現代の宇宙食のルーツは、平安時代のアルファ化米「乾飯(かれいひ)」にあった!

 

heian res1“アルファ化米”とは、炊き上げたお米を急速に乾燥させたもののこと。炊いたお米(ごはん)が劣化しやすく、携行・保存に向かないのに対して、アルファ化米は劣化しづらく、水または湯を注げば簡単に炊きたてのごはんの味が楽しめるため、非常食などに広く用いられている。アルファ化米という名称からは、最新の科学的な加工食品、という印象を受けるに違いないが、実は、同様の調理・保存法は、我が国で古来行われてきたものだ。

 

平安時代の辞典で紹介されている「かれいひ」

アルファ化米は、「乾飯(かれいひ)」または「糒(ほしいひ・ほしひ)」の名で、1000年以上前から親しまれてきた食品だ。平安時代に記された『倭名類聚抄』(わみょうるいじゅうしょう。現代の百科事典のようなもの)の「飲食」のカテゴリの中や、『新撰字鏡』(しんせんじきょう。現代の漢和辞典のようなもの)に、この食品に関する記述がある。

 

「糒 和名保之以比 乾飯也」(『倭名類聚抄』)
「餱 乾飯也、加禮伊比、又保志比」(『新撰字鏡』)

 

『倭名類聚抄』の記述は、〈「糒」というのは、我が国では「ほしいひ」と言い、乾飯のことである〉という内容。これに加えて、『新撰字鏡』の記述では、「餱」という現代では見慣れない字について、〈乾飯のことである。我が国では「かれいひ」「ほしひ」と言う〉と説明されている。ここから、炊いた後に乾かしたごはんのことを、「かれいひ」や「ほし(い)ひ」と言っていたことがわかる。

 

歌物語の中に登場する「かれいひ」


heian res2▲江戸時代に書かれた『伊勢物語』の解説書(明治刊のもの)。乾飯が涙で「ほとび」たことについては、古来言及がある。 

この他にも、平安時代の歴史書や文学作品に、この食品に関する記述が見られる。もっともメジャーなものとしては、歌物語として知られる『伊勢物語』(10世紀頃成立)の、通称「東下り」の場面がある。古典の授業で読んだことのある人もいるだろう。

 

「その沢の木の蔭(かげ)に降り居(ゐ)て、乾飯食ひけり」
「みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり」

 

主人公の一行は、東国へ旅する途中で、(馬から下りて)木蔭に座って、「乾飯」を食す。今風に言えばランチタイムだ。このとき、そばにいたある人に促されるかたちで、主人公の男が、長年連れ添った、都に残してきた妻のことを和歌に詠む。すると、その場にいた人すべてが、「乾飯」の上に涙を落として、(乾飯が)ふやけてしまった、というのだ。少々出来過ぎた大げさな表現で、平安時代流のジョークだが、こうしたジョークが成り立つ背景として、当時の人々が携行食として日常的に水(または湯)に「乾飯」をもどして食べるということが行われていたことがわかる。

 

「かれいひ」、時空を超えて宇宙へ


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平安時代から存在した「乾飯」は、武士が登場するようになると軍事食として用いられるようになり、近代では古来の製法に改良が加えられた“アルファ化米”が、戦時中に開発された。そして、今でも原理としてはほぼ同様のものが、非常食、保存食として親しまれているのだ。このようにアルファ化米は、昨今の防災意識の高まりとともに自治体などに備蓄されるようになったほか、宇宙開発の場でも、国際宇宙ステーションにおける宇宙食として用いられているという。宇宙食の絶対条件である、軽量である点、長期保存が可能な点、簡単な調理で済む点、そして何よりもおいしい点など、すべてがアルファ化米の特長と合致しているのである。
アルファ化米の例のほかにも、古来伝わってきた技術や製法が意外と理にかなっており、現代の我々の食生活や最新の科学の場にも用いられることは意外と多い。「焼米」や「粥」など、奈良・平安の時代から伝わる加工食品は、米に関するものに限っても多くの種類がある。これらのものも、再び見直される時がるかもしれない。

 

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