全国誌に取り上げられた新商品も。熊本の老舗麹屋『木屋本店』流、商品開発の発想法

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発酵食品ブームに乗り、脚光を浴びた麹


江戸時代の末期、天保年間に創業した老舗麹屋『木屋本店』。九代目の井口裕二さんは日々麹づくりに励んでいる。麹(糀)とは、原料となる穀物(米、麦、豆など)を蒸したものに“麹菌”を付着させ、培養したもので、発酵食品に欠かせない材料。味噌をはじめとした調味料、お酒、甘酒などを作る際に使用されている。

麹の完成.JPGお米に麹菌が付着した状態。神秘的な美しさを感じる


しかしながら、「洋食文化が浸透し、食生活が多様化したことで、麹の消費量は減少傾向にありました」と井口さん。そんな中で訪れたのが、昨今の発酵食品ブーム。特に、“塩麹”は大きな話題となった。
「洋食文化が浸透してきたことで、味噌の消費量は減っているのが現状です。そのため、原料となる麹の消費量も減ってきています。しかし、それはパンを食べる人が増えて、米の消費料が減っているのと同じこと。であれば、お米と同じように、使い方の幅を広げてあげることが重要になると思います。塩麹は、麹の可能性を世の中に広く発信する良いキッカケになりました。といっても、麹は日本に昔からあった調味料なので、突然生まれたわけではなく、巡り巡って再び注目を集めたという感じです。そのブームの根幹にあるのは“健康志向の人が増えて来た”ということだと思います」。

 

消費者の動向に注目し、インパクトのある商品を開発


さらに、井口さんは、ある消費者の変化を感じていたという。それは“体験に喜びを感じる人が増えている”ということだ。
「甘酒を自分で作るという人もいるんです。もち米・麹・ぬるま湯を混ぜて作るのですが、最初は何も変化が起こらない。でも、10時間ぐらい経つと、糖度が40度ぐらいまでぐーっと上がって行くんです。作る人にとっては、その過程が面白いのだと思います。ヨーグルトを家で作る人もいますが、自分でひと手間、ふた手間かけて体験することに楽しみを見出している消費者は増えていると思います」。
事実、『木屋本店』で販売している甘酒の原料となる麹は、関東・関西・九州など幅広い地域から注文が寄せられているという。

IMG_6919.JPG甘酒の原料となる『木屋本店』の甘酒麹

麹をはじめとした発酵食品の確かなブームを実感し、攻めの姿勢を打ち出した井口さん。数々の新商品開発に着手した。
「『木屋本店』では、生麹だけを製造しています。乾燥麹に比べ、生麹は発酵するチカラが強い。だからこそ、全国にも通用する商品が展開できると考えました。まずターゲットしたのは、発酵食品ブームを牽引する若い女性です」

そうして生まれたのが『食べる甘酒 木屋美人』。甘酒をペースト状にした商品で、ジャム感覚でパンに塗ったり、フルーツにかけたり、ヨーグルトや牛乳にも好相性というユニークな商品だ。
「他社の商品にはないインパクトが必要だと思い、甘酒を“食べる”というスタイルにしました。無添加・無加糖・ノンアルコールの体に優しい商品。
お湯を注ぐと甘酒にもなり、お砂糖代わりに料理にもお使いいただけます」。
「朝はパン食」というライフスタイルの人にも訴求ができる、まさに麹の幅広い使い方のひとつ。その独自性が話題を呼び、全国版の女性誌に取り上げられ、注文が殺到。現在も品薄状態が続いているという。
さらに、「麹=和食」の概念を打ち破る商品として開発したのが、『バジル塩こうじ』。塩麹に2種類のバジルをブレンドした香り豊かな調味料で、肉・魚料理、パスタやハンバーグ、カルパッチョなどの洋食と相性抜群だ。

「型にハマらない」「いろんな人に会う」がコツ


そのようなアイデアは、どこから生まれるのだろうか。
「“こうしなきゃいけない”という型にハマると、視野が狭くなります。そうならないために、私が大切にしていることは、いろんな人とコラボレーションすること。例えば、イタリア料理店で『麹とイタリアン』という食イベントを開催しました。シェフに麹を取り入れた料理を作ってもらい、提供するというもので、前菜のカルパッチョに塩麹のソースを使ったり、お肉料理の調味料に使ったり、甘酒をジェラートにしたり。いろいろな提案をしてもらうことで、お客様にも私にも、麹の新しい可能性を見せていただきました。“麹=和食”に囚われることなく、柔軟な発想をするためにも、他業種の人に会い、話をしたりコラボレーションすることを大事にしています」と、井口さんは秘訣を教えてくれた。

