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『デコレーションだんご』ってなんだ?


 創業150年の『中村製粉』がある熊本県菊池郡大津町は水と米が豊富な地域。明治時代には22基の水車があり、米や小麦をひく仕事が盛んに行われていた。当時は、同社でも地元銘菓の『銅銭糖(どうせんとう)』の原料となる米粉を水車でひいていたとか。
 中村さんは同社の4代目。近年、製品開発に力を入れ、平成28年度には産学官商品として熊本県、熊本県幼児美育研究会、中村製粉で県産の米粉に県産の野菜パウダーを組み合わせた粉『デコレーションだんご』を開発した。
 水を加え粘土のようにこねて、好きな形を作り、ゆでて食べられるというものだ。粉に加水すると発色が良くなり、湯がいて熱を加えると、さらに鮮やかな色に変化する。手でこねたり、口の中で食感を感じたり、五感で楽しめるため、食育での活用も見込んでいる。
 同商品を作るきっかけとなったのは、取引先の地元和菓子店から寄せられた「人工着色料を用いず、自然のもので和菓子に色付けできないだろうか」という問い合わせだった。そこで県産の野菜の粉末を用いて色付けすることを思いつき、うまくいったことが商品開発へとつながっていったとか。「インターネットを検索していたら青森県で『食べられるクレヨン』が作られているのを知って、そこからヒントを得て作ったのが、米粉と野菜パウダーの食べられる粘土『デコレーションだんご』でした」。
 『デコレーションだんご』は、米粉にニンジン(オレンジ色)、カボチャ(黄色)、紫イモ(紫色)、ほうれん草(緑色)、赤カブ(ピンク色)、ビーツ(赤色)の6種の乾燥野菜の粉末を加え、全6色を展開。「自然界には青い食べ物がないから、あえて青を作らないことで色や自然に対する認識を深める狙いもあります」という考え方もユニークだ。
 べとつかず、造形しやすいようにと、もち米、うるし米、上用粉など米粉の配合や粒子の大きさで試作を繰り返し、開発に2年間をかけたとか。気になる味は、ほんのり野菜の風味を感じる、まさに白玉団子だ。
 以前から、小麦をベースとした『食べられる粘土』は存在したが、小麦アレルギーの問題があるため、グルテンフリーである『デコレーションだんご』のような米粉ベースの商品であれば、その点をクリアできる利点がある。素材が米粉であることから、高齢者や障がい者の施設での利用も見込めそうだ。
 中村さんの頭の中には「これまで主に和菓子などの嗜好品として食べられてきた米粉を食事として取り入れてほしい」という思いがあった。「夜、家族でコミュニケーションを取りながら団子をこねて、冷蔵庫に保存し、翌朝ゆでると、それが朝食になりますよね。それを弁当に入れると立体的なキャラ弁になります」。米粉の新たな切り口での“食卓進出”を願う、中村さんの思いが詰まった商品なのだ。


『アップルマンゴー』の発想で他商品と差別化を図る

 

 ここで中村さんが持ち出したのが『アップルマンゴー』の話だ。日本でマンゴーといえば皮が赤く、実が黄色の果物を思い浮かべる。しかし、海外で言うマンゴーは皮も実も黄色であることが一般的。『アップルマンゴー』は、シャープの副社長だった佐々木正さんが、学生時代に与えられた「リンゴとマンゴーは接ぎ木できるか」という課題から生まれた果物だという。りんごは寒い地域、マンゴーは南国の果物であり、2つを掛け合わせるのは無理な話だった。しかし、佐々木さんが試行錯誤した末においしい『アップルマンゴー』が誕生したという。「このように真逆のものを組み合わせて新しいものを作る。それを当てはめて、米粉に何かを加えることで、ほかの商品と差別化する。これが先にないと成功は厳しいのではないでしょうか」。

 

クリーンルームを完備し、商品開発に励む


 平成28年3月、同社では製粉業界では珍しいクリーンルームを完備。積極的な新商品の開発に加え、コンタミを防止し米粉や野菜粉末製造の委託受注を増やす狙いがある。同社では米や乾燥野菜の粉砕加工を30kgから請け負っており、小ロットを希望する農家や県外企業からの依頼も寄せられているそうだ。
 すでに新商品も生まれていて、米粉に健康によい成分を豊富に含む県産の“スーパーフード”であるゴボウ、黒ニンジン、菊イモ、ビーツの野菜パウダーを加えた『粋な米粉(いきなこめこ)』を発売したところだ。中村さんは、米粉とスーパーフードが融合し、機能性に富んだ“ハイブリッド米粉”と位置づけている。「食べ方としては、例えば小麦粉の代わりにビーツ配合の粉で餃子の皮を作れば、赤い餃子になっておもしろいですよね。なおかつ機能性もあります」。
 中村さんいわく「“粋”という単語は英語では言い換えが難しい日本ならではの言葉で、3年後に控えた東京五輪を見据えて商品名を考えた」とか。昨今、プロテニス選手のジョコビッチをはじめ、多くのスポーツ選手が取り入れている『グルテンフリー』の商品であることから、チャンスがあれば熊本から選手村へ素材を提供したいと考えている。

 
IMG_7298.JPG2016年、コンタミ対策として製粉業界では珍しいクリーンルームを完備。米や乾燥野菜など、委託で小ロットの粉砕加工も引き受けている

 
熊本地震で注目された米粉の離乳食


 熊本地震では、管理栄養士が避難所で生活する乳児を持つ母親に米粉の離乳食を届け、注目を集めた。調理法は米粉と野菜ジュース、少量の水、塩を鍋にかけ、練り上げるだけ。米粉が即席の非常食となったのだ。
 離乳食をはじめ、介護食としても「生まれてから死ぬまで幅広い年代にもっと米粉を食べてほしい」というのが中村さんの願いだ。「米粉は小麦粉の代替えとして扱われることが多かったけど、すでに小麦の代替え品では無く独自の進化を遂げている」と考えている。中村さんのようなアイデアマンが、今後新たな米粉の文化を作り上げていくのかもしれない。


中村 和弘さん
合資会社中村製粉(熊本県菊池郡大津町)代表社員
プロフィール:1966年生まれ。菊池郡大津町で150年続く製粉会社の4代目。国産米を使用した上用粉、生粉のほか、アルファー化した落雁粉などを製造販売している。2016年、工場内に製粉業界では珍しいクリーンルームを完備し、食品の粉砕加工を行う。同年、熊本県産の米粉と県産の野菜パウダーを原料とした「デコレーションだんご」を開発した。