イネの生長を左右する! 植物ホルモン『ジベレリン』を知ろう

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植物の生長や細胞の働きを調節する物質を『植物ホルモン』という。高校で生物学を履修した人であれば、一度は耳にしたことがあるだろう。いくつものホルモンを使い分ける動物とは異なり、これまでに見つかっている植物ホルモンの数は10に満たないが、イネを含む植物の生長にもたらす影響は多大だ。今回は、そんな植物ホルモンの1種であるジベレリンをご紹介する。

 

そもそも、ジベレリンとは?

ジベレリン(GA)は植物内で作られ、細胞の伸長や種子の発芽、花芽形成などを促す植物ホルモンである。ただ1種類の化学物質ではなく、似たような構造で類似の働きをする物質の総称であり、その数は100を軽く超える。

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※GAの1例

 

GAのはたらきの中でも特に稲作やイネの品種改良に関わるのが、『細胞の伸長促進』だ。GAの作用する細胞では1つ1つのサイズが大きくなり、その個体の各器官が生長する。よく似たはたらきをするものに『オーキシン』という植物ホルモンがあるが、オーキシンが細胞を縦にも横にも大きくする作用があるのに比べ、GAは主に縦方向(生長軸方向)に細胞を伸長させるという違いがある。すなわち、1つ1つの細胞が縦方向に伸びて、茎全体が細く長くなっていくのだ。加えて、GAにはオーキシンのはたらきを高める作用もあるため、両方がはたらいている器官では、細胞の著しい成長を見ることができる。

稲作以外の農業でもGAは利用されている。種なしブドウをつくるときに、めしべをGA溶液に浸すことはよく知られているが、これは未授精の子房の細胞をGAの作用で大きくさせることで得られる。

 

ジベレリンを見つけたのは日本人!

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※写真はイメージです

実は、GAを世界で初めて発見、単離に成功し、命名したのは日本人研究者である。大正時代末期、台湾の農事試験場の技師だった黒沢栄一は、イネのバカ苗病に関する研究を行っていた。バカ苗病にかかったイネは正常個体よりも極端に徒長し、節間が長く倒伏しやすくなる。現在の日本では少なくなったが、当時は深刻なイネの病気だった。1926年、黒沢は、バカ苗病にかかったイネに寄生している菌類Gibberella fujikuroiが出す何らかの『毒素』がイネの異常な成長を引き起こすことを見出した。

 

その後、1935年に、東京帝国大学農学部教授であった薮田貞治郎によってGibberella fujikuroiの培養液からGAが単離された。GAの名は、この菌の名前からとられたのである。さらに3年後には同じ大学に所属していた住木諭介とともにGAの抽出と結晶化に成功した。

 

 

ジベレリンの過不足が引き起こすイネの変化

正常な植物であれば、GAを含む植物ホルモンは適切な時期に、適切なところではたらき、個体の生長や老化をうまくコントロールしている。GAの合成経路や、GAが作用する場所に何らかの異常があるような個体では、見た目にも大きな変化が現れる。

例えば、GAの作用が正常個体よりも弱いイネは草丈が小さくなる(矮化)。背の低いイネは重心が低く倒伏しにくいため、品種改良では重要視される形質の一つだ。1940年代から60年代にかけてアジアの食糧事情を劇的に改善した『緑の革命』で話題となった“IR8”など、多くの半矮性品種はSD1という遺伝子の変異を利用している。

このSD1はジベレリンを合成時に用いられる酵素(GA20酸化酵素)をコードしている遺伝子だ。SD1に変異が起こるとGAがうまく作れなくなり、矮化するというわけである。市販されている農薬には『矮化剤』というものがあるが、『トリアゾール系矮化剤』などは、やはりGAの合成経路を阻害することで矮化を促す仕組みだ。運動場などの芝生に、伸びすぎを防ぐため散布されることもある。

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では、逆にGAが多くはたらくとどうなるであろうか? ご想像の通り、草丈が伸びる。一般的な稲作の場合、稈長の長すぎるイネは倒伏しやすいため歓迎されないが、これを利用しているのが東南アジアで栽培されている『浮稲』だ。浮稲は、大量の雨や洪水の発生によって田んぼの水位が上がると、それに伴って茎が急激に伸長する。ほかの雑草などが水面下に沈んでも、浮稲の穂は水面から出たままでいられるため、無事に登熟・収穫ができるという珍しいイネだ。

浮稲となる品種では、水没するとSD1のはたらきが活発になり、GA合成量が増えることで草丈を伸ばしていることが明らかになっている。この仕組みは東北大学や名古屋大学などの研究チームによって解明され、2018年7月に発表された。

以上のように、イネの生長を大きく左右するGAは、日本の稲作や日本人研究者と浅からぬ縁をもっている。植物ホルモンを理解し、うまく利用することはイネをはじめとする農作物の生産に欠かすことができないのである。

 

参考資料:

「浮きイネ」の仕組みと起源を解明〜洪水で沈んでも背を伸ばして生き延びる〜

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180713/index.html

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)

“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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