「JAの異端者」が実現した、生態系と調和した持続可能なお米づくり

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「いつの時代も変わり者が世の中を変える。異端者を受け入れる器量が武将には必要である」とは、戦国武将・織田信長の言葉だ。歴史をひも解くと、織田信長自身も「変わり者」であったらしい。現代でもさまざまな分野で、周囲から「変わり者」と呼ばれながら改革をすすめる人たちが多くいる。今回ご紹介する『JA東とくしま』の西田 聖さんもそのひとり。「あいつは変人だから」と言われながらも、彼が推し進めた活動の先には、持続可能な米づくりの姿があった。

 

農協離れが加速――。西田さんが望みをかけた農法とは

JA東とくしまは、徳島県の南東部、紀伊水道と太平洋に面した2市2町(小松島市、阿南市、勝浦町、上勝町)にまたがる組合員戸数8,000戸の農業共同組合だ。2018年夏、徳島県鳴門市のコウノトリが小松島市にも飛来。“飛来”することは珍しいことではないそうだが、この夏はそのまま40日間“滞在”することになり、地元でも話題になっていた。この『コウノトリが40日間“滞在”する』ということがどういう意味を指すのか、最後まで読み進めてもらえるとわかるので、覚えておいてほしい。

janoitansha2▲写真中央に映る鳥がコウノトリ。兵庫県豊岡市から徳島県鳴門市に住み着き鳴門で巣立ちしたという“なるくん”だ。左に映るシラサギと比べると大きさは倍以上

 

そんな自然環境にも恵まれ農業が盛んなこの地域。10年前に外国産米への市場開放によるお米の安価や消費者のコメ離れといった背景から、お米農家の経営が悪化。JA東とくしまでも「農協離れ」をする生産者が増え、危機感を募らせていた。

 

この状況に対し、解決策を託されたのが西田さん。農協で30年以上勤め上げてきた人物だ。西田さんは、お米自体の商品価値を上げること、生産者に向けて低価格で高収量な農法ができないかを考え東奔西走。そこで出会ったのが、『株式会社ジャパンバイオファーム』の代表取締役 小祝政明氏が提唱する「BLOF(ブロフ)理論」だった。

janoitansha3▲2018年3月末に定年退職後、現在はJA東とくしま坂野支所で参与として活躍する西田 聖さん。全国での講演活動など活動は多岐にわたる。(写真は、2019年2月6日に熊本県上益城郡山都町で開催された講演会で撮影)

BLOF理論とは、生態系調和型農業理論(Bio Logical Farming)を意味する。ジャパンバイオファームのホームページによると、

BLOF理論とは、3つの分野に分けて科学的かつ論理的に営農していく有機栽培技術です。太陽熱養生処理を大きな土台として、ミネラルの供給、炭水化物付き窒素の供給が重要となります。全てが相互的に繋がり、それぞれを深く理解し、実践することにより、「高品質」・「高収量」・「高栄養」の作物を栽培することが可能となります。

と紹介されている。

それまで慣行農法でのお米づくりを行なっていた西田さんは、そこから有機農業の理論を学んでBLOF理論に基づき自ら実践。これからの時代を見据え、自然環境を保全し生態系と調和しながら、農薬や化学肥料に頼らない「持続可能な農業」を目指してのスタートとなった。

 

1人から4人、4人から40人……成果とともに増える部会メンバー

西田さんがBLOF理論に基づいたお米づくりをすると、コシヒカリで収量645kg(11俵)、食味値は95点という結果を打ち出した。この結果にはBLOF理論の提唱者・小祝氏も「やっとBLOF理論の証明者が出た!」と太鼓判を押したそうだ。この実証結果を元に、「低コスト・高品質・多収穫」が叶えられると農協内に『特別栽培米部会』を立ち上げた。しかし、生産資材を販売する購買事業に対する懸念から、理事者の中には反対の意見もあった。「低コスト」という“うたい文句”が、農協の事業に相反すると叩かれたのだ。

 「僕なんか変人扱いでしたよ。ごくごく真人間なんですけどね」と笑う西田さん。当初は周囲の賛同はなく、1人でやっていたそう。メンバーが4人になったのが3年目。「それから1〜2年して40人に増えました。そこからの拡散力はすごくて、100人、150人と増えていきましたね」。

広大な田んぼは、壁で覆い隠すこともできなければ、皆が寝静まった夜中に隠れて作業するわけにはいかない。横を通ればどんな田んぼなのか見渡すことができるので、「なんでこんなに(稲が)できてるん?」と、特別栽培米を育てる田んぼの周囲のお米農家は、ずっと気になって見ていたようだ。「低コスト・高品質・多収穫」の結果が目に見えるようになると一気に特別栽培米部会のメンバーは増え、現在は120〜150人ほどが、BLOF理論に基づいたお米づくりを実践している。

 

