バイオテクノロジーっていったい何?知っておきたいバイテクの基本と稲作の関係

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『バイオテクノロジー』と聞くと、皆さんはどんなものを思い浮かべるだろうか?白衣の科学者が蛍光灯の下、薬剤や細菌を駆使して…というイメージを持つ方も少なくないだろう。実は、バイオテクノロジーは遺伝子や細胞といったものを扱う技術だけではない。昔から行われている品種改良法も、立派なバイオテクノロジーの一種なのだ。
この記事ではバイオテクノロジーの概観と、稲作で使われるバイオテクノロジーを簡単にご紹介する。

 

そもそもバイオテクノロジーとは?

バイオテクノロジーは「Bio(生物)+Technology(技術)」からつくられた言葉だ。日本語では「生物工学」などと訳され、最近では「バイテク」と略されたりもする。あらゆる生物の仕組みや機能、生活を応用する技術を指すが、その方法は必ずしも「最新のもの」だけではない。古代より微生物を使って行われる食材の「発酵」や、薬草などの有効成分を医療に活用することも立派なバイオテクノロジーだ。多くの人のイメージにある、白衣と実験室のイメージはバイオテクノロジーの全体ではないことに注意したい。バイオテクノロジーは大きく1960年代ごろまでに成立した「オールドバイオテクノロジー」と1970年代はじめから盛んになった「ニューバイオテクノロジー」に分けられる。

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◆オールドバイオテクノロジー
食物の栽培が始まってから、人間は少しでも「効率的に・たくさん・おいしい」作物を作るための工夫を続けてきた。育った作物の中から「できるだけ大きな実をつけるもの」「病気に強いもの」「たくさんの実がつくもの」などを選び出し、その子孫を育て続けることで新たな品種を作り出した。単純なようだが、育種学では『分離育種法』といい、さまざまな農作物品種を作り出す礎となった方法だ。そのうち、自然にできた作物から優良なものを選ぶだけでなく、必要な性質を持ったものを人為的に交配させることでより効率的に新しい品種を生み出すようになる。例えば「美味しいけど病気に弱い個体」と「美味しくないけど病気に強い個体」を掛け合わせることで、「美味しくて病気に強い個体」を手に入れるという方法である。『交雑育種法』とよばれ、現在でも品種改良はこの方法で行われることが多い。
また、放射線の発見や化学薬品の製造が始まると、生物をそれらにさらすことで変わった性質を生み出すことができるようになった。突然変異を人工的に起こす方法である。これらの方法による品種改良は時間と場所が豊富になければできない。どんな形質の子どもができるか、交雑がうまくいったかは、何世代も育ててみないとはっきりしないからだ。

 

◆ニューバイオテクノロジー
20世紀に入ると、DNAや遺伝子の仕組みが少しずつ解明され、生物学の様相は劇的に変化した。1970年代になると遺伝子や細胞レベルでの品種改良技術が次々と誕生する。遺伝子組み換えはニューバイオテクノロジーの代表である。顕微鏡や分析機器などの実験器具が進歩することで、細胞レベルで生物を操作することも可能になった。加えて細胞融合や葯培養といった技術が成立し、「必要な遺伝子」「必要な細胞」を選んで用いるようになったのである。これらの技術を用いた品種改良は、時間と場所の節約に成功した。世界には食糧不足や気候変動など、待ったなしの問題が生じている。効率的に有用な品種を作るにはニューバイオテクノロジーは欠かすことのできないツールだ。

 

イネとバイオテクノロジー

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それでは、稲作や稲の品種改良ではどのようなバイオテクノロジーが使われているのだろうか?もともと日本の稲作の過程では、分離育種法によりそれぞれの地域で少しずつ品種の成立が行われてきた。変わったイネができたらその種(モミ)を採取し、翌年栽培すればよいので個人レベルでも経験則で行うことができた。1900年代に入ると掛け合わせの技術が確立され、交雑育種法で新品種がつくられるようになった。1934年には放射線の照射によってイネが突然変異を起こすことが分かり、戦後も積極的に研究がすすめられ、現在流通している多くの品種を生み出すことになった。1960年代にはイネの葯培養の技術が開発された。これはイネの雄しべが持つ花粉を特別な条件で培養し、成長させる技術だ。そして1980年代、さまざまな農作物で遺伝子の組み換えをした新品種が生み出されるようになると、イネでも遺伝子組み換えによる新品種が誕生し始める。一方でイネのDNAを解読するプロジェクトも発足し、2004年にはDNAの塩基配列が明らかになった。遺伝子に基づく品種改良を行うのであれば、欠かせない情報が集まってきている。

イネの研究ではオールドバイオテクノロジーとニューバイオテクノロジーの両方が応用され、日々新しいイネの開発に寄与しているのだ。バイオテクノロジーは身近なものであるということをぜひ知っていただきたい。

参考文献:
農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1111/spe1_01.html
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/pdf/0686.pdf
「育種とバイオサイエンス 育種学の新しい流れ」蓬原雄三編著(養賢堂)
「新版 米の時点‐稲作からゲノムまで」石谷孝佑編(幸書房)

 

ライター名:小野塚 游(オノヅカ ユウ)

プロフィール:”コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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