新潟県津南町に伝わる、伝統の小正月行事『鳥追い』とは?

皆さんの地域では『小正月』(1月15日)にどのような行事が行われるだろうか? 『どんど焼き』や鏡開きなど、昔から伝わる行事があちこちで行われるが、稲作をする農家にとっては豊作祈願の行事が欠かせない。筆者の生まれ育った新潟県は全国に誇る米どころ。稲作に関する民間信仰を調べていたところ、新潟県南部に位置する津南町に古くから伝わる『鳥追い』という小正月の行事があることを知り、訪れた。

 

田んぼの鳥を追い払う子どもたちの歌

「米作りに関係する行事なら、うちの集落でもやっている『鳥追い』があるよ」と教えてくれたのは、津南町の知人である。どんな行事なのかと尋ねると、「夕方、子どもたちがスゲ帽子をかぶり、歌を歌いながら集落内を歩く。神社や公民館まで行くとかまくらがあり、夜にはそこでお菓子を食べる」ということだった。

歌やかまくら、そして夜更かしが、一体稲作とどのような関係があるのだろうか? と疑問に思い、資料をあたってみた。津南町史によると、鳥追いは津南町で古くから行われている小正月の行事で、もともと『田んぼにやってくる鳥を追い払う』という趣旨のものであるらしい。

1月14日の夜、集落の子どもたちはスゲでつくられた三角の帽子をかぶり、拍子木を打ち鳴らしながら鳥追いの歌を歌って歩きまわる。かまくらに到着すると、中でお菓子などを食べながら皆で夜を過ごすが、時折かまくらの外に出て鳥を追い払うために歌うことを繰り返したという。小正月と合わせ、お米づくりの成功を願うための大切な行事だった。

niigatatorioi1▲鳥追いで使用するスゲでできた帽子。通称『スゲ帽子』

 

かつては町内のあちこちで行われていた鳥追いだが、少子高齢化につれて数は減り、現在はいくつかの集落に限られるという。また、内容を一部簡略化したり、日付を週末にずらして続けているところが多いようだ。現在の鳥追いがどのようなものかをこの目で確かめるため、2019年1月12~13日に津南町内の2集落を訪れ、行事の様子を見せていただいた。

 

形を変えながら続く、現代の『鳥追い』

12日に訪れたのは、津南町役場周辺の大割野(おおわりの)集落である。町の中でも特に商店が多く立ち並ぶエリアだ。夕方、集合場所の役場を訪れると多くの人が集まっていた。地元の方に集落の鳥追いの歴史を聞くと、「大割野集落の一部で続いていた行事だが、子どもが減ったため、昨年から大割野集落全体でやるようになった」という。

時間になると、子どもたちにスゲ帽子と拍子木が配られた。スゲ帽子は町の観光協会から借りたものだというが、新品らしく、替えたばかりの畳のようないいにおいがする。

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合図とともに子どもたちの行進が始まった。大割野集落では、子どもが鳥追いの歌を知らないということで、スピーカーで歌のCDをかけながらのにぎやかな歩みである。拍子木を鳴らしながら集落内の道を右へ左へ歩き回る。子どもが家の前を通ると、屋内から人が出てきてお菓子を渡していた。『夜にかまくらで食べる夜食』という意味だそうだ。

例年豪雪に見舞われる津南町であるが、この日の前後は雪が降らず道路も非常に歩きやすかった。とはいえ、集落の神社まで1時間近く歩くと、子どもたちにも若干の疲れが見えてくる。先導する軽トラックの荷台には各家庭からもらったお菓子がたくさんだ。

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ゴール地点の神社には、子どもが10人ほども入れそうな大きなかまくらができていた。慣なれないスゲ帽子から解放された子どもたちは、境内で雪合戦をしたり、かまくらに入ったりと実に楽しそうであった

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受け継がれる『鳥追い』の文化

翌日の夜に訪れたのは、津南町役場から4㎞ほど離れた卯ノ木(うのき)集落。筆者に鳥追いの情報をくれたのはこの集落に住む知人である。卯ノ木ではかまくらをつくることはやめてしまったものの、子どもたちが鳥追いの歌を歌い、提灯を下げながら集落内を回った。『あの鳥どこから追ってきた、信濃の国から追ってきた』から始まる鳥追いの歌が、独特のメロディで響く。長野県との県境にある津南町らしい歌詞だ。

子どもたちの歌と拍子木の音を聞き、集落のご老人が家から出てきた。お菓子を差し出しながら、「懐かしくて涙がでそう」と笑顔で話しかけていた。「子どものころ、夜になっても友達とかまくらで遊べる鳥追いは、本当に楽しい特別な日だった」という人もいた。今の子どもたちにとっても、生まれ故郷の特別な思い出として、しっかりと記憶に残っていくにちがいない。

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津南町には今回訪問した以外にも鳥追いを行っている集落がある。他の集落ではかまくらをつくるだけだったり、スゲ帽子を使わなかったりと、少しずつ形を変えて鳥追いが続けられているそうだ。起源である『鳥の追い払い』としての側面が薄れ、子供が楽しむ行事になりつつある鳥追いだが、自然と野生動物の中で稲作をしてきた津南町だからこそ今も大切にされている伝統なのだろう。

 

参考資料:
津南町史 資料編下巻

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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