イネの品種改良の歴史

弥生時代には日本全国に広まり、日本人の主食として愛されてきたお米ですが、人々がお米と共に歩んできた道は、決して平たんではありませんでした。そんなお米づくりに向き合ってきた人々の努力を知っていますか? 今回は、イネの品種改良に人生を賭けた2人の活躍を紹介します。お米が食べられることが当たり前ではないことを知れば、今日のごはんがもっと美味しくなるかもしれません。


イネが育たない恐怖

もともと、中国の長江中・下流域の水辺で栽培が始まったとされるアジアイネは、熱帯気候を好みます。日本は雨が多く、真夏には日中の最高気温が熱帯地域と同じくらい高くなる日があります。日本は稲作に適した環境だったのです。稲作が日本に渡って来て、急速に広まったのはこの気候がひとつの理由だと言われています。

しかし、天候に恵まれず先人たちは何度も苦しい思いをしました。特に人々を苦しめたのが冷害です。イネが育つために大切な時期である夏に気温が上がらず、イネが育たなかったり、受粉がうまくいかなかったりする被害に合い、米不足に悩みました。江戸時代中期(1782年~1788年)にかけて発生した天明の大飢饉では、冷害によって米を中心とした農作物の収穫が激減し、6年間で約92万人の人々が命を落としたと言われています。

運命のイネとの出会い

「冷害に強いイネがあれば」それは多くの人々の願いでした。冷害の原因のひとつである火山の噴火。火山灰が広がる真っ暗な空の下、イネが陽の光を浴びられない姿を見て人々はきっと何度も震えたことでしょう。

少しでもお米を安定的に供給するために、多くの人々がイネの品種改良に努めました。その中のひとりに阿部亀治がいます。亀治は、明治30年(1897年)に新水イネ種“亀の尾”を誕生させました。これは、“ササニシキ”や“ひとめぼれ”等のルーツとなった品種です。

冷害に苦しむ中、亀治が運命のイネと出会ったことをきっかけに“亀の尾”は生まれました。山形県庄内にある熊谷神社にお参りに行った亀治は、冷害でほとんどのイネが実らずにいる中で、元気に実を結んだ3本のイネ穂を偶然に発見します。亀治はこれを農家に譲ってもらい、この籾を原種として研究を重ね、失敗にも屈さずに4年の歳月をかけて“亀の尾”を誕生させたのです。

“亀の尾”の特徴は、他の品種と比べて茎が長くしなやかで、風害に対して倒伏しにくいことや、冷害や病気に強く、穂が出てから実るまでの期間が短いことです。亀治はその後も、実ったイネから優秀なイネ穂を毎年選び出し、種の劣化を防いだそうです。また、“亀の尾”の噂を訊いて尋ねてくる百姓に、亀治は金や欲にこだわらず、この種もみを無償で分け与えたと言います。

品種改良に情熱を注いだ『品種改良の父』

“亀の尾”誕生後の明治36年(1903年)より、日本では本格的に米の品種改良が始まりました。日本が近代国家への道を歩む過程で、農作物の生産力の増大が重要課題となり、その年、国立の農事試験場で品種改良に力を入れる方針が定められたのです。それを受け、米の品種改良に取り組んだのが、農事試験場の技師だった加藤茂苞(しげもと)でした。

それまでは、もともとあった米の品種の中から、優れた特性をもつ株を見つけて一カ所に集め、その種を栽培していき最後に一番優れた種を残す『分離育種法』によって品種改良を行っていました。しかし、この方法では狙ったイネの特性を出せないことが課題でした。
そんな中、加藤は世界で初めてイネの人工交配に成功。人工交配によって優れた品種同士を組み合わせる『交雑育種法』の基盤が作られました。加藤は約25年に渡り品種改良に取り組み続け、数多くの新品種の創出を指導し、のちに『品種改良の父』と呼ばれるようになります。

『交雑育種法』によって日本で初めて作られた品種が、大正10年に育成された“陸羽132号”です。この品種は寒さに強く、当時の東北地方で広く栽培されました。農学校の教師であった詩人宮沢賢治も“陸羽132号”の普及に努めたといわれています。現在でも『交雑育種法』は品種改良の主流となっています。

このように、阿部亀治や加藤茂苞を始めとした多くの人々の熱い想いと努力によって、より自然災害に強く、より美味しいお米が次々に開発されていきました。新しい品種を生み出すためには交配を何度も繰り返す等の作業が必要なため、ひとつの品種と認められるようになるまで最低でも10年間の試験期間を要します。それにも関わらず、これまで日本国内だけで700品種を超える米の品種が開発されてきました。そして現在、この中の約300品種が、全国で栽培されています。

今、わたしたちが食べているお米も人々の努力が積み重なって生まれたものなのです。

◆参考文献・サイト
・今野賢三『イネの新品種の創選者阿部亀治』日本出版社
・櫛淵欽也監修『日本のイネ育種』農業技術協会
・農林水産省HP『特集1 食の未来を拓く 品種開発(1)』
 http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1111/spe1_01.html
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