最後に、アイデアマンの井口さんから面白い提案が。
「農家さんと麹屋で一緒にできるとしたら、『ビニールハウスで麹づくり』とか面白いんじゃないですかね。麹づくりは温度管理が大切なのですが、ビニールハウスだったらできそうな気がします。地域の農家さんがお米を持ち寄って、そのお米で麹をつくるとか、さらに味噌をつくるとか。“できあがったら取りに来てください”みたいな感じでね。お米から麹ができるまでは4日間、味噌にするにはさらに1日、その味噌が食べられるようになるには1ヵ月ほどの期間がかかります。甘酒ならひと晩、塩麹は1週間でできますよ。消費者や子どもたちを呼んで、ワークショップ形式にするのもいいですね!」
どんどん湧き出る、井口さんのアイデア。興味がある方は、ぜひお問い合わせをしてみて。

 

井口 裕二さん
木屋本店(熊本県山鹿市)九代目
プロフィール:山鹿市出身。山鹿を代表する老舗のひとつ『木屋本店』の九代目として、麹の製造・販売、新商品開発などに精力的に取り組む。バジルと麹を合わせた調味料『奇跡の…バジル塩こうじ』や、ジャム感覚の食べる甘酒『木屋美人』など、手がけた新商品はアイデアにあふれ、評判も上々。山鹿商工会議所青年部の副会長、観光散策ツアー『米米惣門ツアー』のガイドも務めている。

生産者と消費者をつなぎ、商品の魅力を発信する「デザイン」の効能

 

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デザインは生産者や商品の良さを伝えるツールになる

 

 アートディレクターとして、これまでさまざまなデザインを手掛けてきた堀内さんにとって、商品パッケージやショップカード、ウェブサイトは『販売している人や商品の良さを伝えるツール』だという。そんな視点で見てみると、商品自体は良くてもパッケージデザインで損をしていると感じる例も多いそうだ。
 そこで、堀内さん自身が『農家がデザイナーと組んで進めた、一番良い成功事例』として聞かせてくれたのがこんな話だ。
 堀内さんがブランディングやウェブサイトの構築を請け負っているクライアントの1つに、4人で経営する有機農家『ナチュラリズムファーム』がある。以前、堀内さんが主催するマルシェなどで販売をしてもらったところ、お客さんからの反応は上々だったそう。しかし、当時、彼らのショップカードやウェブサイトはなく、「彼らは良いものを作っているのに、お客さんが次に商品を購入したいと思っても買う方法がなかった」という。
 そこで、ウェブサイトを立ち上げ、オンラインで購入できるシステムを構築。生産者と消費者をつなぐ役目を担ったことで、「今では神戸のオーガニックの農家としては、検索するとトップに表示されるようになりましたし、メディアやレストランからの問い合わせも多く寄せられています」。さらに、毎週土曜に開催される神戸市が仕掛けるファーマーズマーケット『EAT LOCAL KOBE』では、最も注目を集める農家のひとつになっているという。クリエイティブやデザインに力を入れることにより、他商品との差別化ができ、新たなマーケットが開拓できたビジネスモデルと言えそうだ。
 間もなく彼らとともにCSA(コミュニティー・サポーテッド・アグリカルチャー)をスタートする。ここではお客さんが農家に2万円を前払いし、スケジュールに合わせて隔週で協賛のカフェに野菜を取りに行くシステムだ。計画的に生産、納品できるため、「農産物のロスが減る上、前もって資金調達できるのが農家にとって大きなメリットになります。野菜を受け取りに来たお客さんがカフェで食事をすれば、カフェの売り上げにも貢献でき好循環を見込めますよね」。CSAは今アメリカで急速に広がりを見せているが、今後日本でも注目を集めそうだ。

rice horiuhi2神戸市のオーガニックファーマー「ナチュラリズムファーム」が出店するマルシェの様子。実はこれ、軽トラの荷台に設営されたもの。そのアイデアやディスプレーも学ぶ点が多い


