大規模化に挑む、手抜きの技術革新

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穏やかな笑顔で気の良い農家という印象的な吉田農産社長の吉田義弘(よしひろ)さんは、開口一番に「うちは石川県で一番熱くない農業法人です」と言う。その言葉と事務所の立派な建屋には明らかなギャップがあり、すこし戸惑った。3年前に建てられたという事務所で、稲作の大規模経営について話を聞いた。

 

米の品質の追求と大規模集約化の両立

吉田農産は、石川県加賀市の丘陵地で水稲、大豆、蕎麦を栽培している。義弘さんは平成元年に就農。当時の水稲の栽培面積は20haであったが、土地改良事業をきっかけに平成10年に倍の40haまで一気に拡大した。義弘さんは、父親からの経営移譲をきっかけに法人化に踏み切り、平成18年に有限会社吉田農産を設立した。現在の経営規模は、正社員3名、パート7名を雇用し、経営面積91ha、水稲は60ha(約300筆)である。
水稲の栽培品種は、コシヒカリ、どんとこい、ガラクタモチ、ミルキークィーン、五百万石(酒米)、ひゃくまん穀、あきだわら、ゆめみづほ(加工米)と多様だ。これは、大規模の面積での作業を分散するための方策で、稲刈り時期は8月中旬~10月中旬までと長期に及ぶ。栽培方法も直播栽培や高密度播種短期育苗と様々な試みをしている。
設備投資については、収穫したコメの品質向上と美味しさの追求のために色彩選別機や常温除湿乾燥機を導入している。常温除湿乾燥機は、一般的な火力で乾燥するものと違い、湿度だけ除いた常温の空気を送り、攪拌しながらゆっくり乾燥させる装置で天日乾燥に近い乾燥が出来る。「建物を建てるには、3年地獄をみる覚悟が必要でした」と義弘さんは言う。

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手を抜く技術の探求


先代から受け継いだ義弘さんの確かな栽培技術が周りにも認められ、担い手のいない集落に認知されていった。今後、さらに面積が拡大していくことが予想される。
「花や野菜は手をかけて良いものを作るのが基本だと思います。しかし、稲作に関してはまだまだ効率化の余地があると思っています。地域の土地を守るには、少ない人手で耕作出来る稲作が向いていると思います。僕は稲作で手抜きの技術を極めたいんです。」義弘さんは、今まで必要だとされてきた栽培管理が本当に必要なのか、大規模経営に適しているのか検証をしているのだという。「例えば、中干しについて必要性を疑ってみました。すると中干しをしないと確かに収量は減りました。一方で水管理の手間を省くことが出来ます。少ない労働力で管理することを考えると中干しをすることで発生する水管理を省く方がメリットあることがわかりました。」特に吉田農産が耕作する水田は、用水路の構造上の理由で大型作業機を使用することが出来ない。その為、機械化とは別の方法での省力化が求られるのだ。作業機械の大型化には大きな投資が伴う。義弘さんの視点は、過剰な投資を避けるという点においても大事な視点と思われる。
義弘さんの試みは他にもある。「300筆の水田の水管理を2名で行っています。そのため、いかに効率を良くするかが大事なんです。新しく作付けを行う水田では、最初に土地を均平にします。これで水田の一部を見れば全体を把握することが出来るようになりました」。


義弘さんが挑んでいるのは、単なる手抜きではなく、品質を落とさずに手抜きをする技術の確立だ。これまでの栽培技術の主流は、いかに面積当たりの収穫量を増やすかであった。しかし現在、地域が抱える農家の高齢化や後継者不足などの課題を克服するには、増える面積を受け入れつつ経営を安定、強化することが求められているのだ。「トライ&エラーで経験を重ねるしかありません」と語る義弘さんの顔からは自信に溢れていた。
義地域の未来を見据えて、真摯に取り組む義弘さんの姿勢は静かではあるがしっかりと熱いものが伝わってきた。

文:諸橋 賢一

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