土壌中の欠乏・過剰に要注意! 硫黄とイネの関係。

硫黄(S)と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか? 腐った卵のにおいなどを思い出す人もいれば、温泉をイメージする人もいるだろう。窒素・リン酸・カリウムの三大栄養素に比べると印象は薄いが、硫黄も植物の成長になくてはならない元素の一つである。今回は生物の成長に硫黄が及ぼす影響や、イネの硫黄欠乏・過剰で起こる現象をみていく。

 

硫黄は動物にも植物にも大切な元素

動物にとっても植物にとっても、硫黄はなくてはならない存在だ。例えば、生物の体をつくるアミノ酸のいくつか(メチオニンやシステインなど)には硫黄が使われる。細胞が正常にはたらくために必要なビタミンB1(チアミン)やビタミンB7(ビオチン)などの材料としても必須だ。

動物の場合は、爪や髪の毛、関節をつくるケラチンやコラーゲンなどに多く使われる元素でもある。人間の硫黄の主な摂取源は肉や魚などのタンパク質だ。バランスの良い食事を心がける限り、硫黄の摂取不足が起こることはほとんどないが、ベジタリアンなど動物性タンパク質を口にしない人では欠乏症が起こることがあり、爪や髪などに異常が生じるかたちで現れることもあるという。

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植物においても、硫黄は成長に欠かすことのできない元素であることが以前から知られている。硫黄が不足すると作物の成長が悪くなるほか、植物の葉の色が薄くなったり、黄変する様子がしばしば見られる。ぱっと見は窒素欠乏の状態に似るが、硫黄を供給してやらなければ回復しないので、硫酸アンモニウム(硫安)や硫酸カリウム(硫酸加里)を与える。

 

逆に硫黄が土壌中に過剰な場合はどうだろう? 植物に硫黄が過剰に吸収されて起こる悪影響はほとんどないといわれている。その代わり、硫黄が多すぎる土壌は酸性に傾いてしまう。これによって、アルカリ性の土壌を好む植物が育ちにくくなるなどの影響が出るため、硫黄が含まれる肥料の使い過ぎには注意しなくてはならない。

 

硫黄の欠乏は生育障害を引き起こす

自然界には、硫黄は豊富に存在する。とくに火山の多い日本では、土壌中に十分な硫黄が含まれていることが多く、野生の植物で硫黄欠乏がみられることはほとんどないようだ。また、石炭や石油などの化石燃料を燃焼すれば、硫黄は大気中に放出され、雨が降ることで土壌へと供給される。なお、土壌に含まれる硫黄は基本的に硫酸イオン(SO42-)の形で根から取り込まれる。

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それでは、稲作における硫黄の過不足をみてみよう。イネにおいても硫黄の不足は大きな問題だ。硫黄欠乏により、葉の黄変や分けつの抑制などの生育不良が起きることが報告されている。前述の通り、わが国では自然に供給される硫黄が比較的多いのに加え、施肥の効果もあって硫黄欠乏が起こることはあまりない。ところが、カドミウム(Cd)に汚染された農地ではこれが生じることがある。カドミウムは湛水下の土壌中では硫黄と結合し、水に溶けにくい硫化カドミウム(CdS)となるためだ。カドミウムは有毒のため、イネに吸収されないのは良いことであるが、硫黄も欠乏してしまう。

 

土壌中の硫黄の過剰が引き起こす『秋落ち』

硫黄の多すぎる水田も、イネに良くない。湛水下の土壌中では硫酸イオンの還元が進み、硫化水素(H2S)が発生する。硫化水素といえばあの『腐った卵のにおい』でおなじみのガスであり、触れた細胞を傷つける毒性を持つ。健全な土壌であれば発生した硫化水素は鉄(Fe)と結合し、すぐに無害な硫化鉄(FeS)となるため、大きな害が現れることはない。

しかし、長年にわたり使い続けた老朽化水田では、鉄が水とともに流れ出てしまっていることが多い。鉄が少なくなっている水田では、硫化鉄になりきれなかった硫化水素がイネの根を傷つけて成長障害を起こしたり、ごま葉枯れ病が生じやすくなる。根が少しずつダメージを受けることで、生育の後半期である秋ごろに影響が顕著になることから、この現象は『秋落ち』などと呼ばれ、昔から知られていた。秋落ちが生じるような水田へは、硫黄が含まれた肥料を控えるほか、鉄が含まれた肥料を与えること、そして鉄同様に老朽化水田で減少しがちなマンガンやカルシウム、マグネシウムなどを与えるなどの処置が必要だ。

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硫酸イオンの還元は、水温が高い時に良く進む。これまでになく気温の高い日が続くことも珍しくなくなった時代だからこそ、水田中の硫黄や硫化水素の状態を気にかけるようにしたい。

 

参考文献:

1.硫黄欠乏による水稲生育停滞の回避対策 - 宮城県公式ウェブサイト

https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/res_center/topics24-10.html

2.辻藤吾(2000).水稲の硫黄欠乏による栄養障害と硫黄吸収特性 日本土壌肥料学雑誌,71,464-471

3.島根県農業技術センター(2011).水稲のカドミウム吸収抑制対策技術マニュアル

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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