B to Cで商品のストーリーを伝え、ヒントを拾う


 従来、農業や製造業に従事する人たちはB to Bが一般的で、末端にいる消費者の声を直接聞く機会はほとんどなかった。しかし、神戸の例のように最近ではマルシェやイベントなどでB to Cを体験する場面も増えている。マルシェの企画も行う堀内さんは、お客さんの「おいしい」の声を直接聞いて意欲が高まった農家さんを多く見てきたそうだ。消費者との対話をきっかけにアイデアが生まれたり、ヒントをもらったりすることもあり、商品のクオリティー向上にも結びついているとか。
 ものを購入するときにはさまざま視点があり、その商品が作られる背景を知らなければ、できるだけリーズナブルなものを買いたいという消費者も多いだろう。本来、どこの誰が、どんな風に作っているかは大切な要素。接客の中で商品の裏側にあるストーリーを伝えていくと、商品と生産者への興味が深まる消費者も増えていくはずだ。
 農家の方で、パッケージやロゴなどをデザイナーに依頼してみたいという方もいるかもしれない。そんな時に気をつけるべき点を聞いてみたところ「ノープランで丸投げするのは失敗のもと」とのこと。デザイナーの特徴や作風、実績をあらかじめ調べて、「どこの誰にどんな内容でオーダーしたい」とクリアにしておきたい。より良いものを作るためにも、依頼者とデザイナーでイメージを共有できるように具体的に要望を伝えることが重要だ。
 昨年、堀内さんは熊本の米農家を取材する機会があったそうだ。「その時に食べた米が、人生で食べたなかで一番おいしかった」と笑って話す。その良さを伝え、拡散して、つないでいく。堀内さんは、その仕組み作りこそが自らの担う役割だと考えている。


rice horiuhi3「ナチュラリズムファーム」のお米のパッケージ。「デザインが変わるだけで、農家さんもディスプレイに気を配ったり、見せ方を変えたり、意識が変わってきました」と堀内さん。

堀内 康広さん
TRUNK DESIGN(兵庫県神戸市)アートディレクター
プロフィール:1981年生まれ。2009年、兵庫県神戸市に『トランクデザイン』のオフィス&ショップをオープン。地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインを手がける。12 年には兵庫県のモノづくりを紹介する『Hyogo craft』を立ち上げ、兵庫県の間伐材を使用したオリジナルプロダクト『森の器』、播州織の職人とつくるアパレルブランド『IRODORI』、『megulu』を展開。

米粉+αで新たな切り口を探る。米粉+野菜のデコレーションだんごが食卓進出!?

 

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『デコレーションだんご』ってなんだ?


 創業150年の『中村製粉』がある熊本県菊池郡大津町は水と米が豊富な地域。明治時代には22基の水車があり、米や小麦をひく仕事が盛んに行われていた。当時は、同社でも地元銘菓の『銅銭糖(どうせんとう)』の原料となる米粉を水車でひいていたとか。
 中村さんは同社の4代目。近年、製品開発に力を入れ、平成28年度には産学官商品として熊本県、熊本県幼児美育研究会、中村製粉で県産の米粉に県産の野菜パウダーを組み合わせた粉『デコレーションだんご』を開発した。
 水を加え粘土のようにこねて、好きな形を作り、ゆでて食べられるというものだ。粉に加水すると発色が良くなり、湯がいて熱を加えると、さらに鮮やかな色に変化する。手でこねたり、口の中で食感を感じたり、五感で楽しめるため、食育での活用も見込んでいる。
 同商品を作るきっかけとなったのは、取引先の地元和菓子店から寄せられた「人工着色料を用いず、自然のもので和菓子に色付けできないだろうか」という問い合わせだった。そこで県産の野菜の粉末を用いて色付けすることを思いつき、うまくいったことが商品開発へとつながっていったとか。「インターネットを検索していたら青森県で『食べられるクレヨン』が作られているのを知って、そこからヒントを得て作ったのが、米粉と野菜パウダーの食べられる粘土『デコレーションだんご』でした」。
 『デコレーションだんご』は、米粉にニンジン(オレンジ色)、カボチャ(黄色)、紫イモ(紫色)、ほうれん草(緑色)、赤カブ(ピンク色)、ビーツ(赤色)の6種の乾燥野菜の粉末を加え、全6色を展開。「自然界には青い食べ物がないから、あえて青を作らないことで色や自然に対する認識を深める狙いもあります」という考え方もユニークだ。
 べとつかず、造形しやすいようにと、もち米、うるし米、上用粉など米粉の配合や粒子の大きさで試作を繰り返し、開発に2年間をかけたとか。気になる味は、ほんのり野菜の風味を感じる、まさに白玉団子だ。
 以前から、小麦をベースとした『食べられる粘土』は存在したが、小麦アレルギーの問題があるため、グルテンフリーである『デコレーションだんご』のような米粉ベースの商品であれば、その点をクリアできる利点がある。素材が米粉であることから、高齢者や障がい者の施設での利用も見込めそうだ。
 中村さんの頭の中には「これまで主に和菓子などの嗜好品として食べられてきた米粉を食事として取り入れてほしい」という思いがあった。「夜、家族でコミュニケーションを取りながら団子をこねて、冷蔵庫に保存し、翌朝ゆでると、それが朝食になりますよね。それを弁当に入れると立体的なキャラ弁になります」。米粉の新たな切り口での“食卓進出”を願う、中村さんの思いが詰まった商品なのだ。


