もみがら循環プロジェクトチーム

https://www.pref.nagano.lg.jp/haikibut/kurashi/recycling/shigen/documents/siryo2.pdf

3.もみ殻くん炭の処理および利用(三重大学生物資源学部)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsam1937/62/Supplement/62_Supplement_185/_pdf

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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