成長や食味に好影響! マグネシウム(苦土)とイネの関係

植物が成長するうえで必須となる元素の一つに『マグネシウム』がある。農業や園芸をやる人であれば『苦土(くど)』という名前のほうが身近かもしれない。カルシウムやそのほかの元素とともに『ミネラル』とひとくくりにされがちだが、マグネシウムは植物にとって欠かせない元素の一つだ。今回は、植物とマグネシウムの関係や、イネにおけるマグネシウムの重要性をみていく。

 

マグネシウムは動物にも植物にも大切な元素

『マグネシウム(Mg)』は元素番号12、自然界や土壌中のみならず、植物や人間の体内にも多く存在する金属元素である。酸素と結びつきやすい性質があるため、自然界では酸化マグネシウム(MgO)となったり、塩素と結びついて塩化マグネシウム(MgCl2)になるなどして存在する、ありふれた元素だ。

日常生活で実感することはほとんどないが、動物および植物の生命維持には、マグネシウムを欠かすことができない。生物の体内に存在するさまざまな酵素のはたらきをスムーズにするのに、マグネシウムが関連しているためである。人間の場合、体に存在するマグネシウムの半分ほどは骨に含まれている。細胞などでマグネシウムが不足した場合には、骨に含まれているものを使って支障をきたさないようにしているのだ。

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植物においては、マグネシウムは酵素のはたらきを補助するという役割に加え、ある重要な物質の材料になっている。それが、葉緑体に含まれる『クロロフィル(光合成色素)』だ。クロロフィルにはいくつかの種類があるが、一般的なクロロフィルはいずれもその構造の中心にマグネシウムが用いられている。

小学生でも知っていることだが、植物は葉緑体(正確には、葉緑体の中に存在するクロロフィルなどの光合成色素)で光エネルギーを吸収し、光合成をおこなっている。すなわち、マグネシウムが不足すれば正常なクロロフィルができず、光合成もうまくできなくなり、成長が妨げられるというわけだ。

 

マグネシウムの欠乏は植物にとって命とり

イネに限ったことではないが、土壌中のマグネシウムが欠乏すると生育中の植物の葉で黄化がみられるようになる。基本的には草体下部の葉から黄化が起きていくが、これはマグネシウムの不足が起きると、植物が上部の光の当たりやすい葉へ優先的にマグネシウムを送るためだといわれている。葉が黄色くなり、ひどい時には枯れてしまうこの現象は、細菌やウイルスの感染によるものと間違われやすい。

seichouya2(画像はイメージ)

さらに、植物においては根から吸収するリン酸やケイ酸の輸送や、光合成によって生産した糖の輸送にもマグネシウムが必要だということがわかっている。肥料で与えることが多いリン酸も、マグネシウムが適正量存在しなければ吸収されにくいのだ。また、イネにおけるケイ酸の重要性については、以前の記事で上梓した。イネの表面を覆い保護するケイ酸が不足すれば、細菌やウイルスが侵入しやすくなる。ここから、イネの場合はいもち病などが起きやすくなると考えられている。

酵素のはたらきの補助、クロロフィルの原料、無機物の吸収、糖の輸送…マグネシウムが植物にとって重要かつ不可欠な元素であるということがお分かりいただけるだろう。

 

マグネシウムの適切な使用でお米の食味にも変化が?

お米とマグネシウムの関係は、正常な成長のみならず『食味』においても重要だといわれている。玄米に含まれるマグネシウムとカリウムの比であるMg/K比が大きいほど、炊飯したときに粘りが良くなるという研究があるのだ(参考文献6)。粘り気のあるもちもちとしたお米は、日本人の好む食味。成長の観点からも食味の観点からも、マグネシウムの十分な供給には注意する必要がある。

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農業・園芸分野ではマグネシウム、もしくは酸化マグネシウムのことを『苦土』とよび、肥料として用いてきた。さまざまなメーカーから苦土入りの肥料が販売されているが、作物のために苦土を限りなく与えていいのだろうか? イネの体内に吸収されるマグネシウムの過剰で生じる悪影響というのは、あまり明確になっていない。それよりも、土壌中のマグネシウム過剰で問題になるのは、養分吸収の『拮抗作用』である。特定の成分が土壌に過剰に存在すると、それと拮抗する成分の吸収が妨げられてしまう現象だ。

 

マグネシウムが過剰になると、カリウムやカルシウムの吸収が阻害されてしまうことが知られている。逆に、カリウムが過剰であればマグネシウムの吸収が阻害されるため、これらの成分のバランスをこまめにチェックすることが大切だ。『入れれば入れるほど良い』というわけにはいかない成分であるが、適切に施肥することでお米の収量は改善される。稲作をはじめとするすべての農家に、ぜひ注目していただきたい元素なのである。

 

参考文献:

1.公益財団法人健康長寿ネット
  https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-mg.html

2.放射線植物生理学研究室
  http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/radio-plantphys/themes.html

3.農研機構
  http://www.reigai.affrc.go.jp/zusetu/byotyu/blast01.html

4.農業ビジネス
  https://agri-biz.jp/item/detail/14749

5.福岡県農業総合試験場 平成5年3月.福岡県農業総合試験場特別報告 第6号

6.岡本正弘・堀野俊郎・坂井真 1992. 玄米の窒素含量およびMg/K比と炊飯米の粘り値との関係. Japan.J.Breed.42 :595〜603

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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