『アップルマンゴー』の発想で他商品と差別化を図る

 

 ここで中村さんが持ち出したのが『アップルマンゴー』の話だ。日本でマンゴーといえば皮が赤く、実が黄色の果物を思い浮かべる。しかし、海外で言うマンゴーは皮も実も黄色であることが一般的。『アップルマンゴー』は、シャープの副社長だった佐々木正さんが、学生時代に与えられた「リンゴとマンゴーは接ぎ木できるか」という課題から生まれた果物だという。りんごは寒い地域、マンゴーは南国の果物であり、2つを掛け合わせるのは無理な話だった。しかし、佐々木さんが試行錯誤した末においしい『アップルマンゴー』が誕生したという。「このように真逆のものを組み合わせて新しいものを作る。それを当てはめて、米粉に何かを加えることで、ほかの商品と差別化する。これが先にないと成功は厳しいのではないでしょうか」。

 

クリーンルームを完備し、商品開発に励む


 平成28年3月、同社では製粉業界では珍しいクリーンルームを完備。積極的な新商品の開発に加え、コンタミを防止し米粉や野菜粉末製造の委託受注を増やす狙いがある。同社では米や乾燥野菜の粉砕加工を30kgから請け負っており、小ロットを希望する農家や県外企業からの依頼も寄せられているそうだ。
 すでに新商品も生まれていて、米粉に健康によい成分を豊富に含む県産の“スーパーフード”であるゴボウ、黒ニンジン、菊イモ、ビーツの野菜パウダーを加えた『粋な米粉(いきなこめこ)』を発売したところだ。中村さんは、米粉とスーパーフードが融合し、機能性に富んだ“ハイブリッド米粉”と位置づけている。「食べ方としては、例えば小麦粉の代わりにビーツ配合の粉で餃子の皮を作れば、赤い餃子になっておもしろいですよね。なおかつ機能性もあります」。
 中村さんいわく「“粋”という単語は英語では言い換えが難しい日本ならではの言葉で、3年後に控えた東京五輪を見据えて商品名を考えた」とか。昨今、プロテニス選手のジョコビッチをはじめ、多くのスポーツ選手が取り入れている『グルテンフリー』の商品であることから、チャンスがあれば熊本から選手村へ素材を提供したいと考えている。

 
IMG_7298.JPG2016年、コンタミ対策として製粉業界では珍しいクリーンルームを完備。米や乾燥野菜など、委託で小ロットの粉砕加工も引き受けている

 
熊本地震で注目された米粉の離乳食


 熊本地震では、管理栄養士が避難所で生活する乳児を持つ母親に米粉の離乳食を届け、注目を集めた。調理法は米粉と野菜ジュース、少量の水、塩を鍋にかけ、練り上げるだけ。米粉が即席の非常食となったのだ。
 離乳食をはじめ、介護食としても「生まれてから死ぬまで幅広い年代にもっと米粉を食べてほしい」というのが中村さんの願いだ。「米粉は小麦粉の代替えとして扱われることが多かったけど、すでに小麦の代替え品では無く独自の進化を遂げている」と考えている。中村さんのようなアイデアマンが、今後新たな米粉の文化を作り上げていくのかもしれない。


中村 和弘さん
合資会社中村製粉(熊本県菊池郡大津町)代表社員
プロフィール:1966年生まれ。菊池郡大津町で150年続く製粉会社の4代目。国産米を使用した上用粉、生粉のほか、アルファー化した落雁粉などを製造販売している。2016年、工場内に製粉業界では珍しいクリーンルームを完備し、食品の粉砕加工を行う。同年、熊本県産の米粉と県産の野菜パウダーを原料とした「デコレーションだんご」を開発した。

舞台は世界へ! マッチ型お香「hibi」に見るデザインの力

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アートディレクターってどんな仕事?