地元産物の有機肥料を使い、地域とともに目指す持続可能な農業

“特別栽培米”としているのは、1回だけ除草剤を使用するから。これまで慣行農法を行ってきた農家に対し、「有機栽培」といってハードルを上げ、いきなりすべての農薬を使うなというのはとても難しいことだ。特に平均1.5haある田んぼの除草作業は、とても手作業で行える面積ではない。そのため、使う除草剤はJA東とくしまで定めたものを一回のみ使うことにした。

西田さんが目指す「持続可能な農業」には、地元産物を有効活用することも含まれる。実は地鶏の産地別シェアを見ると、徳島県の地鶏“阿波尾鶏”の生産量は、愛知県の“名古屋コーチン”を抜いて全国1位を誇っている。この地鶏の残渣や鶏糞を使った肥料を用いることで、地域資源の循環もはかっているのだ。

janoitansha4▲JA東とくしまの特別栽培米づくりで使われる、鶏の残渣や鶏糞等が原料となっている有機肥料

 

JA東とくしまでは、この地鶏の鶏糞や内臓、骨、ミンチ粕などを原料とした“なっとく有機肥料”という、タンパク質を5割、鶏糞を5割で低温発酵させたアミノ酸肥料を、田植え前に大量に施肥。これにバチルス菌や酵母菌が入っているのだが、それらの作用における酸素欠乏により、雑草の発芽が抑制されていると考えられている。

以上のような状況を見て、特別栽培米で4〜5年目になった農家が「もう草が生えないので除草剤もやめました」と、無除草化するケースも多い。中には条件整備をして完全有機でのお米づくりに移行するという農家もいるという。「低コスト」が実現できるのは、農薬代がかからないことに加え鶏糞が手に入りやすい地理的環境も関係する。こういった鶏糞(といってもほとんどが鶏のタンパク部分の残渣)を使った有機資材の調達が、地元でできるという恵まれた環境。このことも、「10年と歴史は浅いながら、有機栽培への道がやりやすかったという点につながっている」と、西田さんは話す。

 

janoitansha5▲特別栽培米でのお米づくりを始めて4〜5年すると、田植えから収穫まで、雑草が生えることがなくなってくる

特別栽培米部会では除草剤を1回使用するだけで、あとは肥料や覆土など有機資材を使っている。「農協が何をし出したのか」と、様子を見ていた農家たちが次々と特別栽培米を栽培するようになり、それまでの農薬や化学肥料の売上に影響が出ないかと心配されていたが、その分有機資材の消費が上がるようになり、次第に農協の理事会も納得していくこととなった。

 

野鳥が証明する自然のあり方こそ、目指すお米づくりの到達点

現在、西田さんは特別栽培米の農家への指導を行うほか、「オーガニック・エコフェスタ」の事務局長としても多忙な日々を送る。「オーガニック・エコフェスタ」とは、高品質多収穫の技術力のある生産者と野菜本来の力を理解し、新しい食生活の提案を求める生活者、バイヤーとのマッチングを目指すイベント。2019年2月に8回目が小松島市で開催されたが、実は6回目から実行委員長を努めるのがJA東とくしまの組合長である荒井義之氏。荒井組合長もまた、「農薬を売りながらオーガニックなんて……」と周囲からバッシングを浴びながら、「そんなことは関係ない」と、オーガニックの旗を振る人物だ。

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西田さんに今後について尋ねると、「コウノトリのように、本来あるべき生態系を証明してくれるのは、鳥なんですよね。田んぼの中では、食物連鎖の最頂点にいるのが鳥。彼らがやってきてくれることで、その生態系があることを証明してくれるんです。それを小さな範囲でちまちまやっていたらダメ。僕らの合言葉は『点を面に変える。点から面へ』。できるだけ大きな面積にしていくと、1羽のコウノトリが10羽になるかもしれない」。

 

最初に記した、小松島市にコウノトリが40日間“滞在”した話を思い出してほしい。コウノトリは1日90匹のカエルを食べるそうだ。シラサギやカラスなんかと餌の取り合いをしながら、カエル90匹を食べることは容易ではない。それだけのカエルやドジョウといった生物がいなければ、コウノトリ1羽を40日間も養うことはできないということだ。

 

JA東とくしまのこの取り組みが始まって10年になるが、冒頭のコウノトリが滞在した場所が、まさに西田さんたちが特別栽培米に取り組んでいる地域。化学肥料や必要以上の農薬を使わずに続けてきたことが、結果として多様な生態系を復元させた。また、BLOF理論では中干しを行わないのだが、そのことも、カエルの産卵期に田んぼが湛水していることで卵を守り、カエルの成長、増殖へとつながっているのだろう。

 

コウノトリに限らず、さまざまな野鳥たちが田んぼの上を飛び交う。その鳥の数こそが、西田さんが追求する生態系と調和した持続可能なお米づくりが「面」となった成果だろう。かつて里山に普通にあった情景が、蘇る日も近いかもしれない。

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参考サイト:

JA東とくしま/概要

http://www.ja-higashitks.or.jp/gaiyou.html

ジャパンバイオファーム/BLOF理論について
http://www.japanbiofarm.com/report/entry-354.html

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