アジアイネ、アフリカイネ…知っているようで知らない、様々なイネの仲間。

地球規模の気候変動や環境変化が叫ばれる昨今。『これまで通り、同じ品種のイネをつくり続けられるのだろうか…』と不安を感じる農家もいるだろう。日本国内では気候の変動に耐えうるような新品種開発が盛んに行われているが、ハイスピードで進む変化に追いつかない可能性もある。そんな時は、他国のイネに目を向けてみるのも面白い。日本と異なる環境で育つイネを改めて見渡せば、これからの稲作に光を投じるヒントが見つかるかもしれない。

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栽培されているイネはたった2種

私たちが育て食べ続けているイネは、イネ目イネ科イネ属に分類されている植物である。イネ属には20以上の種が属しているが、食用目的で主に栽培されているのはその内のわずか2種に過ぎない。アフリカ大陸の一部で用いられている『アフリカイネ(学名:Oryza glaberrima)』と、アジアで生まれ世界中で栽培されるようになった『アジアイネ(学名:Oryza sativa)』である。

アフリカイネは、アフリカ西部のニジェール川流域で栽培が始まったと考えられている。Oryza barthii(以下、バルシー)という野生種が栽培化されることで本種になった。バルシーは深い水たまりのような湿地を好み、実は赤く、長いノギ(芒)をもつ。栽培品種よりも実った種子が落ちやすいのだが、この脱粒性の高さは一般的に栽培種と野生種を見分けるポイントの一つだといわれている。脱粒性が高い方が、植物としては子孫をばらまきやすい。

 

アジアイネについては諸説あるが、中国・雲南省やミャンマー、ラオス周辺の山岳地帯が起源だと見られ、野生種のOryza rufipogon(以下、ルフィポゴン)が栽培化されたものと考えられている。ルフィポゴンも失われた種ではなく、現在も「野生イネ」として知られている。栽培品種のものよりも小さな赤い実をつけるが、やはり脱粒性が高く、圃場に雑草として生えると収穫時に混ざってしまうため厄介者扱いされている。日本よりもアメリカなど、直播によって大規模栽培を行うところでは特に大きな問題だ。

 

アジアイネはさらに3タイプに細分される

長い年月をかけて人間の生活に合うような形質が選抜され続けることで、栽培されるイネの姿や性質は少しずつ変化してきた。アジアイネの原産地から種子が持ち出され、ほかの地域でも栽培が始まると、その違いはさらに大きくなり、3つのタイプに分かれていく。

南進し、熱帯の東南アジアやインドで栽培されるようになったアジアイネはインディカ(インド型)に、同じ南でも標高の高い地域で育つようになったものはジャバニカ(ジャワ型)というタイプに変化していった。そして、原産地より北の地域で育つようになったタイプが、現在日本で広く栽培されるジャポニカ(日本型)である。日本に渡来したジャポニカのイネは長い期間を経て品種改良がおこなわれ、数百におよぶ栽培品種が生み出されてきた。品種改良研究の歩みは止まらず、毎年多くの新品種が生まれているのはご存知の通りである。

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粘りが強く米粒の形が丸いジャポニカに比べ、インディカやジャバニカは粒が細長く、あっさりとした味・食感のものが多い。これらのお米は日本では俗に『タイ米』などと呼ばれ、エスニック料理の材料として用いられるほかは、米菓などのために加工用米として使われることがほとんどだ。

 

しかしながら、今後の気候変動や環境変化によっては、日本でもインディカやジャバニカを積極的に栽培する農家が現れる可能性は十分にあるだろう。一般的に『パサパサしている』といわれるインディカ米だが、品種によっては粘りの強いものもあり、日本人の味覚に合った品種が今後登場することも考えられる。コメの品種改良を行っているのは日本だけではない。ジャポニカ米以外の動向や新品種をチェックして行くことも大切だ。

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バイオテクノロジーによって築かれる、新たな品種開発の道

これらの様々なイネを掛け合わせて、それぞれの種の長所を合わせもった新品種をつくる試みも行われている。とはいえ、同じアジアイネでもジャポニカとインディカはそれぞれのタイプに分かれてから相当の時間が経過しており、遺伝的な変異が蓄積しているため交雑は簡単ではない。ジャポニカ同士の品種の掛け合わせよりもずっと時間や技術が必要になるし、交雑種ができたとしても2代目、3代目が続かないことがほとんどだ。

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イネの雑種で注目を集めているのが、アジアイネとアフリカイネの交雑種『ネリカ』である。1994年にWARDA(西アフリカイネ開発協会)が作製に成功したこのイネは、アフリカイネ特有の強い雑草耐性と、アジアイネの多収性を併せ持つ。安定した収量が確保できるような品種が一般に普及すれば、今後のアフリカの食糧事情を一変させるかもしれないと期待されている希望のイネだ。

 

前述の通り、イネの交雑はアジアイネ内の各タイプ間ですら難しい。アジアイネとアフリカイネという別種のイネの掛け合わせも従来困難とされていたが、葯培養や胚培養など様々なバイオテクノロジーを駆使して生み出された。その後も多様な系統のネリカが誕生し、現地では普及活動も行われ始めている。

ネリカのように自然下で交雑しえない別種の掛け合わせ品種をつくる技術の発展は、新品種開発のすそ野を広げる。日本のお米の品種間掛け合わせでは生み出しえない、画期的な性質をもつイネが同様の技術によって生まれる未来もやってくるのではないだろうか。

 

参考文献:
アフリカの飢餓を救うネリカ米(国連開発計画(UNDP))

http://www.undp.or.jp/publications/pdf/Nerica.pdf


文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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