 堀内さんの名詞の肩書きには『アートディレクター』とある。具体的にどのような仕事内容かを尋ねると、さまざまなプロジェクトの方向性やコンセプトを定め、商品や広報物のデザインをしたり、クライアントの目標を具現化するためにプロデュースを行ったりしているという。「今は、行政や地域活動をしているNPOから話をいただき、地域ブランディングをすることが多いです。“よそ者”だからこそわかる、その町の良さを見つけ、物産だけでなく観光の視点も含め、インバウンドで外国人を誘致するにはどうすべきかや、移住者をどう増やしていくかについて、町からどんな発信をすれば良いのかトータルで提案を求められる」と話す。


デザインの力で新たな市場を開拓する


 堀内さんがプロデュースし、商品力や販売力が大きく伸びた例としてマッチ型のお香『hibi』がある。
堀内さんの地元・兵庫県の地場産業の一つにマッチがあり、国内生産の7割は兵庫で作られているという。ただ、近年、マッチの需要が減っているのが現状で、危機感を感じた播磨の老舗マッチメーカー『神戸マッチ』では、互いの技術を生かせる製品作りをしたいと、同じく淡路島の伝統産業である線香やお香を製造する『大発』に声を掛けた。そして、デザイン面にも力を入れて商品開発をしたいと、協力を求められたのが堀内さんだった。
 試作に3年半を費やし、2014年に完成したのが紙の繊維を練り込んだマッチ型のお香『hibi』。着火具が不要でマッチを擦るように火をつけられ、燃焼時間の10分間、香りを楽しめる。道具としてのマッチではなく、デザインや楽しみ方など、アイテムそのものに魅力や付加価値を加え、新しいライフスタイルまでも提案する商品となった。

rice hibi「hibi」はパッケージの質感やグラフィックにもこだわり、その丁寧な仕上がりはさすがMADE IN JAPAN。マッチの軸がお香になった革新的なデザイン


 ブランドの世界観を大事にするため、セレクトショップや自然派志向が強い店舗など販売店選びにもこだわっている。8本で650円と割高感がありながらも、おしゃれさと手軽さが若い女性たちに受け、売り上げは初年度で1千万円を超えたという。
 デザインや機能に優れた日本商材を選定し、海外に広める経済産業省の事業「ザ・ワンダー500」で選定されたほか、パリで開かれる国際見本市メゾン・エ・オブジェにも2年連続で出品。これまで仏具店やホームセンターで売られるものだったマッチとお香の組み合わせが、今や世界15カ国で販売されるまでになった。
 「商品が完成するまでにやる作業は同じでも、見た目を変えると全く違うものに変わる。そこはやはりデザインの力だと思う。さらに、販売するターゲットや売り場を変えてみると、今まで数百円で販売していたものが海外では5000円で売れることもある。それをトライもしないで『売れない』『できない』と言う人がいるけど、僕は無限の可能性があると思っている」。
 デザインの力で地場の伝統産業に光を当て、付加価値を生み出した堀内さん。これからも日々生まれる新たなデザインが地域の力になっていくだろう。

堀内 康広さん
TRUNK DESIGN(兵庫県神戸市)アートディレクター
プロフィール:1981年生まれ。2009年、兵庫県神戸市に『トランクデザイン』のオフィス&ショップをオープン。地場産業のプロデュースやブランディング、百貨店広告などのディレクションやデザインを手がける。12 年には兵庫県のモノづくりを紹介する『Hyogo craft』を立ち上げ、兵庫県の間伐材を使用したオリジナルプロダクト『森の器』、播州織の職人とつくるアパレルブランド『IRODORI』、『megulu』を展開。

セレクトに理由あり! 食の雑誌編集者が「取り上げたくなる商品」とは?

セレクトに理由あり! 食の雑誌編集者が「取り上げたくなる商品」とは?

