オーストラリアのお米はなぜ8割輸出が可能なのか 〜後編「効率の良い輪作とニッチ分野の研究開発」〜

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オーストラリアでは、生産されるお米の内80%は輸出される。前編では、輸出率が高い理由の一つとして、オーストラリアの米協会がお米の品質の維持に力を入れており、それがグローバル的に高く評価されていることをお伝えした。では実際に、稲作を行う上ではどのような工夫をしているのだろうか。後編では「効率の良い輪作とニッチ分野の研究開発」について詳しい内容をご紹介する。

 

水不足に悩むオーストラリアの稲

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オーストラリアは一つの国でありながら国自体が一つの大陸になっているため、気候的には温帯から亜熱帯まで幅広い気候帯に分かれている。この中で、現在稲作を行っているのは、前編でもお伝えしたようにビクトリア州とニューサウスウェールズ州の境にあるマレー地区だけである。この地区では冬は気温が5度前後まで下がり雨が多いが、夏は雨が少なく気温は40度前後まで上がるという気候になっている。オーストラリアの米協会によると、このマレー地区には良質の粘土層が広い範囲で広がっているためジャポニカ米を生産するのに適しているとのことであるが、その一方で水不足が深刻な問題になっている。そのため、稲作にとって欠かせない大量の水の確保が最も大事な仕事の一つになっているのである。

 

水確保のための対応策とは

水の確保には、いくつかの具体的な対応策を立て実施している。まず、水が地下に漏れていかないよう粘土質の土壌が3m以上ある農地に対してのみ稲作の許可を出す。そして確保できる水の量を確認し、その量で稲作を続けられるように、許可を与える農家の数を規制するのだ。灌漑管理には政府が定めた「農地と水の管理計画」に基づき、灌漑専門業者に委託して最低限の水で稲作が続けられるよう水をリサイクルしている。

さらに「輪作」を通して稲作に必要な水の量を調整する。輪作は、世界各地で広く行われている農作方法。一般的に、同じ土地に5年から10年のサイクルで異なる種類の作物を植えていく方法で、これにより土壌の栄養のバランスが取れ、収穫量も増え、最終的に作物の品質も向上することがわかっている。また害虫や病害、雑草などを減らすうえでもメリットが大きい。こうした輪作をオーストラリアの稲作農家も行っているわけだが、オーストラリアの水不足という問題を解決するのにも、この輪作が大きな効果を発揮しているのである。

 

オーストラリアの輪作のやり方

australia kouhen3Photo by Evi Radauscher on Unsplash

オーストラリアの稲作業では、輪作は4~5年のサイクルで行い、稲作を行わない時は麦を植えたり、農地を放牧に使ったりするのだが、これを稲作農家の間で交互に行う。例えばAさんが稲作を行っているときにBさんは麦作を行い、Cさんは家畜を飼うといった具合にアレンジするので、稲作に使う水の量を調整できることになる。


また数年のサイクルによる輪作ではなく、1年に稲作と麦作を実施する二毛作も一つの輪作として行われている。稲作対応のための麦作との二毛作については、オーストラリアのニューサウスウェールズ州の第1次産業省が発行した「稲作直後の麦作について(Growing wheat straight after rice)」と題した資料で詳しい内容が紹介されている。資料の中では稲作の時期と麦作の時期に分けてそれぞれ注意すべきことを明記している。例えば、お米の収穫期は秋であるが、その直後に種蒔をする麦は、秋から冬にかけて成長し初夏に収穫となる。ところがオーストラリアの米どころマレー地区は、冬になると雨が多くなり洪水になることもあるため、麦作には排水が良く水が溜まりにくい耕地を選ぶよう指示している。


また、種まきの時期も早めにできるよう計画し、その計画通りに実施すること、そして撒く麦の種の量と肥料の量を多めにすることなども明記。2016年に行われた稲作農家の調査によると、上述の二毛作による輪作によって1ヘクタール当たりの麦の収穫量は4トンになっている。2016年の時点ではこの二毛作を行っている稲作農家は32%だが、さらにより多くの田んぼで二毛作が実現すれば、農家の収入も増えることになり、しかもお米にとっても良い土壌が作られることになるため一石二鳥の効果を生むと考えられている。

 

研究開発により競争力アップし持続可能な稲作を目指す

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より良いお米作りを目指して生産性を上げ、国際的な競争力を付けることが第1の目的に、オーストラリアの稲作においても研究開発に力を入れている。

例えば短期間で収穫できる品種の開発などが挙げられるが、同時に、ニッチ分野を探し出しそれに合った品種の開発にも力を入れている。その一つが、お米を意外とよく食べる中近東向けに開発した“レイジク(Reiziq)”というお米の開発である。“レイジク”の粒は、長さが5.82mm、幅が2.62mm、水分20~22%となっていて、日本のコシヒカリなどと比べて長粒米。このタイプのお米がピラフや炊き込みごはんなどの家庭料理を食べている中近東で需要があったため、オーストラリアの稲作研究所は品種開発をして、“レイジグ”の輸出に結びつけたのである。

このように経済的な目的から行われる稲作の研究開発の他に、持続可能な稲作を実現するために野生の動植物と共存できる方策も考え出し、実施している。その一つが「生物多様性戦略と計画」というプロジェクトだ。オーストラリアの稲作地帯には野生の鳥やカンガルーなどオーストラリア特有の動物も生息している。そのため、そうした動物たちを保護し共存できる対応策が必要だ。一つのやり方として、田の管理だけでなく近くに別の土地を確保し、動物たちが餌としている野生の植物を植える。そうして乾季でも十分な水が供給できることにより、餌となる植物が枯れないようにするという方策がある。

「オーストラリアのお米はなぜ8割輸出が可能なのか」の後編として「効率の良い輪作とニッチ分野の研究開発」について具体的にどのようなことが行われているかをご紹介した。オーストラリアの稲作業界が、「水不足」という日本とは異なる自然環境に対して、様々な工夫をしながら対応している様子や、研究開発やニッチ分野を見つけてお米の輸出を増やしていること。さらに続可能な稲作を目指し動植物と共存できる道を模索していることなどを、ご理解いただけたのではないだろうか。今後、気候変動など環境の変化や様々なニーズに対応していく上で、日本における稲作にとって何らかのヒント参考になれば幸いである。


参考サイト:
輪作
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BC%AA%E4%BD%9C

GROWING WHEAT STRAIGHT AFTER RICE -Rice Extension
https://riceextension.org.au/documents/2018/3/16/growing-wheat-straight-after-rice

Growing wheat straigt agter rice -Department of Primary Industries
https://static1.squarespace.com/static/5a03c05bd0e62846bc9c79fc/t/5aab086088251bc595915f3d/1521158242205/Primefact-1617-Growing-wheat-straight-after-rice.pdf

Ricegrowers' Association of Australia INC
https://www.rga.org.au/Default.aspx

 

文:Setsuko Truong
オーストラリア、メルボルン在住のライター。オーストラリアにいる日本人向け新聞への執筆のほか、趣味の旅行や海外生活の体験を活かして、観光や異文化比較、ライフスタイルなどについての執筆を行っている。

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