『棚田のめぐみ』を守るには?~愛林館の取り組み~

 
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『棚田のあかり』というイベントをご存知でしょうか?
熊本県水俣市久木野の寒川地区には、石垣が組まれた棚田が約10ha、約470枚が拡がり、『日本の棚田百選』に選ばれている。田植え前の水が張られた棚田を約2000本のたいまつで照らす催し『棚田のあかり』が2005年から年1回開催されています。たいまつに火が灯り、だんだんと日が落ちてあたりが暗くなる様子は、とても幻想的です。この地区の地域おこしを20年以上担ってきた愛林館の沢畑館長に話を聞いてきました。


棚田のめぐみと関係人口

 

諸橋 今年の棚田のあかりはいかがでしたか?

沢畑さん 風も少なくてたいまつの火が長く灯っていたのが良かったよ。

諸橋 今年の参加者は何名くらいだったのでしょうか?

沢畑さん 有料(500円)の参加者が240名で、無料の高校生以下や地元の人を含めると500名くらいかな。その他にボランティアが26名。これに主催者である地区の住民だね。

諸橋 すごい数ですね。ボランティアの方はどんな方ですか?

沢畑さん リピーターが多いよ。『働く手田すけ』など愛林館で企画している他のボランティア活動の参加者や熊本大学、長崎大学などの教授や学生、卒業生とか。最近の言葉だと関係人口を大切にしている。棚田のあかりは、その人たちに支えられているからね。

諸橋 関係人口ですか?関係人口を増やす秘訣は何でしょう?

沢畑さん それは、私の人柄でしょう(笑) 冗談はさておき、使命感、達成感、実利の3つをしっかり味わってもらうようにしています。使命感は、棚田のめぐみとそれを守る大切さを伝える。達成感は、うちはいっぱい働いてもらうからしっかり味わってもらえる。実利は、集まった人たち同士の出会い。お昼のカレーや打ち上げを楽しみにボランティアに来る人も多いよ。

諸橋 『棚田のめぐみ』を守ることについて、もう少し詳しく聞きたいです。

沢畑さん 耕作者は、稲を栽培し収穫をするわけだけど、それによって副次的に得られるもののこと。田んぼから水が染みて地下水が豊富になる。田んぼに水を貯める。周囲が涼しくなる。田んぼの生態系。景観の良さ。多面的機能や公益的機能と言われるけど、人間がいただいているこれらのことを宇根豊さん(農と自然の研究所)が『めぐみ』と表現していて、これに共感して棚田のめぐみと呼ぶようになった。工場も出来ると雇用が生まれるなどの社会へのプラスの影響があるけど、一方で排水などの環境へのマイナスの影響ある。その点、田んぼや森林は、人が自然に手を入れても環境に対してもプラスにすることが出来る。

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お金の使い方で棚田が守れる


諸橋 棚田の価値が分かってきました。でも、棚田での米作りは大変です。

沢畑さん (棚田のある)寒川地区の人たちは、棚田の景観を守ることに自負を持っている。農業で生計を立てる農家はほとんどいない。多くの耕作者は、市内で働いて、そのお金で機械などの設備を購入して米をつくる『棚田サラリーマン』。本当は、直接支払保証やベーシックインカムなどの制度があれば、現金収入が得られるけど、今はないからね。この地区のGDPのうち、農業や林業は2~3%くらいじゃないかな。

諸橋 え!?そんなに少ないのですか。昔はもっと多かったのですよね。

沢畑さん そうだね。昔は、木炭の生産が盛んだった。木炭は、炊事の為に各家庭で一日3回は使われていたけど、今はバーベキューなどで年1、2回使うくらいでしょ。木材を使った燃料もあるけど、遠い国のさらに地中深くから掘り出す石油の方が安いのだからしょうがない。

諸橋 なるほど、我々の生活自体が森と離れてしまったのですね。

沢畑さん 地域づくりには、自営業者の存在が重要とされているのだけど、『里山資本主義』の著者である藻谷さんは、家計の1%を地域の商店を利用すれば、自営業者を守ることが出来ると言っている。お金の使い方を意識するだけで変わるんだよね。

諸橋 お金の使い方を変えるだけで、地域や田んぼのめぐみが守れるのですね。

沢畑さん なるべくお米を出来るだけ食べて欲しいと訴えている。自給率40%というのは、やはり低すぎる。いつまで食料を輸入出来るのかという懸念もある。その為にも農地を保つ必要がある。

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諸橋 平地の田んぼではなく、棚田を守ることに違いはあるのでしょうか?

沢畑さん 田んぼのめぐみがあるように山の恵みもある。山の暮らしを守ることで森のめぐみが守られる。久木野地区の田んぼは、80haに対して、森林は4100haある。田んぼをやりながら山も管理しているのがほとんど。山に人が住んでいることが大事なんだ。

諸橋 棚田を守ることで森まで守れるのですね。地域の在来種である『万石』の販売も積極的にされていますが、いつ頃から取り組まれているのでしょうか?

沢畑さん 20年前くらいに地区の人にもらったお米を炊いた時の香と味に感動した。そのお米が万石という在来種だった。次第に香りの強さが耕作者によって違うことが分かって、もち米の品種の香りが強かった。今は、さらに香りの強さや栽培のしやすい品種を特定したところで、これから品種登録も考えているよ。この万石をPRして、1kg1000円以上で売れるようになれば、少しでも棚田を守ることが出来ると思って頑張っているところ。たくさんの人に万石を食べてもらいたいな。

諸橋 棚田や森を守ると聞くととても大変なことのように感じがしていました。しかし、地域のお店を利用したり、米かパン(麦)か迷った時に米を食べるようにしたりと、小さなことからでも、棚田のためにやれることはたくさんあることが分かりました。また、水田を守るためには、耕作者だけてなく、沢畑館長のような『田んぼのめぐみ』の部分を伝えてつなぐ人の重要さも改めて知ることが出来ました。まずは、食べる人に棚田に来て棚田のめぐみに触れてもらいたいです。


聞き手:諸橋賢一
水俣食べる通信編集長。東京農業大学で持続可能な農業を学ぶ。国内の農薬メーカーで12年勤める。2017年から熊本県水俣市の山間部で米作りをしながら活動中。

(参考)
愛林館HP:http://airinkan.org/

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