 

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好きが高じて創刊。だからこそ、中途半端はナシ


 「食べ方を知る、生き方を探す」をコンセプトに、九州の安心でおいしい食べ物を紹介している季刊誌『九州の食卓』。その発行・編集人である坂田圭介さんは日々、食の情報にアンテナを張り、農家や生産者のもとへ足しげく通っている。
「今年で創刊9年目になります。始めたキッカケは、庭先での野菜作り。忙しくて趣味のアウトドアになかなか行けない状況が続いていた時に、“近場でアウトドアを”と、畑での野菜作りを始めました。すると、コレがとても面白くて。それから食への興味がいっそう強くなり、さらに自分が思う“大切な食”についての情報を伝えたいと考えるようになり、『九州の食卓』を創刊しました。好きで始めた本ですから、採算よりも内容を重視。きちんと読者の方を向いて、情報発信することをテーマにしています」。

 

生産者の「声」「思い」に耳を傾けることを大切に

 

 『九州の食卓』で取り上げる商品は、どのようにして選んでいるのだろうか。
 「いつもスタッフに言っているのは、“なるべくネットを頼るな”ということ。生産者に直接会い、話を聞くことを何よりも大事にしています。また、これまで取材させていただいた方々からの紹介も、間違いない情報源となっています」。
 ネット上にあふれている情報ではなく、生産者の声を第一に、取材対象をセレクトしてきた坂田さん。逆に言えば、生産者の顔が見えない、話が聞けない商品は、取り上げていないということだ。
 また、工場などで大量生産されるような商品ではなく、“手作り”“生産量が少量”という商品にスポットを当てているのも、同誌の特徴といえる。
「こんなに手間をかけている。こんなに思いを込めて作っている。何十年も続けている。そういった“作り手が大切にしているもの”を大事にしたいと考えています」。

IMG_7019.JPG『九州の食卓』編集部は、大津町にあるリノベーションした古民家内。ここには坂田さんが代表を務める編集プロダクション『ナインフィールド』と、『九州の食卓』アンテナショップも併設している

 

たどり着いた結論。「“おいしさ”に敵うものはない」

 

 生産者の“思い”を大切に、これまで数多くの商品を探し出し、紹介してきた坂田さん。しかしながら、その“思い”だけで商品を選ぶことはないという。「『九州の食卓』を8年続けてきて、つくづく思うのは、どんな理屈も“おいしさ”には敵わないということです」。
 坂田さんは、こんな実例を話してくれた。ある大学で、食物について学ぶ学生を前に講義をした時のこと。小ぶりの瓶で1500円ほどの醤油と、1ℓで200〜300円ぐらいの醤油の2種類を見せ、なぜ値段が違うのか、それぞれどんな作り方をしているのかを説明したという。
「学生はみんな“ふーん”という感じでした(笑)。でも、説明の後にそれぞれの醤油を小皿に入れて、匂いを嗅いで、舐めてもらったら“ぜんぜん違う!”と、みんなの表情がパッと変わりました。実体験に勝るものはありません。だからこそ、“おいしい”という実体験ができる商品だということが、何よりも大切なのです」。
 坂田さんの経験によれば、商品に関するこだわりを消費者へ説明すると、1回は“買ってみようかな”となるが、その購買意欲が2回、3回と継続していくことは少ないという。一方で、消費者が「おいしい!」と思って買った商品は、その後も購買意欲が続くことが多いそうだ。
「“味に触れる”という体験は、とても重要です。理屈より、実体験してもらう方が相手に何倍も響きます」。
 商品の良さをたくさん説明するよりも、まずは実際に食べてもらい、おいしさを実感してもらう。それが購入につながるいちばんの近道。だからこそ、試食を行ったり、イベントに出展するなどの“食べてもらう機会の創出”は、生産者にとって重要な販促活動のひとつになると言えそうだ。
「その際に、商品が特別である理由を伝えることも重要です。なぜこの値段なのか? その理由を消費者に理解してもらえれば、少し高くても納得して購入してもらえるはず。それをしっかりと伝えるためには、最初にお話しした“生産者の商品への思い”が欠かせないのです」。
 坂田さんが「取り上げたくなる商品」とは、特に背伸びをしたものでも、敷居が高いものでもなかった。「おいしくて、作り手の思いが伝わるもの」という、いたってシンプルなもの。その分かりやすさが、多くの読者からの共感を得ている秘密のように思えた。

 

坂田 圭介さん
『九州の食卓』(熊本県菊池郡大津町)発行・編集人
プロフィール:1961年生まれ。東京の出版社でマリン雑誌の編集長を務めた後、18年ぶりに地元・熊本へUターン。1999年に編集プロダクション『有限会社ナインフィールド』を設立、代表取締役となる。2009年3月に季刊誌『九州の食卓』を創刊、同誌発行・編集人を務める。趣味はボート釣り、カヌーの他、アウトドア全般。

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