人々が幸せを求めた稲荷神社の「初午祭」には、稲作の神様との深い結びつきがあった

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春の足音が聞こえ出す立春の頃、全国の稲荷神社では「稲荷詣でをする参拝客で賑わいを見せている。2月最初の午(うま)の日に行われる祭礼「初午(はつうま)祭」だ。今から1300年ほど前、2月の最初の午の日に京都の伏見稲荷大社に祭神が降臨したことから、この日に稲荷神社で祭礼が行われるようになったのがはじまりだそう。「稲荷神」とは字のごとく「イネナリ神」とも呼ばれ、稲作や農業の神様を表す。農事との結びつきもとても深かった「初午」の日とは、どのようなものなのか。

 

キツネは稲作の神様だった!?

商売繁盛、家内安全、さらには開運も……さまざまな祈願がなされる稲荷神社のお祭り「初午祭」だが、元々は春先の農事の初めに田の神様を山から里へ移し、五穀豊穣を願う行事であったそう。

「稲荷神」「お稲荷さん」とも呼ばれている稲荷神社の祭神は、穀物に宿る神、土地の神、米稲の倉庫を守る神、お米の神といった、農耕に関わる神と考えられてきた。信仰の象徴として諸説あるが、私たちの生活に欠かせない神様として民間信仰と結びつき、のちに農業だけにとどまらず、産業や工業、商業などさまざま開運を司る神様として広まったと言われている。そういった背景から、初午祭に参る参拝者が多いのだ。

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稲荷神社といえば、キツネの石像を思い浮かべる人は多いだろう。なぜキツネなのか。稲荷神社の総本山「伏見稲荷大社」によると

「稲荷大神様」のお使い(眷族[けんぞく])はきつねとされています。但し野山に居る狐ではなく、眷属様も大神様同様に我々の目には見えません。そのため白(透明)狐=“びゃっこさん”といってあがめます。

勿論「稲荷大神様」はきつねではありません。

 

とのこと。 

そのほか、稲荷大明神は日本神話に登場する宇賀之御魂命(うかのみたまのみこと)*という神様で、食物を司る大御膳神(おおみけつのかみ)とも呼ばれることから、キツネの古い呼び方である「けつ」を重ね合わせ、この「みけつ」に「三狐神」という文字を当てたという説も。

民俗学者の柳田國男氏は、古来日本人は、春になると人里に姿を現し、収穫が終えた秋には山へ帰るキツネの姿を山の神・田の神のお使いであると認識した、と指摘している。古くから稲作や農業と切っても切れない人間の生活の中で、自然とキツネが神様のお使いとして人々のイメージに浸透し、信仰されてきたのだ。

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*古事記では倉稲魂命(うかのみたまのみこと)と記されている

 

東西で違ういなり寿司の形。三角はキツネの耳、四角はなんの形?

「稲荷」と聞くともう一つ思い浮かべるのは「いなり寿司」だ。キツネの皮の色に似た油揚げを、稲荷神社に備えて願掛けをするようになったのが江戸時代。(キツネの好物とされているのが油揚げだが、野生のキツネは食べないそうだ)

油揚げの中に、農耕の神である稲荷神がもたらしてくれたごはん(すし飯)が詰められ、稲荷神にまつわる2つの食材から誕生したのがいなり寿司なのだ。

地域によって形や詰められるものが違うが、主に関東では油揚げを四角に切って、米俵に見立てた「俵形」に。関西では油揚げを対角線に三角に切って、キツネの耳に見立てた「三角形」にするところが多い。いずれも、稲荷神への信仰が反映された格好だ。

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いなり寿司のほか、初午には初午団子を作って食べる地域も。また栃木県を中心とした北関東一体などでは、「シモツカレ」「スミツカリ」と呼ばれる大豆、大根、人参、塩鮭の頭などを煮込んで藁苞(わらづと)に入れて供えていただく習慣もある。栃木県では、昔から「初午の日に七軒の家のシモツカレを食べると中風にならない」と言われ、近所の家々にもふるまうことがあるそうだ。

 

古くから稲の神様として民間信仰と結びつき、全国へ広まった稲荷神社は約3万社あるとも言われる。長い間私たちにとって身近で「お稲荷さん」と親しまれきたことから、初午の日には地域独自の習慣や食事の作法など数多くあり、さまざまな願いを叶えてくれる万能の神様ともいわれるほど。それでも、もともとは五穀豊穣を祝い、田の神様を迎え入れたことから始まった祭礼。そんなことに想いを馳せながら初午の日にいただくいなり寿司は、いつもと味わいが違うはずだ。

 

参考文献・サイト

『子どもに伝えたい食育歳時記』ぎょうせい(2008)

『年中行事読本』創元社(2013)

伏見稲荷大社

http://inari.jp/about/faq/

「いなり寿司」の豆知識 | 三越伊勢丹の食メディア | FOODIE(フーディー)
https://mi-journey.jp/foodie/19658/

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