見た目の変化だけではない!品種改良に求められるイネの『性質』

イネの品種改良では、形や色といった見た目の変化だけでなく、一見しただけではわからない『性質』の変化も重要である。本記事では品種改良で注目されるイネの性質をご紹介したい。すべてではないが、どんな点に重きを置いて品種改良がなされるのかを見てみよう。

特に、これからお米農家を始めようという方には『イネの形態』と合わせてぜひご一読いただきたい。

 

病気に対する抵抗性は最重要課題の一つ

◆耐病性
イネの病気に対する抵抗性は、収量を上げるためにも特に重要である。国内で伝統的に行われてきた品種改良では、病気にかかりにくいイネが偶然得られても、その個体の中でどんな変化があって耐病性を会得したのかが分からなかった。

細胞レベル・分子レベルでの生命現象が明らかになってきたことで、それそれの病気に対してどのような防御機構が働き耐病性へとつながるのかが分かってきたのは、ごく最近のことである。

代表的なイネの病気には、いもち病やごま葉枯病、縞葉枯病、白葉枯病などがあるが、いずれも原因はカビやウイルスだ。品種によってそれぞれの病気へのかかりやすさに差があり、耐病性の低いイネに対しては農薬散布などで病気を抑えてきた。イネのゲノム研究が進み、耐病性に関わる遺伝子が特定されるようになると、遺伝子の働きを調節することで耐病性の高いイネ品種がつくられるようになった。

mitameno1

具体例を挙げよう。イネの耐病性に大きく関わっていることが判明した遺伝子にWRKY45がある。この遺伝子はイネが病気にかかると、その病気に抵抗するための遺伝子を働かせる、いわば『遺伝子のスイッチ』のような存在だ。

このような遺伝子を転写因子という。WRKY45は数百の耐病性に関わる遺伝子にとっての転写因子になっていることが判明した。このWRKY45を通常よりも強く発現させたイネは強い耐病性を示す。まずは飼料用品種への導入といった実用化が検討されている。
(最下部参考文献1を参照)

 

虫、寒さ、塩分…...稲が耐えなければならない多様なストレス

◆耐虫性
地球温暖化による農業への影響が心配されていることは言うまでもないが、イネにおいては気候の変動による新たな害虫の進出も脅威の1つである。これまで日本にいなかった熱帯性の虫がやって来ると、それらに抵抗性のない既存品種が大きな被害を被ることは想像に難くない。

とくにウンカやヨコバイといった吸汁性の虫は様々な病気をイネにもたらす。これらに対処するため、イネの耐病性はもちろんのこと、虫に食われにくい耐虫性の品種をつくることも急がれている。

イネのもつ耐虫性に関する遺伝子も次々と明らかになっている。実際にイネゲノム研究の成果を下地としてつくられた耐虫性品種には“はるもに”などがある。“はるもに”はウンカ類への高い抵抗性のほか複数の病気への抵抗性も合わせもつ。
(最下部参考文献2を参照)

mitameno2


◆様々な環境ストレスに対する抵抗性

もともと熱帯性の植物であるイネ。南北に長い日本で栽培が始まりその需要が高まると、より北の大地でイネを栽培する必要が生じ、品種の耐寒性は大きな関心事となった。まれに訪れる冷夏などの異常気象が稲作に壊滅的被害をもたらすのはご存知の通りだ。東北や北海道で利用される品種には、耐寒性が備わったものが多い。

また特に収量が求められる外国では、耐塩性や耐酸性など、土壌の様々な成分に適応できるようなイネ品種も必要とされている。

 

消費者にとって重要なのはお米の味

◆お米の品質・味
見た目で分からないイネの変化で、最も消費者が気にするのはお米の味や食感であろう。甘みやお米の味がしっかりと感じられる品種や、お米の味自体には主張がなく合わせるおかずを引き立てる品種。粘りの強弱。炊いたときに硬いお米、柔らかいお米……。食糧不足でとにかく生産量が重要だった時代も終わり、現代では消費者の多様なニーズに応える必要がある。

味覚は基本的に主観的なものだが、客観的にお米の味を判断する材料の一つに『食味試験』がある。これは一般財団法人日本穀物検定協会が毎年行っている試験で、基準米と検査対象のお米を比較し、ランク付けを行うものだ。

求められるお米の味は時流によっても多様に変化することから、新しい食味を持ったイネの新品種開発も日々行われている。また、お米に含まれる特定の成分をコントロールした品種も登場している。

すでに広まっているのが、アミロースの含有量が少ないお米のとれる『低アミロース米』だ。お米粒に含まれるでんぷんにはアミロースとアミロペクチンの2種類があり、アミロペクチンが多いほど粘りが強くなる。低アミロース米は相対的にアミロペクチンの量が多く、もちもちとした食感になる。“ゆめぴりか”や“ミルキークイーン”が代表品種だ。
逆に、アミロースの多い『高アミロース米』もある。粘りが少ないため、チャーハンやピラフなどの料理に向いたお米がとれる。
mitameno3

時代や環境によって求められるイネの形質は大きく異なる。すでに特定の品種をつくっている稲作農家の皆さんにも、イネには実に多様な品種が存在することを知ってほしい。


参考文献:
1.http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/seika/nias/h19/nias02003.html
2.http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/016898.html
3.『イネの育種学』蓬原雄三(東京大学出版会)

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

okomeno
mozi rekishi mozi tane mozi bunka mozi hito mozi hito mozi huukei mozi noukamuke

もち米、玄米、古代米etc.…ちょっと変わったお米で醸す日本酒色々


土壌の肥沃さの目安、『CEC』とは?


管理栄養士が教える! 夏バテ予防抜群♪「サバを使ったマリネ」


なぜお米からフルーティーな日本酒が造れるのか?  お米の香りを引き出す酵母の知識


okomenoseiikuwo 3

お米の生育を左右する『リン酸』のあれこれ。可給態リン酸やリン酸吸収係数とは?